男の娘なCQCで!(未完)
18わ こい の め
今日も今日とて学園に通い、町人依頼をこなし、たまに普通のクエストが出たときにはそれを受けなどと過ごしつつ。
そんな感じの日々が一週間ほど過ぎた頃。
あいも変わらず僕とマノフィカさんはギクシャクしていた。
「おはよう。」
「ひ、ひぅっ!?・・・お、おはよう。」
「なんかごめんなさい。」
「あなたが謝ることじゃない。ボーっとしてた私が悪い。こちらこそごめんなさい。」
「いや、こっちがーーー」
「違う。悪いのは私―――」
と、何か変なループに入るようになって来たりもした。
最近、特にこの一週間ぼーっとすることが多くなったマノフィカさん。それと同時に僕に対する威嚇的な言動は完全に身を潜め、平和になった。と思いきや。
気軽に声をかけようものなら、驚いて身を跳ね上げる。
その姿は小動物のようで可愛いのだが、こちらとしては申し訳ない気分で一杯になる。
そうなるとこちらは謝る。
ところが相手も気遣い謝る。
そんな必要は無いとさらに謝る。
それこそ必要ないとまたまた謝る。
というデフレスパイラルならぬ謝りスパイラルである。
・・・こほん。語呂が悪いし、デフレスパイラルに当てはめた意味は特に無いのだが。
「あの・・・」
何か言いたそうに僕に声をかけてくるマノフィカさん。
「何?」
それに答える僕。答えや声の強さが少々愛想にかけるのは恐怖症ゆえ仕方ないことである。
ましてや普通の女性よりもちょっとした因縁がある相手。
緊張はひとしおだ。
「いや・・・その・・・なんでもない。」
「そ、そう・・・」
そんな僕にマノフィカさんがシュンとなり、そして僕もシュンとなる。
なんだろうか、この気まずい関係は。
これならば前の方がマシだったとも言える。
もちろんフィネアが
「そ、そんなことじゃだめです!!私が一肌脱ぎましょう!!」
と言ってまたもや色んな画策をするが、もちろん空回り。
そらそうである。
そもそも人間関係は彼女だって僕にあうまで20年はろくに人と話したことがないのだ。
そんな彼女が人間関係の問題を解決しようとしたところで良い解決策が思い浮かぶはずもなく、動けるはずもなく。
それからまたしばらく経ったある日のこと。
「ひ、昼休み。に、庭に来て欲しい。」
「庭?」
「フ、フレス庭園のテラスに。」
「あ、うん。まぁ良いけど。」
背筋をぴんと伸ばし、握りこぶしを作りながら彼女はそんなことを言ってきた。
一体、何の話だろうか?
これが男ならば、と何度思ったことか。
男ならば一発喧嘩した後は謝るなんてことはせず、次の日に軽く話しかければそれで意外と何とかなるものである。
それでもわだかまりが残るなら、殴り合えば良い。
相手を罵倒して、殴って、蹴って。
泣かして、泣かされて、倒し、倒されて。
でもって次の日にはすっかりけろっとしている。
ところがどっこい、彼女は女性。
殴り合ってどうのという性格でもない。
となればであるが、僕にはこのギクシャク感をどうすれば解消できるのか?
何度考えたことか。結果、分からないという結論に至った。
だって、分からないんだもん。
というか、そもそも彼女は仲直りを望んでいるのだろうか?
単純に僕が嫌いだから、という理由でむしろ当たり障り無い反応を見せるようになったのではないのだろうか?
反発するよりも適当に話を合わせて、流す。
そういう風に。
そっちの可能性の方が遥かに高い気もする。
それだけの面倒ごとをしてでも、彼女はフィネアと一緒にいたい。そう思われてるフィネアたるや何とうらやましいことか。
それくらいの男友達を僕も作れたら良いな。と熱烈に希望しつつ。
それとも庭に呼んで、一回、じっくりゆっくり話をしようってことなのだろうか?
正直、帰りたい。
すっぽかして帰りたいものである。
が、そういうわけにも行かないだろう。
少なくとも彼女の方から歩み寄ろうと言う意思がある。
僕だって今の状況が良いというわけではない以上、望むところ。
望むところではあるのだが。
如何せん、話し合いならばフィネアによってすでに試された後であり、正直今すぐどうという効果は見込めない。
かといってこのままであり続けるわけにも行かない。
「はぁ。」
ついとため息が漏れるがそれもまた、仕方ない。
せめて、彼女がこれ以上僕をきらうことのないように祈りつつ。
庭に向かうとしよう。
☆ ☆ ☆
学園の庭は広大である。
フレス庭園と言うのだが、正直広すぎて中々見つけづらい。
かれこれ10分は探索してる気がする。
景観を良くするためであろう。
木々がところどころに埋められているゆえの見晴らしの悪さもある。
さらに5分ほどかけて漸く、見つけることが出来た。
うなだれている気がするけどどうしたのかな?
「・・・やっぱり来てくれないの?」
とぼやきつつ、ため息をついている。
なにが『やっぱり』なのか。
いまいち分からないが、それはともかく。
「ごめんね。すっごく待たせちゃったみたいで。」
「ひぁひゃぃっ!?」
うむ。
良い悲鳴だ。
じゃなくて。
またもや驚かせてしまったみたい。
今度から声をかける前に声をかけるようにしよう。
・・・って、何言ってんだ?僕は。
「いえ、待ってなかったから・・・」
「すっごい背中から待ってた感を感じたけど。
本当にごめんね。」
敢えて言い訳はすまい。
男たるもの。言い訳などかっこ悪い。
「ううん、別に。
具体的な位置を言ってなかった私が悪い。」
「そう言って貰えると助かるよ。
それで・・・あの。今日はなんの用事で呼び出したの?」
向かいの椅子に座りながら話をする。
「えと・・・その・・・あの・・・」
顔を赤らめて、両手を膝の上に乗せてもじもじとするマノフィカさん。
何?この可愛いの。
というか、キャラが違わない?
単純に照れてるだけ?
恥ずかしがってるだけ?
「えと・・・何?」
「ひぅっ!
あ、そのっ!!」
少し無愛想だったろうか?
流れが良く読めずに、ついつい声がぶっきらぼうになってしまった。
それを聞いて僕が怒っていると思ったのだろうか?
びくりとして口をパクパクさせる。
しかし、焦れば焦るほど言葉が出てこないようなマノフィカさん。
そして俯く。
ちょっと涙目である。
えと・・・僕が苛めてるみたいな構図になってない?これ?
とりあえず、のんびりと落ち着くのを待ってみますか。
特別早くに聞き出さないとダメというわけでもない。
・・・。
・・・・・・。
・・・。
・・・・・・。
「・・・。」
ふむ。
まだだろうか?
20分ほど待ってみたのだが。
一向に「あの、えと・・・それで・・・なので・・・」と何事かをボソボソと言い、こちらをチラッと見て、すぐに「うー』と唸ってまたもや俯いてしまう。
何やらを喋り、僕の返事を待っている?
とふと思った。
が、その前のセリフが全く聞こえなかったので、そもそも僕に返事を求めてるのかすら不明である。
「えと・・・何か・・・喋ったんだよね?僕に、話しかけたんだよね?」
「う、うん。」
「それで返事を待ってたり・・・するのかな?」
「う、うん。
や、やっぱり私から・・・はその・・・だよね?」
うむ。
後半になると全く聞こえなくなった。
本人を目の前にしてでも悪口をはっきりと言うあのサバサバ感はどこにいったのだろうか?
ちなみにサバとは魚のサバではないことを一応言っておこう。
「悪いんだけど・・・さっきから接続詞の部分しか聞こえないんだよ。
もう少し大きな声で言って欲しいかな。」
「ひぅっ!
そ、そうなのっ!?」
「うん、まぁ。」
「もっと早く言って欲しかった。」
「なんかごめんなさい。」
「その・・・キングオークとの戦いのとき。」
「うん。」
「私は、貴方に助けてもらった。」
「ええと・・・まぁ、助けたね。」
今更そんな話を堀り返して、何が言いたいのだろうか?
あれから半月以上は経ってるのに。
「そのお礼。
だから、あの・・・お弁当・・・なんだけど。」
「ええと・・・お弁当を作ってきたからお礼としてあげるってこと?」
「そ、そうなる。」
終始俯いてボソボソ喋るから聞き取りづらいことこの上ないのだが、なんとか意思疎通が出来た。
ええと?
お礼?今更?
すっごい今更感が強くて、なんか貰うには悪い気しかしなかったりする。
「そ、そう?
でも、別に良いよ?
僕のこと嫌いなんでしょ?
恩を感じたからって、わざわざ嫌いな相手にまで恩を返そうとするのは律儀で結構。
でも、僕としては勝手なことして・・・むしろ申し訳ない感があったし。」
きっと彼女の家訓に受けた恩は親の仇だとしても返せ。
みたいな物があるのだろう。
でなければわざわざ僕にこうして恩を返す理由が無い。
というか、今更すぎですよね?
きっと半月以上かけて家訓と僕への嫌悪感がぶつかり合って、葛藤の元ようやく恩を返すという選択肢をとったのだろう。
そこまで嫌なら別にどうとでも。
「そ、それは違うっ!!」
「うわっ!?」
というと、身を乗り出してくるマノフィカさん。顔がすごい近い。
どうでも良いけど、甘い匂いがする。
くんかくんか。
いやごめんなさい。冗談です。
そして、すっごい泣きそうになってる。
「わ、私は・・・こんな私を命を懸けて守ってくれる人なんて今までいなかった・・・だからすごく嬉しかった。い、今は嫌じゃないっ!」
「そ、そう?」
すっごい迫力でまくし立てるマノフィカさん。
そういや、去り際にそんなこと言ってましたもんね。
それよりも顔が近い、息を吹きかけるな、気持ちが良いんだよ!
じゃなかった!
ドキドキするんだよっ!!
でもなかった。
緊張で頭がおかしくなってるみたいである。とにかく離れてもらえないかな。
微妙に恐怖症も発動してるし。
鳥肌が。
「その・・・今まで礼をいえなかったのは・・・その・・・今までが今までなだけにイキナリ手の平を返すのも恥ずかしくて・・・それで・・・でも、フィネアからそんなことを気にする人じゃないって聞いたから・・・思い切って・・・その。」
「そ、そういうこと?
別に気にしなくても良かったのに。」
別に僕が優しいとかじゃなくて。
そもそも半月も経ってたら誰だって気にしなくなるだろう。
「命の恩人にお弁当なんて安いものだとは思うけど・・・ごめんなさい。
お金に余裕が無い私にとってはコレが精一杯で・・・その。望むなら体でも・・・その、自分で言うのもなんだけど・・・肉つきは良いほうだから・・・」
なんだろうか?
売春が流行ってるの?この世界。
というか望まないよ!!
倫理的にどうのという前に、そんな行為をすれば今の僕にはとてもじゃないが耐えられまい。
ストレスで胃がブレイク!
意識もマッハで闇の底に沈むだろう。
難儀な体質になってしまったものである。
「いや、そんなもん要らないよ、安心して。」
「・・・やっぱり女の子?」
「違うっての。
色々あって、僕はで男でありながら女の子不振という・・・精神的な病を抱えているのだよ。」
「・・・ホモせくしゃる?」
「それも違います。
とにかく、お弁当?
せっかくだし、貰うよ。」
「そ、そう。」
そういうと彼女はライブラリからお弁当箱をとりだした。
そして僕に渡す。
ピンクの風呂敷に包まれ、それを解くと猫を模った弁当箱が出てくる。
い、意外と少女趣味なのかな?
彼女の方を見ると彼女の方はハムスターを模ったものである。
ふと『とっとこハム太郎』を思い出した。
別に理由は無い。
というか、ハムスターって年老いると同時に癌になりやすくなって痛々しくなるということから個人的には見てる分には良くても、飼いたくないベスト3に入る生き物である。
などと余談はこれくらいに。
弁当箱は二段式になっており、下がご飯。上がおかずとなっているようである。
おかずはから揚げ、ハンバーグ、ウィンナーのベーコン巻き、ダイコンのサラダ、ホウレンソウのバター和えに、うさたんリンゴもといウサギを模ったリンゴが一切れ。リンゴの下に敷いてある紙製の器にはリンゴの果汁以上の水分が溜まってるが、これはリンゴの酸化を緩和するための塩水だろう。
細かいところでちょっとした手間が見て取れるところが高ポイントである。
もちろんこの世界に冷凍食品などという便利なものは無く。
全てが朝起きた後の手作りであろうことがうかがえる。
なんていうか、男性のハートを鷲づかみにするような弁当といえるかもしれない。
「ど、どう?」
「くす。まだ食べてないよ。」
「そ、そう。」
よっぽど気になってるのか、まだ食べてもいないのに感想を聞いてくる。
彼女は緊張してるのだろうか?
まぁ自分の作った料理を誰かに食べてもらうのは緊張するよね。
などと弁当を見ながら何事かを考える、というのはそれくらいにしておき。
とりあえずから揚げから食べていこうかな?
「あむ。むぐむぐ。ほほう。これは!
隠し味になにかを使っているな!
隠し味なだけに全く分からないけど!!」
え、なんで全く分からないのに隠し味に何かを使ってるかがわかるのって?
気分で言ってみただけです。
べ、別に良いじゃん!
言ってみたかったんだから。
「・・・気づかれるなんて思わなかった。
ちょっとびっくり。」
彼女はあいも変わらず顔を少し朱に染めたまま。
そんなことを言った。
あれ?
まじで?
適当に言っただけだよ?
僕に分かるのは単にこれが美味しいものであるということだけである。
「その・・・どう?
味は・・・美味しい?」
「もちろん。ほら、自分でも食べてみなよ。」
といって、箸で持ってからあげを差し出す。
彼女の弁当箱にも入ってるんでは、というツッコミは無しで。
このときの僕はなんだかんだで始めての手作り弁当ということで緊張していたのである。
前世の・・・その。マキは弁当が作れないタイプだったので。
基本僕が食事を作っていた。
「・・・ふぇっ!?」
「・・・どうしたの?」
つい息が漏れたって感じの悲鳴をあげるマノフィカさん。
「べ、別に・・・」
「ほら、あーんって。」
「えう、あう・・・」
「何?
ワシのメシが食えないんかっ!?」
飲んだくれ親父のようなことを叫びつつ。
いささか強引に口にから揚げを突っ込んだ。
「ひむぐっ!?」
「どう?
美味しいでしょ?」
よくよく考えてみると、味見くらいしてたよね?
口に合うか不安ってことを言いたかったのかな?
まぁ、いいや。と思いつつ。
「・・・美味しい。その・・・いつもよりもずっと美味しく感じる。」
「・・・自画自賛?」
なんか良く分からないけど、ぽーっとなってるマノフィカさん。
そんな感じでお弁当を食べ進めていく。時々雑談も交えながら。
食べ終わると、弁当箱を洗って返そうとしたのだが、別に大丈夫と言われたのでそのまま返した。
「ごちそうさまでした。
美味しかったよ。それじゃあね?」
「う、うん。お粗末さまでした。ま、またね。」
終始俯き加減だった彼女と別れの挨拶を済ませる。
『またね』と言われた。
なんだか良く分からないがすごっく仲良く慣れたようでよかったのかもしれない。
いや、その。
願わくば彼女が男であれば尚のこと良かったのだが。
そんな感じの日々が一週間ほど過ぎた頃。
あいも変わらず僕とマノフィカさんはギクシャクしていた。
「おはよう。」
「ひ、ひぅっ!?・・・お、おはよう。」
「なんかごめんなさい。」
「あなたが謝ることじゃない。ボーっとしてた私が悪い。こちらこそごめんなさい。」
「いや、こっちがーーー」
「違う。悪いのは私―――」
と、何か変なループに入るようになって来たりもした。
最近、特にこの一週間ぼーっとすることが多くなったマノフィカさん。それと同時に僕に対する威嚇的な言動は完全に身を潜め、平和になった。と思いきや。
気軽に声をかけようものなら、驚いて身を跳ね上げる。
その姿は小動物のようで可愛いのだが、こちらとしては申し訳ない気分で一杯になる。
そうなるとこちらは謝る。
ところが相手も気遣い謝る。
そんな必要は無いとさらに謝る。
それこそ必要ないとまたまた謝る。
というデフレスパイラルならぬ謝りスパイラルである。
・・・こほん。語呂が悪いし、デフレスパイラルに当てはめた意味は特に無いのだが。
「あの・・・」
何か言いたそうに僕に声をかけてくるマノフィカさん。
「何?」
それに答える僕。答えや声の強さが少々愛想にかけるのは恐怖症ゆえ仕方ないことである。
ましてや普通の女性よりもちょっとした因縁がある相手。
緊張はひとしおだ。
「いや・・・その・・・なんでもない。」
「そ、そう・・・」
そんな僕にマノフィカさんがシュンとなり、そして僕もシュンとなる。
なんだろうか、この気まずい関係は。
これならば前の方がマシだったとも言える。
もちろんフィネアが
「そ、そんなことじゃだめです!!私が一肌脱ぎましょう!!」
と言ってまたもや色んな画策をするが、もちろん空回り。
そらそうである。
そもそも人間関係は彼女だって僕にあうまで20年はろくに人と話したことがないのだ。
そんな彼女が人間関係の問題を解決しようとしたところで良い解決策が思い浮かぶはずもなく、動けるはずもなく。
それからまたしばらく経ったある日のこと。
「ひ、昼休み。に、庭に来て欲しい。」
「庭?」
「フ、フレス庭園のテラスに。」
「あ、うん。まぁ良いけど。」
背筋をぴんと伸ばし、握りこぶしを作りながら彼女はそんなことを言ってきた。
一体、何の話だろうか?
これが男ならば、と何度思ったことか。
男ならば一発喧嘩した後は謝るなんてことはせず、次の日に軽く話しかければそれで意外と何とかなるものである。
それでもわだかまりが残るなら、殴り合えば良い。
相手を罵倒して、殴って、蹴って。
泣かして、泣かされて、倒し、倒されて。
でもって次の日にはすっかりけろっとしている。
ところがどっこい、彼女は女性。
殴り合ってどうのという性格でもない。
となればであるが、僕にはこのギクシャク感をどうすれば解消できるのか?
何度考えたことか。結果、分からないという結論に至った。
だって、分からないんだもん。
というか、そもそも彼女は仲直りを望んでいるのだろうか?
単純に僕が嫌いだから、という理由でむしろ当たり障り無い反応を見せるようになったのではないのだろうか?
反発するよりも適当に話を合わせて、流す。
そういう風に。
そっちの可能性の方が遥かに高い気もする。
それだけの面倒ごとをしてでも、彼女はフィネアと一緒にいたい。そう思われてるフィネアたるや何とうらやましいことか。
それくらいの男友達を僕も作れたら良いな。と熱烈に希望しつつ。
それとも庭に呼んで、一回、じっくりゆっくり話をしようってことなのだろうか?
正直、帰りたい。
すっぽかして帰りたいものである。
が、そういうわけにも行かないだろう。
少なくとも彼女の方から歩み寄ろうと言う意思がある。
僕だって今の状況が良いというわけではない以上、望むところ。
望むところではあるのだが。
如何せん、話し合いならばフィネアによってすでに試された後であり、正直今すぐどうという効果は見込めない。
かといってこのままであり続けるわけにも行かない。
「はぁ。」
ついとため息が漏れるがそれもまた、仕方ない。
せめて、彼女がこれ以上僕をきらうことのないように祈りつつ。
庭に向かうとしよう。
☆ ☆ ☆
学園の庭は広大である。
フレス庭園と言うのだが、正直広すぎて中々見つけづらい。
かれこれ10分は探索してる気がする。
景観を良くするためであろう。
木々がところどころに埋められているゆえの見晴らしの悪さもある。
さらに5分ほどかけて漸く、見つけることが出来た。
うなだれている気がするけどどうしたのかな?
「・・・やっぱり来てくれないの?」
とぼやきつつ、ため息をついている。
なにが『やっぱり』なのか。
いまいち分からないが、それはともかく。
「ごめんね。すっごく待たせちゃったみたいで。」
「ひぁひゃぃっ!?」
うむ。
良い悲鳴だ。
じゃなくて。
またもや驚かせてしまったみたい。
今度から声をかける前に声をかけるようにしよう。
・・・って、何言ってんだ?僕は。
「いえ、待ってなかったから・・・」
「すっごい背中から待ってた感を感じたけど。
本当にごめんね。」
敢えて言い訳はすまい。
男たるもの。言い訳などかっこ悪い。
「ううん、別に。
具体的な位置を言ってなかった私が悪い。」
「そう言って貰えると助かるよ。
それで・・・あの。今日はなんの用事で呼び出したの?」
向かいの椅子に座りながら話をする。
「えと・・・その・・・あの・・・」
顔を赤らめて、両手を膝の上に乗せてもじもじとするマノフィカさん。
何?この可愛いの。
というか、キャラが違わない?
単純に照れてるだけ?
恥ずかしがってるだけ?
「えと・・・何?」
「ひぅっ!
あ、そのっ!!」
少し無愛想だったろうか?
流れが良く読めずに、ついつい声がぶっきらぼうになってしまった。
それを聞いて僕が怒っていると思ったのだろうか?
びくりとして口をパクパクさせる。
しかし、焦れば焦るほど言葉が出てこないようなマノフィカさん。
そして俯く。
ちょっと涙目である。
えと・・・僕が苛めてるみたいな構図になってない?これ?
とりあえず、のんびりと落ち着くのを待ってみますか。
特別早くに聞き出さないとダメというわけでもない。
・・・。
・・・・・・。
・・・。
・・・・・・。
「・・・。」
ふむ。
まだだろうか?
20分ほど待ってみたのだが。
一向に「あの、えと・・・それで・・・なので・・・」と何事かをボソボソと言い、こちらをチラッと見て、すぐに「うー』と唸ってまたもや俯いてしまう。
何やらを喋り、僕の返事を待っている?
とふと思った。
が、その前のセリフが全く聞こえなかったので、そもそも僕に返事を求めてるのかすら不明である。
「えと・・・何か・・・喋ったんだよね?僕に、話しかけたんだよね?」
「う、うん。」
「それで返事を待ってたり・・・するのかな?」
「う、うん。
や、やっぱり私から・・・はその・・・だよね?」
うむ。
後半になると全く聞こえなくなった。
本人を目の前にしてでも悪口をはっきりと言うあのサバサバ感はどこにいったのだろうか?
ちなみにサバとは魚のサバではないことを一応言っておこう。
「悪いんだけど・・・さっきから接続詞の部分しか聞こえないんだよ。
もう少し大きな声で言って欲しいかな。」
「ひぅっ!
そ、そうなのっ!?」
「うん、まぁ。」
「もっと早く言って欲しかった。」
「なんかごめんなさい。」
「その・・・キングオークとの戦いのとき。」
「うん。」
「私は、貴方に助けてもらった。」
「ええと・・・まぁ、助けたね。」
今更そんな話を堀り返して、何が言いたいのだろうか?
あれから半月以上は経ってるのに。
「そのお礼。
だから、あの・・・お弁当・・・なんだけど。」
「ええと・・・お弁当を作ってきたからお礼としてあげるってこと?」
「そ、そうなる。」
終始俯いてボソボソ喋るから聞き取りづらいことこの上ないのだが、なんとか意思疎通が出来た。
ええと?
お礼?今更?
すっごい今更感が強くて、なんか貰うには悪い気しかしなかったりする。
「そ、そう?
でも、別に良いよ?
僕のこと嫌いなんでしょ?
恩を感じたからって、わざわざ嫌いな相手にまで恩を返そうとするのは律儀で結構。
でも、僕としては勝手なことして・・・むしろ申し訳ない感があったし。」
きっと彼女の家訓に受けた恩は親の仇だとしても返せ。
みたいな物があるのだろう。
でなければわざわざ僕にこうして恩を返す理由が無い。
というか、今更すぎですよね?
きっと半月以上かけて家訓と僕への嫌悪感がぶつかり合って、葛藤の元ようやく恩を返すという選択肢をとったのだろう。
そこまで嫌なら別にどうとでも。
「そ、それは違うっ!!」
「うわっ!?」
というと、身を乗り出してくるマノフィカさん。顔がすごい近い。
どうでも良いけど、甘い匂いがする。
くんかくんか。
いやごめんなさい。冗談です。
そして、すっごい泣きそうになってる。
「わ、私は・・・こんな私を命を懸けて守ってくれる人なんて今までいなかった・・・だからすごく嬉しかった。い、今は嫌じゃないっ!」
「そ、そう?」
すっごい迫力でまくし立てるマノフィカさん。
そういや、去り際にそんなこと言ってましたもんね。
それよりも顔が近い、息を吹きかけるな、気持ちが良いんだよ!
じゃなかった!
ドキドキするんだよっ!!
でもなかった。
緊張で頭がおかしくなってるみたいである。とにかく離れてもらえないかな。
微妙に恐怖症も発動してるし。
鳥肌が。
「その・・・今まで礼をいえなかったのは・・・その・・・今までが今までなだけにイキナリ手の平を返すのも恥ずかしくて・・・それで・・・でも、フィネアからそんなことを気にする人じゃないって聞いたから・・・思い切って・・・その。」
「そ、そういうこと?
別に気にしなくても良かったのに。」
別に僕が優しいとかじゃなくて。
そもそも半月も経ってたら誰だって気にしなくなるだろう。
「命の恩人にお弁当なんて安いものだとは思うけど・・・ごめんなさい。
お金に余裕が無い私にとってはコレが精一杯で・・・その。望むなら体でも・・・その、自分で言うのもなんだけど・・・肉つきは良いほうだから・・・」
なんだろうか?
売春が流行ってるの?この世界。
というか望まないよ!!
倫理的にどうのという前に、そんな行為をすれば今の僕にはとてもじゃないが耐えられまい。
ストレスで胃がブレイク!
意識もマッハで闇の底に沈むだろう。
難儀な体質になってしまったものである。
「いや、そんなもん要らないよ、安心して。」
「・・・やっぱり女の子?」
「違うっての。
色々あって、僕はで男でありながら女の子不振という・・・精神的な病を抱えているのだよ。」
「・・・ホモせくしゃる?」
「それも違います。
とにかく、お弁当?
せっかくだし、貰うよ。」
「そ、そう。」
そういうと彼女はライブラリからお弁当箱をとりだした。
そして僕に渡す。
ピンクの風呂敷に包まれ、それを解くと猫を模った弁当箱が出てくる。
い、意外と少女趣味なのかな?
彼女の方を見ると彼女の方はハムスターを模ったものである。
ふと『とっとこハム太郎』を思い出した。
別に理由は無い。
というか、ハムスターって年老いると同時に癌になりやすくなって痛々しくなるということから個人的には見てる分には良くても、飼いたくないベスト3に入る生き物である。
などと余談はこれくらいに。
弁当箱は二段式になっており、下がご飯。上がおかずとなっているようである。
おかずはから揚げ、ハンバーグ、ウィンナーのベーコン巻き、ダイコンのサラダ、ホウレンソウのバター和えに、うさたんリンゴもといウサギを模ったリンゴが一切れ。リンゴの下に敷いてある紙製の器にはリンゴの果汁以上の水分が溜まってるが、これはリンゴの酸化を緩和するための塩水だろう。
細かいところでちょっとした手間が見て取れるところが高ポイントである。
もちろんこの世界に冷凍食品などという便利なものは無く。
全てが朝起きた後の手作りであろうことがうかがえる。
なんていうか、男性のハートを鷲づかみにするような弁当といえるかもしれない。
「ど、どう?」
「くす。まだ食べてないよ。」
「そ、そう。」
よっぽど気になってるのか、まだ食べてもいないのに感想を聞いてくる。
彼女は緊張してるのだろうか?
まぁ自分の作った料理を誰かに食べてもらうのは緊張するよね。
などと弁当を見ながら何事かを考える、というのはそれくらいにしておき。
とりあえずから揚げから食べていこうかな?
「あむ。むぐむぐ。ほほう。これは!
隠し味になにかを使っているな!
隠し味なだけに全く分からないけど!!」
え、なんで全く分からないのに隠し味に何かを使ってるかがわかるのって?
気分で言ってみただけです。
べ、別に良いじゃん!
言ってみたかったんだから。
「・・・気づかれるなんて思わなかった。
ちょっとびっくり。」
彼女はあいも変わらず顔を少し朱に染めたまま。
そんなことを言った。
あれ?
まじで?
適当に言っただけだよ?
僕に分かるのは単にこれが美味しいものであるということだけである。
「その・・・どう?
味は・・・美味しい?」
「もちろん。ほら、自分でも食べてみなよ。」
といって、箸で持ってからあげを差し出す。
彼女の弁当箱にも入ってるんでは、というツッコミは無しで。
このときの僕はなんだかんだで始めての手作り弁当ということで緊張していたのである。
前世の・・・その。マキは弁当が作れないタイプだったので。
基本僕が食事を作っていた。
「・・・ふぇっ!?」
「・・・どうしたの?」
つい息が漏れたって感じの悲鳴をあげるマノフィカさん。
「べ、別に・・・」
「ほら、あーんって。」
「えう、あう・・・」
「何?
ワシのメシが食えないんかっ!?」
飲んだくれ親父のようなことを叫びつつ。
いささか強引に口にから揚げを突っ込んだ。
「ひむぐっ!?」
「どう?
美味しいでしょ?」
よくよく考えてみると、味見くらいしてたよね?
口に合うか不安ってことを言いたかったのかな?
まぁ、いいや。と思いつつ。
「・・・美味しい。その・・・いつもよりもずっと美味しく感じる。」
「・・・自画自賛?」
なんか良く分からないけど、ぽーっとなってるマノフィカさん。
そんな感じでお弁当を食べ進めていく。時々雑談も交えながら。
食べ終わると、弁当箱を洗って返そうとしたのだが、別に大丈夫と言われたのでそのまま返した。
「ごちそうさまでした。
美味しかったよ。それじゃあね?」
「う、うん。お粗末さまでした。ま、またね。」
終始俯き加減だった彼女と別れの挨拶を済ませる。
『またね』と言われた。
なんだか良く分からないがすごっく仲良く慣れたようでよかったのかもしれない。
いや、その。
願わくば彼女が男であれば尚のこと良かったのだが。
「SF」の人気作品
書籍化作品
-
-
0
-
-
39
-
-
314
-
-
125
-
-
1
-
-
75
-
-
52
-
-
20
-
-
2
コメント