タコのグルメ日記

百合姫

飴祭り3

『れでぃーずえんどじぇんとるまーんっ!
みんなっ!今日は来てくれてありがとぉっ!!』


わぁーっと沸き立つ会場。
ほとんどの人が騒いでいるところを見ると、大半の人は彼女目当てなのかもしれない。
ノリで騒いでいる、という人はあまり見ない。
本気で興奮してるような人が多く、ちょっと場違いな気がしないでもない。
まんまアイドルのコンサート会場だ。
行ったことないので想像上のものだけれども。


『長い前置きを市長から預かっているんですけどもっ!
そんな前置きなんてこうだっ!!』


と言ってリリィちゃんは手元にあった羊皮紙をぐしゃっと握りつぶす。
おそらく挨拶がてらの文章が書かれたカンペみたいなものなのだろう。ステージの背後にいる白髪のおっさんが膝をついて、打ちひしがれていたのは見なかったことにする。
ちなみに、大慌てで「リリィちゃんの手油つき羊皮紙がぁっ!!」みたいな怒号をあげながら投げた羊皮紙を求めて幾人かが軽い乱闘騒ぎになるが、それをあえて知らんふりしつつリリィちゃんは話を進める。


『今回は25・・・いくつだっけ?
・・・まぁ細かいことはいいよねっ!
250ちょっと回目の飴祭りを只今より開催しますっ!!』


そんな適当でいいのだろうか?


『早速、今回飴細工を作ってくれる職人の方々を紹介しましょう!
まずはあの、飴祭り創始者であるウェイバーさんが作ったと言われるウェイバー・ガラス工房から期待の34代目ウェイバーの名を継ぐものっ!!
ラインハルト・ウェイバー君っ!!』


と言ってステージの横にあった垂れ幕から現れたのはラインハルト君だった。
わお。


『お次は・・・』


まじでか。
ラインハルト君は結構すごい人だったらしい。


☆ ☆ ☆


さて、さっそく始まった飴細工勝負。
勝敗を決するのはここにいる観客全員だ。
約800人ほどの観客が、この人の飴細工がいいというものに点数を付ける。
ステージ側の出場者は8人。
その中で一番観客の投票を多くもらった人が勝つことになるという。


『さて、では順番に披露していただきましょうっ!
その技をっ!味をっ!!
エンターテインメント性をっ!!』


リリィちゃんの掛け声ともにステージ中央の床が開く。
飴細工用にセッティングされたキッチンがゴゴゴゴと音を発して出現した。
そしてそのギミックに驚く暇もなく事態は進行していく。


『まずはお一人目っ!
幻想と理想を持ってその煌びやかな指で飴を変幻自在にこねくり回すっ!
幻理の菓子職人パティシエっ!!
アーノルド・フルールッ!!』


そのリリィちゃんの言葉を聞いて前に出る優男風のイケメンパティシエ。
フッ素加工に余念が無さそうなキラッとした病的に白い歯を見せて、会場に笑みを送る。
女性観客から黄色い声があがる。


日本でお祭りの際に飴細工をつくる屋台のおっさんとは大違いだ。
技量も大違いで、日本発信のおっさん式飴細工とはひと味もふた味も違った。
というと日本のお祭りにおける飴細工を馬鹿にしてるように聞こえるが、別にそういうわけではない。あれはあれで普通の人にはできなさそうな手の動きだ。


しかしアーノルドさんは違った。
文字通り天と地ほどの差があったのだ。
というか地球人では誰もかなわないような動きでもって・・・端的に言えばキモいくらいよく動くのである。


アーノルドさんはなんと天を舞った。
何を言ってるかわからないと思うが、何、簡単な話である。
この世界の人間であるからこその身体能力でもって、東洋竜のような、蛇の形を模したタイプの竜。そんな飴細工を作ったのだ。
会場の高さは砦だけあって、非常に高い。
目算で東京ドーム並みの高さはある。
その広さをもってしてもパッと見、狭く感じるほどの躍動感と大きさ。
そんなド迫力の飴細工が彼の作品だ。


そして軽く2階建て一軒家に収まらないくらいの大きさの竜の飴細工を、建築現場にある鉄骨による足場のような物もなしに生身でつくる場合。
どんな動きをしなくちゃいけないのかはおおよそ検討が付くと思う。
しかも竜の飴細工には一つ一つ丁寧な鱗まで描かれているし、細いヒゲなんかもある。
化けものか!と戦慄したものだ。


左手に炎の魔法だろう。
それで飴を熱しつつ、右手に持った巨大なヘラを合わせたような独特の形のハサミをもって空を飛びはね、時には作ってる飴細工自体を足場にしつつ、用意された飴細工の原料である巨大な飴の塊がみるみるうちに竜の形を取っていくのだ。
ハサミは飴を引っ掛けたり、切ったり、形を整えたり。
個人的には飴細工が仕上がるまでの洗練されたその技術の大盤振る舞いの過程こそ、完成品に勝るとも劣らない芸術なんではないかと感動させられた。


すごいのだ、本当に。
というか、最初に大掛かりな仕掛けで登場したキッチンが涙目。全く使用されていなかった。使ってあげてよっと思ったのは僕だけではあるまい。


そしてそれは続く。
他の参加者もそんなとんでもレベルである。


アーノルドさんはその巨大さと、細かな部分における技術という面で観客をざわめかせたが、二人目はそんなに大きくはない。
机の上に乗る、そう。
地球におけるパティシエが作るような飴細工。
そんなレベルの大きさでインパクトという点では劣る。
と思ったのであるが。


なんとその方。


飴で街を作りおったわ。


何を言ってるのかと思われるだろうが、別に本当に人が住めるような街を作ったというわけではもちろんない。
ないのだが・・・
この水晶砦クリスタルシティの細部に至るまでを綿密に再現し、人の往来まで作る始末。
街の看板の文字や、人々の顔までも作りやがる。
ここでもう一度思い出して欲しい。
この飴によってできた街、サイズが先程も言ったようにキッチンの机に乗る程度。
大体3mと広めだが、そんなところに街一つ、それも世界でも大きいとされる水晶砦クリスタルシティを入れようと思うとかなり縮小されて再現される。
そしてそれだけのことを一人目のアーノルドさんと同じくらいの時間、もとい持ち時間はそれぞれ30分だけ。
その時間で作ったのである。
僕が見る限りそれだけのことをしたのに手抜きと思わしき部分は一つもない。
バカかっ!?
と思わず口に出してつっこんだほどだ。


そんなとんでも技術のオンパレードがずっと続くのだ。
僕は薄々思っていた。
この世界で生まれた僕って結構チートじゃね?と薄々思っていたのだ。
小さい頃は確かにそのへんの肉食動物に食われるのがすごく怖かったし、驚異であった。
今やそんじょそこらの生物は相手にならない!と頭のどこかでうぬぼれていた。
・・・再認識したぜ。
僕なんて体がちょっと頑丈なだけのただのタコだってことをよぉっ!?


強いったってドラゴン相手にしたら慣性の法則によって吹っ飛ばすのがせいぜいで、実質、鱗一つ傷つけられない。
人の姿を型どれる擬態だって、目の前の彼らの職人芸を前にしたら『ぷーくすくす、そんなのただの宴会芸だよねぇ』と言われてもおかしくないレベルである。


この世界のトップレベルの生き物はどの分野にせよ化け物じみていることが今日わかってしまった。


「どうしたの?」
「いや・・・ちょっとね。」


いきなり、うなだれた僕を心配してやまいが僕の顔を覗き込む。
そうだ。
やまいにしてもよくもまぁ学園都市なんていう遠いところまで単身、来たものである。
邪竜の加護は確かに強いものの、そう頻繁に使うわけにもいかない縛り能力。
ヘタをすればマイナスだ。
そんな状況で本当によくもまぁこの歳で、無事に僕と出会えたものである。
しかも旅の途中にいろいろと加護の副作用で嫌な思いをしてきたというのだからなおさらだ。


「ん。」
「本当、大したものだよ。」
「・・・?」


やまいの頭をなでりこなでりこ。
僕がこの子くらいの年の時って何してたかなぁ。
友達と公園でサッカーあたりか。
なんてことを思っていると、ようやく本命が来た。
他の観客もそうなのだろう。
ざわざわし始める。


『さて、では最後の一人。
今日の大本命であり、この街の市長のお孫さんでもあるウェイバーの名を継ぐもの!!
齢、10歳という年齢でありながらその時すでに後継をしていたというその恐るべき才能が今、私たちの目の前に君臨しているっ!!
34代目、ラインハルト・ウェイバーっ!!どうぞっ!!』


オオオオッ!!と喚き立つ会場。
ラインハルトくんはちょっと緊張している様子だ。
まぁこれだけ期待がかかってればそうだろう。




『それでは開始してーきゃあっ!?』


この時、なんといきなりの乱入者が登場する。
その登場した男はボサボサの頭をした見るからに不潔そうな男で、そいつはリリィちゃんを襲ったのである。
あっという間の出来事で、彼女の近くにいたゴーレムも反応できなかった。
彼女は男に羽交い絞めにされる。


「えへへへっ!ようやくリリィたんをゲットしたおっ!!」


・・・なんというかあからさますぎなほどにそれっぽい男だった。
今時あんなアイドルオタクはいないと思う。
友人間でのネタとしての振る舞い以外にあんな言葉遣いはおそらくもってしないだろう。
当然会場に控えていた警備員やファンのみんなが助けようとするが男はナイフを手にして、彼女につきつける。


「それ以上近づくなぁっ!!
それ以上近づいたらリリィたんの綺麗なお顔に傷をつけなくちゃいけなくなるんだぞぉいっ!?
いいのかっ!?
それでいいのかっ!?」


男の言葉に誰もが動けなくなる。
命には変えられないが、かといって顔に傷、というのはアイドルにとって一大事だ。
ここで踏み切るには・・・という躊躇が動けなくする。
というかお前さん、そのアイドルが好きなんだろうに、そのアイドルの顔を傷つけるってどういうことやねん。と聞きたいところであるが下手に刺激するわけにもいかない。


「タコ、なんで皆あいつを倒さないの?」
「あの男の言ってたこと聞こえなかったの?」
「でも、顔を傷つけられるだけなら大丈夫だと思う。」


・・・そういう問題じゃないんだけど、まぁやまいには難しいか。
やまいにとっては命や重大な後遺症が残るとかでない限りは留意することにはならないということだ。
そら、僕だってそう思わないでもないが、かといってもし何かの拍子に彼女の顔に消えない傷を残すようなことになったらその責任をどうとるのか?
そういう思いがあるから会場のみんなは誰も動けない。
いや、一人だけ動いている。
ラインハルト君がこそーりこそーりと男の背後に向かっているのだ。


このまま放っておいても硬直状態がずっと続くだけ。
それならばそういったリスク覚悟で助けに行く。
そんな考えだろう。
男らしいが、同時に考えなしでもある。
もう少し考えればうまくいく策もあるかもしれないじゃないか。と言いたいところだが、男は興奮し始めたのだろう。
それこそリリィちゃんにキスしたりベロベロしそうな勢いだ。
ついでに彼の体から魔力が練られていくのを、感じる。


おそらく逃げるための魔法発動だ。
ポッケからはみ出ている木片には魔法陣が描かれている。
一部しか見えないが、勉強を超頑張った僕には一部だけでも見えればある程度予想はできる。
ごく短い距離だが、ワープ、転移とも呼べる移動の魔法の可能性が高い。
距離的に逃げ切ることはまず無理だが、多少の余裕は稼げる。
その間に破れかぶれに見える男が大好きなアイドルに何をするのか。想像するまでもない。
というか他の魔法も発動した。


「ぼくちんには見えるんだおっ!!」
「ぐあっ!!」


忍び寄っていたラインハルト君が蹴り飛ばされる。
男は千里眼と呼ばれる魔法を発動したらしい。
洞察力と視界が大幅にアップするという地味だけど強い魔法である。


「次に何か妙な真似をしたら・・・リリィたんをべろべろしちゃうからなりよっ!!」


僕だって助けてやりたいと思わないでもないのだが、あそこまで男と人質が近い上に、そこそこの距離が離れてる僕では割と高い確率で一回二回くらいはザックリ行かれてしまう。
いやね。エアスラッシュあたりで切り飛ばしちゃえばいいんだけど、その場合僕がリリィちゃんの顔をザックリ、頭蓋骨ごとやってしまう可能性があるわけで・・・相変わらず精度が悪いのです。
本末転倒というか、真犯人はタコ。みたいなことになってしまう。
他の魔法を使おうにも会場に魔法陣の刻まれた魔具の持ち込みは禁止である。


とでも思ったのか?


ふふふふふふ。
こんなこともあろうかと、僕はいろいろな魔法をとある方法で仕込んでいたんですよ!
いや、実際はやまいが誰かに囚われた場合のことを考えてたんだけども。
不意打ちの奥の手として。
仲直りした晩に、テンション上がってやってしまったのだ。


前にもちょっと話したことであるが魔法は適性があり、それがない人間には全く使えない。
僕の適性は風が一番で、次に炎、土、水があり、あとは少しの回復魔法の適正ってところである。
防御魔法の適性があればやまいの副作用の忌避フェロモンを押さえ込むような防御フィールドを使えたのだが、やまいもティキもその適性はなかった。一応試行錯誤で無理やり使える感じで作ってはある。
なんて話はさておき、そのうちの炎を使った魔法で瞬時に相手を殺す魔法がある。
しかも、精度は100パーセント!!
とは言えども、威力はひるませる程度に抑えておく。万が一に備えて「いでっ」ってなるレベルに調整する。


それを魔力ラインによって仕込んだのだ。
魔力ラインの場合、魔力を流すと魔法陣が浮き上がる。
持ち物はすべて魔力に満たされた容器に入れられて検査されるので本来ならリリィちゃんを人質にしている男のように持ち込むことはできないはずなのだ。が。


「レーザーガン。」


僕の右目から・・・左目だっけ?
まぁどっちかに仕込んだ魔法陣が発光。左目だった。
左目がカッと光って、悪漢のちょうど右目に当たった。
じゅっと何かが焼ける音が聞こえたきがする。


そう!
僕は魔力ラインによって目玉に魔法陣を仕込んでいたのである!!
・・・超怖かったけどやまいのために頑張りました。
体に仕込めばいいと思うかもしれないが、体の場合日々の成長によって魔法陣は消えてしまうというのは話したと思う。
となれば成長が変化が少ないであろう器官に刻めばどうだろう?という考えのもとに作り出したのがこのレーザー眼である。
目の方向を間違えたのは鏡を見ながら魔力ラインを刻んだことを思い出したため。


魔力を込めまくれば多分核シェルターも打ち抜けるレーザーを発射できるのだ!
もともとの魔法の名前はブリューナクとかそんな厨二っぽい名前だったはず。
覚えてない。
・・・目から魔方陣を仕込む段階でちょっとやばいって?
そ、そんなことねぇわよっ!


周りはいきなりの僕の魔法に驚いたものの、すぐに立ち直って男は捕らえられた。
と、思いきや、男はようやく転移の魔法を発動したのだろう。人ごみを抜けてなぜか僕の目の前に。


「こ、このっ!
ブスやろうがぁあああああああっ!!」


僕をブスとはふてぇやろうだ。
このプリティフェイスが目に入らぬかっ!少なくとも右目は二度と入りそうにないが。
もとい、お仕置きがてらレーザー眼二発目。出力高めで。


「ぐがああっ!?」




レーザーの如く収束された熱弾が、男の右腕を焼きちぎった。
僕が言うのもなんだが痛そうだ。
ちょっと加減しても良かったかも。
それにしてもやばい。一応失敗した時用に、片方の目を犠牲にする覚悟だったのだが、これは大成功である。
目に仕込んだためか、視線を合わせた部分にピンポイントに当たってしまう。
すなわち、楽に超精度の遠距離攻撃が打てるということだ。
また、レーザーは光の塊だ。
光は一種の電磁波であり、質量を持っているわけではないので風に飛ばされることがない。ゆえに距離によって弾道がそれるということはない。




ぼ、僕は恐ろしい術を発明してしまったのかもしれない。
ちなみに、この魔法、すごい燃費が悪く、普通の人だと虫眼鏡で紙を燃やす程度の出力で精一杯とのことだ。

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