タコのグルメ日記

百合姫

ツインちゃん

「はっ!!来るならきやがれっ!!おがぁっ!?」


迎え撃とうとするマキシマム君を僕は尻尾で横合いに弾き飛ばす。
土まみれになるマキシマム君。
すまない、マキシマム君。君の犠牲は無駄には・・・これ二度目だ。
やめとこう。


そしてマキシマム君がいたところを踏み荒らして突き進むユグドラシルはそのまま木にぶつかる。


「な、何しやがんだっ!?てめぇっ!!」
「立ち向かう必要なんて欠片も無いでしょうが。もっとしっかり考えなよ。そのままいたら・・・ほれ。」


僕の指差す先はユグドラシルの大きな足の跡がぼっこぼっこ付いた地面。
普通にスプラッタになっていただろう。
防具で防御できるとかそういうレベルじゃない。
なにせ、


「・・・でかいなぁ。」


立派であったと伺える背の木が半ばで折れてるものの、それでも軽トラくらいの質量はありそう。
こんなのをよく真正面から受け止めようと思ったものだ。僕だってまず避けることを考えるほどの重厚感。
それとも・・・


「な、なんだコラッ!?」
「いや・・・ビビって動けなかったのかなぁとか思ってないよ。」
「び、ビビってなんかねぇしっ!!」


車に引かれそうになった猫がビクッとなって一瞬動きが止まるみたいなそんなかんじかな。
そして、フラフラと頭を振るユグドラシルに盾を振りかぶってツッコむツインちゃん。
だから特攻はやめいと、いや、この場合チャンスか。
チームワークがちぐはぐである以上仲間を当てにするより一人で特攻する方がすぐ解決する。


が。


ガンと盾を弾くユグドラシル。
うん、ですよね。
そもそも武器じゃないもの。防具だもの。そんなもので亀の甲羅が砕けるはずがないもの。


そこで日向さんの魔法が発動する。
徐々に慣れてきたきがする。
これで終わればと思うものの、多分これは・・・


「き、効かないです!?」
「だろうと思った。」


炎の球が亀の甲羅にはじかれる。
実に頑丈な甲羅だ。
大きさがちょっとした車くらいにもなると甲羅一つも装甲車並みの防御力を誇るのだろう。ちょっと焼け目がついただけだ。
さて、この三人にはちょっと荷が重い。
時間がかかりそうでちょっとうんざり。したところでふと思ったんだけど、もう僕が倒してツインちゃんに爪あげてもうとっとと終わらせるのが一番良いのではないかということに今更ながらに気づかされた。
というかこれ以外の選択肢が思い浮かばない。
なぜこんなことも思いつかなかったのか。
始めから僕がすべて取ってあげればこんな面倒な子守をせずとも、余裕で片付いたのではないだろうか?
そう気づいた。
彼らのためにはならない。これは彼らの試験だと思ったけど、見るのもまた勉強である!
そうだ。そうに違いない。
サポート?
もう面倒くさい。
だるい。
厳密にサポートをどこまでやるかは言われてないし、怪我しないように、ある程度のピンチになったらと言われていたのだ。
攻撃通じない=ジリ貧。
もといピンチ。
もう、ゴールしてもいいよね。


というわけで、ユグドラシルを尻尾で縛り付けて裏っ返す。
当然暴れるわけだが、そうして暴れる足ごと巻きつけて動けなくしていく。


サバイバルナイフで爪を削り取り、ツインちゃんに手渡した。


「・・・。」


僕を見る3人が揃いも揃って驚いていた。
もしかして爪というのは例えで、実際はどこか違う部分なのだろうか?
ティキまで驚いてるのは何事か。結構長いあいだ一緒に旅してたでしょうに。
ここまでとは思わなかったってところだろうか。
ツインちゃんだけは少し驚いた様子を見せたような見せてないような。
一瞬のことでイマイチ分からなかったのだが、とりあえずただ普通に爪を受け取って、ありがとうと一言だけ。


こうして結果的には一日で終わった課題。
彼らが今回の課題で優秀賞を取るのはまた別の話である。


☆ ☆ ☆


で、終わって帰る際、マキシマム君に呼び止められた。
背後にはほかの二人もいる。


「手を抜いんてんじゃねぇ・・・とか言いたいの?」
「ち、チゲぇよ・・・オメェの仕事はサポートなんだろ。」
「・・・おおう。」
「なんだよっ!その珍しい素材を見たような目はっ!!失礼だぞっ!!」
「いや、まぁいろんな意味で珍しいけど・・・じゃなくて、たしかに悪かった。それで、本題は?」
「いや、別に・・・その、れ、礼を・・・」
「ぼそぼそ言われても聞き取れないよ。」


実は余裕で聞き取れてますが。難聴なギャルゲ主人公と一緒にされては困る。


「あ、ありがとうございましたっ!!」
「・・・っ!?」
「れ、礼は言ったからなっ!!」
「どういたしまして。とはいえ・・・これは仕事だからね。」
「優秀賞を取れたのはお前のおかげだって思ったから・・・つかっ、うるせぇっ!!」


どっちがやねん。
とはいえ微笑ましいではないか。
ちょっとだけ見直したぞ、少年。


「そっちのティ、ティキさん?も・・・ありがとうございました。」
「え、あ、ううん、君の力になれたんだ。私はそれで満足だよ。」
「そ、そうかよっ!んじゃもう会うことはネエだろうが、じゃ、じゃあなっ!!」
「うん。」


微笑ましい光景だ。もう一度言おう。さして大事なことでもないけれど。そのままマキシマム君は帰っていった。分かっていたことだけど二人とは友達でもなんでもないのか別れるのになんの感慨もなかったみたい。というか彼女たちも一緒に戦った仲間なのだから、彼女たちに対する礼は―したのだろう。多分。礼くらいはちゃんと言えるみたいなので。
行く前とあとでは二人の目の温度が幾分か和らいで見えるし、ツインちゃんはイマイチわからないけれども。




そのあとは日向さん。


「さ、さがしましたっ!!」
「やっほー日向さん。」
「お疲れ様、結芽ちゃん。」


どうでもいいのだけど、いつの間に名前を呼び合う仲になっていたのだろうか?


とはいえ半日以上、一緒にいればそれくらいの仲には・・・なるのかな?


「あ、あの何からお礼を申し上げればと思うのですが、でも、とりあえず、今回の優秀賞の礼を言うべきなのかもわかりませんし、ああ、でもやはりなんだかんだで守ってくださったことを喜ぶべきなのか・・・」
「落ち着いて。」
「は、はい。その、とにかくいろいろとありがとうございました。
特にアドバイスは・・・その、う、嬉しかったです。」


少し頬を赤らめて答える日向さん。
アドバイス?
なんかしたっけ?
ええと・・・ああ、戦いが怖いのはゆっくり克服してこうぜ~みたいなことを言った気がする。
ほかにも戦闘に関することをいろいろと・・・


「今日はなんだかんだでなんとか戦えたんだ。いつかしっかり戦えるようになる日がくるよ。」
「は、はいっ!
てぃ、ティキちゃんも慰めてくれて・・・守ってくれてありがとう。」
「別に構わないよ!
力になれたというのならそれで十分!!」
「う、うん!」
「そ、それでもしよろしければ・・・名前を教えていただきたく・・・あ、いえ、迷惑だったらいいんですけど!!」
「ああ、そういえばなんだかんだで言ってなかったね。タコだよ。」
「タコ?」


とツインちゃんが興味を示す。


「ええっと・・・す、素敵なお名前ですね。」


少し引きつった笑顔を浮かべる日向さん。
やはりこの世界でもタコという名前は変なのかもしれない。


「ははは、よく言われる。」
「よく言われるんですかっ!?」


そしてびっくりする日向さん。自分で素敵と言っておいて何故に驚くのか小一時間問い詰めたい。


「タコ?タコ?」
「なぜに連呼する、ツインちゃんよ。」
「・・・タコ?」
「連呼の定義は一息に何度も名前を呼ぶ、ということではないと思う。」
「・・・タコ?」
「いや、だからなぜれん・・・ループに入った?」


ツボにはまったのだろうか?
タコだけにっ!!
・・・どやぁ?


我ながらあまりにうまい考えがよぎってしまい、思わず吹き出す。
ただ、残念ながら日本人じゃないとわからないこの巧さ。


「タコって・・・あのタコ?」
「君の知ってるタコがどのタコかによるなぁ。というか僕は僕以外のタコを知らん。」


この世界じゃデビルイーターって呼ばれてるし。
海のタコはどうなのかわからんが。


「豊穣の森に住んでるタコ。」
「今は住んでないね。というか今から帰るところ。
僕、帰ったらグリューネと結婚するんだ。ていうかなんだかんだで結局あれから何年経ってるのかもよくわからんし・・・」
「やまい。」
「うん?
ああ、そうだね。やまいと結婚するのもいいかもね。
・・・やっぱりないかな。年齢的に。」


そもそもタコに結婚制度はない。


「やまい。」
「いや、ツインちゃん。君のマイブームなの?
個人名を連呼するのが?
・・・ん?僕、やまいの名前を口にしたっけ?」
「だれ?」
「・・・いや、こっちのセリフだから。つか、知らない人の名前を口にしたんかい。」
「知らない人じゃない。やまいは私。」
「そうかい。確かにそら知ってる人と言っていいいいいいいぃぃいいいぅうううあっ!?」


僕はすごい勢いで首をグリンと動かし、やまいと名乗る少女と目を合わせる。


「は?」
「やまい。私の名前。」
「・・・うううん?」
「やまい。私の・・・」
「いや、聞いたから。」
「タコ・・・顔違う。」
「あ、ああ。本当の姿を見れば・・・見せるわけにもいかないか。街中でそれはちょっと厳しいかな。んじゃ顔だけでも・・・」


人が注目してないのを確認してから、前に使っていた顔の造形を思い出してかたづくっていく。
そして完成したのはよく使った昔使っていた美少女顔である。
筋肉の感覚で作ったので詳細は違うかもしれないが。
視界の端で日向さんのせっかくの美少女顔がすごい形相で台無しなっているのを捉えた。


するとそれを見たやまいはその可愛らしい目をくぱぁと見開いて、涙を流し始めた。


「・・・ううう・・・あああああああああ。」


そのまま泣き出してしまった。
周りにいた生徒たちや教師の目もはばからず。


☆ ☆ ☆


泣きながら寂しかったとか、嘘付いちゃダメとか、帰ってこなくて辛かったとか、今まで大変だったとか、ドードが死んだとか、え?彼女死ぬの?何があっても死なない感じがしてたけど、焦って詳しく聞こうとしたら、それで生き返らすためにここにいるとかかんとか。
とにかくすごく大変な思いをしてきたようである。


「・・・よしよし。」


とりあえず抱きしめてナデナデし続けるだけの時間が1時間は続いたのであった。




というか僕も気づけよな。
予想以上に美人系美少女さんとして育っていたので見たような気がする程度でしか気付けなかった。
折れた角痕が前髪で完全に隠れていたのもまた気づけなかった理由の一つだ。
彼女がつかった黒いあれはくろもやさん。
そして彼女は邪竜の加護の副作用をどういう顛末か、緩和したらしく、しかしその彼女の力は変わらず不用意に使えないものであった。
力を使うと一時的に緩和作用が弱くなり、周りに疎まれるという・・・その予兆はあったはずなのだ。
嫌味を言わなきゃ気がすまないマキシマム君。
日向さんに対する対応とやまいに対する対応では明らかに違った。出来の悪い脚本に出てくるような悪役じみたしょうもないことばかりだ。
確かに子供らしい振る舞いだったが、それゆえにわかりづらかった部分がある。
そして日向さんの誤射の件。
バカじゃない。決してどんくさいわけではないのだ。
彼女のバトルセンスはなるほど。名家と言われるだけはある。
才能という点では僕には及びもつかないだろう。
そんな彼女が誤射なんて言うミスを何度もおかすか?
あれはワザとだったのだ。
『彼女みたいな人にもできるのに~』とも言っていた。日向さんの性格的にここまであざとく他人を見下した言葉を吐くだろうか?
そして、二人がそうしたハッキリと嫌な行動に出たのは、そう。
やまいが魔法を使った瞬間から徐々に、という形である。


そしてこれでツインちゃん、いや、やまいが彼ら二人に怒らなかったのも頷ける。
自分が悪い。それがわかっていたのだ。
自分が周りの空気をピリピリさせている。
それがわかっていてどうして彼らを怒ることができようか。


邪竜の加護に頼らず戦えばいい。
でも、彼女の体は薬によって人形のような精神と鎖落ちた角とやせ細り、今にもちぎれ落ちそうな尻尾。
それから回復したと言っても、限界があるのだろう。
予想以上に体にダメージが、後遺症があったのかもしれない。


ヤケに目立った体力の低さ。
合点が行く。
もしかしたら筋力や寿命といったものも極端に落ちているのかもしれない。


これだけ聞けばもう、わかる。いや、わからないだろう。
わからないだろうけれど、決して分かることはできないだろうけれど、その苦労がわかるほどの簡単なものではない。ということだけはわかってしまう。
もともとここ学園都市はポリプス騎士街から出てちょっとの場所。
豊穣の森からまだ5ヶ月近く、馬車で乗り継ぎする必要がある距離はあるのだ。
そんなところからここまで来るのにどれだけの苦労があったのか。
想像を絶する。
それを・・・こんなか細い体で。
グリューネのためにどうすればいいのかを一人で考え、どうすれば助けることができるのかをどうにかして知り、助けるためにこんなところまで来たというのだ。
それははじめての連続だったろう。
辛いことの連続だったろう。
苦しいことの連続だったろう。
楽しいこと、なんてのは少なかったろう。


ただただグリューネを助けるためにここまで来たのだ。
僕がいなくなり、たった一人の家族になってしまった彼女を助けるために。


「よ、し、よし・・・。よ、しよし・・・。」




気づけば僕も泣いていたのだった。



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