タコのグルメ日記
私は悪い子
「ほらよ。」
「ありがとう、ラインハルト君。」
早速作ってもらった、わたがし。
機械の中心には穴の空いた筒があり、そこにザラメらしき物を入れてスイッチを入れたらすぐにわたがし特有の糸状の飴が出てきた。
それをプロさながらの技術で巻き取っていくラインハルト君。
日本のお祭りで見たようなわたがしができると思いきや・・・
「すごい・・・」
「へっ、当然だろ?
うちのわたがしはこの街一なんだぜ?」
ゴワゴワとした糸状の飴をただ絡め取ったわたがしというわけではなく、一方向に巻き取る職人芸でもってまるで織物のような見た目のわたがしができた。
何よりも驚くのは糸の一本一本が光の反射で煌めいていたことである。
「・・・僕の知ってるわたがしと違うんだけども。」
「・・・褒めてくれるのはありがたいけど、そこまで違うもんでもないだろ?
見た目は特に変わらないはずだぜ?」
というラインハルト君。
なるほど。
この世界ではこの見た目が通常なようだ。
こうなってくるとザラメだと思っていたものも、ちょっと違うのかもしれない。
早速、一口食べてみる。
「はぁぅっ・・・」
口から思わず艶かしい悲鳴が出てしまうほどの舌触りだ。
舌全体を滑かな感触が包み込んで撫で回すような・・・糸の感触に舌が犯される。
端的に言えば、全身に鳥肌が経つほどの気持ちよさが体に駆け巡った。
舌で糸を絡め取るたびに、糸が舌に絡みつき、愛撫していく。
ディープキスですらかくやというほどの、恍惚とした瞬間だ。
糸が舌に擦れるたびに体が震え、そのあとにやってくる綿菓子特有のねっとりとした甘さが唾液と交じり、喉の奥へとつたっていく。
口の中をわたがしに蹂躙されてしまった。
「お、おい・・・どうかしたか?
・・・なんかすっげぇ、目に毒なんだが・・・」
「はぁふぇ?」
思わず腰が抜けるほどの感触である。
足が震えて、立てない。
あまりの舌触りに痙攣すらする始末。
今ほど鋭敏な味覚を恨んだことは・・・しかし、その味覚がなければこの気持ちよさを堪能できなかったのも事実。
今の僕は生殖器用の触腕が見れたものじゃないことになっているだろう。
人の指ほどに縮めてるはずの触腕が一本だけ盛り上がっていた。
人間のものとは違うので、盛り上がるようにできているというわけではなく、単純に収縮ができないほどに筋肉が弛緩しているのである。
正直、人型を保っているのも辛いほどに。下手したら膀胱が緩んで、ちょっと漏らしたかもしれないレベル。なんか股が湿ってる気がするが、考えないことにした。
ちょっとというか、いろいろとかなり恥ずかしい醜態を晒してしまったようだ。
幸いなことにラインハルト君から見える位置にはない。
「そ、その・・・顔赤いけど・・・ほんとに大丈夫か?」
わたがしを食べてエッチなことになってる女性がいたら僕ならまず、引く。
が、あまりに艶かしい雰囲気を出してしまっているのかラインハルト君は気味悪く思うどころではないようだ。
男の姿で食べたほうが良かった・・・というほどでもないな。むしろよりキモさが増していた。
これまた不幸中の幸いだ。
生まれたばかりの子鹿のように脚をプルプルさせながらなんとか立ち上がる。
こ、このわたがしは一種の凶器だ。
下手に殴られるよりも効く。
いつぞやの慈愛の白竜とかなんとかの竜と戦った時の一撃を受けたときだって少なくとも動けてはいたのに。
わたがし依存症になってしまうかもしれないレベルだ。
二度と食べないように・・・しかし手元には僕の口の痕がついたわたがしが。
まだたくさん残っている。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
はむ。
「ぅひゃうっ・・・っ。」
くてんと腰が落ちる。
「お、おいっ!?
ほ、ほんとに大丈夫かっ!?」
「・・・や、やばい。これ・・・ほんとらめ。っだめ。もう食べちゃらめ・・・でも・・・まだ残ってるし・・・せめて・・・せめてあと一口・・・」
「な、なんかよくわからんが、もうやめとけよっ!?
なんかお前、すごく変だぞっ!?」
「あっ。」
といってわたがしを取り上げるラインハルト君。
「そ、そんな目しても無駄だっ!?
なんかお前やばいんだろっ!?」
どんな目をしているのだろうか。
「ちょ、ちょうらい・・・もっろ・・・もっろ・・・」
「呂律も回ってないしっ!?」
もっと、もっと・・・はっ!?
「ら、らいじょうぶ・・・もうらいじょうぶらから・・・」
まるでラリってるようではないか。
これはやばい。
「・・・ほ、ほんとかよ?」
「と、とりらえずもうわたがしはいいれす。」
自然界を生き抜いてきた僕の強靭な精神を舐めてもらっては困る。
快楽に呑まれる等、ありえないからして!
「といいつつも、その色っぽい目線はずっとわたがしを見てるんだが・・・」
「はっ!?」
いかん。
いかんぞ。
そう、落ち着け。とりあえず落ち着け。
「・・・と、とりあえずお土産に一つくれる?」
「・・・そ、それは構わんけど・・・途中で食ったりしないだろうな?」
「・・・大丈夫。」
「その間はなんだよっ!?」
だ、大丈夫だから!
ちょっとだけだから。
先っちょだけだからっ!!
先っちょを入れるだけだからっ!!(口の中に)
「・・・我慢できるか怪しいなら、そのお土産をあげたい相手と一緒に明日来ればいいんじゃないか?俺、このあたりで店出すし。」
「・・・そ、それもそうだね。」
「我慢できないってか・・・残念な返答だな、おい。」
「僕の体をこんなにした君が言えることじゃないと思う。」
「人聞きの悪いことを言うなやっ!?」
話すきっかけとしてわたがしを貰うつもりだったのだが、これはちょっとヤバすぎた。
違う食べ物でも買って帰ろう。
「・・・なんにしても改めてお礼を言うよ。ありがとう、ラインハルト君。」
「・・・あ、ああ。てか、まだ足腰立たないみたいだけど・・・なんなら少し休んでいくか?」
「いや、大丈夫。僕のガチムチボディを舐めてもらっては困るぞ少年。」
余裕を出すためにウィンクしながら言ってやった。
「すっげぇ、脚、ぷるぷるして戸棚にしがみつかなきゃ立てないのにか?
・・・つか、ガチムチって・・・ムチムチにしか見えないけど・・・・・・あ、あっ、べ、別にエロい目では見てねぇぞっ!!」
「ムチムチって・・・このエロエロエロスめー。かっこ棒かっことじ。」
「見てないって言ってるだろっ!?」
顔を真っ赤にするラインハルト君。
さっきからちょいちょい目線が胸に行っていることなどお見通しよ。
女性側からは分かる!と聞くが、確かに分かり易いものである。
僕は中身男だからね。一応体の造形は僕が思う女性らしいボディ、もといエロい感じである。
目が行ってしまうのも無理はあるまい。責めはしまいよ、少年。
とはいえ心中としては、自分の作った作品を褒められているようで嬉しいやら、男にそんな目で見られるのが気持ち悪いやら。複雑である。
欲情してしまったかい?
残念。
見た目はアレでも僕は男である。
☆ ☆ ☆
「やまい・・・帰ってるかな・・・」
ザーボン用の餌として果物屋で様々な果物とちょっとしたお肉を買い、そのあとで食べ物よりも何かしら残るもの・・・もとい髪飾りなんかがいいんじゃないかと思って露天で買った可愛い髪留めを買って帰ることにした僕。
「・・・な・・・この・・・」
「ん?」
ちょっと遠くから人の叫び声が聞こえる。
久々に出くわしたな。
誰かしらが、誰かに襲われるという展開に。
当然、でしゃばる気は無かったが、今は気分が良い。
たまには人助けもいいだろうと思って、路地裏を覗いてみた。
するとそこには殴られまくるやまいの姿が。
「っ・・・き、きさまら・・・ぁぁああっ!!」
当然、襲っていた悪漢どもはその場でぶち殺しである。
「あ?
てめぇ何もんぶはっ!?」
「っ!?
おい、大丈夫か!?つか誰だろっぽぎっ!?」
「てめぶふっ!?」
次々に触腕でぶち飛ばす。
いたのは4、5人ですぐに全員沈黙した。
かろうじて生きているようだ。
当然、彼らを殺すことに執着があるわけではないのでボロボロになってるやまいを抱きかかえて、回復魔法を発動させる。
回復魔法の魔法陣はプリンセス学園を卒業したものだけに送られるそれぞれの学科の勲章に刻んである。
みるみると傷が治っていくやまい。
「ど、どうしてこんなとこにいるの・・・じゃなくて、どうしてただ黙って殴られてたのっ!?」
服にはやまいの血や先ほど打ち飛ばした輩どもであろう足跡がついて汚れていた。
「・・・うっ。」
「やまいっ・・・大丈夫?」
「・・・たこ・・・」
「もう一度聞くよ?
どうしてこんなところにいたの?どうして反撃しなかったの?」
あんなただのチンピラ、やまいなら難癖付けられたところですぐに返り討ちにできたはず。
「・・・離して。」
「やまいっ。」
「はなしてっ!!」
明確な拒絶。
「あ・・・う・・・」
「・・・っ。・・・離して。」
つい手が緩む。
が、ここで離してはまた同じだ。
手が震える。
頭が真っ白になる。
でも、離したくないという思いだけはある。なら離さない。
「はなしてっ!」
激しくもがき始めるやまい。
当然離さない。
「・・・いやだ。」
「はなしてっ。」
「いやだっ!」
「はなしてよぉっ!!」
「いやだって言ってるっ!!」
「っ・・・。」
そのままぎゅっと抱きしめる。
「ごめんね。・・・大人なのに・・・やまいよりもずっと生きてるのに・・・何を言ったらいいのか全くわからない。」
「・・・っ。」
「家族ヅラしないでって言ったね。
うん、その通りだ。今まで放っておいて、ぽっと出てきた僕が家族ズラするのもおかしいよね。
でも・・・だったら・・・”友達”になろう。」
「・・・っ!」
「ずっと、ずっと一緒にいる。
ずっと一緒にいられるように・・・やまいと一生友達でいる。いたい。
・・・それじゃダメかな?」
「・・・でも・・・」
やまいはまだほんの子供だ。
意地だって張ってしまうだろうし、人への距離感の取り方だって分からないだろう。
やまいの周りの環境を考えれば尚更だ。
僕がいじけてどうする。
僕がすねてどうする。
僕から手を差し伸べてあげなくてどうする。
手の出し方がわからないやまいに対して手を引っ張ってあげなくてどうする。
「保護者でいい・・・そう思ってた。ただ君の面倒を見るだけの赤の他人で良いって思ってた。
でも、嫌だ。そんな関係僕が嫌だ。でも家族は近すぎるよね?
だから友達に・・・また一から関係を作っていきたい。」
「・・・嫌だった。」
「・・・何が?」
「タコがずっと私に笑顔でいたのが。」
目から涙が溢れてくるやまい。
「・・・?」
「何をしても、何を言ってもずっとずっとずっと。ただ笑顔を浮かべてたのが嫌だったの。二度としないって言われて悲しかった。」
「・・・そう、ごめんね。」
やまいは首を横にふる。
「謝るのは私。
タコが・・・タコが私に会いに来れないの知ってた。
グリューネから聞いてたもん。タコは死んだって。でも、タコは約束した。」
「そうだ。だからやまいは悪くない。」
「私を助けるためにドラゴンさんと戦って、それがどんなにすごいことか今なら分かる。でも、ずっとタコを恨んでた。嘘をついたタコを。一緒にいてくれなかったタコを。約束を破ったタコを。」
「うん。」
「私、悪い子・・・悪い子・・・タコのことなんて全然考えてない。考えてなかったの。」
「うん。」
「それに酷い事言った。タコに酷い事言った。」
「事実だよ。」
「そんなことないっ!!」
やまいはポロポロと涙を流しながら激昂する。
「タコは私のことを思ってくれたのにっ!!
私はタコのことを恨んでたしっ、全部タコのせいにしたっ!!
ほんとは違うのっ!!エステルと一緒に森に入ったとき、エステルは雨の日は勝手が違うから早く帰ろうって言ってたっ!!
でも、でも・・・私、楽しかったの・・・エステルと一緒にいる時間が・・・ともだちと・・・一緒にいる時間が・・・だから言った。わがままを・・・もうちょっと奥に行こうって。一緒にいたくて。もう少しだけ一緒に・・・
私が・・・私がエステルの言うことを聞いてれば良かったっ!!
タコの・・・タコのせいなんかじゃ全然なかったっ!!
私は貴方の・・・貴方のせいにして・・・あなたを傷つけたのっ!!」
「・・・うん。」
「だから・・・おしおき。
悪い子の私に・・・おしおきした。」
「・・・うん。」
「私、死んじゃえば良かったのに。」
「・・・。やまい。」
「何?」
「やまいは僕が死んだってグリューネに聞かされたときどう思った?」
「・・・すごく悲しかった。」
「僕だってやまいが死んだら悲しいよ。少なくとも、それと同じくらいには。」
「・・・でも、私は悪い子だから・・・」
「何を言ってるのさ。やまいはとってもいい子だよ。グリューネを助けるためにこんな遠くまで来て、誰の助けも借りずに、傷つきながらも今は助けるための手段すらその手にしてる。まぁまだ助けるのには問題はあるけどさ。そんなこと・・・悪い子ができるはずないじゃない。」
「・・・。」
「やまいを悪い子だなんて言う奴がいたら僕がぶっ飛ばしてやるっ。」
「・・・私は・・・悪い子じゃないの?」
「それがたとえやまい自身であっても。
今度そんなこと言ったらひっぱたくよ。」
やまいは大粒の涙をこぼし続けた。
ずっと。
ずっと。
日が暮れるまで。
僕も涙を流す。
やっと仲直りできて。
やっとぎこちなさが無くなって。
それが嬉しくて僕も一緒になって泣いていた。
「ありがとう、ラインハルト君。」
早速作ってもらった、わたがし。
機械の中心には穴の空いた筒があり、そこにザラメらしき物を入れてスイッチを入れたらすぐにわたがし特有の糸状の飴が出てきた。
それをプロさながらの技術で巻き取っていくラインハルト君。
日本のお祭りで見たようなわたがしができると思いきや・・・
「すごい・・・」
「へっ、当然だろ?
うちのわたがしはこの街一なんだぜ?」
ゴワゴワとした糸状の飴をただ絡め取ったわたがしというわけではなく、一方向に巻き取る職人芸でもってまるで織物のような見た目のわたがしができた。
何よりも驚くのは糸の一本一本が光の反射で煌めいていたことである。
「・・・僕の知ってるわたがしと違うんだけども。」
「・・・褒めてくれるのはありがたいけど、そこまで違うもんでもないだろ?
見た目は特に変わらないはずだぜ?」
というラインハルト君。
なるほど。
この世界ではこの見た目が通常なようだ。
こうなってくるとザラメだと思っていたものも、ちょっと違うのかもしれない。
早速、一口食べてみる。
「はぁぅっ・・・」
口から思わず艶かしい悲鳴が出てしまうほどの舌触りだ。
舌全体を滑かな感触が包み込んで撫で回すような・・・糸の感触に舌が犯される。
端的に言えば、全身に鳥肌が経つほどの気持ちよさが体に駆け巡った。
舌で糸を絡め取るたびに、糸が舌に絡みつき、愛撫していく。
ディープキスですらかくやというほどの、恍惚とした瞬間だ。
糸が舌に擦れるたびに体が震え、そのあとにやってくる綿菓子特有のねっとりとした甘さが唾液と交じり、喉の奥へとつたっていく。
口の中をわたがしに蹂躙されてしまった。
「お、おい・・・どうかしたか?
・・・なんかすっげぇ、目に毒なんだが・・・」
「はぁふぇ?」
思わず腰が抜けるほどの感触である。
足が震えて、立てない。
あまりの舌触りに痙攣すらする始末。
今ほど鋭敏な味覚を恨んだことは・・・しかし、その味覚がなければこの気持ちよさを堪能できなかったのも事実。
今の僕は生殖器用の触腕が見れたものじゃないことになっているだろう。
人の指ほどに縮めてるはずの触腕が一本だけ盛り上がっていた。
人間のものとは違うので、盛り上がるようにできているというわけではなく、単純に収縮ができないほどに筋肉が弛緩しているのである。
正直、人型を保っているのも辛いほどに。下手したら膀胱が緩んで、ちょっと漏らしたかもしれないレベル。なんか股が湿ってる気がするが、考えないことにした。
ちょっとというか、いろいろとかなり恥ずかしい醜態を晒してしまったようだ。
幸いなことにラインハルト君から見える位置にはない。
「そ、その・・・顔赤いけど・・・ほんとに大丈夫か?」
わたがしを食べてエッチなことになってる女性がいたら僕ならまず、引く。
が、あまりに艶かしい雰囲気を出してしまっているのかラインハルト君は気味悪く思うどころではないようだ。
男の姿で食べたほうが良かった・・・というほどでもないな。むしろよりキモさが増していた。
これまた不幸中の幸いだ。
生まれたばかりの子鹿のように脚をプルプルさせながらなんとか立ち上がる。
こ、このわたがしは一種の凶器だ。
下手に殴られるよりも効く。
いつぞやの慈愛の白竜とかなんとかの竜と戦った時の一撃を受けたときだって少なくとも動けてはいたのに。
わたがし依存症になってしまうかもしれないレベルだ。
二度と食べないように・・・しかし手元には僕の口の痕がついたわたがしが。
まだたくさん残っている。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
はむ。
「ぅひゃうっ・・・っ。」
くてんと腰が落ちる。
「お、おいっ!?
ほ、ほんとに大丈夫かっ!?」
「・・・や、やばい。これ・・・ほんとらめ。っだめ。もう食べちゃらめ・・・でも・・・まだ残ってるし・・・せめて・・・せめてあと一口・・・」
「な、なんかよくわからんが、もうやめとけよっ!?
なんかお前、すごく変だぞっ!?」
「あっ。」
といってわたがしを取り上げるラインハルト君。
「そ、そんな目しても無駄だっ!?
なんかお前やばいんだろっ!?」
どんな目をしているのだろうか。
「ちょ、ちょうらい・・・もっろ・・・もっろ・・・」
「呂律も回ってないしっ!?」
もっと、もっと・・・はっ!?
「ら、らいじょうぶ・・・もうらいじょうぶらから・・・」
まるでラリってるようではないか。
これはやばい。
「・・・ほ、ほんとかよ?」
「と、とりらえずもうわたがしはいいれす。」
自然界を生き抜いてきた僕の強靭な精神を舐めてもらっては困る。
快楽に呑まれる等、ありえないからして!
「といいつつも、その色っぽい目線はずっとわたがしを見てるんだが・・・」
「はっ!?」
いかん。
いかんぞ。
そう、落ち着け。とりあえず落ち着け。
「・・・と、とりあえずお土産に一つくれる?」
「・・・そ、それは構わんけど・・・途中で食ったりしないだろうな?」
「・・・大丈夫。」
「その間はなんだよっ!?」
だ、大丈夫だから!
ちょっとだけだから。
先っちょだけだからっ!!
先っちょを入れるだけだからっ!!(口の中に)
「・・・我慢できるか怪しいなら、そのお土産をあげたい相手と一緒に明日来ればいいんじゃないか?俺、このあたりで店出すし。」
「・・・そ、それもそうだね。」
「我慢できないってか・・・残念な返答だな、おい。」
「僕の体をこんなにした君が言えることじゃないと思う。」
「人聞きの悪いことを言うなやっ!?」
話すきっかけとしてわたがしを貰うつもりだったのだが、これはちょっとヤバすぎた。
違う食べ物でも買って帰ろう。
「・・・なんにしても改めてお礼を言うよ。ありがとう、ラインハルト君。」
「・・・あ、ああ。てか、まだ足腰立たないみたいだけど・・・なんなら少し休んでいくか?」
「いや、大丈夫。僕のガチムチボディを舐めてもらっては困るぞ少年。」
余裕を出すためにウィンクしながら言ってやった。
「すっげぇ、脚、ぷるぷるして戸棚にしがみつかなきゃ立てないのにか?
・・・つか、ガチムチって・・・ムチムチにしか見えないけど・・・・・・あ、あっ、べ、別にエロい目では見てねぇぞっ!!」
「ムチムチって・・・このエロエロエロスめー。かっこ棒かっことじ。」
「見てないって言ってるだろっ!?」
顔を真っ赤にするラインハルト君。
さっきからちょいちょい目線が胸に行っていることなどお見通しよ。
女性側からは分かる!と聞くが、確かに分かり易いものである。
僕は中身男だからね。一応体の造形は僕が思う女性らしいボディ、もといエロい感じである。
目が行ってしまうのも無理はあるまい。責めはしまいよ、少年。
とはいえ心中としては、自分の作った作品を褒められているようで嬉しいやら、男にそんな目で見られるのが気持ち悪いやら。複雑である。
欲情してしまったかい?
残念。
見た目はアレでも僕は男である。
☆ ☆ ☆
「やまい・・・帰ってるかな・・・」
ザーボン用の餌として果物屋で様々な果物とちょっとしたお肉を買い、そのあとで食べ物よりも何かしら残るもの・・・もとい髪飾りなんかがいいんじゃないかと思って露天で買った可愛い髪留めを買って帰ることにした僕。
「・・・な・・・この・・・」
「ん?」
ちょっと遠くから人の叫び声が聞こえる。
久々に出くわしたな。
誰かしらが、誰かに襲われるという展開に。
当然、でしゃばる気は無かったが、今は気分が良い。
たまには人助けもいいだろうと思って、路地裏を覗いてみた。
するとそこには殴られまくるやまいの姿が。
「っ・・・き、きさまら・・・ぁぁああっ!!」
当然、襲っていた悪漢どもはその場でぶち殺しである。
「あ?
てめぇ何もんぶはっ!?」
「っ!?
おい、大丈夫か!?つか誰だろっぽぎっ!?」
「てめぶふっ!?」
次々に触腕でぶち飛ばす。
いたのは4、5人ですぐに全員沈黙した。
かろうじて生きているようだ。
当然、彼らを殺すことに執着があるわけではないのでボロボロになってるやまいを抱きかかえて、回復魔法を発動させる。
回復魔法の魔法陣はプリンセス学園を卒業したものだけに送られるそれぞれの学科の勲章に刻んである。
みるみると傷が治っていくやまい。
「ど、どうしてこんなとこにいるの・・・じゃなくて、どうしてただ黙って殴られてたのっ!?」
服にはやまいの血や先ほど打ち飛ばした輩どもであろう足跡がついて汚れていた。
「・・・うっ。」
「やまいっ・・・大丈夫?」
「・・・たこ・・・」
「もう一度聞くよ?
どうしてこんなところにいたの?どうして反撃しなかったの?」
あんなただのチンピラ、やまいなら難癖付けられたところですぐに返り討ちにできたはず。
「・・・離して。」
「やまいっ。」
「はなしてっ!!」
明確な拒絶。
「あ・・・う・・・」
「・・・っ。・・・離して。」
つい手が緩む。
が、ここで離してはまた同じだ。
手が震える。
頭が真っ白になる。
でも、離したくないという思いだけはある。なら離さない。
「はなしてっ!」
激しくもがき始めるやまい。
当然離さない。
「・・・いやだ。」
「はなしてっ。」
「いやだっ!」
「はなしてよぉっ!!」
「いやだって言ってるっ!!」
「っ・・・。」
そのままぎゅっと抱きしめる。
「ごめんね。・・・大人なのに・・・やまいよりもずっと生きてるのに・・・何を言ったらいいのか全くわからない。」
「・・・っ。」
「家族ヅラしないでって言ったね。
うん、その通りだ。今まで放っておいて、ぽっと出てきた僕が家族ズラするのもおかしいよね。
でも・・・だったら・・・”友達”になろう。」
「・・・っ!」
「ずっと、ずっと一緒にいる。
ずっと一緒にいられるように・・・やまいと一生友達でいる。いたい。
・・・それじゃダメかな?」
「・・・でも・・・」
やまいはまだほんの子供だ。
意地だって張ってしまうだろうし、人への距離感の取り方だって分からないだろう。
やまいの周りの環境を考えれば尚更だ。
僕がいじけてどうする。
僕がすねてどうする。
僕から手を差し伸べてあげなくてどうする。
手の出し方がわからないやまいに対して手を引っ張ってあげなくてどうする。
「保護者でいい・・・そう思ってた。ただ君の面倒を見るだけの赤の他人で良いって思ってた。
でも、嫌だ。そんな関係僕が嫌だ。でも家族は近すぎるよね?
だから友達に・・・また一から関係を作っていきたい。」
「・・・嫌だった。」
「・・・何が?」
「タコがずっと私に笑顔でいたのが。」
目から涙が溢れてくるやまい。
「・・・?」
「何をしても、何を言ってもずっとずっとずっと。ただ笑顔を浮かべてたのが嫌だったの。二度としないって言われて悲しかった。」
「・・・そう、ごめんね。」
やまいは首を横にふる。
「謝るのは私。
タコが・・・タコが私に会いに来れないの知ってた。
グリューネから聞いてたもん。タコは死んだって。でも、タコは約束した。」
「そうだ。だからやまいは悪くない。」
「私を助けるためにドラゴンさんと戦って、それがどんなにすごいことか今なら分かる。でも、ずっとタコを恨んでた。嘘をついたタコを。一緒にいてくれなかったタコを。約束を破ったタコを。」
「うん。」
「私、悪い子・・・悪い子・・・タコのことなんて全然考えてない。考えてなかったの。」
「うん。」
「それに酷い事言った。タコに酷い事言った。」
「事実だよ。」
「そんなことないっ!!」
やまいはポロポロと涙を流しながら激昂する。
「タコは私のことを思ってくれたのにっ!!
私はタコのことを恨んでたしっ、全部タコのせいにしたっ!!
ほんとは違うのっ!!エステルと一緒に森に入ったとき、エステルは雨の日は勝手が違うから早く帰ろうって言ってたっ!!
でも、でも・・・私、楽しかったの・・・エステルと一緒にいる時間が・・・ともだちと・・・一緒にいる時間が・・・だから言った。わがままを・・・もうちょっと奥に行こうって。一緒にいたくて。もう少しだけ一緒に・・・
私が・・・私がエステルの言うことを聞いてれば良かったっ!!
タコの・・・タコのせいなんかじゃ全然なかったっ!!
私は貴方の・・・貴方のせいにして・・・あなたを傷つけたのっ!!」
「・・・うん。」
「だから・・・おしおき。
悪い子の私に・・・おしおきした。」
「・・・うん。」
「私、死んじゃえば良かったのに。」
「・・・。やまい。」
「何?」
「やまいは僕が死んだってグリューネに聞かされたときどう思った?」
「・・・すごく悲しかった。」
「僕だってやまいが死んだら悲しいよ。少なくとも、それと同じくらいには。」
「・・・でも、私は悪い子だから・・・」
「何を言ってるのさ。やまいはとってもいい子だよ。グリューネを助けるためにこんな遠くまで来て、誰の助けも借りずに、傷つきながらも今は助けるための手段すらその手にしてる。まぁまだ助けるのには問題はあるけどさ。そんなこと・・・悪い子ができるはずないじゃない。」
「・・・。」
「やまいを悪い子だなんて言う奴がいたら僕がぶっ飛ばしてやるっ。」
「・・・私は・・・悪い子じゃないの?」
「それがたとえやまい自身であっても。
今度そんなこと言ったらひっぱたくよ。」
やまいは大粒の涙をこぼし続けた。
ずっと。
ずっと。
日が暮れるまで。
僕も涙を流す。
やっと仲直りできて。
やっとぎこちなさが無くなって。
それが嬉しくて僕も一緒になって泣いていた。
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