勇者時々へたれ魔王

百合姫

第2節 なぜだろう?目から汗がとまらないや

早朝。
感覚的には午前5時半と言ったところか。
寝づらくてすぐにこんな時間に起きてしまった。
昨日も思ったことだけど、朝起きてまず思ったのが・・・


「冬じゃなくて本当に良かったっ!!」


四季自体あるのかは分からない。でも、もし真冬だったら凍え死んでいた。
眠ると代謝が落ちるため、そのままコロっと逝ってしまうそうな・・・嗚呼怖い。
頼れる人も、宿を取れる金もない。
暖かい場所を探せば良いのだが大して変わらないだろうし、夜中に知らない街を歩き回るのは遠慮したかった。
本当に真冬じゃなくてよかった。
そのことに幸せを感じる。


昨日まで普通に日本で過ごしてた僕がこんな事で幸せを感じるなんて・・・
そもそも野宿。(単に芝生の上で寝ただけ。)
また、泣きそうになってきたが堪えた。
一晩寝たせいか、多少冷静に物事を考える余裕が出来たのだ。
とりあえず、お金を稼ぐ手段を見つけることから。
やることはいろいろあるが、そこから始めることにした。


まぁ、内心不安だらけだが楽しみなこともある。
見たことも無い世界が自分を待っているのだと思うとワクワクが止まらない。
もちろんこの甘い考えは後々に後悔することとなるのだけれど。




☆ ☆ ☆
この街の散策兼職業探しを始めた。
町並みを見るとなかなか活気があるようだが少し裏路地へ行くと、ぼろ布まみれの汚らしい男や老人たちがいる。
どうも、貧富の差が激しいようだ。
あの王が治める地だしこんなものか。と妙なところで得心した。
少し同情したが、同情したわけで変わるわけもなし。
救えるわけもなし。
救えたとしても、赤の他人を見て「可哀想」とか言う様な善人気質でも、お人よしでもない。
というか、野たれ死ぬなら勝手に死んでおけって感じである。


自慢ではないが日本にて社会人適応テストみたいのがあったのだが・・・その中のひとつの項目である人権意識が100点中10点だったのだ。
えらんだ選択肢はもちろん本心であり・・・せいぜい60は良くと思ったのが・・・
今思っても、わけが分からない。
というか、僕が助けてもらいたい立場だっての。下手したら僕も野たれ死ぬ危険があるわけなのだし。
今思い出しても腹が立つ。
なんども繰り返すが、理不尽すぎる。
一発あの王を、ぶん殴るまで元の世界には帰らないと固く誓う僕である。
もちろん帰れるならすぐにでも帰りたい・・・という程度の固い?誓いだが。


ここは平和な日本とは違う。裏路地に入って追剥にあってはたまらないので、表通りらしき場所で散策を続けているとやたらとしっかりした建物が目に入る。
汚らしいが、それは生活感ゆえの下町染みた味のある汚れだ。
酒場だろうか?
外から見る分には建物内の人間の雰囲気は良いといえる。
カウンターらしきそこへ入ると、一斉にこちらを振り返る店内の人々。
なに?
入っちゃいけない場所だったの?
もしかしてイチゴ柄パジャマが気に入ったとか!?
駄目駄目っ!
イチゴ柄パジャマは渡さないよっ!!
これは僕のお気に入りベスト・・・ゲフゲフンッ。
それはおいといて・・・服装が気になっているわけではないようだ。
人々の視線は「またか。」という呆れの入った物や、「ふむ・・・」と値踏みするようなもの。
「くくく。」という明らかに見下した嫌な嘲笑など。
それが大まかなものだ。
なんか感じ悪い。


とりあえずカウンターのお姉さんに尋ねた。
(いろいろ聞く予定なので、出来るだけ丁寧そうな人を選ぶ。)


「あの、すいません。」
「何かしら?」


思ったとおり、感じの良い人で良かったと内心でほっと息をつく。


「あの、不躾で恐縮なのですがこの店は何ですか?
字が読めないもので・・・」


緊張のせいか普段使わないような丁寧な言葉になってしまったけど、むしろ良し!
「・・・えーっと・・・なるほど。
またなのね。」
少しの戸惑いの後、苦笑するお姉さん。
「また・・・とは?」
「あなた、捨てられたのでしょう?」


この捨てられたは色々解釈できそうだが・・・・
「またなのね・・・」あたりで大体は分かる。
というかさっきの店内の態度といい、このお姉さんの発言。
一度ではないんだね?こういうこと。
僕より前に来て、捨てられた人の冥福をお祈りしたい。
死んだのかな?
怖いから聞きたくないけど。


「・・・・ええと、ちなみにいままでここに来た人は何人ですか?」
「そう・・・察しの良い子ね。」


子ども扱いは少し嫌だが、まぁ綺麗なので許します。
美形ってそれだけで役得だよね。
男女問わずにさ。
僕より美形な男を皆殺しにしたら、相対的に僕が一番美形に・・・ッククククク。
っといけない。
少し精神がおかしくなってた。
皆殺しとまではいかずとも社会的に殺すか、顔を潰すだけでいいもんね。
・・・いやなんでもないです。
まだパニックが続いているのですよ。うん。


「人数は・・・おおまかにいって6人くらいかしら?
全員死んだけどね。」
といってお姉さんはニッコリ笑う。
いやいやいやいやいや!!
聞いたのは人数だけで、その後までは聞いてませぬぞっ!?
あれ?動転して変な言葉に・・・
てか、そんなこと聞かすなっ!!
泣きたくなってきたよう・・・


「もともと、まったくもって才能の無い勇者が召喚されることは少ないらしいから・・・呼ばれた人数のわりに少ないんだけど・・・
概ねの捨てられた人はここで身包み剥がされてそのまま野たれ死ぬか、お金を稼ぐさいに魔物に殺されて食われるかよ。
街を出た二人も、あれからギルドカードが他の街で使われた形跡もないし・・・死んだのでしょうね・・・」


いやぁぁぁあぁぁああああああっ!!
ガクブルモノデスヨ!?
とっとと帰って昼寝したいっ!!
魔物とかまじパナいっす!!
まだ盗賊相手の方が良いよっ!!
自分と同じ身体構造だから、相手の動きがある程度分かるものっ!!
ドラゴンとかティラノサウルス級の生き物がバンバン出てくる世界だったらどうしましょうっ!?


「さて、どこから召喚されたかは存じ上げませんがあなたの選択肢は二つあります。
あなたに必要なのはまずはお金でしょう?」
「今までの文脈的に選択肢の予想は付くけどね。」


それを見てお姉さんはフフと笑った。


「まずひとつはこのまま野たれ死ぬこと。
ちなみにこの街で、安全な仕事をしようと思っても人手はすでに限界までありますから仕事は無いと思いますよ。
読み書きも出来ない以上、だまされる可能性も高いです。」
「それは言われなくても分かった。」


ここにきたという6人が死ぬ。
それはそのまま安定した生活が難しいことの表れでもある。
仮に求人が出たとしても、異世界人の僕を雇うことは無いだろう。
裏路地に世捨て人みたいな人と読み書きも出来ない子供。
どっちもどっちだが、どちらかと言えばもともとこの世界にいる住人を選ぶはずだ。
お姉さんはよろしい。といった具合に目を伏せて二つ目をいった。


「もうひとつは、ギルドに登録してモンスターハン・・・」
「ちょっ!!
その先は駄目っ!!」
なんであの大ヒットゲームのタイトルをこの人がっ!?
と驚愕する僕。


「フフフ、冗談です。
簡潔に言いますが・・・ギルドに登録して魔獣を狩り、その素材を売りさばくことですかね。」
「簡単に言いますね・・・・」
「あなたなら簡単かと思いますよ?」
「・・・っ!
僕は・・・対人専門ですから・・・」


少し動揺が出るけど、それと同じくらい警戒心も湧き出た。
隠していたつもりだけれど・・・
いままで、こんな場所でも割合冷静に出来きたのは、僕の特技ゆえにだ。
日本では揮えなかった「技」があるゆえに。


なんというか、だ。
我が家の家庭環境はもともと・・・というか特に姉が異常であった。
狂ってると言っても良い。
姉は五つ年上なのだが、中学1年の頃に剣道をはじめた。
次に剣術。
その次に殺人剣を習い始めたという一見、つながるようで繋がらない経歴を持つ姉だ。
殺人剣というより、実践的な剣術というほうが正しいかもしれない。
どちらにしても同じだが、スポーツではない対人としての剣術を趣味としていた。
もう少し分かりやすく言うなら、「目の前の人間を斬り捨てる方法を突き詰める剣」だ。
その腕がまた・・・名だたる戦国武将かっ!!
とツッコミたくなる腕前で、はっきり言って化け物と称しても問題ないレベルである。


姉さん曰く。
「人を斬るのって病み付きになるよね。」
お前はどこの快楽殺人鬼っ!?と思わず張り倒したくなる衝動を抑え、言の葉を紡ぐ。
ちなみにそのときの僕の返しは
「姉さん・・・同意はとったの?」
「うん、もちろん!
死んでも恨まないってさ。
滑稽だよねぇ~。
恨む暇を与えてもらう気でいるのよ?」
という姉さんの目は・・・年そのままよりも無邪気なものであり・・・・
思わず「そうだよね~。」と笑いながら答えた僕を咎める事の出来る人は居まい。
・・・斬られた相手に同情した・・・。
姉さん曰く。
「銃弾って斬っても楽しくないよ。留学して損しちゃった。ただの時間の無駄で、ヒビとの鍛錬の方がよっぽど修行になるよ。」
ヒビとは僕の呼び名。
響と名前で呼ばれるのは友人間が多く、ヒビは家族間の呼び名。
他のとこにはあえてツッコミません。
銃弾を叩き切れるか試すためだけに留学したり、僕の鍛錬が銃弾を見切るより良いなんて・・・褒めていても微塵も嬉しくない。
姉さん曰く。
「じゃじゃ~ん。御土産の熊肉で~す!
友達との出かけ先で熊が出たから斬ってみたの。
でも・・・やっぱり人が一番かな・・・」
最後の一言は持てる全力で無視した。
でないと心がいろいろ折れそうだった。
そもそも出たからと言って、熊を殺しては犯罪に抵触するのではないか?
猟友会みたいな場所の許可が必要なんじゃないだろうか?


とまぁ・・・そんな姉に実験台とばかりに物心が付いた頃から相手させられてた僕としては・・・
一般人から見たら僕までかなりの化け物になっていたというわけさ。
才能があった!?
バッァカをいうなぁぁあぁぁあぁぁああああああああっ!!
そこにどれだけの苦悩と・・・り、り、りり、リアルに血と汗と涙が・・・・ぐぶぅふふるぅっ!!
なぁ、な、泣かないぞ・・・泣かないんだからな・・・・。


ハッハッハッ!
笑ってくれてかまわんよ、諸君。
あれ・・・目から汗が出てくるよ・・・なんでだろうね。
くれぐれも才能の一言で語ってくれるな!!
どれほどの・・・
どれほどの・・・・


「ど、どうしたの?
急に黙っちゃって?
その?
泣いてる?」
「ちょっと、良き思い出を・・・」


なんというか、今更ながらあの姉以上に理不尽な存在なんて存在しないということを思い出して、やっぱり元の世界に帰らなくて良いかなとか思えてきた僕である。
そのためにも、お金を稼ごう。






その後。お姉さんに多少の話を聞いて、初のギルドミッションに出ることにした。

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