タコのグルメ日記

百合姫

魔蓄鉱

魔蓄鉱とは何であるか?
この街では狩りで得られる物が主な特産物であり、獲物の狼から得られる牙や骨は、魔法陣を刻むのに使われるし、肝は薬に、毛皮は耐久性、保温性に優れた衣服やマント、敷物の原材料としてかなり遠くの街や、村にまで届けられるという。
その主力特産物と並んで多く流通しているのがこの魔蓄鉱と呼ばれる鉱石である。
この魔蓄鉱はそれこそ、この街が出来た当初から存在し、むしろ火薬と鉱物を使ってつくられた弾薬が後発であまり使われず、狩りの際にはこの魔蓄鉱を鋳潰して整形した弾薬状に加工した物が主に使われるそうな。
魔蓄鉱によってつくられた弾薬は魔蓄弾マジックバレットと呼ばれ、効果が従来の火薬で作られたものよりもはるかに高く、実際に打ち出されるのは魔蓄弾に蓄えられた魔素とのことで、火薬が炸裂するほどの反動や、風に影響されて弾が逸れたりしないので精度が良いうえに発砲音も小さい良いことづくめの弾薬だとか。
それもあって狙撃による獲物に気づかれない遠距離攻撃が可能になっていてより使われるらしい。ピンポイントに眼球などの柔らかい部位を狙えるのもあるとはお姉さんの談。


その話を聞いて真っ先に反応を示したのはグリューネであった。


「…ありえないわ。貴女、わかっているの?この魔蓄鉱とかいうのは自然の摂理を乱してる。
魔力は環されなければならない。魔素として、精霊に…」
「ああ、そう言うことを言う方もいらっしゃいますよねー。でも、安心してください。そういう方達が言っていたことが当たった試しがないんでねー」


魔蓄鉱に対する感想というよりは警鐘を示すグリューネに対して販売員のお姉さんは特に反応は示さない。
むしろ、適当に流している。おそらくはグリューネだけでなく、今までに何度か言われてきたのだろう。その態度にはどこか慣れを感じる。


「あのねっ!私が言いたいのはそういうことではないのっ!!魔力は魔素に、そして魔素は精霊に、そして植物に吸収されて…」
「へー、そうなんですかー、辛かったんですねー、ああ、たいへんだー」
「ねぇねぇ、人の話はちゃんと聞かないとダメなんだよ。そういう態度はダメだと思う」


グリューネに対する態度に不快感を示したのかやまいも話に加わり出す。
このままエスカレートするのは本意じゃ無い。
グリューネを止めようと声をかけると、彼女は僕に対しても強く言う。




「タコ、貴方には分からないでしょうけど、魔蓄鉱なんて物質が存在するなんて『あり得ない』ことなのよっ!?」
「いや、それはさすがに分かるよ、というかグリューネとか魔法を学ぶ時に聞いたし」


そう、彼女の懸念事項は何となく分かる。
この世界において魔力とはその辺に空気のように存在はしていない。
いや、しているがその濃度は滅多に濃くはならず、目に見えない存在である精霊とやらに分解されていき、魔素となり、空気に含まれる二酸化炭素のように植物などに吸収されていくものだ。
魔力そのものは劇物に分類されるものというのが通説で、僕が石ころに魔法陣を描いて魔法を使う理由はここにある。
僕は人間よりも遥かに多い魔力を扱うため、魔法陣を描く材料、魔法使い風に言わせれば触媒が人間よりも遥かに多くの魔力、すなわち劇物にさらされることになる。
徐々にボロボロになっていき、最終的には塵と化すのが人間のソレよりも遥かに早いのだから高価な触媒を使うよりも石ころなどのどこにでも在るものを使うのは当然の帰結と言える。


ゆえにゲームやら、ちらほら見かけるファンタジー小説のように倒した相手から魔力が出てきてそれを吸収、レベルアップだ!とはならないのだ。とはいえそういう生物が存在しないかと言えばそうではない。その例外が僕を含めた動物達である。
魔素を吸収した植物が植食性の動物に食べられ、そしてそれを肉食動物が食べ、さらにそれをより大きな肉食動物が食べ、そしていずれその動物は死んで死体から出た魔力は精霊に分解されて植物にという循環をたどる。


グリューネが言いたいのはその自然の摂理を乱す魔蓄鉱という物質が疎ましいということなのだろう。
確かに分からないでもない。
なんせ前世では自然環境が崩れて『このまま放置するとマジやばくね?』と問題視されてちょくちょくニュースやそういう番組がテレビに放映されていたからね。
彼女はこのまま放置すると将来的に、ないしは既に何かしらの問題が起きているのではと言いたいのだろう。
そしてそう言った視点、というか考え方というかそういうのはなかなか持ち得にくい。
人間…というよりは生物は基本的に自分を優先するものだ。
生きるために起こったこと、やりたいことが最終的に自らの首を締めようともそこで止まることはない。
例えば獲物を得ようとする狼がいる。
何かしらの獲物を発見し、実際に獲物を狩るかどうか、狩ったことで何が起こるか、お腹いっぱいになるのか、狩りが難しそうだから下手に動いてエネルギーの消費をしないようにするのか、返り討ちに遭わないか、それくらい先のことくらいは考えることができるだろう。


だが、実はその獲物はその地域で最期の生き残りであり、敢えて多少の飢えを満たさずに見逃して、放置すれば将来的に獲物に困ることはない。なんてことがあったとしても狼は気にせずに狩るだろう。気にするだけの発想や知能が無いと言ってもいい。


いや、仮に気にするだけの発想や知能があったとしてもそれをしっかり問題視して的確な応対を出来るかはまた別。
生物としての自分本位の本能に惑わされずに、知恵と強い意思を通すだけの強情さが必要なのだ。
そしてそれは誰もが当たり前に持っているものではない。
販売員のお姉さんの態度は少数派ではない。大多数の人間がそう考えているし、危機感などかけらもない。
それは生物として普通のことだ。


「貴方は貴方で意味不明な生き物だけれど、この物質はそれよりも酷い物よ。
こう言えばそれがどれほど不条理な存在か分かるでしょうっ!」
「……あ、うん。」
「なんでさっきよりも落ち着いているのっ!」


いや、だって、僕を引き合いに出すから、途端にそうでもないかなと思ってしまったわけでして。


「はぁ?貴方以上に出鱈目な存在、私はここ数十年で一度も聞いた試しがないわっ。なんで当の本人に自覚がないのかしらっ!いや、前々からそうよねっ貴方って人はっ!ねぇっ!」
「…うーん、まぁ仮にそうだったとしてもここ数十年は盛りすぎだよね。だってほら、僕以上の不条理がそこにあるんでしょ?」
「そういう話ではないの!それはそれ、これはこれでいい機会だから貴方がどれほど常識はずれなのか説明してあげるわっ!まず…」
「やまいはどう思う?別に僕は言われるほどじゃないと思うんだけど」
「言われるほどだと思う」
「えー、そんなことないでしょう?」
「うーん、とね。タコの作るご飯は美味しいし、家を建てられるし、強いし、カッコいいし…えっと…うーん…だからね、でたらめなのっ!」
「出鱈目の意味知ってる?」
「うん、すごくすごいってことでしょ?」
「…まぁそういう意味でも良いかなぁ、そうとも言えなくもない気がするけど…」
「…っていうのもあって…って、聞いているのかしら?」


そうした僕らの話を聞いて仲良いですねーでも、途中でちょこちょこ変な言い回しがあったけど…まぁいっか、と言う表情のお姉さんがそろそろ買取所のところに行ったらいいですよというので行ってみることに。


最終的にはそこそこのお金になり、A−07という銃と火薬でできた弾薬と魔蓄弾を購入して狩り人組合を後にするのであった。





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