タコのグルメ日記

百合姫

地味な魔法ほど強い(確信)

「さて、作戦会議はそれくらいにしてもらおうかな。」


とつぶやく僕。
我ながら悪役っぽいセリフだな、と思いつつ。


「もちっと時間をくれるとうれしんだがね。」
「それは却下。ただ・・・一つ聞きたいんだけど、とてつもなく広い森の中、僕のいるこの場所にピンポイントにいるっていうのは何か理由がある?
たとえば・・・そっちの彼がそういうのをわかる魔法を使えるとか。」


一番気になるのはそこである。
もしもわかる技術が普及しているというのなら、グリューネの復活を急がなくてはならない。
なんか知らんが誰かがグリューネの命を狙っているようだし。


「言うと思ってるのか?」
「思わないね。ただ言ってくれれば命だけは助けてあげてもいいかな、と。」


ますます悪役っぽいセリフだなと苦笑しながら彼らに言うと、彼らの答えは否であるようだ。


「その上から目線は気にくわねぇな。
俺たちは魔獣狩りのプロだ。
その俺たちがお前ごときに負けると思ってるのか?」
「・・・矮小な人間が魔獣に勝てないというのは自明の理だろう?
見下しているとか、見下していないだとか、そういう問題ではなく、生物学的な問題さ。
人間は個々の戦闘力ではなく、群れる生き物であり、知能が高い生き物なのだからそういった方面でー」
「御託はいいっ!!」


ジャックとやらがツッコんでくる。
せっかくの話し合いを無下にしてくれちゃって。


一度は不意を打たれたが、そうそう何度も近づかせるわけがない。
手元の石ころに魔力を込める。
まずは、


「ファイアランス。」


僕の背後から出現した10を超す炎の槍。
それがジャックに襲い掛かる。
が、当然そんな直線的な攻撃が当たるはずもなく。
避けられる、と思いきやジャックの体がバランスを崩す。


もう一つの石ころ魔法。もといエアカッターである。
何かの防護魔法を使ってるのか切り刻むことはできなかったが、体勢を崩すことには成功。
ファイアランスは直撃すると思いきや、またもや炎の壁で防がれる。
そして爆炎。
それらが晴れるころにはジャックは視界から消えており、僕の背後に回っていた。
探知タコレーダーがあるから良いものの、このいきなり背後に現れる技術はなんだろうか?


剣には高密度の魔力。
その程度では僕の体はぶった切れないと思いつつも一応ガードした左腕が斬り飛ばされた。
が、ガードしててよかった。


「むっ。」
「はぁああああっ!!」
「やっ!!」
「ちっ!?」


追い打ちが掛かるころ、やまいがくろもやさんによるおなじみ、竜の爪でもってジャックに切りかかるが、ジャックはそれをかわしてまたもや距離を取る。


「タコッ!?
大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。それは知ってるでしょ?」


内心めちゃくちゃ焦ったけど。
こいつら、僕の体をこうも簡単に切り裂くとは。


「知ってるけど・・・でも、心配するよ。」
「ごめんね。」


今までにも森の中で様々な動物に斬り飛ばされたことがある。
結局のところ、素の防御力ばかりに頼るなってことなのかもしれない。
数週間で、また生えてくるし、痛みに対する耐性が強い、というよりは鈍いのでそこまでではないのだが余計なカロリーやら栄養価やらを消費するので勘弁願いたいところ。


あとで僕の腕は刺身か、茹蛸にして食べるとして、ジャックたちの方へと視線を向ける。
やまいに心配をかけるのと、森の動物たちを巻き込んでしまうことを天秤にかけて、もちっと威力の高い遠距離魔法を使うことにする。
もとい手加減はやめた。


「一応、言っておく。
投降する意思はないかい?」
「あるわけがはっ!?」
「そう。」
「兄貴っ!?」
「なんだ・・・これ・・・」


地面から隆起した苔むした手がジャックをつかんで離さない。
手元の石ころがボロボロと崩れた。
ううむ、魔力を込めすぎたか。一度でダメになってしまった。
でも、これくらい込めないとすぐ逃げ出しちゃいそうなので。


「んでもって、もういっちょファイアランス。」


ファイアランス用の石ころは二回目で粉になって手からさらさらと滑り落ちていく。
そこで弟君、ティムの魔法が発動。
いちいち張り合わずに僕を直接攻撃するべく、風の魔法で僕の体を狙い打ってくる。
視認しづらい風の魔法は彼らのような仕事をする人間にとって常套手段。


時折、回避する動物もいることはいるがその察知は難しい。
だが僕には通じない。
視認できるとか、探知タコレーダーで魔力の動きが分かるとかではなく、ただ単に。


「なっ!?」


”文字通り”通じない。
僕の体には風の魔法が効かないのだ。
たとえば僕が魔獣であるがゆえに風の魔法、もといエアスラッシュだけならば魔方陣などなくても魔法が撃てる。
風を操る魔獣だから通じない、というわけではない。


普通に。
僕の防御力に弾かれて消えるのだ。


「・・・ど、どんな防御術を・・・つ、使ってないはずだっ!!」
「手の内を明かす敵はいないよ。」


僕の体に当たって霧散する風の刃。
中級魔術であるエアブラスト。
対象に風の刃による連撃を加える魔法だ。
しかし、効かない。


この世界の魔法は”意外と”リアル指向である。
炎はよほど魔力を込めないと対象を燃やすことはできない。特に人間のような水分の塊はそうだ。皮膚を溶かすことはできても、炭にすることはできない。
水はよほど魔力を込めないと特に意味をなさない。攻撃魔術としてのものはほとんどないほどであり、僕が使ったウォーターカッターなどは自分で生み出した魔法である。
旅路には水分補給に便利だね、という程度だ。人によってはそれだけでだいぶ違うのだが。
風は質量をもたない。ゆえに火力が低く、これまたよほど魔力を込めないと肉を断つことすら難しい。
だがしかし、逆に土は強い。質量をもち、それをただ高速で撃ち出すだけで重い物体に運動エネルギーが加わって、少ない魔力でも効果を発揮しやすい。


というのはさてはて、あくまで傾向の話であって、これ通りにならないように魔方陣という増幅装置のようなものが存在するのだがそこは余談であり割愛。
重ねていうがそういう傾向があるというだけなのだ。




何が言いたいかといえば、風魔法は確かに視認しづらいけど威力が低く、防御力の高い敵には不向きだよということを言いたい。
僕のガチムチボディをどうにかしたかったら、上級以上を持ってきてね!ということになる。


ティムが驚いているのは防御魔術を張っているように見えず、ただの可憐な美少女にしか見えない僕が微動だにせずに中級魔術を無効化した。


という本来ならばありえない状況に驚いていると推察できる。


手の内を明かす必要が無いとか言っていても実際はこんなもん。
ただの体の構造の違いである。ティムの頭の中ではどうやったらそんなことができるのかを一生懸命、思考しているに違いない。まったくもって無意味なことなのだけど。てへぺろ。


なんて話をするはずもなく、しても信じられるわけもなく。
とりあえず射出せずに滞空させたままのファイアランスと、さらに付け加えてガイアパゥワーの魔方陣が刻まられた石ころに魔力を込める。
ガイアパゥワーとか大仰な名前がついているのが、実際はただの石つぶてをたくさん飛ばす魔術である。
しかし驚くなかれ。
魔力を込めまくるとそれぞれの石つぶてが魔力でコーティングされ、亜音速で射出される。
それが生む運動エネルギーは下手な対物狙撃銃(コンクリ越しの人間を真っ二つにできる威力があるとかないとか)をしのぐ。
それぞれの大きさが一個ボウリング大で、それが亜音速である。
その衝撃力たるや想像を絶するに違いない。


ゆえに全力で使ったことはない。
戦車の砲弾並みの威力は発揮すると予想しているが、そんなのを連射するような機会に巡り合えてないからである。
いや、巡り合いたくないね、普通に考えて。


ちなみにこれは僕が本気で魔力を込めたらの話であって、普通は高速レベル。
避けることのできる人間はおそらく勇者くらいなんじゃないだろうか?


なんて話はさておき。


それがずらりと100発ほど。
今回は威力よりも量を取ってみた。
この時点でティムは絶望に打ちひしがれた表情をしている。


ファイアランスとて普通の人が使うものよりも、二回りは大きいのだ。


さらにまだ終わらない。
今度は複数の水球が僕の周りに出現する。これはさきほど僕の手のひらから出た物と一緒だ。
媒介となった石ころはまたもや粉々になったが、当然である。
この魔法。見た目はそうでもないが、実はすごくエゲつない魔法だ。
すごい魔力量が必須となる超必殺級の魔法。その名も『超圧縮魔弾』。あえて中二っぽい命名にしてみた。それだけ強力なのである。


まずこの水球にかかってる水圧はどれくらいかというとおそらくは600.0MPa(1㎠に6000kgの重さが掛かっている)。
これは魔方陣の設定上の予想値であり、実際に計測したことはない。
が、この水球に触れたものは凄い勢いで吸い込まれ、すぐさま塵並とまではいかずとも超圧縮されて中心部に固定されてしまう。


ちょっと触れるだけでありとあらゆる物が超圧縮されるこの水球は最初のころは使い物にならなかった。
だって、マジ怖かった。
すごく怖かった。
触れた瞬間、吸い込まれるのである。そしてすさまじい水圧によってぺしゃんこである。
超こわい。
ちなみに、地球において一番深いとされるマリアナ海溝の水圧だって約1000、ウォーターカッターがその三倍。この水球はそのさらに二倍である。


・・・怖い。
なんて恐ろしい魔法を作ってしまったんだと思い、ふと『髪の毛やら服装の一部が機械に巻き込まれて死亡する』なんていう事故が地球でもあったことを思い出した。
あまりにも恐ろしかった僕はせめて安全装置として僕とやまいの魔力をまとったものが触れた場合は即、圧縮をやめるという機能を付けた。
これで万事OKとなったのがこの魔法である。


いや、もちろんこれを日本の物理学を専攻してる教授たちが見たらおったまげるだろう。
水圧が強くなるというのは『その上にそれだけの水がのしかかっている』から、それだけの水がその水球に入り込んでるの?とか、安全装置とかいったけどいきなり圧縮効果が消えたら爆発するんじゃね?とか、水圧をかけるにしたってどうやってるのとか、中心にブラックホールやら万有引力やらがあんのかよ?とか、もろもろ気になると思う。
僕だって気になったさ。
素人の僕ですらそれだけの変な部分があった。
もっと大量の矛盾点があるだろうよ。
しかし、それすべてこの一言で片付く。


『魔力で出来た疑似事象だから』ということで。


さっきも言ったように”意外と”リアル指向なだけで、別に特別、現実に即しているわけではないのだから。


んでこれだけ用意したらもう充分である。


「さて、ティムとやら。
君たちが今まで狩ってきた魔獣と僕を一緒くたにするのもそろそろ止めた方がいい。
言っただろう?
僕は森の主だと。」
「ひぃぃっ・・・」


ひきつったような声を出しながらも必死で防御魔法を張ろうとするティム君。
逃げてしまえばいいだろうに、彼は兄を見捨てられず、かといって勝とうとすることもできず。
ただただ脅え震えながら彼は炎の防御壁を張った。


それに対して僕は・・・掃射した。



















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