男の娘なCQCで!(未完)

百合姫

12わ がっこう・ふらぐ

あれからさらに一週間。資本金として2000万リーフを荒稼ぎした。
結構、頑張った。
カマキリみたいな姿をしたマッドキラーやファイヤーモールの討伐。インペリアル・マッドキラーに出くわして逃げ出すと言うハプニングもあったし、回復スプレーEXの原料になるラフレシアンという植物の蜜の採取など。色々頑張った。


よって、めでたくレベルが6になりました!
・・・相変わらずレベルがすごく上がりづらい。この一週間でレベルが上のヤツのみを相手にしつつなおかつ500匹近くのモンスターを狩ったのにレベルが3しか上がらないと言うのはどういうことだろうか?
成長率が良くても効率が悪すぎると思わないでもない。
(この世界では成長率はいわば潜在能力、ないしは才能みたいな意味合いを持つらしく産まれ付き決まっている数値らしい。)


そんなこんなで資本金を稼いだ僕達はお店の復興に何が大切か?と考え、とりあえずは依頼中に手に入れたレアアイテムを店に収めることにした。
そして思わぬ物が思わぬ値段で売られていると言う意味での掘り出し物屋ということで、無駄に裏庭に生えてる朱薔薇しゅばらも売りつけることにも。
安いと思っていたのだが、この世界でも高値で売れることには違いないらしく、むしろ“我が家”の裏庭の環境自体が異常だったとのこと。
レトお姉ちゃんによると魔力が溢れてる場所なら大抵の場所に自生しているらしいが(とはいえどこも奥深い森やモンスターの居る場所がほぼらしい)、言われてみればこの家の周りの魔力濃度は濃い。
どうやらフィネアの体から自然と流れ出る魔力が良い影響を与えてるみたいで嬉しい誤算である。
本来、どの種族にせよ意識的にでもしなければ魔力が体外に流れ出るということは無いという設定だったはず。
それはこの世界でも同様で、意識的に継続して魔力を垂れ流すと言うのは、どんなに熟練した魔技使いであっても難しく数分が限界。そう考えると色んな意味でとことんポヤってる娘である。


とにかくそうした品揃えからはじめ、次に僕がするのは店舗の大掃除。
すなわち、見た目を良くすることだった。
最初こそ掘り出し物屋をやめようと思ったのだが、あの後に家族になるならば。と、彼女の身の上話を聞いたあとではそれは気が引ける。
もちろん生活と情で言えば生活が大切だ。
厳しいようだが、情で人は生きていけない。
ゆえにそれだけならばたとえ嫌われようともそこを指摘するつもりだった。


しかし、それはフィネアも分かってるそうで、今度は僕と出来るだけ頑張ってみたい。とのこと。
今までは現実逃避ばかりして、お客から言われたままに買い取ったのもただ人と触れ合うことが嬉しかったから。
散財してることはどこかで分かっていたらしい。
それをきっちり自覚して今度は頑張るから、一生懸命それで頑張って無理な場合はあきらめるとまで言われたら断れるほどの強い理由は無い。
もちろん“なんで僕まで手伝わなくてはいけないのか?”などと野暮ったいことは言わない。
家族なんだから!
と綺麗言でまとめておこう。
正直、どっちでも良いなんてことはないぞ!本当だ!!


とはいえまた無駄に高値で買ってしまいそうだと思うのは僕が彼女への不信感からか。
やっぱり家族になるのはやめた方がいいじゃないかと若干後悔しつつ。


今すぐにはどうしようも無いと斬り捨て、考えるのは後にする。
ちなみに失恋うんぬんも伝えてた。
相手の心の傷を聞いたのに、僕が話さないのはずるい気がした。というささやかな男の子の意地ってもので。結果、いきなり抱きしめられ“わ、私を好きになっても良いんですよ?”と照れながらに言われても丁重にご遠慮願った。
失恋したからとすぐに次の女へ、というのは些か不誠実に思えるし、彼女はそういう対象キャラじゃないと思うんだ。


そもそも、忘れてはいけない。
『僕の価値はとても低い。』
ここ数日、彼女と関わりながらもずっと考えていたことだ。
一緒に仲良く過ごしていたつもりの幼馴染がいつの間にか別に男を作っていた。
そのさわり…というべきか、好きな人ができてうんぬんの悩み相談すらされた覚えがない。
異性としても友人としても見られていなかったのかもと今更ながらに気付いても遅い。
普通に考えて僕が魅力的な人間であれば小さいころから一緒にいたらすでに惚れていたとしても無理はないと思うのだ。
心理学的にも人間は近しい人を好きになる傾向があるという。
そうでありながら…というやつだ。
けれど…いや、もう考えるまい。
そもそも僕自身彼女が好きだったと気付いたのは手遅れになってから。
自分の気持ちにすら鈍感で愚鈍な男が今更、何を言うのか。




閑話休題。
とにかく見た目からよくするために多少の内装の変更と高値で売りつけられたガラクタの大掃除をすることになった。
そして店員用のコスチューム。
このお店の店員さん限定のコスを着けたらどうか?となる。
そこでいつぞやのレトお姉ちゃんからのプレゼントが役に立った。
その服は二着あり、どちらも改造メイド服だったのである。
これを僕に着てほしかったのかな?と内心冷や汗ダラダラでこのコスチュームを使うことに。


結果、現在の店頭には朱薔薇の葉と茎が3つづつ1セットが20に、僕が今までの依頼を受けたときに手に入れた上質な素材アイテムが数十個、モンスターの素材を加工して部品化したものが数十。僕のイベントリに入っていた武器コレクションの中でも優先度の低い近接武器など。柄の悪い人たち(もとい可愛いお嬢ちゃんいいことしようぜグヘヘ野郎ども)から正当防衛ということでボコった後に、戦利品として奪い取った装備の中でも良い物。そしてガラクタの中にほんの2、3個混じってた“本物”。
これが現在の商品となる。
モンスターの素材を加工した部品は他の素材屋で買うよりも少し安めでなおかつ高品質。自分の装備の強化や鍛冶師の人がターゲットである。
僕のスキルに「魔物加工」があって、モンスターの素材を加工して高値で売りさばけるようになるスキルだ。マスターしてあるのでたとえばキメラアントを加工すると「上質なキメラアントの爪」というのが出来上がる。とはいえキメラアントの爪なんてものは需要が無いので置いていない。
もちろん理想はフィネアが自分で交渉して冒険者から宝を買い取り、その宝をまた他の冒険者に売る。という循環を“1人で”出来ることであるが、甚だ無理と言うところだろう。
少なくとも今のところは。


そして小売である我が家に物をおろす卸売業者との交渉技術、コネクションも欲しい。
なにも掘り出し物は冒険者から買い取ったりする必要は無い。
各国を渡り歩く業者(商人)と提携し、その人が手に入れた商品を売る。これにも数個の形があるがともかく、安定した供給を受けられると言う点では凄まじいメリットである。
が、それと同時にぼったくられる可能性も下手をすれば冒険者からお宝を買う以上になる。
あちらは交渉が本業のような人たちだ。
その人たちを相手にすれば今までの比に無い借金を負う可能性もそれなりにある。
一介の冒険者ごときに騙されるようなフィネア、そして所詮素人に過ぎない僕でも“本物”を相手にするのは無謀を通り越して蛮勇だ。
ただの阿呆に過ぎない。


そう考えると将来的にはありでも長くて数十年、短くても5年くらいは商人から商品を卸してもらうというのは控えるべき。
商品は自力確保か冒険者からなんとか安値で買い叩くのが一番で保守的。
無難と言ったところである。


なんにせよ。
内装を整え、商品も整え、ひとまずの開店準備が出来た今。
やることはひとつ!!


「学校に行く。だな。」




明日が楽しみである。


☆ ☆ ☆


「学校に行くんですか?」
「そう。この掘り出し物屋“おたからや”はそれなりに準備が上手く言ってる。
あと少し品揃えが欲しいところだが、そこは言っても仕方が無い。」
「ふむふむ。」
「店先もキッチリ掃除して、なおかつ扉もちゃんと店だと分かるように装飾した。
ここまでは十分。」
「なるほど!」
「適当に受け答えしてない?
・・・まぁいいけどね。そこでだ。
いよいよお客さんを呼びこむ必要が出てくるわけであるが、周りの人たちに対する印象が悪い。
これはフィネアの新お母さん、もとい人形に話しかけるって言うのが近所の人に見られたりした結果・・・で間違いないんだよね?」
「・・・はい。ごめんなさい。」
「問題ないよ。そのために学校に行くんだから。
というか、そもそもこの辺の近所の人が掘り出し物屋を除く事は無いでしょう?普通に暮らしてる人が必要なものが売ってるわけでもないし。
せいぜい風評被害くらい?」
「?」
「とにかく気にしなくていいんだよ。
新しい顧客を獲得するために学校で我が店を宣伝する!!
これが一番の目的だから。」
「宣伝ですかっ!?勉強するところなのに・・・」
「何言ってるの?
フィネアには勉強してもらうよ?」
「え?」
「他人事みたいに言ってるけど、フィネアには学校でスキル「鑑定眼」を身に付けてもらう。
ぼったくられないようにね。
そのためにも2人で学校に行くのさ。
この掘り出し物屋は基本、冒険者用。
学校の冒険者用クラスに編入してそれとなく宣伝、紹介してウチを知ってもらう。
才能豊かな子には今のうちにつばを付けて恩を売り、いらないアイテムを売ってもらえるように供給ラインとして確保しておきたい。この辺は僕がやるからフィネアは鑑定眼。他にも店の経営に役に立ちそうなものを覚えてもらいたい。
あとは・・・護身術あたりも出来れば覚えて欲しいね。
貴重な物を置くってことはその分、盗人に入られる可能性も上がるから。」
「・・・え?
いや、その・・・戦闘とか一度も経験が無いんですけれど・・・?」
「だから学びに行くんでしょ?」
「ほ、本当に私もいくんですかっ!?」
「おふこーす!!」


レトお姉ちゃんによると入学金とある程度の身分証明が出来れば誰でも入れるとのこと。
フィネアは元々入学していて、親が死んでお店を継ぎ休学して20年近く。
この世界の学校は休学の上限期間は50年。
寿命の長い種族もいるからだろう。
フィネアによると退学手続きはしてないらしいし。
そして僕は僕で冒険者としての身分があるので入学金があれば問題ないはず。
と、いうわけで。


「どらごにあ王国、どらごにあ王都の学校につきました!!」
「ぱっと移動できるもんだね。」


所要時間は10分。短い。
目の前の学校、どらごにっく学校(語呂悪い)の敷居をまたぎ、門番らしい人に話をする。


「あの、すいません。」
「あ、はい。
なんですか?」
「ここに入学したい物なんですけど・・・」
「そうですか。
では身分証明書か、もしくは紹介状のようなものは無いでしょうか?」
「はい、これがクエストカードとレトおねーーー依頼屋の職員さんからの紹介状です。」


僕にはレトお姉ちゃんから紹介状がある。これでほぼ確実に入学できるだろうとのこと。事情を説明して宣伝にはどこが良いかと言う事で学校が良いと聞いたのもレトお姉ちゃんからである。
その代価としてお姉ちゃんと呼ぶことになったわけだが、実際結構助かったのでそれくらいなら・・・と渋々納得した。という余談がある。
あとは下手に抵抗するのも逆に負けた気がしたので。


フィネアは住民票を出した。


「・・・はい。確認が終わりました。
通って大丈夫ですよ。
学園長に連絡したので、そちらに向かってください。
矢印を辿っていけばいいので。」
「矢印・・・ひぃあっ!?」


空中に矢印が出てきた。
びっくりさせて・・・なんぞこれ?
これは・・・魔技?
これも魔技なのかな?
これを辿れってことか?


「あ、ありがとうございます。」


初めて見る物にちょっと戸惑いを覚えながら、矢印を辿っていく。
背後で笑いを堪えてるフィネアがむかつく。


「何か言いたいことでもあんの?」
「ぷぷっ・・・いえ、何も・・・ぷく・・・くく・・・ひぃあっ!?だって・・・ひぃあ!・・・可愛らしくて良いと思いますよ?
男の子としてはどうかと思いますけど。」
「う、うるさいなっ!!
別にちょっと奇声をあげたくらいで笑うこたぁないでしょっ!?
性格悪いぞ!!」
「いえ、やっぱり私が姉に相応しいということがこれでわかりました。」
「・・・それだけでなんでそうなるの?」
「何事にも動じない強靭な精神。
年長たる存在に相応しいと思います!!」
「・・・と、いいつつも足が微妙に震えて見えるのは気のせいかな?」
「んなっ!?
こ、これは別に声をあげる余裕も無いほどびっくりしたというわけではないんですよっ!?」
「すがすがしいほどの分かり易さだな。
むしろわざとやってんのかと疑うくらいだわ。」


と、話している間に学園長室らしき場所に付く。
矢印が扉の前でマルの形に変化した。
分かり易い案内魔技である。


「えーーっと。
ノックして・・・失礼します。」
「し、失礼します!!」
こっちの礼儀は分からないが、とりあえずノックは三回でいいだろう。


「待っていましたよ。
私はどらごにあ学校、学園長セルヴァンと申します。」


学園長室に入るとセルヴァンと名乗る、肩くらいまでの青い髪をした男性がいた。
言わずもがなイケメンである。
待っていたと言うのは門番さんがしっかり話を通してくれた。ということだろう。


「フィネアさんも久しぶりです。」
「あ、えと・・・覚えてるんですか?」
「もちろん。
卒業生も含め、私の生徒だった人の性格や顔は忘れようと思っても忘れられるものではありませんよ。
学園長である私にとって、生徒は実の子同然ですからね。」
「あ、ありがとうございます。」


なんだこの変態は?
卒業生含め覚えてるとか・・・本当に人間なの?
学園長やる前に記憶力の常識を学んでこい。


「なんだこの変態は?という顔で私を見ているお嬢さんのお名前をお伺いしたいのですが?」
「こ、心を読まないでください。」
「ふふ、失礼。
顔に出ていたものですから。」


こ、こやつ・・・できるっ!?


「僕は響といいます。この学校に入学したいのですが、大丈夫でしょうか?」
「問題ありませんよ。
くるものは拒まず。
去る物は追わず。
努力する物には手を。
努力しない物には無関心を。
それがこの学校の基本方針です。身分証明書の類で調べるのは前科があるかどうかくらいですから。」
「・・・よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」


油断ならない人物である。


「紹介状には冒険者用クラスに入りたいと言うことでしたが・・・冒険者クラスでは例え貴方がどんな力を持っていようとこの学校は試験があり、その試験に合格しなければ上のクラスには上がれません。
一番下のクラスから頑張ってもらうわけですが・・・問題ありませんか?」


別にそれでも問題は無い。無いが・・・


「今、その試験を受けることは出来ないんですか?」
「本来なら今すぐ力試し用の試験を受けてもらい、その結果に応じたクラスに入ってもらうのですが、入学用の試験を扱う者があいにくと他の国に出張ってまして・・・少なくとも一ヵ月後になります。
それまで入学を待ってもらえば大丈夫です。
ただ一度入学した以上は一番下のランクから頑張っていただきます。
生徒に無用な勘繰りをされたくないので。」


そりゃ一ヶ月も下のクラスでいる場合、後から試験を受けて一気に3とか4とかクラスが上がると周りの人間からしたら面白くないよね。
なんで弱いところにいたんだ!とか逆にクラスが上のやつからしたら得たいの知れないやつがくるってことであまり歓迎されないだろう。


入学を待つのは無し。準備が終えつつある今、一ヶ月もお店を遊ばせるのはもったいない。それにフィネアからしたら20年近く来てない久しぶりの学校は気まずい場所になるだろう。
そこに1人で行かせるのは少しかわいそうだ。
僕としてもこの世界の学校が気になるし、なによりも“隠された目的”もある。それを果たすためにはクラスメイトから邪険にされる可能性の出る後か試験は論外。
下から、というのが無難だろう。
丁度今の僕は弱いし。
何か面白いスキルが得られるかもしれない。


「下からでいいです。」
「分かりました。
フィネアさんもそれでいいですか?
1人で・・・というのは心細いでしょう?」
「は、はいっ!
ありがとうございます。」


ほほう、なかなか気がきくじゃないか、校長。


「いいえ、それほどでも。」


んなっ!?
また読まれたっ!?


「口に出していましたよ?」
「・・・うるさいな。」




ニヤニヤしながらそう言う校長。
べ、別に口に出るくらいいいだろぉっ!?
何がそんなにおかしいっ!!


「ずいぶん大事にされているな・・・と思っただけです。
フィネアさん。良い家族を得ましたね。」
「ふぇ?
あ、あ・・・ありがろんっ!!」
「ありがろん?」
「ち、違います!
ちょっと舌が回んなかっただけです!!
ありがとうって言おうとしたんです!!」
「ぷくく・・・いえいえ、ドウいたしまして。
というか、ご家族を誉めただけですけどね。
さ、お話は終わりました。
質問はありますか?」
「無いよ!」
「無いです。」
「敬語はやめんたんですか?」
「あんたに使いたくない。」
「良く言われます。」


良く言われるんかい!
現時点では特に質問も無かったのでそのまま帰ることになった。






苦手なタイプである。



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