男の娘なCQCで!(未完)

百合姫

11わ だいだんえん

さて。
僕はと言うと。
目を覚ましたら隣には美少女の寝顔が。
胸が。
体が。
太ももが。
僕に絡み付いていた。
すごく安心しきった状態で寝ているフィネアである。


一般男性から見れば、けしからん状況で羨ましいだろうが、僕も羨ましい。
マキとこうして一緒に寝たであろう男が。


と考えながら引きずり過ぎだと自嘲する。
本来ならムラムラしても可笑しくない状況を見て、思った以上に感情の動きが無いことに我ながら驚く。多少のドキドキはあれどそれだけだ。
まったく、どれほど彼女マキが一途に好きだったのか。いや、本当は好きだったのかも分からない。
そんなに好きだったのなら、もっと早くにこの気持ちを自覚しているべきだ。
男がいるからと多少の気持ちの消沈はあれども、あっさり諦めてしまえている今の状況を考えるにそこまで好きじゃないという可能性もある。
単に親友だと思ってた友人には自分よりも仲のいい奴がいた。という心境にも思えた。
もしくは異世界に来てそれどころではないということか。
とにかく自分で自分が分からない。


などと柄にもない、益体ないことを考えながらも彼女を引っぺがそうとしているのだが、離れたくても離れられない。
それはなぜかと言うとがっちりホールド。プラス寝ながらにして魔の波動を発動していると言う離れ業を目の前のターゲットが行っているからだ。
覚醒スキルを寝ながら発動ってどんだけっ!?
力がプラスされた状態なので貧弱な僕にはどうあがいても逃げ出せない。
これはまずい。主に背骨が。
そして今寝ているのは彼女の部屋。
すなわち何も無い部屋。
さらに言えば床しかない。
そんなところで寝てる。
つまり、体の節々が痛い。
よくもまぁぐっすり寝れる物だ。と感心もそこそこに。


こちらスネーク!
ミッションを開始する。
内容は何が何でもここを抜け出すことである。
起きて早々、さばおり=苦しい=背骨骨折=再度就寝=もとい気絶という結果は避けたい。
ぐっすり寝ている目の前の少女(顔が近い、吐息があたる、良い匂いがする)を本来ならばゆっくり寝かせてやりたいのだが、(おそらく昨晩は寝てないだろうし)そんなことに構っていられる余裕は無い。


作戦その1
とりあえずもがく。
相手が起きればいいだけなのだ。
簡単な事。
やたらともがいてればいずれ気づくだろう。
ふふふ、僕にかかればこの程度のミッション、楽勝だ。
大佐!見ていてくれ!!


「・・・むにゃむにゃ」


寝言でむにゃむにゃとか言い出すヤツを生で見て、少し感激したがそんなことを思っている場合ではない。
まだか!?
まだ起きんのかっ!?
かれこれ10分は動き続けている。
というか、緊張も手伝って熱くなってきた。
汗で蒸れてきたぞい。
なんかエロちっくな雰囲気が出てきた気がする。
とにかく、なかなか起きないので作戦変更。


作戦その2


騒ぎ立てる。


ふふふふふ、あははははっ!!
全く、僕としたことが。
もっと簡単シンプルに行けば良かったのである。
騒げば五月蝿くて目を覚ますじゃないか。
気が動転してこんな簡単なことにも気づかなかった。
無駄な労力を使うだけ無駄だったね。


「ふ~じこちゃんっ!
倒してしまっても構わんのだろう?
だぁれがミジンコウルトラどちびかっ!!
俺がダンダムだっ!!
アミナミを・・・返せっ!!
俺は・・・悪くないっ!!ヴァン先生が悪いんだっ!ヴァン先生が言ったからっ!!
ぷーだよっ!ぷーっ!!
ここならば・・・地上を焼き払う憂いも無いっ!!
慢心せずして何が王かっ!!
俺のこの手が真っ赤に燃えるっ!!
合意と見てよろしいですねっ!?ろぼと~るっ!ファイトッ!!
メイのバカッ!もう知らないっ!!
目ガァァァァアァアアアッ!目がぁぁぁぁぁぁああっ!!
全力全開っ!すたぁ~らいとーーー」
「うるさいですっ!!」
「あうっ!?」


いろんなアニメやゲームの名(迷)台詞を思い出して叫んでみたのだが・・・
ぶん殴られた。
理不尽すぎるよ!?
ちなみに僕の声はタマラン・ユカリンさんに似ているので・・・それで各セリフを思い返してみて欲しい。


作戦その3


もう殴られたくないので叫ぶのは止めて、最終手段である“くすぐり”を使おうと思う。


これはただでさえ苦手な女性に僕から触れなければならないという苦行ゆえに取りたくない方法だったが、こうなっては手段を選んではいられない。
気絶よりかはマシであろう。
え、ワクワクすっぞって顔してるって?
まさか。


「えいさぁっ!!」
「・・・ふぐっ・・・あふっ・・・あは、あはははあはははははっ!!」


よしっ!!
効いているっ!?
効いているぞっ!?
いまだっ!!


「そりゃさっ!!」


僕はその場ですぐに転がり、そのままの勢いで体を起こして立ち上がった。
ターゲットはいまだ睡眠中。
あれだけやっても起きないとは。
恐ろしいことである。


なんにせよ、僕が気絶して結構な時間が経っているらしく、すでに夕方である。


「今日は・・・もういいか。
晩御飯を作ろう。」


依頼屋での稼ぎをやめて、今日はこのまま晩御飯の支度をすることにした。
何より今の状態のまま彼女を放っておくことなどできはしない。
このまま放って置いたら自殺しそうな勢いだったし。


彼女に折られた背骨はどうしたって?
すでに良い具合に治っている。
気絶する前になんとか回復スプレーが間に合ってよかった。
そして、治った後でまたサバオリで折られなくて良かった。
本当に良かった。
二度も殺されかけるとは思いもよらなんだ。
ドジッ娘だからか?
ドジや天然を今ほど恐ろしいと思ったことは無いな。


この家の裏庭にある「朱薔薇」というバラ科のハーブを隠し味として刻んで入れる。
たしかどらぶれではかなり貴重な素材アイテムだったのだが・・・民家に生え、なおかつこれが彼女の今までの主食だというのだから驚きだ。
一時的にHPを倍にするというボス戦前には重宝したやたら便利な薬の材料だったはずなんだけど・・・それゆえに滅多に落ちていなかったし、これを落とすモンスターも100狩って一個落とすか落とさないかくらい。裏庭にそんなハーブが人一人が毎日食べてもなくならないくらいの量がある。ナナフシモドキかってツッコミたい。(ナナフシモドキという昆虫の主食はバラ科の植物。ミニバラや桜などもバラ科。)


これだけでどらぶれでは億単位のお金が稼げたのに。
土の質も良いのかすっごい繁茂具合で今にも塀を乗り越えそうだ。
僕が色々なご飯をつくるせいで朱薔薇を食べる機会が減り、その分どんどん成長してトリミング(植物が育ちすぎた際に葉や茎を切り取って大きさを調整すること)が必要なほど。
これ売れないかな~と思いつつ。
でもここまで栽培が簡単だと値崩れも相当な物だろうな。
ままならない物である。


晩御飯の支度を終えて、朱薔薇を使ったバラ茶を飲んでゆっくり魔技書を読んでいるとフィネアの部屋からすっごい音がする。
何事?
見にいこうと立ち上がったところで、フィネアが飛び込んできて僕に体当たり。というか抱きついてきた。
またかっ!?
オマエはまたなんかっ!?
ぐおっ!?
体当たりがモロに胃に来て・・・トイレ行きたくなってきたっ!!


「いっちゃやだぁぁぁああああっ!!」
「またかっ!!
どこにも行かないから安心しておくれやす!!」


れやす?
我ながら珍妙な言葉遣いをしてしまったぜ!京都弁?まぁいいや。
なぜなら焦ってるからね。
また紫色のオーラが立ち上ってる。
そう。
また、魔の波動ッスよ。また背骨を折られるわけっ!?
すっごい痛いんだよッ!?アレ!!
脊髄ってのは神経の集中する箇所でね?
それはもう想像を絶するイタさが・・・とにかく。
マジ勘弁してくださいっ!!


「とにかく僕はどこにも行くつもりはないし、一緒にいるから。」
「・・・ずっと?」
「・・・うっ。」


今の“うっ”は下から涙目で覗き込む彼女が可愛すぎたための“うっ”である。


「今はとりあえずね。」
「今はじゃイヤっ!!
ずっと一緒に居てくれなきゃイヤっ!!
じゃなきゃ私死ぬもんっ!!」
「なんでそんな話にっ!?」


というかこんなになついてました?
好感度を上げるようなことは特にしてないし・・・いや、そういうのとはちょっと違うな。
何かにすがる目?
恋では無い。
それは分かる。


「・・・もう限界なの。お願いします。」
「・・・何が限界なのかは・・・分からないが・・・はぁ。」


まぁ、自分よりも10は下に見える女の子(実際は違うが)を放って置けるほど冷血でもなく、とくに大きなデメリットも無い。
となればだ。
断る理由も無いし、内心では妹が出来たみたいで嬉しいと言う思いも少しながらある。
が、彼女の深刻具合から安易な答えはむしろ悪い気もしてくる。
とりあえず気絶する前にも言ったように、事情を聞きたい。




「事情をは・・・」
「やっぱり・・・私じゃイヤ?
私みたいな気持ち悪い子じゃいや?
起きたら居なくなってたのも人形が親の私が気持ち悪かったかーーー」
「違うってば!」


ああもう、まだるっこしい。


「分かったよ。
一緒に居てあげる。
家族になってあげる。
コレで良い?」


ノリで行動しないと言う誓いを立てたにも関わらず、またもやこんなことをしてる。
僕も意外とバカで彼女のことを言えないのかもしれない。
あれだ。
いっそのことここを本格的な拠点にしてしまえば良い。
どっか行くときは一緒に居たいって言うなら、つれていけばいいだけだし。
おし。
問題なし。


何よりもここまで不安そうな顔をされると、ね?


「ほ、ほんとに?
捨てない?
どこにもいかない?」
「捨てないよ。
どっか行くときはちゃんと言うし、ついてきたければ付いてくればいい。」
「きらいじゃない?」
「きらいならそもそも関わらないでしょ。」
「人形と話すよ?」
「今更過ぎる。」
「ほんとうにいいの?」
「アンタから言ってきたんだろうに。」
「・・・嬉しい。」
「・・・まぁ僕も嬉しくないことも無い。」


なんだかんだで僕も寂しがりやさんであることは自覚している。


世の中に出れば失恋なんて珍しくは無い。悲しいことであるが。
男も女もまちまちに失恋をする。
それでも大抵の人はそれで負った心の傷を癒し、ないしは傷つきながらでも人と寄り添うことを選ぶ。


僕もそんな人間と一緒だということだ。
失恋直後で今は女性と関わるのは…といいながらもどっぷりと“ここ”に漬かって、なおかつよりによって昨日今日知り合った人間と家族となろうとか言っている。
プロポーズな気がする。少し大仰な言葉だったかもしれないがまぁ気にしない。


目の前の彼女は僕とは違うだろうが、何にせよ似てるような気はする。
似たもの同士傷を舐めあうのもまた一興。
それで後悔するもまた一興。
そう思った僕を誰が責められようか。




「よろしくお願いします。響!」
「こちらこそお願いします。」




にっこりと笑う彼女の笑顔をみたら、誰も責められまい。




「私も今日から尚一層頑張っていこうと思います!!
姉として!!」
「だから、アンタは姉に向いてないっ!!
妹だろうっ!?」
「し、失敬な、です!!
私のほうが年長者なんですから当然でしょう!?」
「ちんちくりんがホザきよるっ!!」
「ひ、酷いですっ!?
し、身長はアレですけど!
胸やお尻は滅多なことでは負けてない自身があります!!」
「・・・むしろシュールじゃない?
アンバランスで。」
「んなっ!?言うに事欠いてシュールとは!!
・・・そ、そこが良いって言う殿方もいるんです!!
お母さんも言ってました!!
“ロリ巨乳はステータスだっ!”と!!」
「またもや出たっ!!
異常なお母さん!!」
「人の親を捕まえて異常は失礼すぎますよっ!?
ねっ!お母さん!!」
「その人形持ってきたのっ!?
そして、そっちのお母さんですかっ!?
ということはパンツのくだりなんかも、まんまアンタの妄想だったのかっ!?」
「ち、違いますぅっ!!
お母さんは生きてますっ!!」
「死んでるかどうかは言ってなかったのに・・・生きてます、と?
ほほう?それすなわち内心ではアンタも人形だと認めていると?
というか顔を真っ赤にして言われてもねぇ・・・」
「ぐっ・・・人の揚げ足ばっかりとってたらろくな大人になれませんよっ!!」
「すでに大人だが。」
「・・・なるほど。確かにろくな大人じゃないですね。響は。」
「ゆ、誘導尋問っ!?
まさかの高等テクニックだとっ!?」
「ゆうどうじんもん?
なんですかっ!?
それはっ!もっと具体的に教えてくださいっ!!
知らない言葉ですけど、この場に置いては誉められてる気がします!!」
「・・・天然怖い。」




こうして僕達は家族になったのだった。







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