勇者時々へたれ魔王

百合姫

第24節 身勝手な勇者時々へたれ魔王

「あ、エンデにこれだけは言いたかったんだよ。」
何?と首をかしげるエンデ。
これは言っておかなくちゃいけない。


「その・・・
守るとか言って守れなかったことがね・・・その、うん。
ごめんなさい。」
「べ、別にヒビキは・・・」
「結果的に守れたけど、その過程は最悪だ。
たまたま勝てたに過ぎないし、手袋が無ければあのまま死んでいた。
君にも無駄に神経をすり減らすようなことをさせてしまった。」


僕が、死にかけたとき。
彼女が身をていして僕を守ろうとしたことは、今も僕の胸に引っかかっている。
僕のプライドというべき何かに大きな傷をつけた。
僕は善人じゃない。
自分のために気に食わないから助けてた。
そういう理由だから”こそ”人のためにと考えてる人間以上にその守ろうとして守られたという過程に口惜しさを感じるのだ。
あの時に彼女の説得が通じ、彼女の身の代わりに僕の命が助かったとしても僕にはその先のうのうと生きていられたのか?
それを考えると自分の心の奥底にある根底がざわめく。
彼女を助けようとしたのは善意からではなく、自分の”身勝手”だ。
優しい人間ならば、勝てないであろう相手に挑むことは無い。
挑んで、状況をより悪化させるよりも自身の怒りや悲しみ、理不尽に対する憤りをあえて飲み込むだろう。
自身の無力さにむせび泣きながら、助けられぬ人間を思いただただ悲嘆に暮れる。
今にも跳ね上がりそうな自身の両足に重く重く枷をつけて。
知人を見殺しにするという罪悪感に自身の心を傷つけてでも、状況を悪化させる可能性を排除する。
しかし、僕はそれができなかった。
頭のどこかでは分かっていた。
勝てない相手に挑んで、僕が殺されたとき。
一番の被害をこうむるのはエンデであろうことを。
もしかしたら、僕の命を盾にとりエンデに無理難題を押し付ける可能性もある。
僕を殺したとしても機嫌を損ねたことに変わらず、それをエンデにぶちまけるかもしれない。
殺されるだけの僕はまだ良い。
彼女はこれから生き地獄を味わっていくことに比べたら天国とも言える。


もちろん、これは仮定の話だ。
守れたから良い。
でも、その過程で守られていた。
守らせてしまった。
一歩間違えたら自分の”不始末”を昨日、今日出会った相手に尻拭いをさせてしまうところであった。
それがたまらなく怖い。
それがたまらなく嫌だ。
たまらなく悲しい。
そんなことをさせてしまうなら死んだほうがマシだ。


身勝手を通した結果、失敗しかけた。その失敗の尻拭いを他人に、この場合においてはエンデにさせることになる。
僕が行った身勝手を”優しさ”だという人間も居るだろう。
助けようとしたんだ、君は悪くない。と言う人間が殆どかもしれない。
ただ、もし、あの場で僕が容赦情けなく殺されていたら?
僕の身勝手を通そうとして、失敗。状況を悪化させた挙句、その被害者に庇われる。悪化させた張本人を助けようとして助ける被害者に守られるという状況。
それを思うだけで僕は泣ける。
そして、何よりも悔しい。


難しい言い回しだが、つまるところ一言で言うならば、自分の起こした行動の責任を彼女に被せてしまうということが、とてもじゃないが耐えられないのだ。


もちろん、”もしも”の話である。
”たられば”の話である。


殆どの人は気にしないだろう。
だが、気にしなければならない。
僕は気にする。
どうしようも無く気になるのだった。
なぜここまで気になるのか?
僕にも良く分からない。


そうした話をするとエンデはただ必死に首を横に振る。
違うといいたいのだろうか?


「ち、違うよっ!?
私はこうして助かってるもんっ!?
ヒビキが優しくて・・・そして今言った”傲慢”があるから私は助かった。
今の最善があったっ!!
貴方が言うように、優しい人間なら私を見捨てることで私を最悪から助けようとしたかもしれないっ!!でもそれは最善じゃないっ!!ヒビキが助けようとしてくれたから・・・最悪を恐れずに助けてくれたから今の私がある!!
最善の私がある!!
その最善を導いてくれた貴方を・・・
貴方を侮辱するのは、貶めるのは例えヒビキ自身であっても許さないっ!!」


侮辱?
そうなのだろうか?


「響・・・妾は”もしも”の話をするなとは言わぬ。
”それ”も大事じゃろうて。
だがな。
もっと大事なのは恐れを知り、それに怖れ、そしてそれに立ち向かうことじゃ。
恐れを知らずに立ち向かっても駄目。
それに怖れて立ち向かえなくても駄目。
誰が何と言おうと妾にとっての最善はおぬしの行動じゃ。
小さな”りすく”で大きな物を奪うことなど出来はせぬ。
本当の助けになどなるはずが無い。
大きなりすくを背負ってこそ、それに対する相応の救いを与えることが出来る。
だからじゃ。
おぬしが謝ることなど何もないっ!!」
「でも・・・ぶはっ!?」


結構真面目な話をしてたのにフェローにビンタされた。


「おぬしは結局怖かったのだろう?
うだうだ小難しいことを言っても妾にはわかる。
おぬしは怖かっただけじゃ。
自分のした行為に伴う結果が。
誰かが自分のせいで迷惑を被る。
それが怖いだけじゃ。」


怖くて何が悪い。
何も悪くない。きっと誰だってそのはずだ。
「そうじゃな。
悪くはない。
悪くは無い・・・が。
良くも無い。
響よ。
誰だってその怖さはある。しかし、その怖さを理解しつつもそれに立ち向かい、結果今の最善がある。
それをただ喜べ。
バカみたいに。
阿呆みたいに。」


いいのかな?
本当にそれで。


「良いに決まっておる。
なぁ?
エンデよ?」
「もちろん!!」


2人の満面の笑みにを見て僕は思った。
僕の侘び、悩みなど白髪がいつから生え始めるのか?という疑問と同じくらいどうでもいいことなんじゃないかと。
うん。
どうでもいいね!!


「ごめんなさい。」
今度は守れなったことに対する侘びではなく、自分の馬鹿な発言に対しての侘び。
それを踏まえた2人は声をそろえてただ一言。


「「許してあげる」」


なんというか、こういうのも良いなと思ったしだいである。


☆ ☆ ☆


そして、現在。
僕は宿のお風呂に入っていた。
10日も寝てれば体の汚れも目立つようになる。
特に体臭とか垢とかいったものが。
フェローが体をこまめに拭いてくれていたようだが(結構きわどいところもだ。恥ずかしい!!)、それで汚れが取りきれるはずもなく。


「ああ・・・久しぶりのお風呂。
快適だ・・・。」


湯船に浸かりながら、これからの指針を考えた。
エンデをエールゲンに送ったら、セリアに会いに行き無事かどうか確認するのが一番だろうか?
でも、どこに行くとかの行き先は聞いていない。
東大陸に行くのに国境ではなく、国境付近の森を通ると言ってたのもあって無事なのかがちょっと気になる。
とはいえ、わざわざ追うのもなんとなく癪だ。


とにかく一番初めの「当面の生活費のためのお金を稼ぐ」という目的は既に達した。
10万ガルドを使って馬車を買ったが、今は約15万ガルドある。金貨は一枚1000ガルドであるからして金貨にして150枚ほどある。
これだけあれば当面は楽に過ごせるから、ギルドミッションをする必要もあまり無い。
そういえば、白竜とか馬車の話とかどうなったんだろう?
フェローが変わりに受け取って世話をしてくれてるとありがたいな。
そして、最終目的である”元の世界に帰る”は現状、不可能。
レヴァンテ城にいた王様は帰る方法があるようなことを言っていたが、それを使用するには何らかの労力がかかるようなことを言っていた。
一体その労力がなんなのか?
彼の王が言った”レガート王”の首を持っていけば、見返りに戻してもらうことも出来そうだが、自身の勝手で人を殺すというのはさすがに出来ない。
僕が人を殺すのは”危険”だからという理由から。
自分の勝手で特に恨みもない相手を殺せるような教育はさすがに受けていないからして。
忍び込むというのも難しそうだ。
忍び込んでもまず方法が分からない。
王様に聞くのは論外。
変わりに「レガート王」を殺せと命ぜられるのがオチだ。
個人的にはそのレガート王よりも僕に恥知らずだとか言ったあの王こそをぶん殴ってやりたい。
でも、殴ったところで教えてくれるわけもなし。


八方塞がりである。


「まぁ・・・いいか。
特に帰りたい理由があるわけでもないし。
にとりや冬香には会いたいけどさ。」
ミドリガメのにとりは今頃どうしているだろうか?
姉さんの試し斬りの標的になっていないか?
ちゃんと日光浴をさせてもらっているか?などつらつらと不安がよぎる。


あれ?
異世界に来て、心配するのがペットの亀のことってなんか哀しくない?
普通、郷愁とか感じるんじゃないだろうか?
全く持ってその類の感情がわかないことに、自分の今までの環境の酷さが改めて実感できた次第である。
口の中に垂れてきたしょっぱい何かは涙ではない。
そう固く否定する僕である。


ちなみに、部屋に戻ると2人はいなかった。
「あれ?どこいったんだ?」
<2人は”ヒー君”がいるこの部屋の向かいに一部屋取ってるから、そこに戻ったよん。
今日はとりあえず、そのまま休めってさ。>


ヒー君?
僕のことを指しているのか?
変な愛称をつけてくれたものよ。
「ふぅん。
セルシー、だっけ?」
<そうよ。何かお話でもしてくれるの!?>
「嬉々としてくれてるところ悪いけど、そういうわけじゃないよ。」


やけにウキウキしてるのが声の調子でわかる。
あの勇者モドキに意思を封じ込められていたらしいから、会話が恋しいのかもしれない。


「これから、よろしく」
<ん?
その言葉が出るってことは・・・?>
「お察しのとおり、僕の剣になってもらいたいな。
いや?」
<まさかっ!!嬉しいよん!
ありがとん、ヒー君!!>


こうして、僕の相棒がまた増えたのだった。


☆ ☆ ☆
次の日。
三人で集まって僕は開口一番にこういった。
「というわけで、エンデを故郷まで送り届けるよ。」
「そ、そこまでしてもらうわけにはいかないわよ。
た、ただでさえ助けて貰って肩身が狭いって言うのに・・・」
「まぁまぁ。
気にしない気にしない。
乗りかかった船という奴だし、故郷に戻りたいでしょ?」


僕があの時言った、約束なのだからきっちり守り通させてもらう。
勝手だとは分かっているけれど。
「で、でも・・・貴方がしたように、私にだって”身勝手”はある。」
「・・・?」


身勝手とな?
それだけ聞いても話が見えない。
「私は貴方があのモドキを殺す直前に、言ったもん。
私の・・・
その。
私の・・・す、すべ・・・全てをあげるって・・・だから守ってって。
これは私の勝手な・・助けられたことに対する約束・・・契約?
そんな感じなもので・・・守られた以上・・その、あげないと・・・あっでもっ!!
そのえっちなことは無しだからねっ!!
だ、駄目なんだからねっ!?
べ、べつにその、そういうのは順序を追って・・・
わ、私美少女だしっ!!」
顔を真っ赤にしてたどたどしくも、早口にまくし立てるエンデ。


ぱーでぅん?
ほわい?
わっと?
なんですって?
もう一度言ってくれませぬかね?
最後の一言は文脈的に分からなかったし、イラついたのであえてスルー。


「そ、そんなこと言ってたっけ?」
「言った。
約束したもん。
自分の全てをあげるっていったら、ヒビキもそれに答えて”今度こそ守る”って。
これって私の言葉を受けて約束したってことでしょ?」


エーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?
初耳ですけどぉ!?
いや、聞いてはいたのだろうが、あの場の空気とノリでね。
うん。たぶん、僕としては不安を取り除くために、きっちり助けるという気概を示すため、自分自身を奮い立たせるために答えただけだったと思うんだけどもっ!?
台詞の内容を深く考えず、ただ彼女の望みを受けてそれを達成する。
それだけを考えて・・・うん。
勢いで突き進むのイクナイ。


「えっと・・・それでエンデは何が言いたいのかな?」
「ヒビキについていく。
全てをささげるといった以上、中途半端では終われないし終わりたくない。
ヒビキの役に立つし、たちたい。
盾になれというなら盾になる。
矛になれと言うなら、死を恐れず矛になる。
だから私をそばにおいてください。
お願いします。」


なんですと!!
がっでむ!!
じーざす!!
おーまいごっどっ!!


え?
何?
あのモドキから開放してやったら、次は僕に縛られるとか?
この子ってエムなの!?
多分、謝礼の意識も含まれてると思うけど、重いよっ!!
別に開放されたんだから何もかも忘れて、村で幸せになればいいのにっ!!


「いや・・・別にそんな約束とか意識してなかったし・・・礼ってことならそこまでしてもらわなんでも・・・」
「そうだね。
私のコレはただの礼で”も”ある。
だからこそ、私の”身勝手”って言ったじゃない?
私は貴方がおいていこうと、引き剥がそうとしてもどこまでも付いて行くの。
見失えば、何年かけても見つけ出す。
貴方の・・・ヒビキの意思なんて関係ないもん。
逃げられたら、もちろん私は貴方を追い求める。
逃げられたら、私は追い求めるだけという確実に不幸な日々をすごすことになるんだけど?
おいては行かないよね?」


という彼女の上目遣いはまぁ可愛くて、小悪魔的であった。
いや、小悪魔というよりは鬼の類に違いない。
身勝手なあなたに私を諌めることは出来ないでしょ?と言外に言っている。
さらには置いて行くことがあれば、私は不幸になる。
私を助けるような”身勝手”を持つ貴方ならそれは望まないよね?と脅しまでかけてきているのだ。
なんという悪魔か?
オンナノヒト、コワイヨ。


「分かったよ・・・これからよろしくね。」
渋々僕が折れたのだった。
まぁ女の人に口げんかで勝てる男はあまりいない。


旅の仲間が増えるというのも悪くは無いはずだ。


「でも、一度は戻ったほうが良いんじゃない?」
「うん、でもそれは・・・」
とエンデが言ったところで、街がなにやら騒がしい。


何事だと思って外をのぞこうとすると、フェローが不吉なことを言った。


「この気配はある程度の錬度を持つ兵士じゃの。
おそらくは勇者を殺したことが引き金じゃ。」


そういうフェローの顔は楽しそうだ。

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