勇者時々へたれ魔王

百合姫

第16節 サメ肝油が雨あられ

「遺跡の出口はこっちかな?」
「そうじゃ。
そこは左じゃな。」
遺跡というよりジャングル化してるララバム遺跡から、一時間かけてようやく出口付近にまでこれた僕とフェロー。
いい加減、ここから離れて宿のフカフカベッドで休みたい。
というもの、ここ一週間ちょっとほどベッドで寝ていないからである。
ティアにはセリアがいるロロリエへ戻るようにとティアを逃がすあの時に言っておいたから、問題はない。
一応、僕が生きて変えるのを律儀に待つかも知れないが、彼女の最優先目標はあくまでもセリアの護衛だろう。
セリアはどっかの王様の娘らしいから、それの娘に付ける護衛はちゃんとしたプロであるはずだ。
プロの護衛ならば、自身の感情よりも護衛対象への安全や合流を優先するだろうから、今もルベルークにいる可能性はかなり低い。
ちょうど、今頃ルベルークから発つところではないかな。
それはともかくとして、とにもかくにも早く宿でゆっくり寝たい。
というのに、だ。




なぜまた面倒ごとが迷い込んでくるのか。
こうも連続で面倒ごと続きだと呪われた装備をいつの間にかつけているのでは?と勘繰りたくなってくる。
もちろんそんなのにはこころあたりはない。


「ふむ・・・。
女子おなごじゃのう。
あ奴は確か、数日前にも見かけた女子じゃ。」
「”女の子が遺跡へ行くのを見かけた”っていう話に出てきたのは彼女かな?
デマではなかったんだな。
・・・・なんかあからさまに雑魚の魔獣に追われてるけど、助けたほうが良いのかな?」
「必要ないと思うがな。」


目の前にはツリードッグというウルフ科の魔獣が10数匹、彼女を追い立てていた。
ツリードッグとは森林などの木々の生い茂る場所でよく見かける肉食魔獣、と図鑑でみた。
ありふれた魔獣であるが、周りの木々に擬態をしながら獲物に近づいて昆虫類や小型両生類、哺乳類を主食にするらしく、擬態自体の完成度は人間や鳥などの視力の良い生き物にとっては恐れるほどではないらしい。
じっさい、その姿は若干作り物っぽく、人間の目からなら見分けるのは難しくはないというレベルのカモフラージュである。
そしてそのツリードッグに襲われている14~16ぐらいの女の子。
片側でまとめた・・・青い髪色のサイドテールに身軽な軽装でもって背には弓を。手には大きめのナイフを抱えている。
釣り目が印象的で、動きや表情からしても気の強そうな女の子である。
危なっかしいが、その動きからして冒険者だろう。
ギルドのランクで言えばポーンを脱して間もないナイト、という動きだ。


ツリードッグは魔物の強さのランクで言えばポーンⅡクラス。(ギルドに登録した冒険者チェス同様、魔獣にもチェスの駒になぞらえた階級があるらしい。最近になって図鑑の写真右下にそのランクが書かれているということを知った。魔獣の場合、さらにポーンやナイトの後にⅠ、Ⅱ、Ⅲの三段階評価が付く。数が大きいほど弱い。)
彼女の腕ではポーンと言えど、2~3匹なら余裕。でも5匹では辛くなり、8匹になると逃げることを念頭にいけそうならいく。
10匹以上は逃げることを最優先に。そんな感じの腕だった。


「必要じゃないの?」
「まさかのう。
あの女子はああ見えて、種族固有の魔法を使いこなしておったぞ。
すくなくとも妾が見たときはそうしておった。」
「種族固有?」
「その名のとおり、その種族にしか扱えない、特殊な魔術・・・とも奇跡とも付かない不思議な神業。
それを俗に”魔法”と呼ぶのじゃ。
ちなみに、妾がアースヘッドを縛るために使ったあの魔術っぽいのも魔法に含まれるのう。」
「へぇ~。
それで、彼女の魔法とやらはなんなの?」
「見てればわかる・・・・はずなのじゃが・・・」




「きゃーっ!きゃーきゃーっ!!
こっちこないでようっ!!
いや、やめてっ!!」


姦しく騒ぐだけの青髪少女。
はっきり言って、かなり切羽詰ってるような印象を受ける。
少なくとも僕の目には普通にピンチに陥ってるとしか思えない。
まぁ、ここでいちいち助ける義理もないし、面倒ごとに出くわしたからとそれに関わる必要は無いのだ。
そう。ここは春の小川のせせらぎがごとく、流すまで。
ないしは荒れ狂う海のような雄雄しき怠惰に身を任せてこのまま先に進むまで。
二度目となるが、僕はとにかくベッドが恋しいのである。
そもそも現在の服である冒険者風味の服装は血だらけでボロボロで、早く着替えたいというのもあり、血が固まってパリパリ言うぐらいなのだから本当に良く生きていたなぁ。僕。と自分で自分をほめつつ、すなわち、ここから立ち去るのである。
簡潔に言うと、シカトしてしまおうってことさ。


「ち、ちょっと!?
そこ行く冒険者さんっ!?
あなた、ちょっとこの可憐な美少女を助けてみないかな!?」


うぉ!?
目に留まってしまった。
ここはあれだな。あれといえば、あれである。聞こえてないフリだ。
「あれれぇ?
どこからか妖精さんの声が聞こえるやぁ~。
はははっ・・・まてまてぇ~このぉ~つかまえちゃうぞぉ~!」
「いくらなんでもそれは無理があると思うぞい。
というか気持ち悪い。」
「ちょっとっ!?
また言ったね!?」
「なんどでも言うてやろう。
気持ち悪いキモイキモイキモイキモイキモイキモキモキモキモキモキモッ!!」
「ちょっとぉっ!?
最後の方、そっちのほうが明らかに気持ち悪いよっ!?
というか、キモキモ言われてると、あっちの内臓的な意味での”肝”を想像しちゃうからっ!?」
「いや、そっちの肝だったのだが?」
「なぜこのタイミングでっ!?」
「生き肝を食べると若返るという話をテレビで見たことないかのう?」
「テレビをなぜ知っているっ!?
そしてそんなテレビを真に受けちゃ駄目だよっ!?
これがテレビっ子の怖さなのかっ!?」
「何?
では、サメ肝がアンチエイジングに一役買うというのは嘘じゃったのかっ!?」
「フェローの言ってた肝ってサメの肝っ!?
肝のチョイスが斬新過ぎるっ!?
というか、それって肝油のことじゃねっ!?」
「実は、フォアグラのことじゃ。」
「一気に健康に関する関心が薄れましたねっ!?」
「肝っ玉母ちゃんから肝を抜いたらどうなるのかのう?」
「おっけぇぇぇぇっ!!どうでも良すぎることにまず気づこうっ!!」
「玉しか残らなくな・・・はっ!?
実はオカマだったのかっ!?」
「もう、わけがわからないっ!!」


などと、やけに手馴れた軽快なフェローのボケにツッコミをしつつ。
襲われていた青髪少女の方に向きなおすと、彼女はさっきよりも殺気だって・・・ってこのギャグ!!
”さっきよりも殺気だって”。
これは新発見のギャグだ!!絶対に面白いに違いない、大爆笑必死のギャグだ。
僕が僕の才能が怖い。
よし、まずは披露目のタイミングから考えーーー
「ちょっとぉっ!?
あんたら、何を漫才しちゃってくれてんのっ!?
そんな場合じゃないでしょっ!?
助けを求めてる人が目の前にいるんだから助けないさいよっ!!」
「ちょっとまってくれっ!
今、大爆笑必死のギャグを思いついたんだ。
どういうときにこのギャグを活用するべきかを、検討中でな。
すこし、待っててもらえないだろうか?」
「えぇええええっ!?
あなたツッコミ役じゃないのっ!?
あなたがそこでボケちゃってどうするのよっ!?」


ツッコミがボケてはいけない?
何を馬鹿なことを。
「ふっ。
おいおい。
商談はよしてくれ。」
「そこは商談ではなく冗談、ではないかのう?」
「おっと間違えた。
ははは。おっちょこちょいだな。僕は。」
「まったくじゃのう。ふふふ。」
「あ、あほぉっ!!
あ、あんたら、絶対わざとでしょっ!?
わざとやってるんでしょっ!?
このあほんだらどもっ!!」


ふう。
まぁとにかく冗談はもうやめにしよう。
少し、おちょくりすぎた感がある。
「わかったわかった。
真面目に答えよう。
ツッコミがボケるということに関してだが、僕は”アリ”だと思う。
今日こんにちの芸人において重要視されるのは、漫才の腕はもちろんのことトークのセンスもーーー」
「何をいってんのっ!?
ばかぁぁぁぁああああああっ!!
あぶっ!?」


あっ。こけた。
さてと。今度こそ真面目に助けてあげますか。
武器は久しぶりのナイフ。剣タイプの武器はすべて使用不能になってしまったためだ。
お姉さんからの餞別でもらった、地味に品質の良いコンバットナイフである。
まずは、彼女とツリードッグの間に”縮地”で割り込む。
そして向かってきた一頭の飛び掛り攻撃を半身でかわし、懐から一気に刺し貫き、すぐに蹴りを入れて吹き飛ばす。
続けてきた二頭目も同じく飛び掛ってきたので、タイミングを合わせて頭をカチ割った。
絶命する。三頭目は、突進してきたので”陽炎”で分身を作って気をひいた一瞬のうちに足を切り取り転倒したところで、頭を蹴り潰す。
脳漿と眼球などが飛び散り、頭蓋骨を踏み砕いたバキバキという音と共に、残った7~9匹のツリードッグは逃げていった。


「す、すごい・・・」
「・・・そんなに凄いことじゃないよ。」


青髪少女は僕を見上げて凄いという。
だがしかし、命を刈り取る技術がいくら凄くても嬉しいものではない。
というのは、やはり甘さか。
「甘さじゃ。
わかっておるのう。
・・・・難しく考える必要はない。自身の命を守る術でもあるのじゃから素直に喜べばよい。」
というのはフェローの後日談。
それは僕だって分かってるけど、実際に経験するのと頭の理屈ではやはり違う。
例えるならば、映画館に行ったときの臨場感などが良い例ではないだろうか。
映画館での大画面プラス大音量、そして場の雰囲気。それらが一緒になって初めてあの空気と感覚が味わえる。コレを知らぬ人に言葉でいくら説明したところで分かるまい。
どんなに忠実にあの感覚を伝えたとしても、実際に経験して初めて理解できる、予想外の実感が沸くという経験は誰しもが少なからず経験するだろう。
以外に楽しかったとかそんな感覚でもいい。
理屈では殺して当たり前。
相手は殺しにきているのだから、そこで躊躇して殺されるなどもってのほかであることは言うまでも無い。
早い話、”命のやり取り”にまだ慣れていないということなんだろうな。うん。


「んじゃ、まぁ。
僕達はこれで。ルベルークに帰るので・・・」
「ま、まってよっ!!」




このまま立ち去りたかったのになぜに引き止める!?

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