タコのグルメ日記

百合姫

勇者と竜の茶番劇

さて、ここはどういう行動をするべきだろうか?
一応、この姿で街を歩いている僕としてはフィンケルに味方すると後々街に帰りづらくなるし、かといって一緒にフィンケルを倒そうなんて気にはならない。


にじみ出る魔力こそ少ないが、僕のタコ探知で軽く表層を探るだけでもかなり膨大な魔力を持つフィンケルに全く魔力を持たない死体の操り人形たるフィンケル(死体)。
どちらにしても異様であり、少なくともある程度大きい魔獣ともなれば探知ができるようになるので、この二体に対して襲い掛かる奴はいない。いや、そもそも近づきすらしないだろう。
だろうが、どうも彼らはそのことに気付けてない、いや正確にフィンケルの力量をわかってないと言ったほうが正しいかもしれない。


一応、竜の見た目ではあるのだからして竜としての強さを理解している、はずなのだが。


「いくぞっみんなっ!
リッカは補助魔法を、アティは攻撃魔法をっ!」


バリバリ戦う気なのか、がっつり戦闘態勢なんだよね。


確か勇者だろうと竜には勝てないとかフィンケルが言っていた気がするのだが、そこのとこどうなのだろう?
勇者とか言われるくらいだし、さぞかし強いはず。
とりあえず静観することにした。
幸いセンシさんとやらが守ってくれているところを見ると、僕たちは何かの事情で迷い込んだ非戦闘員、もしくはこのダンジョンに入ってきた冒険者だと思われているのだろう。


「近づくな。あいつらにまかせておけば問題ない。
それよりも今度からは人の姿をしていようと得体のしれない人に近づくんじゃないぞ。」


というセンシさん。
せっかくの忠告痛み入る。と言いたいところなのだが、なんだろうか。
こいつら全体的にアホなのか。
常識的に考えてほしい。
どう考えても裸体の女と一緒にお茶するわけがない。
ダンジョンで裸体の女がお茶会に誘ってくる。
・・・怪しさ満点すぎる。


少なくともなにがしかの事情があると考えて、まずは話をするべきだと思うのだが・・・こいつら竜の姿を見た途端戦闘態勢である。
まぁ魔獣の王様みたいなもんだし、この世界において魔獣はゴキブリ的(見たら即殺しなくてはいけない)な存在だし、やむをえないというべきか。


そもそも何を持って僕たちを人間であると判断したのか・・・というか竜の姿がそこにあるわけで、そこにいる以上、普通の人間だったらお茶会なんぞしとらんだろう。
常識的な思考で考えるならば僕たちもお仲間、とするほうが自然である。
そもそもふつう、知らない人を見たら警戒しないか?
こうも簡単に人を救おうとするなんて、よっぽどの・・・そうか。
彼らはお人よしなんだな。
困っている人を見かけたら助ける。
美徳とされることではあるが実際に実行するにはなかなかどうして難しいこと、それを自然とできる彼は確かに勇者なのかもしれない。


なんて納得は余所に置き。


不思議そうな顔で見ていると近くにリッカと呼ばれた僧侶がやってくる。
カイトと呼ばれた勇者を殴り飛ばした子でもある。
補助魔法らしきものを勇者とアティと呼ばれた魔法使いに使ったあとはこの辺まで下がってくるようだ。


見た目はショートヘアのかわいらしい、少女というべき年ごろの子。
彼女は言う。


「あなた達も高位魔獣退治?」


とやまいを見て言う。
少し心配げに見ているようで、彼女もお人よしのようだ。


「挑んでみたはいいけど、全く歯が立たなくなって殺されそうなところを気まぐれに話し相手にされたってところかしら?
竜は気まぐれともいうから、機嫌を損ねないように竜の戯れに付き合った結果・・・あんな状況になったのね!」


とドヤ顔で言っているところ申し訳ないのだけど、はずれです。


竜退治なんていうデメリットしかない命がけ行為を行うほど僕は蛮勇に富んでいないし、殺されそうになったわけでもない。
戯れに付き合った結果というのは合ってる。が、お茶を飲めたのでどちらかというと満足している。


誤解させたまま、適当に切り抜けて街に戻る際にとんずらするという狡い手段が思いついたのだが、その割にはちといい人過ぎて心苦しさがある。
かといって魔獣と仲良くおしゃべりしてたんです、なんていうのはかなりの異端行為である。
意外と大丈夫かもしれないが、大丈夫じゃないかもしれない。
僕だけなら大丈夫でもやまいだっているのだから、彼らに襲われる可能性は摘むべき。
かといって万が一にでもフィンケルが討伐されるとようやく見つけたやまいの加護の問題を解決できなくなってしまう。


優先順位は当然、邪竜の加護をどうにかすることだが、彼らが敵対しやまいが殺されてしまっては元も子もない。
全国を顔パスできるほどの功績を持つそんざいである勇者の手の内が全く分からない以上、慎重にいくべきだ。


うーんといろいろと考えていると、勇者たちの戦いが始まったようだ。


「うおっぉおおおおおおおっ!」


気合の一声とともに戦いに挑む勇者。


火が舞い、土が隆起し、風が起こり、水が噴き出す。
光が埋め尽くし、闇が食らいつくす。
勇者たちはさまざまな魔法や体術を駆使して、死体っ娘は戦闘不能にする。
そのまま本体である竜のフィンケルを追い詰めていく。
しかし。


「・・・何を考えているんだ?」


とついぼやくほどにフィンケルは手加減・・・をしていた。
彼女はあくまでも竜であり魔獣であり、野生動物には変わりがない。
人間に匹敵するほどの知性ある生物であるが、かといって人間社会で生きているわけではない彼女は彼らをわざわざ生かそうとする理由はないのだ。
だからこそ勇者がここに来る原因となった男たち皆殺し事件だって、彼女はなんら罪悪感なく人を殺した。
それはそうである。
彼女は竜であり、人間ではない。
人間の倫理観など持ちえるはずがないし、持つ必要もないのだから。
ゆえに彼らは鎧袖一触にする。と思ったのだ。
そしたらなんだかんだでいい人たちらしいし、一応止めるだけは止めるつもりだった。
が、結果はこれである。




理由がわからないのだが、フィンケルはめちゃくちゃ手を抜いていたのだ。
事実、時折得体のしれない笑みを浮かべていた。


何かのたくらみを持っていることは確かなのだが、何をたくらんでいるのかが分からない。


『ごはっ・・・ゆ、勇者よ。
まさかこれほどのものとは思わなかった。
だが・・・ワシの力はこの程度ではないっ!』
「負け惜しみを・・・」
『負け惜しみかどうかは貴様らの目で確かめるがよいわぁっ!!』


一人称がワシに代わっているし。口調もびみょーに違う。
その典型的な悪役台詞はなんだというのか。
ちょいちょいこちらをおちょくってきた彼女の性格的になんとなく理由は察せるのだが。
これも戯れ、そうなのだろう。


フィンケルの身から物理的な衝撃を伴うほどの魔力が噴き出した。
吹き飛んできた水晶の木々を手で跳ね除け、後ろにいるやまいにあたりそうな木々はおなじみエアスラッシュではじく。


「どうするの?」
「うーん、まぁ今は見ておこう。
なんかフィンケルも本気を出すつもりはないみたいだし。」


やまいがどうするかを聞いてくる。
やまいも同じようなことを考えていたのだろう。


「っなっ!?」


すさまじい魔力に勇者パーティが驚く。
だが。さすが勇者パーティ。
まだまだ手札は残っていた。
あきらめるのはまだ早いとばかりにアティと呼ばれた魔法使いが最上級魔法を発動する。


「ですが、これを食らわせればっ!!
シュステーマ・ソラーレッッ!!」


大きな炎の塊が出現し、その周りに小さい球形の炎が複数個、回転してまとわりつく。
太陽系の縮図のような魔法。
いつぞやにプリンセス学園で僕が暴発させかけた魔法である。が、僕が軽く魔力を込めた時と比べて倍はあり、十分ここら一帯を吹き飛ばせる。
避難しようと思ったところで僕たちを含めてリッカとやらが魔法の一種、『水の加護』をかけた。
なるほど。
これで自爆を防ぐのか。


すさまじい爆音とともに、空まで昇る火柱が発生。
そのまま地面をえぐりつつ中心部から爆風が発生する。
周りの水晶木はすべて溶け吹き飛び、小さな動植物も文字通り根こそぎ吹き飛んだ。


「・・・お、おおぅ・・・自然破壊すぎる。」


正直、こうしたチートもち連中って、周りの被害を考えずに強い魔法使うよね。
もっと考えてあげてほしいです。
無茶なことだとは分かっているのだが。


「やったかっ!?」


残念、センシ君。それはやってないフラグだ。


『ぐぬぅ・・・なかなかどうしてやるではないか。
だがっ!
甘い。このワシの命を取ろうと思ったら、もちっと威力のある魔法を立て続けに撃たねばな。』


もちろん生きてるフィンケルの体表はところどころ黒化していた。
煙が起こり、あたかもダメージがあるように見えるけど、あれ体表に薄く生えていた苔の類が燃えた後だね。
むしろ体の掃除の手間がなくていいんじゃないだろうか。
それにわざわざ攻略法を言ってあげるとか、シンセツだなぁー。あこがれちゃうなーしびれちゃうなー。
十中八九、死なないだろうけれども。
そんなで死んだら僕の魔法アレ一発で死んじまいまっせ。




勇者がそこでおそらく攻略法を実践する作戦を考え付いたのだろう。
ほかの仲間に耳打ちする。
それをにやにやしながら待ってあげるフィンケル。
お前は特撮における悪役かと!
良い悪役ダナーとぼんやりと思っていると、勇者君は剣を構えなおしてこういったのだ。


「俺の剣はあと三回、変形が残っている。
この意味が分かるか?」




・・・それ、悪役のセリフゥゥゥゥゥウウウウウッ!?
某漫画の某名台詞をいじった感じのセリフを聞かされて、というか僕はそれをそのまま使ったような覚えがあるのだが、その辺はさておき、とりあえずいつまでこの茶番を見続けなくちゃいけないのだろうかと思いつつも、ああ、茶番と言えば茶葉の苗木もらえないかなと考える僕であった。





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