タコのグルメ日記
いざ森へ
『どうかの?』
「うわぁ。」
「・・・すごい景色だな。」
あれから数時間後。
僕たちはというと空を飛んでいた。
正確にはフィンケル本体の背に乗って空を飛んでいたのだった。
こうなった経緯は簡単である。
☆ ☆ ☆
「ところで結局、あなたたちはなんなの?」
「ん?
ああ、確かに気になるかな?
簡単に言うとやまいの病気を治すために、彼女の力を借りに来たんだ。」
リッカちゃんは僕たちに疑問をぶつける。
もっともとなことをようやく聞いてくれた。
「病気?」
「そう、それを治せる人は今までいないと思ってたんだけど・・・フィンケルが・・・正確には彼女の知り合いが治せると言うからその人に会うつもりでここにいたんだ。」
「・・・ふぅん。
で、その人はどこにいるの?」
どうでもいいけどこの子、状況を受け入れるの早いな。
となりでフィンケルはやまいに向けて変なきのこ料理をふるまっている。
僕もいただくつもりだが、まずはこっちの疑問に答えておくとしよう。
「それがね、実際にはこれなかったらしくて、薬だけもらったってところ。」
「・・・治ったの?」
「分からない。たぶん、治ってない、と思うんだけど・・・」
「どういう病気なのかしら?
私に治せるかもしれないわよ。なんたって私は史上最高峰の治癒術師ですからね!」
確かに回復魔法を極めた上で初めて使えると呼ばれる魔法、『メガ・メガ・メガ』を使っていた彼女の力量はすさまじいものがあるのだろう。
だが。
「・・・君は・・・僕たちに対して警戒心はないの?
魔獣と一緒にいて、しかもさっき自分で魔獣の仲間なんかにうんぬんって言ってたでしょ?」
「それとこれとは別でしょ?
人が困っていたら助ける。
当然のことじゃないの?」
と、こいつ何言ってんだ?みたいな顔で見てくるリッカちゃん。
こ、この子マジか。
漫画なんかでちょいちょい見かける聖人タイプの人間が現実でいるとは、信じがたい。
まぁ仮に彼女が本気でそう言っていたとしても、やまいの病気はちょっと違う。
あくまでも病気とはたとえのようなものだ。
「・・・呪いなんだよ。」
「呪い?
別にそっち方面でも大丈夫よ?」
「邪竜の加護って聞いたことある?」
「え?あ、あの?
あの邪竜の加護?
・・・ほ、本当?」
どうやら知っているらしい。
さすが勇者についてきた回復職だけはある。
「本当だ。」
「・・・申し訳ないけど、私の手には負えないわ。」
と悲しそうに同情したまなざしをやまいに向けるリッカちゃん。
ま、無理か。
期待はしてなかった。
ん?
同情したまなざし?
「ど、どうしたの?」
急にぐりんとリッカちゃんの方向を見た僕にビビるリッカちゃん。
同情?
おかしい。
これはおかしい。
おかしすぎる。
同情?
ばかな。
やまいは確かにしっかりと”くろもやさんを使ったはず”である。
そう、使ったはずなのだ。
使った場合は忌避フェロモンが一気に噴き出す。
その忌避フェロモンは付近の人間すべてに不快感を、正確にはやまいに対する嫌悪感を煽るはず。
煽るはずなのに同情?
よくよく記憶を思い起こしてみると彼女たちは確か何種類かの防護魔法を使っていた。
やまいの忌避フェロモンが防護系の魔法で遮断されるのはすでに知っていた。
が、これはおかしい。
確かにやまいのくろもやさん発動と防護魔法が重なっていたタイミングもあったが、勇者パーティたちが最終奥義的なのを使うときは防護系は一切張られていなかった、というか張る余裕がなかったため、解けていたように思える。
巻き込まれるかと思ったその時に僕は触腕を展開し、やまいは・・・
「やまい、」
「ん?」
きのこの炭火焼き、ならぬ水晶焼きらしきものを食べているやまいがこちらを向く。
それは後で僕もいただくとして、やまいにはくろもやさんを使ってもらうように頼む。
リッカちゃんのほうを一瞥するも、彼女に嫌われてもどうでもいいと判断したのだろう。
特に気にせずやまいはくろもやさんを体にまとう。
「どう?」
「どうって何が?」
とリッカちゃん。
それを見てやまいは僕の考えていることを察したのだろう。
やまいも、ついでにフィンケルもリッカちゃんを凝視する。
「な、なんだっていうのよ?」
「フィンケル、彼女は・・・」
『いや、ありえぬ。
本来ならばおぬしとて嫌っているはずだが・・・そういった例外がそうそう何体もいるはずもなし・・・おそらくじゃが・・・邪竜の加護のデメリットだけが消えておる。・・・いったいどうして・・・』
そのまま考え込むフィンケルだが、確かにそうだ。
グリューネはだいぶ前に言っていた。
”竜であろうと嫌うだろう”みたいなことを。
フィンケルが嫌わないのは迷宮の主だからという理由だ。
なぜ主だから嫌われないのかは知らないし、その辺のメカニズムはあまり気にする必要はない。
とにかく大丈夫なのには多少なりとも理由がある。
となれば。
となればだ。
もしかしてやまいは・・・いや、もしかしたらぬか喜びかもしれない。
たまたまリッカちゃんがそうであったという可能性も無きにしも非ず。
僕という例があるのだから。
もうしばらく様子を見ることにしよう。
やまいもそう判断したのか、すぐに普段通りの態度に戻った。
その後、四人で雑談しているうちに、僕たちのもう一つの目的を話すことになったのだ。
ついでにダメもとで力を貸してくれないかと打診してみたところ。
『主のいる迷宮に別の主は入れない。
正確には長時間入っているとお互いの・・・』
などとまた何やらの法則を語りだしたため、割愛してまとめると、一つの迷宮内に長時間複数の主がいるとお互いに存在が混ざり合うとかかんとか。
その結論だけわかっていればいいと判断。
その混ざり合う現象がいつ起こるのかフィンケルにはわからないため、力は貸せないと言われた。が、グリューネの住まう森まで空を飛んで連れてってくれるという。
これが冒頭へとつながるのであった。
☆ ☆ ☆
『そろそろだろうの。
おぬしたちの体をめぐる加護の残り香はこのあたり・・・ほう・・・これは大層な迷宮を作ったものだ。』
フィンケルに乗せられてしばらく。
目の前に広がった光景はまさに圧巻であった。
かなりの高度から見るからこそ分かる。
ずっと遠くまで広がる森、森、森、森。
ここから先はすべて森におおわれているのではないかと思えるほどの大森林が広がっていたのだ。
昔は湖がせいぜいだったのにさらにそこから川が流れ、おそらくは海につながっているのかもしれない。
「・・・うわぁ。」
僕はげんなりした。
結局のところ僕とやまいはグリューネに元気を出してもらうための薬、”ユグドラシルの涙”をひたすら撒くことを考えていた。
使用法は簡単。
濃縮還元したユグドラシルの涙の原液を僕が水魔法で薄め、それを森にミスト状にして散布する。
ただこれだけである。
これによって迷宮全体に力が湧きあがり、その主たるグリューネも華麗なる復活を遂げるのではないかという予想である。
そのための水魔法を開発していたのだが・・・これはちょっとさすがに広すぎる。
『もともとお主たちはどうしようとしていたのだ?』
森の上を飛びながら訪ねてくるフィンケル。
考えていたことをそのまま伝えると、フィンケルは狙いは悪くない。しかし、と続けて言葉を紡ぐ。
『若い主がやりやすいミスなのだがの。
迷宮が広すぎる。
維持に力を持っていかれて、自身の体を構成できなくなった・・・といったところかのう。』
「何か解決法はある?」
『ふむ。
一応最悪のケースも考えていたのだが、これならば簡単なことじゃ。
迷宮を縮小してやればよい。』
つまり・・・自然破壊をしろと?
『そうなる。』
わお。
こいつは過激だぜ。
だが、それならば簡単だ。
『私も手伝えるからの。
ついでと言ってはなんだが、おぬしたちには本当のドラゴンブレスを見せてやろう。』
もちろん僕も黙って見ちゃいない。
もう少しでグリューネに、この世界で初めてできた友人に再開できるのだ。
そのための力を練りこむ。
焼き払うのが一番、ということでおなじみ炎系最上級魔法、シュステーマ・ソラーレを全力で使うことにする。
こうして僕たちの森林解体作業は始まったのであった。
「うわぁ。」
「・・・すごい景色だな。」
あれから数時間後。
僕たちはというと空を飛んでいた。
正確にはフィンケル本体の背に乗って空を飛んでいたのだった。
こうなった経緯は簡単である。
☆ ☆ ☆
「ところで結局、あなたたちはなんなの?」
「ん?
ああ、確かに気になるかな?
簡単に言うとやまいの病気を治すために、彼女の力を借りに来たんだ。」
リッカちゃんは僕たちに疑問をぶつける。
もっともとなことをようやく聞いてくれた。
「病気?」
「そう、それを治せる人は今までいないと思ってたんだけど・・・フィンケルが・・・正確には彼女の知り合いが治せると言うからその人に会うつもりでここにいたんだ。」
「・・・ふぅん。
で、その人はどこにいるの?」
どうでもいいけどこの子、状況を受け入れるの早いな。
となりでフィンケルはやまいに向けて変なきのこ料理をふるまっている。
僕もいただくつもりだが、まずはこっちの疑問に答えておくとしよう。
「それがね、実際にはこれなかったらしくて、薬だけもらったってところ。」
「・・・治ったの?」
「分からない。たぶん、治ってない、と思うんだけど・・・」
「どういう病気なのかしら?
私に治せるかもしれないわよ。なんたって私は史上最高峰の治癒術師ですからね!」
確かに回復魔法を極めた上で初めて使えると呼ばれる魔法、『メガ・メガ・メガ』を使っていた彼女の力量はすさまじいものがあるのだろう。
だが。
「・・・君は・・・僕たちに対して警戒心はないの?
魔獣と一緒にいて、しかもさっき自分で魔獣の仲間なんかにうんぬんって言ってたでしょ?」
「それとこれとは別でしょ?
人が困っていたら助ける。
当然のことじゃないの?」
と、こいつ何言ってんだ?みたいな顔で見てくるリッカちゃん。
こ、この子マジか。
漫画なんかでちょいちょい見かける聖人タイプの人間が現実でいるとは、信じがたい。
まぁ仮に彼女が本気でそう言っていたとしても、やまいの病気はちょっと違う。
あくまでも病気とはたとえのようなものだ。
「・・・呪いなんだよ。」
「呪い?
別にそっち方面でも大丈夫よ?」
「邪竜の加護って聞いたことある?」
「え?あ、あの?
あの邪竜の加護?
・・・ほ、本当?」
どうやら知っているらしい。
さすが勇者についてきた回復職だけはある。
「本当だ。」
「・・・申し訳ないけど、私の手には負えないわ。」
と悲しそうに同情したまなざしをやまいに向けるリッカちゃん。
ま、無理か。
期待はしてなかった。
ん?
同情したまなざし?
「ど、どうしたの?」
急にぐりんとリッカちゃんの方向を見た僕にビビるリッカちゃん。
同情?
おかしい。
これはおかしい。
おかしすぎる。
同情?
ばかな。
やまいは確かにしっかりと”くろもやさんを使ったはず”である。
そう、使ったはずなのだ。
使った場合は忌避フェロモンが一気に噴き出す。
その忌避フェロモンは付近の人間すべてに不快感を、正確にはやまいに対する嫌悪感を煽るはず。
煽るはずなのに同情?
よくよく記憶を思い起こしてみると彼女たちは確か何種類かの防護魔法を使っていた。
やまいの忌避フェロモンが防護系の魔法で遮断されるのはすでに知っていた。
が、これはおかしい。
確かにやまいのくろもやさん発動と防護魔法が重なっていたタイミングもあったが、勇者パーティたちが最終奥義的なのを使うときは防護系は一切張られていなかった、というか張る余裕がなかったため、解けていたように思える。
巻き込まれるかと思ったその時に僕は触腕を展開し、やまいは・・・
「やまい、」
「ん?」
きのこの炭火焼き、ならぬ水晶焼きらしきものを食べているやまいがこちらを向く。
それは後で僕もいただくとして、やまいにはくろもやさんを使ってもらうように頼む。
リッカちゃんのほうを一瞥するも、彼女に嫌われてもどうでもいいと判断したのだろう。
特に気にせずやまいはくろもやさんを体にまとう。
「どう?」
「どうって何が?」
とリッカちゃん。
それを見てやまいは僕の考えていることを察したのだろう。
やまいも、ついでにフィンケルもリッカちゃんを凝視する。
「な、なんだっていうのよ?」
「フィンケル、彼女は・・・」
『いや、ありえぬ。
本来ならばおぬしとて嫌っているはずだが・・・そういった例外がそうそう何体もいるはずもなし・・・おそらくじゃが・・・邪竜の加護のデメリットだけが消えておる。・・・いったいどうして・・・』
そのまま考え込むフィンケルだが、確かにそうだ。
グリューネはだいぶ前に言っていた。
”竜であろうと嫌うだろう”みたいなことを。
フィンケルが嫌わないのは迷宮の主だからという理由だ。
なぜ主だから嫌われないのかは知らないし、その辺のメカニズムはあまり気にする必要はない。
とにかく大丈夫なのには多少なりとも理由がある。
となれば。
となればだ。
もしかしてやまいは・・・いや、もしかしたらぬか喜びかもしれない。
たまたまリッカちゃんがそうであったという可能性も無きにしも非ず。
僕という例があるのだから。
もうしばらく様子を見ることにしよう。
やまいもそう判断したのか、すぐに普段通りの態度に戻った。
その後、四人で雑談しているうちに、僕たちのもう一つの目的を話すことになったのだ。
ついでにダメもとで力を貸してくれないかと打診してみたところ。
『主のいる迷宮に別の主は入れない。
正確には長時間入っているとお互いの・・・』
などとまた何やらの法則を語りだしたため、割愛してまとめると、一つの迷宮内に長時間複数の主がいるとお互いに存在が混ざり合うとかかんとか。
その結論だけわかっていればいいと判断。
その混ざり合う現象がいつ起こるのかフィンケルにはわからないため、力は貸せないと言われた。が、グリューネの住まう森まで空を飛んで連れてってくれるという。
これが冒頭へとつながるのであった。
☆ ☆ ☆
『そろそろだろうの。
おぬしたちの体をめぐる加護の残り香はこのあたり・・・ほう・・・これは大層な迷宮を作ったものだ。』
フィンケルに乗せられてしばらく。
目の前に広がった光景はまさに圧巻であった。
かなりの高度から見るからこそ分かる。
ずっと遠くまで広がる森、森、森、森。
ここから先はすべて森におおわれているのではないかと思えるほどの大森林が広がっていたのだ。
昔は湖がせいぜいだったのにさらにそこから川が流れ、おそらくは海につながっているのかもしれない。
「・・・うわぁ。」
僕はげんなりした。
結局のところ僕とやまいはグリューネに元気を出してもらうための薬、”ユグドラシルの涙”をひたすら撒くことを考えていた。
使用法は簡単。
濃縮還元したユグドラシルの涙の原液を僕が水魔法で薄め、それを森にミスト状にして散布する。
ただこれだけである。
これによって迷宮全体に力が湧きあがり、その主たるグリューネも華麗なる復活を遂げるのではないかという予想である。
そのための水魔法を開発していたのだが・・・これはちょっとさすがに広すぎる。
『もともとお主たちはどうしようとしていたのだ?』
森の上を飛びながら訪ねてくるフィンケル。
考えていたことをそのまま伝えると、フィンケルは狙いは悪くない。しかし、と続けて言葉を紡ぐ。
『若い主がやりやすいミスなのだがの。
迷宮が広すぎる。
維持に力を持っていかれて、自身の体を構成できなくなった・・・といったところかのう。』
「何か解決法はある?」
『ふむ。
一応最悪のケースも考えていたのだが、これならば簡単なことじゃ。
迷宮を縮小してやればよい。』
つまり・・・自然破壊をしろと?
『そうなる。』
わお。
こいつは過激だぜ。
だが、それならば簡単だ。
『私も手伝えるからの。
ついでと言ってはなんだが、おぬしたちには本当のドラゴンブレスを見せてやろう。』
もちろん僕も黙って見ちゃいない。
もう少しでグリューネに、この世界で初めてできた友人に再開できるのだ。
そのための力を練りこむ。
焼き払うのが一番、ということでおなじみ炎系最上級魔法、シュステーマ・ソラーレを全力で使うことにする。
こうして僕たちの森林解体作業は始まったのであった。
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