勇者時々へたれ魔王

百合姫

第8節 ベリルは意地悪です

きょとんと向けた瞳は女たらしの意味を履き違えてたらしく。
彼女の中での女たらしとは女の子に向けて可愛いとか綺麗とか思っても無いことを言って女性をその気にさせるプレイボーイな人のことを言うらしい。
思ったことを言ってるだけといったら、「・・・ば、ばかです・・・」といって真っ赤になって黙りこくってしまった。
今までに可愛いと言われたことぐらい彼女ならいくらでもあると思うのだが。


セリアが落ち着くのを待って、いろいろな宿を回っていく。
結論から言うと、ベリルさんとやらは見つかった。


「べ、ベリルッ!」
「セリアちゃん!」
お互いにお互いの名を呼んで抱き合う二人。
ほほえましい場面だ。
ベリルさんは肩くらいまでの赤毛で、ぱっと見おとなしそうな女の子。
身長が低めで小さい。
服装はこの世界における標準の物であり、特別戦闘をこなせるようにはみえない。


「い、今までどこにいたのっ!?
ずっと探してたんだよ!?」
「ご、ごめんなさい。
私はこの人と一緒でしたから大事ありませんでした。」
「こ、この人?
あ、あの・・・どちら様で?」


多少の警戒をしながら僕と向き合うベリルさん。
警戒は当然だろう。今は西大陸の街に居るのであり東大陸に住む彼女たちにとってはここは敵地である。
僕にとってはどっちもどっちであるのは言うまでも無い。
今更ながら「そういえば、北や南には何があるのだろう?」と思ったが然したる問題ではないのでおいておく。


「話が長くなるし、できれば中に入れて欲しいよ。」
「は、はい。
それは気が利かず申し訳ないです。」
今は彼女がとった部屋の扉前で話している状態だ。


☆ ☆ ☆
「そんなことがあったの・・・・私からもお礼を言わせていただきます。
ヒビキさん。」
「いや、さんは要らないよ。
敬語もあまり・・・」
どうも、彼女の敬語は違和感がある。
やけに童顔なためだろうか?
それとも目の前で彼女とセリアが砕けた言葉で話しているのを見ていたからか?
多分後者だろう。
さんは呼ばれなれないだけだ。


「そう?
なら、君付けで。ヒビキ君。」
「わかった。」


さんも君も変わらないが、何度も直すのも細かい男だと思われるかもしれないし、単なる気分の問題であるから良しとしてしまおう。


今までの旅路。といっても大した物ではないが話すと彼女は感心したように唸る。
「なんにせよ、長旅ごくろうさま。
それとありがとう。
セリアちゃんの子守、疲れたでしょう?」


ロリ顔の君に”子守”とか言われても。
というかそのギャップと大人ぶってる感じが可愛らしい。
「あはは。
まぁね。
でも、ホーリーランスだっけ?
あれは格好よかったよ。
僕もあんな技つかいたいな・・・」
「あ、そういうことはここでは言わないほうがいいよ。」


少し真面目な顔になるベリル。
「どうし・・・あ、そういうこと。」
「うん。
私やセリアちゃんにとって、ここはあくまでも魔大陸。
異世界からきたヒビキ君にはちょっと実感がわかないとは思うけど・・・
その言葉を聞いて私やセリアちゃんの出身が分かる可能性もある。
そうなると・・・まぁ、良くは無いね。」
「ご、ごめんなさい。」
「ははは。
ちょっとした注意だから。
実際、西大陸の人間が東に・・・またその逆にってのは良くあるし、ちょっと前ならともかく今なら絡まれる程度だよ。とはいえ戦争してる敵同士だから、楽観視はできないけどね。
なんにせよ面倒でしょ?
だから頭の片隅程度にね。」
「わかった。」


そしてここからが本題。


「ヒビキ君はこれからどうするの?」
「どうするのとは?」
「言葉どおりの意味。
セリアちゃんの護衛はもう十分・・・ってわけじゃないんだけどね。
この際だから言っちゃうけど、もう気づいてるんでしょ?
この子が東大陸のどこぞの王の娘だってこと。」
そういうベリルの傍らにいるセリアの顔には少しの寂しさがある。


「はっきりとではないけどね。
貴族っていうのがあるかはわからないけど、それに準ずる何かだとは思ってた。
それにヒントはセリアが・・・まぁこれは付き合いの長い君のほうが分かると思うけど。」
「うん。
それはもちろん。」
「二人ともひどいですっ!」
セリアが真っ赤になって憤慨する。


「そして、貴族制度はもう50年ほど前に無くなったものよ。
少なくとも、東大陸にそれを使ってる場所はない。
今では各地の国、街で王という名の一番偉い人を立ててそれぞれの街のそれぞれの政治をするって感じかしら。
そしてそれら王をまとめる国王。
西大陸では魔王が各地に散らばっていて、それらをまとめるのが覇王。
そう言われている。
ちなみに、こっちの西大陸の人たちから見たら、私たちの王こそを魔王と呼んでいるわね。
すなわち、どっちもが相手を魔王と呼んでる事になるわ。」


なるほど。
単に自分の敵国の王を魔王と呼んでいるだけか。
ゲーム的な意味での、もとい魔力が強大で街を軽く潰せるとか、圧倒的な身体能力を持つ魔王は居ないことになる。


「どっちの国の人でもないヒビキ君を東大陸のセリアちゃんの実家まで一緒に護衛させる・・・
私としては一緒にいても良いし、護衛という目的から見ても異論はない。今回こんなことになっちゃったわけだしね。セリアちゃんもその方が良いんだろうけど、リネティアちゃんが許さないだろうからなぁ~。」
「リネティアってもう一人の護衛?」
「そう。護衛。
ちなみに、さっきは護衛と言ったけど私たちは側近、お世話も兼ねてるから・・・
戦える侍女さんって感じかな。
ついでにセリアちゃんの友達でもある。」
「そ、そこがついでなんですかっ!?」


ベリルの最後の台詞に涙目で突っ込むセリア。
冗談、冗談とケラケラ笑いながらベリルはお茶を飲む。
話を始める前に入れてたお茶だ。


「ぷはぁ。
つまりはもう一人が許さないだろうからこの辺でお別れってことになっちゃうかも。
許さない・・・というと語弊があるけどね。」
「だ、だったらティアを置いていきましょうっ!!」
「ぶはっ!?
リネアちゃん!?
あんた何言ってるか分かってるっ!?」


セリアの爆弾発言にお茶を噴出すベリル。


「へ?
・・・・あ、あっ!?
ち、違いますっ!!
別にお友達を置いて行こうとしたわけじゃ・・・」
「おいていこうとしてたでしょうが・・・
まぁ、私は良いけどね。
セリアちゃんがリネティアより男をとったと聞いたときのリネティアちゃんの顔が・・・目に浮かぶから別に見なくて良いや。」


見なくて良いんだ。


「ま、とにかく彼女って不確定要素を出来るだけ排除しようとするからさ。
もちろん今回のことがあるから護衛役が増えるってことを彼女も強く反対はしないだろうけど・・・襲ってきた犯罪組織・・・ってか政治的に彼女の親を良く思ってない奴の陰謀なんだけどね。
その組織は私たち2人で潰しておいたし。
そのへんの魔獣よりよっぽど手ごわかったよ。
ずる賢い人間のほうがより狡猾で、厄介とはなんと皮肉なんだろうね。
とにかく、ずーっと監視されるとは思ってていいよ。
そんなの嫌でしょ?
今回みたいなことはまず無いだろうし・・・
念のためって気遣いで、せっかく護衛してやろうって思っても疑心暗鬼に探られるんだよ?」


それは嫌だな。
ずっとって・・・トイレのときもだろうか?


「トイレの時はさすがに無い・・・とは言い切れないね。
というか、多分監視される。
男性特有のエクスカリバーも見られちゃうと思って良いよ。」
「え、えくすか・・・・」


ベリルの話を聞いて顔を茹蛸のように赤くするセリア。
今の比喩で分かるとは思わなかった。
純な反応からあまりそういう話についていけないタイプだと思ったのだが、ちゃんとした知識はあるらしい。
僕も面と向かってそう言われると恥ずかしいよ。
というか、僕はすぐにはピンとこなかった。回りくどすぎて。


「考えとくよ。」
「ん。そう。
んじゃ、また明日。この時間に来て。
ちょっと急いでてね。
だから、すぐにでも彼女を旦那様に送り届けなくちゃ駄目なんだ。」
「だったら、別に・・・僕はここでお別れでもいいよ。」
「そ、それはだめですっ!!」
というセリアの声に僕はびっくりする。
が、読んでいたかのようにベリルはニヤニヤしてるだけ。
ベリルは意地悪です。と呟いているが・・・僕には何のことやら。


「な~に、いってんのさ。
さっきから引き止めたくて仕方ないって顔してるくせに。
ちょっと本音を引き出せるように謀ってあげただけだよ?」
「よ、よけいなお世話ですっ!!」


どうやら引き止めたくて仕方ないということか?
恩人だからお礼がどうこうと言いたいだけだろう。


「分かってる。
礼をしてないってことなんだろ?
礼ならいいよ。
短い間だけど一緒に旅できて楽しかったし。」
「わ、分かってないじゃないですか。」


落胆の様子で肩を落とすセリア。
わけが分からないとベリルの方へ助けを求めると呆れたように肩をすくめるだけ。


よ、よくわからん。
「急いでるけど、別に遅くなってもかまわないってことさ。
単に親バカの旦那様が・・・まぁここまで言えばわかるでしょ?
とにかく一日くらいならいいよ。」


本当に良いんだけど。
でもなんとなく胸がチリッとする。
なんだこの気持ち。
前に感じたのと、ちょっと違うような嫌なような?
不快感が強いといった感じか。


「何も難しく考えることはないよ。
こっちとしては来てくれる方がありがたい。
でも、不快にさせてしまう。
言って聞かせれる相手ではないからね。
単に自分がどうしたいか?
それだけだよ。
ついでに言うと一日あげるのは君の一部があまりにも子供くさいから。
自分の気持ちを確かめてくると良い。
こちらとしてはどっちにしろ迷惑はかからない。来てくれれば助かる。その程度だよ。
どのみち旅の疲れがあるでしょう?」


一部が子供くさい?
一体どこが子供っぽいのか?
全くもってわからん。
ううむ。
そのうち大人っぽくなるのかな?
というか、見た目小学生の彼女に見透かされてる僕ってなんなんだろう。
まぁあくまで見た目だから、気にすることはないけど。




一体何のことを言っているか?
悶々としながら僕はその日を終えるのだった。

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