タコのグルメ日記

百合姫

飼おう!

さて、軽い朝食もほどほどに。
まずは学園に行く必要があるだろう。
どうやったら学園に入学できるのだろうか?
いや、入学しなくてもいいか。
入学しても一緒にいられるかは分からないし、魔法薬の勉強は完全にやまいにまかせて僕は材料集めに奔走するのがいい。
少なくとも今のところは。


「やまいはどんな薬を作ろうとしてるの?」
「元気になる薬。どんな病にも聞くからって・・・先生が言ってた。」


元気になる薬って・・・アバウトだなぁ。


「姿かたちもなくなったんでしょ?
どうするの?」


どうするの?
とはどう使うの?ということだ。
スプリンクラーでも使って撒き散らすのだろうか?
ドリアードといえば木の精霊とかそんなイメージがある。
森自体をなんとかこうにか元気づければいいのか?
話を聞くにエネルギー切れで消えてしまったのだ。
そのエネルギーを補給できる栄養剤的なものができたとして、どうやって使うのだろう?
適当に森に撒く、効果はありそうだが、効率的じゃないように思えるし、あの森はちょっとした島並みの広さがある。いつぞやに聞いた話では一つの国を飲み込めるほどには広い。
そんなとこに薬を撒き散らすと思うとそれこそ億万トン、ヘタをすればそれ以上の魔法薬が必要になる。
個人で出来る限界を超えているだろう。


「も、森に撒くの。」
「あの森がどれだけ広いかもわからないでしょ?」
「う、うん。でも、たくさん作ってそれで・・・」
「二人だけで?」
「た、タコはいいよ!
私がやる。私のせいだから・・・」


確かに軽く聞いた状況ではやまいのせいと言えるかもしれないが、そんなもの一分もあれば十分というレベル。
ほぼすべて欲に駆られた人間のせいだろう。
僕がいれば蹴散らしたのに。
などと過ぎたことを言ってもしょうがない。
魔法薬をどうするか。
実際に撒き散らすには量も時間も手間も尋常ではすまない。
まぁなんにせよ元気になる薬とやらを持っていくのは賛成だ。
もしかしたら核的な木があってそれにふりかければちょちょいのちょい・・・というのはちょっと楽観にすぎるか。そんなのあるかもわからないし、あったとしてどうやって探せばいいのか見当もつかない。
木を隠すなら森の中。文字通り、見つかりにくいことこの上ないだろう。見分けることができるかも怪しい。
それに広さだって昔よりもさらに広くなっているだろう。
なおのこと厳しい話になる。


「タコ?」
「べったり甘えてきたと思ったら変なところで甘えないんだから・・・僕も手伝うからね。」
「で、でも・・・」
「どうせやることないし。」


森に帰ったところで日頃ただ美味い動物を探して歩くくらいなもの。
迷惑をかけると思ってるなら考えすぎだ。
そもそも家族なんだから、とか水臭いとか言いたくなったが、そこは言わなかった。
さすがに良い歳こいてそういう言葉は青臭すぎて恥ずかしい。
男たるもの行動で示すのだ!!
というのはまぁ恥ずかしさをごまかすための方便なのだが。というかこの言葉も言葉でクサい。


「必要な材料はもう集まってるの?」
「う、ううん。」
「そういえば今はどこで泊まってるの?」
「えと・・・学園の寮。」


そうか。
ではそこに住まいを移動しようと思ったのだが、保護者的立場の人間が子供の寮に押しかけるって・・・ちょっと以上に過保護というか、ヘタをすればいじめのネタになるんではないだろうか?
そもそもこの年頃ともなれば一人でいられる部屋も欲しくなってくる頃に違いない。


「それじゃ一度戻って・・・」


と言うと、ついっと裾を引っ張る感触が。


「タコも行く。」
「いや、学生の寮でしょ?僕が行くのは・・・」
「や。」


そうでもなかった。


「わがままを言っちゃダメだってグリューネに言われなかった?」
「・・・わがままじゃないもん。それにそんなことドードは言わなかった。」
「あ、そう。確かに言わなそうだ。というか彼女は言う側だった。甘味甘味とうるさかった気がする。」
「ドード・・・」


あ。やまいが沈んだ顔をする。
思い出させてしまったか。
若干気遣いが足らなかった。


「分かった。それじゃ一緒に住もうか。」
「う、うん!」


満面の笑みを浮かべる。
そこまで嬉しいと思ってくれるとは・・・嬉しいです。
こっちまで笑顔になる。
え、規則?
わがまま?
おいおい。それは人間を対象としたものだろう?
人間の法律は人間を裁くためにあるもの。
タコの僕には知ったことではないのだ!


僕は何も自分が人間ですなんてこと一言も言ってない。
人間の形をちょっと真似たら周りが勝手に勘違いしたのだ。
別に隠してなどはない。「君人間ですか?」と問われればタコです!と正直に答える気満々である。デビルイーターですとは言わない。だって僕の国ではこういう生物をタコと呼ぶのだから!
とまぁ変な自己弁護はここまでとして。


ティキに寮行ってくる、人助けにお金を使いたいならその分は自分で稼いでおくようにと言ってやまいの住む寮へと行くのだった。
残されたティキは唐突な展開に「え?」とだけ言って固まっていた。


☆ ☆ ☆


となるとちょっと困ったことが発生する。
ユグドラシルどうしよう?と。


もともとはこの亀、背に背負った木から木の実ができるらしく、その木の実はとても美味なのだとか。
木がへし折れていたのはその木の実が課題だった生徒がいて、その生徒が乱暴に、それこそ「木ごとすべてぶんどったるわー」みたいな感じで欲張り、乱暴を働いた結果、この亀は怒り狂ったのだろう。
魔獣=生活の糧で殺せるなら殺してお金に変える、みたいな扱いであるこの世界では、わざわざ亀を見逃すようなことはない。
この亀が死んでないということは生徒が、それこそ木の実をよじ登って取っても怒らないほどに温厚だったユグドラシルの突然の怒りっぷりに戸惑ったか、攻撃を受けたか。
なんにせよ、このユグドラシルの木から美味しい木の実が成ると考えればこいつをただ締めて食べる、という選択肢は愚策である。
もとい僕は亀を家畜として飼おうと思ったのだ。
餌は木。たまに屍肉というのだから餌代も基本的に大丈夫。
木なんてそれこそ大きな都市にでも行かない限りどっかかしらには生えてるし、肉はそのへんの動物を狩って食べない場所、不味い部位を食べてもらえばいい。
生ゴミ処理にも使える。


できればオスメスを揃えて繁殖も狙いたいほどだった。さらに滅多なことでは他生物を襲わないというその親和性。
まさしく家畜オブベスト。


ただ難点は個体数が少ないということだけ。
この亀がオスメスどっちなのかの見分けもしないといけないし、そのためにはもう二、三匹捕まえて、性差がどう体に現れるのかも見ないといけない。
なかなか面倒だが、それに見合う価値はあると思うのだ。
爪は何かしらの薬にも使えるようだし。


と思っていたら、やまいもそのことに思いたったらしく、しかし問題はないとのこと。


「使い魔用の飼育場?」
「うん。だから多分・・・大丈夫。」
「そう、ならそこに一縷の望みをかけますか。できなきゃ捌いて食べてしまおう。」
「うん!」


捌いて食べてしまおうという言葉を聞いた瞬間に元気なお返事。
・・・ちょっとお気の毒だ。


とういうわけで宿屋から吸盤付きのタコの足だと目立つので猫の尻尾のように形成し、毛を生やした触腕をお尻から生えてるように筋肉を動かし、それで巻きつけて運ぼうと思ったが、一晩経って落ち着いてるようだし、このまま連れ歩く、のはちょっと不安がある。
やはり巻きつけて持っていこう。
しゅーしゅーと威嚇音的な物を出すが、無視する。
不安だろうが、別に悪い扱いをするというわけではないのだ。
もうしばらく我慢してもらいたい。


「別に喰わんから。落ち着け。」


ま、言語は通じないと思うが、しゅーという威嚇音は止み、じっとするようになった。
ん?
ああ、あれか。僕の言葉は魔力で変換云々だったっけ?
こっちの言葉はわかるのかもしれない。
あっちの言葉がわからないのは相手の魔力云々というよりも意思疎通の手段として言葉の概念がないから、だと思われる。
ならば話は早い。
君の背中の折れた木を治すのと、餌をあげる、なおかつほかの外敵から守る代わりに背中の木から出来る実をくれ、そしてこれから一緒に遠くに来て欲しいということを伝えると快く快諾してくれたようだ。
すぐ後をのっそのっそとついてきてくれるようになった。


あまりに好条件だとそれが本当か怪しんだり、遠慮したり、もっと恩返しを!みたいなことを人間ならば言うところだろう。しかし亀にそんな思惑があるはずもなく。
この調子ならオスだったからほかの仲間、特にメスはどこ?ということを聞くと、しゅーしゅー言って、教えてくれた。のだろう。


実際は分からんが、とにかく後日改めて彼には案内をしてもらう。
ここまで簡単についてきてくれることになれば、メスもラクラク確保できるかもしれない。


そんなことをユグドラシルの―名前はザーボンにした。
グリューネ・ドドリアがいて、なぜザーボンがいないのかと思ったので。
これでザーボンさん、ドドリアさん、お行きなさい!という名言が・・・まぁどこで使うのだろうという使いどころの難しさがネックである。
そもそもドドリアさんは現在、よくわからなん状況に陥ってるし。


そんなことを考えてるとプリンセス学園の校門前についた。
道中様々な学校が建っていたが。


「でかい。」


そう、デカかった。バカみたいな大きさを誇った。
生徒収容数が余裕で万に行きそうなレベル。
この世界ではかなりの大きさの建物と言える。ヘタをすればそのへんの王城とかが掠れて見えるくらいに大きい。王城、見たことないけど。


「こっち。」
「う、うん?ああ、飼育場ね。」


やまいが僕の手を引いて案内をする。
5分くらい歩いたところでそこには、これまた広い飼育場である。
下手な牧場よりも広いに違いない。


「いらっしゃーい・・・おや?
見ない顔ですね。」
「使い魔、預けにきた。ここで大丈夫?」


職員さんが当然いる。
だぼっとした作業着に身を包んだ角刈りの男の人だ。
おっさんと呼べる歳ごろか?優しい目元が印象的である。
30後半かな。


「ここの利用は初めてかい?」
「うん。」
「その胸の飾りを見るに、薬剤科の生徒さん?」
「やまい。」
「そうかやまいちゃん。えと、ここの牧場について知ってることはどれくらいだい?」


やまいの応対がなんかぎこちないというか、下手くそというか・・・学園での友達いるのだろうか?
会話能力があまりないのかもしれない。そのへんはおいおい僕と話していけば直していけると信じて、それよりも気になる目上の人間に対するタメ口を注意するべきか?
敬語を使うべく言っておくのも・・・今はいいか。
まだ再会して間もないし、うるさく言うのは徐々にでいいだろう。


気を取り直して、やまいと一緒に職員さんのオルベインさんの話を聞く。
注意事項や、餌代を毎月何日に収めに来るように、来なかったら預かってる使い魔は殺処分されるみたいな話を含め、細かいことを丁寧にわかりやすく説明してもらう。


「えっと預けたいのはこの子なんですが・・・」
「おお、珍しいね。ユグドラシルとは・・・それよりも・・・お姉さん、かな?わかってるとは思うけど、外を歩くときは勲章シンボルをつけておかないと、治安部に怒られるよ。気をつけてね。あまりうるさくは言いたくないけど学園に務める人間としても一応注意しておかないといけないし。」


苦笑しながらそう言うオルベインさん。
シンボル?
なんぞそれ?
と思ったが、おそらくやまいの胸の飾りのことを言っているのだろう。
どうやらそれぞれの学科で形が違うらしい。
そしてオルベインさんの話が本当ならば、学園内で行動するには僕も学園に入ってシンボルとやらを手に入れないとダメ、ということに。
日本で言うところの制服替わりにあたるのだろう。


確かにそういう分かり易い目印が無ければ、治安的にまずいことになる。


入って、やまいの手伝いをしつつ、素材集めを僕がやる。というのが当分の目的になりそうだ。
僕の見た目如何によってはこの場で治安部とやらを呼ばれていたに違いない。
美少女を形どっていて良かった。







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