タコのグルメ日記

百合姫

ただいま

とある策。
もとい「寝たふり」をするための舞台づくりをしよう。
まずは気配を、というか魔力による探知はこの一年半でやまいにもできるようになっているためその魔力を遮断するために僕も気配を断つための魔法陣を地面に書いてそこに立つ。
次に適当な土魔法のための魔法陣を発動し、それっぽい拘束…もとい苔むした土で出来た棺桶のようなものを作り、そこにグリューネをぶち込む。
フタはない。


よし、完成。




「ね、寝たふりなのでしょう?
ちょっとオーバー過ぎるんじゃないかしら?」
「そんなことないと思う。とりあえずこれでいいだろう。できればもっとなんかこう、強大な存在が封印されてる大仰な祭壇を作りたかったけどそれだと物音がすごいし、不自然すぎるし…あとはなんかこう…植物が巻き付いてたらグッドなんだけど。」
「それは私ができるけれど…こんな感じで。」


と言ってグリューネが入った棺桶の中にあった土から植物が生えて生い茂る。
最終的に植物に包まれたグリューネ。


「…うわ。そんなことできたの?」
「これくらいはできるに決まっているでしょう?
そもそも私は植物の王と呼ばれるドリアードなのよ。」
「へぇ。」
「あまり興味なさそうね。」
「そういう設定は別にどうでも。」
「設定って何よ。別に私がそうしているわけではないわ。」
「それは分かってるけどね。
っとやまい。もう目を開けてイイヨ!」




このやり取りの間、おとなしく目を瞑っているやまい。
良い子だと思うのと同時に、なんかふるふる震え始めている。
顔は真っ赤だ。
勘違いしたのがよほど恥ずかしいのかもしれない。
心なしか、というかハッキリと目端に涙が溜まっているのが見て取れる。
…どないしよ。
………そうだな。
意識するのも異性として認識していることに他ならない。
もといあれだ。母親や父親がちゅーをする感覚でしてしまうのが一番…いや。
あの一件以来彼女とはそうした関係ではなくあくまで対等の友達として…となれば不味いのか?
ていうかそもそも僕の気持ちとして、なんか顔が火照るというか恥ずかしくなっているというか、これは僕も意識してしまっている?
いやいや僕はロリコンでは…
とぐだぐだ考えていると、


「むーっむーっむーっ!」


すごく膨れっ面で怒っている様子のやまいがいた。
ちょっと理不尽な気がする。


どうにも言葉にできない怒りのようだが…それも数瞬。
僕の背後の異様なもの、もといグリューネを入れた緑の棺桶を見たのだろう。
目が釘付けである。
そしてグリューネの姿を見て走り寄り、ただただヒシと抱きしめる。


「ようやく…ようやく…助けれるよ、ドード。」


ドード。
グリューネ・ドドリアのドドリアをもじった彼女がグリューネを呼ぶときの呼称。
それを聞くのも久しぶりである。
いや、その名で呼ばれるのが久しぶりであろう。
グリューネにとっては。
グリューネの眠っているはずの顔もどこか笑っている。


ぽろぽろと静かに涙を流しながらウエストポーチから件の薬を取り出す。


「今、今…助けるからね。」


そう言ってやまいが薬を振り掛けるとグリューネの体が一瞬淡く光った後。
眠っているはずのグリューネの顔が引きつっているのが分かった。
が、それも一瞬。


「…?」


やまいは一瞬で気付かなかったようだが、寝たふりがいつばれるか不安でグリューネを注視していた僕には分かった。
様子がおかしい。
そしてつんつんと僕の体をつつく何か。
後ろを見るとどうやら植物だが…何だろうか?これは。
新種の動物か?
それならば是非に狩って…いや、刈って、味見したいものだが…山菜はてんぷらが一番うまい。
てんぷらにしようかと考えているとどうも植物は伝えたいことがあるらしく、人形のような形を取ってジェスチャーをする。
そのジェスチャーと、そしてふと思い出す先ほどのグリューネの言葉と能力。もとい植物を出していたこと。
やまいの手前、言えないことがあるのではないか?
そう思ってジェスチャーを見ると確かに意味はなんとなく察せる。
どうやらやまいを遠ざけてほしいようだ。


「やまい。効果が表れるまで時間がかかるのかもしれない。
たぶん、グリューネのことだからメープルシロップが必要になると思うんだ。
起きてすぐ『お腹空いた、メープルシロップ頂戴』って言い出すかもしれないし、ちょっと一番近い拠点まで取ってきてくれる?」
「タコの転移魔法は使えないの?」
「メープルシロップが入ってる樽に魔法陣を刻み忘れたみたいで今さっきからやってるんだけど、無理だったんだ。お願いできる?
グリューネは僕が見ておくし、グリューネの魔力は徐々に回復してるみたいだからじきに目覚めると思う。」
「…?分かった。とってくる。」
「ありがとう。」


少し怪訝な顔をしていたが若干無理があったか?
なんにせよやまいを遠ざけたところで、グリューネに歩み寄ると、彼女はくわっと目を見開いて言った。


「かゆいっ!」
「え?」
「すっごく体がかゆいのっ!!
なにこれ?
何を使ったの!?」
「…えっと…なんだったかな?
ユグドラシルの爪とか…えっとあとは…やまいが作った薬だから僕はノータッチなんだよね。」
「ユグドラシルっ!?
よく見つけたわね…じゃなくて、今もすごく痒いのだけど。」
「…う~ん。
副作用なのかな?」
「貴方の策はやーちゃんが薬を使って、その後しばらく引っ張ってから起きる。だったわよね?」
「うん、その方がこう…ドラマチックかなと。
何よりもその方が自然だし。いくら強力な薬でも使った直後に目覚めるとかは無いでしょう?」
「無理。」
「え?」
「今すぐにでも全身をかき回したい。
かいてかいてかいてスッキリしたい。」
「いや、それをすると周りの草の配置がさっきとずれるよね?
元通りには…」
「できるわけないじゃない。いくら自分の能力でも細かくコントロールは出来ても同じようには動かせないわよ。そしてかゆい。」
「…ばれないかな?」
「大丈夫。ばれたから。なのでやーちゃん、ごめんなさい。
薬の成分洗い流すために湖にいってくるわね。」
「は?」


グリューネの言葉と視線に背後を向いてみるとそこにはこれまた顔を赤らめてちょっとムッとした表情のやまいがいた。


「どうしてこんなことしたの?」


と。


「えっとこれはね?」
「グリューネと先にあって、私だけ仲間外れ?」


本気のようには思えない、しかし皮肉げな言葉に僕はすこしドモりながらも答える。


「い、いや、そうじゃなくて…」
「…うう。」


そのままボロボロとさっきとはまた違った意味で泣き出すやまい。
感動の再開直後で情緒不安定もあるだろうが、もしや、というか面白半分に再会を延期したのかと思われたのか、それとも単に秘密にされたのが嫌だったのか。


泣かれてしまっては、というか泣かせてしまってはもう謝って謝って平謝りするしかない。


やまいの努力を無駄にしたくなかったという事情は心の内にして。
そんな気遣いは『お節介』だろう。
でも仕方なかったのだ。これだけは…やまいの努力だけは絶対に報われてほしいと思ってしまったのだから。


だって、じゃないと、グリューネと別れてそれから頑張ってきたことが無駄に…


「むだになんてならないもん。」
「…っ。」


もちろん実は声に出していたなんていう間抜けはさらしてない。
ラノベじゃあるまいに。


なんでという思いが顔に出ていたのだろう。
まだぽろぽろと泣き出しながらもやまいは言った。


「もうそれなりにいるし、特にこの森の中ではずっとずっと…ほぼ毎日ずっと一緒にいたんだよ。そんなのすぐにわかるもん。
何よりも…私を一人で行動させても大丈夫だと分かってても、タコがよほどのことでもないのに私だけを森で単独行動させるのはおかしい。だから行ったと見せかけてすぐに戻ってきた。」


と言っていざという時のための気配隠し用の魔法陣が刻まれた石ころも差し出される。
なるほど。これでは僕も気付けない。


「うぐ…」


確かに…大丈夫だと分かっているのだが、それでも万が一を考えるとということで僕は極力やまいと一緒にいてきたのだ。
過保護というか、心配性なのはわかっている。


その僕がここからそう離れていないと言えども、そう簡単に単独行動をさせたのは不味かった。というかやはり先ほどの理由には無理があったのだ。
どう考えても常時の僕であればメープルシロップは後で取りに行けばいいと判断したはずなのだから。


「じゃ、じゃあ…どうして…」


どうして泣いているのか?
聞こうとした。
分かっていたのなら…仲間外れにされたということではないのなら…なぜ?


「ぜんぜん…”友達じゃない”。
なんだかんだ言ってやっぱりタコは私を…」
「…そんなことないよ。」
「っ、!」


これだけはしっかり言える。


「そのね…うまく言えないんだけど…前に行ったよね。
一から関係を作っていこうって。
その始まりが友達だって。
それで…その。
僕は友達はいたことはあっても”親友”は一人もいなかったんだ。」
「しん、ゆう?」
「そう。
親友。
友人よりももっと親しい友達のこと。
この一年半。いろいろあったよね。」
「…うん。」
「クリスタルシティでの出来事以外にも喧嘩、というか仲たがいだってしたし、それ以上に仲良く過ごしてきたし、一緒にお風呂入ったりご飯食べたり…ええっといろいろやっていくうちに、やまいが好きになったんだ。」
「すきに?」
「そう、今までよりもずっとずっと好きになった。
そして好きになると同時に…その…大事に思うようになった。今までよりもずっと。
ちょっとしたことでも心配を覚えるように。
初めて出来た親友を失いたくないがあまりに…つい心配し過ぎて…まぁ今の結果になる。
そのあたりは確かに申し訳ないと思う。友達というよりは保護者と庇護者の関係だ。
いつの間にか昔みたいになっていた。
けどね…今回のは完全にお節介だとは分かっていたよ。
けど…」
「・・・?」


そう、けど。


「そうしたかったんだ。」


ただそれだけ。


やまいの努力が報われてほしかった。
これが保護者的なのか、友愛からくる思いなのかは分からない。
けど。
その思いがたまらなく強くて、たまらなく抑えられなかった。
だからした。
しても…しょうがないと思えるほどの思いだったのだ。
だから。


「…もういいよ。
わかったから。」
「…ごめんね。」
「…タコは私がすきすぎるってことでしょ…それって。」
「…そうなるのかな。」
「だったらいい。」


といってそっぽを向く彼女は可愛かった。
…なんかラブコメみたいなんですけど。


「…湖から戻ってきてみれば、何をピンク色の空気かましちゃってくれてるのかしら?
ほんと死ねばいいのに。」
「…ドードっ!!」


グリューネの言葉を聞いて、顔を見て、弾かれるように抱き着くやまい。


「あら、しばらく見ないうちに大きくなって。
…忌々しさ半分、うれしさ半分、胸も私を超えてるわね。」
「どーど、どーどっ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「何を謝っているの?」
「だって、私のせいで…もりはみとかいうのをして…死にそうな目にあったんでしょっ!?」
「…このでたらめ生物に何を吹きこまれたのか知らないけれど…」


と言ってグリューネは僕を見た。
別に僕が吹き込んだんじゃなくて僕と相対した奴から聞き出した情報だったり、やまい自身で調べたことだろう。
心外である。


「安心しなさい。
それは違うの。やまいを逃がすためではないわ。森を救うために…」
「でも私は森食みに飲まれてない。
異物は…侵入した生物は誰もが死ぬんでしょ?」
「…むっ。」
「それに冒険者カードにあるもん。ほら…」


と言って彼女が見せたカードには


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名前 やまい
種族 竜人
レベル 176
魔力量 430000


加護 邪竜の加護
    ドリア―ドの眷属


スキル 竜の爪 竜のアギト 竜玉 盾剣術 魔法薬学・特1級


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とあった。
加護の部分を見てもらえれば分かるが…ドリアードの眷属。


これはグリューネの加護だ。


「学校の本で見た。
迷宮の主の加護を持つ人間だけは巻き込まれないって。
実際、私は無事に出れた。
それに森はまだ大丈夫だった。」


まぁわざわざつける必要はないよね。


「…そ、そんなこともあったかしらね?
四年以上も前の話だから分からないけれど。」
「にやにや。」
「口に出して言うのはどの口かしら?」
「ふっ、口を引っ張っているところ悪いけれど、もともとタコに発声器官は無い。
風魔法で出しているので黙らせることは無理だぜ!」
「…忌々しいびっくり生物め。」


はぁとため息を吐いて僕の口から手を放すグリューネ。
なんか納得いかないけどそれはひとまずおいておこう。
それよりも今はもっと話すべきことがあるはずだ。


「…そうね、とりあえずは…おかえりなさい。
タコ、やーちゃん。」


「「ただいま。」」




こうして僕たちは昔と同じように一緒になれたのだから。



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