勇者時々へたれ魔王

百合姫

第19節 勇者フラグⅡ

「ごめんくださ~い。」
「はいはいはいよ?
馬車をお求めで?
それとも馬ですか?
はたまた修理ですかい?」
さっそく2人で馬車屋にいき、店の中に入るとすぐさま人の良さそうな店主が駆け寄ってきた。
中には馬車の見本品らしき物がところせましと置かれている。


「馬車をつくりたいのと馬・・・?を買いたいのですが・・・」
「はいはい。了解です。
小型、中型、大型とどれにします?」
「メリットデメリットを教えて欲しいです。」
「お客さん、馬車のお求めは初めてで?」
「はい。」
「わかりました。
このイケテルお兄さん。略してイケサンが、懇切丁寧に教えてあげましょう。」
「よ、よろしくお願いします。」


人当たりが良さそうだと思っていたが、予想以上に人が良いみたいだ。
身もふたも無い言い方をすれば馴れ馴れしい。
「まず小型ですが、小型は引く馬の数や種類にそれほどこだわる必要がなく、小回りが効きます。
また、他に比べてかなり安く済むこともメリットの一つです。
ですが、長旅を常とする冒険者には好まれません。
なんせ寝るスペースが少ない上に、いささか脆いところがありますからね。
魔獣に襲われたり、ちょっとした不意打ちで壊れてしまう可能性が高いんです。
もちろんウチの馬車はそのへんの小型馬車よりもはるかに頑丈ですが、それもやはり物理的・・・といいますか?
構造的な限界がありますから、そこはご勘弁と言ったところです。」
「ふむふむ。」
「少し考えれば分かると思うのじゃが。」
「フェローは黙ってて。」
「で、次に大型ですが大型は頑丈さ。
この一点に重点を置いて作られたもんですから、それこそ上位竜種の体当たりを食らっても1度2度くらいなら簡単に耐えられる構造になってます。
また、重量が重量ですので他に比べて安定した乗り心地を持つというのも特徴の一つです。
ウチではさらに、そこから乗り心地を優先したもの、頑丈さを優先したもの、出来るだけ軽量化したものと三つに特化させたものもオーダーメイドで承りますのでその辺はご随意に。
また、複数人の旅には最適です。
寝るスペースも十分ですので、寝ることを考えると6人が定員となりますが少し無理をすれば8人くらいまで行けます。
大体が冒険者チェスの皆さんに好まれてますね。
ただ、その分お値段が張るのと馬を複数飼う必要があること、ないしは馬よりも優れた引き手を使わなくちゃならないってのもあって、よりお金がかかります。
小回りが効かず、そのためもあってスピードが出しにくいというのも欠点です。」
「ふむふむ。」
「・・・・」
フェローは黙って聞いていた。


「で、最後に中型ですが、それはそのまま。
どっちつかずのオールマイティーな大きさです。
これは商人さんに多いタイプですね。
特徴も値段も二つの中間といった感じですから、せいぜいお金に余裕があるなら中型をお勧めするくらいです。」


ここは大型かな。
フェローが居るし、乗り心地の良い乗り物しか乗ったことの無い、生粋の日本人としては乗り心地を優先したい。
「乗り心地優先の大型馬車をお願いできますか?」
「はい。
大体、金貨で100枚ほど頂きますが大丈夫ですか?
馬車が80枚で特化費用が20枚です。」
「大丈夫です。」
「それでは、次は引き手を選びましょう。
ここから東にずっと行った東門付近に牧場がありますのでそちらで引き手をお選びください。
馬車が仕上がるのは明日の昼頃。
そのときに選びになった引き手を連れて、ここにいらしてください。」
「は、はい。了解です。」


というわけで東に向かって歩いていくと、牧場が見えた。
小ぶりな馬から大振りな馬、ダチョウを二倍にした大きさの鳥や、大型犬みたいなのもいた。
「いらっしゃい。
どいつにするんだい?」
「なんかかっこいいのがいいです!!」
「そ、それはどうかと思うのじゃが・・・」
目をきらきらさせて牧場主を見ているとフェローが呆れた目を向けてきた。
あくまでも、かっこいいのが一番だと思うのだ!!
僕はね。


「お前さんたちの馬車の大きさは?」
「大型です。」
「そうか・・・かっこいいの基準は人によって違うからな。
適当に見て回るといい。
ああ、ちなみに引き手に選ぶ魔獣や馬は、お前さんの大きさの最低三倍は欲しいな。
それで数はせめて2頭。
お勧めは4頭だな。
スピードを出したいなら6頭はいる。」
「・・・そんなにですか・・・」


よくよく考えれば、馬車をもてばソレを引く動物の世話も必要になるわけだ。
ミドリガメを育ててきた僕にとっては苦にはならない。
そして、これもまた良い経験である。
「何かかっこいいのいないかな~」
と呟きながら奥のほうへ行くと、竜種専用の小屋がいくつも並びたてられていた。
そのどれもが、やけに厳重な檻に入れられている。
「ほう・・・これは珍しいのう。
こやつは白竜か。」
「白竜?」
一匹だけ、真っ白の体に赤い瞳を持つ馬のようなシルエットの竜がいた。
それを見初めたフェロー。
(モ○ンスターハンターのラン○スをイメージしてもらうといい。)
フェローは見定めるようにじっと見る。
「極稀にこうした白い竜が種類を問わず生まれることがあっての。
同じ種類の個体でも、普通の体色の個体よりも能力が数段高いことが多いのじゃ。
それこそ下位の竜種が上位並みの力を持つこともある。
そういう、全体的に能力の高まった色彩変異種のことを総じて白竜とーーーーそう言うのじゃ。
突然変異で生まれてくるものでな。
かなり稀少とされているのじゃが・・・・」
「へぇ~。」
「グルッ!!」
なにげなく手を出したら思いっきり噛み千切ろうとしてきた白竜。


「うわっ!?」
「このとおり、滅多に懐かぬ。
賢いからこそ自身より力のある者にしか従おうとせんから、扱いが難しいのじゃ。
今の時代では分からぬが、その希少性からして鑑賞的な価値しか成さぬことが多かったな。
妾の知り合いにレッドワイバーンの白竜を騎竜として扱っていた凄腕の騎手がいたのじゃが、そやつも認めさせるには数日かかったと言っておったのう。」
「おう。そいつが気に入ったのか?
だけどそいつは無理だ。
そいつ・・・ブリッツドラゴンは馬力があって、雑食、おとなしいという騎馬としては都合の良い下位竜種なんだけど・・・白竜ってもんがここまで気難しいとは思ってもみなくてな。
仕入れたは良いが、騎馬としてはとても使いもんにならなくて数日後にはその辺に捨てる予定さ。」
「捨てるって・・・下位竜種だし大丈夫だとは思いますけど・・・・勝手に捕まえてきて、勝手にその辺にポイってのはちょっと酷い気が・・・」
「ははは。
痛いとこ付いてきやがるな。
でも、こっちもそれが商売でな。
売り手がつかない以上、捨てるのは当たり前さ。
俺だって、それが正しいとは思っちゃいねぇ。
金があったらこいつを故郷に返してやりてぇ。とは思ってもな・・・・
手間賃がかかるのさ。そこそこの大金がな。
お前さんたちが買ってくれるとありがたいんだが・・・どうせ捨てるんだ。
ただでも良いぜ。」
「グルグル・・・」
余計なお世話だとばかりに唸るだけのブリッツドラゴンの白竜。
もう人間なんて糞くらえだとでも言いたそうだ。
僕だってこいつの立場だったらそう言いたくもなる。


うむ。こうしようか。
自分より格上だと分からせれば良いのだ。
「おじさん。
この檻を開けてくれますか?」
「はぁっ!?
何考えてやがんだ!?」
「まぁまぁ。とにかく。」
「正気か?」
「ちょっと試したいことがあるだけですよ。」
「・・・・何があっても責任はとらねぇぞ?」
「ええ、別に構いませんよ。
それとフェローに聞いておきたいんだけど、僕の治癒力って今どれくらいなの?」


その僕の答えである程度分かったのか、少し目を見開いてフェローは答えた。
「・・・・ふふふふ。主も無茶するのう。
大丈夫じゃろう。多分な。」
「そう。ならいいや。」
僕の考えを読み取ったかのように、すぐさま欲しい答えをくれるフェロー。
さすが僕の契約相手。
つっても、付き合い浅いけど。
檻の鍵を開けてもらい、中に入る僕。
「グルグル・・・」


何を考えているのだ、この人間は?という感じの白竜。
今の会話の流れも理解してるのか、警戒を見せている。
僕が何かをすると思ってるらしい。
勘違いして貰っては困るな。僕は何もしないさ。何もね。
「ほらほら?
びびったのかい?
とっととかかってきていいよ。」
「グルアッ!!」
挑発に乗ったわけではないだろうが、じりじりと近づいていく僕に痺れを切らしたのか噛み付いてくる白竜。
そこに左腕を差し出して、わざと噛ませた。
「うぉいっ!?
何考えてんだっ!?
お前さんは!?」
「黙ってみておれ。」
慌てふためく牧場主のおっさんに苛立つような眼差しで黙れと言うフェロー。
一見落ち着いてるように見えるが微妙に瞳が揺れていた。


「グルグルグルッ!!」
噛み千切ろうと顎に力を込める白竜。
正直、かなり痛いです。めちゃくちゃ痛いです。
泣きたいほど痛い。
でも、ここで泣いたら台無しなので、そんなことは微塵も感じさせない、ベストオブやせ我慢を見せる。
さらに言えば僕の体にはフェローの力と女神の指輪で防御力、治癒力共にかなりのものとなっている。
万力に締められるように痛いだけで、特に問題はない。
いや、その痛みが問題なんだけども。


「その程度なの?」
「グギュルルルルッ!!」
さらに力を込めてくる白竜。
ちょっと、これ大丈夫かな?
自分でやっといて難だけど、腕がひしゃげてきてるんですけど・・・取れない?
噛み千切られない?
引きちぎられない?
バキバキ噛み砕かれてる音してますよ?
熱感しかなくて、痛みを通り越してるのがより怖さに拍車をかけてるんだけどっ!?
女神の指輪の効果はどこへいったの!?
フェローの力はちゃんとめぐってるっ!?
フェローに視線を向けて”これって本当に大丈夫?”と確かめたいんだけど、ここでこの白竜の目から視線を外してはやせ我慢の無駄づかいである。
そんなことを考えてる間にも、腕がブチブチいってますよっ!?
本当に千切れませんかっ!?
僕の腕よっ!!
もっとがんばってっ!!
さすがに千切れたら治らないと思うからっ!!
この間も僕は冷や汗をダクダクと流している。
それが気づかれないように、注意をそらすため僕は声をかける。


「つまらないな。」
「グルッ!!」
その言葉の意味を理解したのかより力を込めて、さらには引っ張ってくる。
引きちぎるつもりなのだろう。
やばいやばいやばいっ!!
それはちょっとまずいですよっ!?
僕の作戦的にここは微動だにするわけにはいかない。
しかし、相手が引っ張る方向に僕もそろっていかないと確実に僕の左腕は白竜のお腹の中へと収まってしまう。
これはまずいっ!!
とか思ってる矢先。


「グルアッ!?」


唐突に噛み付くのをやめた白竜。
何かにびびってるように見える。
それと同時に僕の背後に強烈な殺気と、魔力、霊力の奔流が渦巻いていた。
感じるという点において、鈍い僕にも分かるほどの濃密な気流。
身構えつつ振り返ると、フェローがいた。
魔眼である目で見てその奔流がかなり濃密で凄まじいことが改めてはっきりと分かった。
真隣にいるおっさんは立ったまま気絶している。


「このトカゲ風情がっ!!
私の契約者の腕を食らおうとは・・・消し炭にしてくれるっ!!」


ちょっとぉっ!!
消し炭にしたら僕の頑張りが無駄になるっ!!とかじゃなくて、食らうっ!?
やっぱり千切られる寸前だったのか!?
そして、噛み千切られたら戻らなかったりしたのかなぁっ!?
危うく腕が無くなるところである。
すぐ、檻を出て背後からフェローを羽交い絞めにする僕。
「ちょ、ちょっとまてまてっ!?
消し炭になんかしちゃだめだってっ!!」
「ど、どうして庇うのっ!?
こんなトカゲ居なくても他の子で十分でしょっ!?」
そりゃ庇うでしょっ!?
この白竜にケンカを売ったのは僕の方からだし、得たいの知れない人間が近づいたらあれくらいの攻撃誰だってするわっ!!
それ以前に標準語っ!?
「いつものおばあちゃん言葉はどうしたのさっ!?」
「あぅっ!?
べ、べつにいいでしょ・・・じゃなくていいじゃろっ!?」
余談だが、この言葉使いはそういうしきたりとか文化とのことで、彼女の血筋の人間は男女共にあの言葉遣いにしなくてはならなかったとのこと。
もともとは標準語で喋っていたとのこと。
言われて見れば普通に過ごしてて、あんな言葉遣いになる要素はない。
少なくとも僕が見てきた、おじいさんおばあさんは1人もあんな”じゃ”とか”のう”とか言うのは見たことが無かった。


「まぁまぁとにかくっ!!
ほら、見てよっ!?
すっごいおびえてるからっ!!」
白竜はかわいそうなくらいにうろたえており、檻を蹴ったり体当たりして今すぐにも逃げ出したいようである。
僕はこんな状況でも律儀に檻の鍵を閉めてきたので、出ること適わずただ檻の隅っこで身を丸めて震えている。
あの目は、僕の右腕の黒い刀を見たアースヘッドと同じ目である。


「もう十分でしょ!?
それにほら、左腕もいつの間にか元通りに・・・・ってなんで元通りになってんのっ!?」


いくらなんでも治るのが早過ぎない?
コレでは姉さんとは違うベクトルで化け物ではないか。
これから僕はどんな化け物になっていくのかな?と自分の体に多少の悲嘆を嘆いてから、フェローを宥め続けること、5分。
ようやく落ち着いたフェローは「すまぬ」と言って、黙りこくった。


結局、白竜は僕達が貰うことになりこの一匹を無料で頂いて、引き手の選別は終わった。
他の子を選ばなかったのはこの子一匹で大丈夫だからとのこと。
フェローいわく、総合的に中位竜種並の身体能力があるらしい。
肉体的な能力だけなら上位竜種並みだとか。
「でなければ今の響の腕を噛み千切るなんて芸当は不可能じゃ。」
というのはフェローの談。
僕の体はいつの間にか上位竜種の顎の力に、ある程度抵抗出来る頑丈さが備わっていることになっていた。
確か日本において動物の顎の力って人間とは比べ物にならないほど強くて、大型肉食獣が”トン”クラスの力だったはずだ。
竜なんてものがそれより劣るなんてことはまずないから、かるく10トンとかそこらだろうか?
人間から離れすぎたな。
そう嘆いていたらフェローが一言。
「そう嘆くこともあるまい。
響が本能的に”命の危険がある”と判断した、刺激に対してしか”女神の指輪の加護”も”妾の力”も防御効果を発揮せんからのう。
でなければ、妾のただのビンタなど何の効果も出ぬよ。」


それを聞いて少し安心した。
本当に安心しました。
こうして結局のところ。
僕の作戦”何だと!?この俺のビーム的な必殺技を食らっても倒れない上に、無傷だとっ!?くそっ!!俺達と奴とでここまで戦闘能力に開きがあるのか!?こうなったら奴に従うしかない大作戦”が無意味に終わった。
もう少し簡単に言うなら、白竜に「この俺の攻撃を食らって涼しい顔をするとは大したやつだぜっ!!」ないしは「おいおい!俺のこの一撃を食らって倒れないだとっ!?くそっ!!しゃあねぇ。認めてやるよ。」みたいな意識を植え付けるための作戦だったのだが、予想以上の白竜のパワーに負けてしまった形になった。
初めから、フェローのように力ずくで言うことを聞かせることも出来たのだけど、そこはやっぱり平和的に行きたいものであるからして。


「今日のところは・・・・このままレッドゴブリンの討伐に行って帰って、寝る。
コレだけだね。」
「そうじゃな。」


バスタードソードの試用もしたいしね。
どんなものなのか少し楽しみである。
・・・・姉さんの思考に近づいていってるのは気のせいだろう。

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