セブンスソード

奏せいや

80

「今日は、来てくれて、ありがとうね」

 気丈にそう言う父親はそれだけですごいと思う。彼の隣では駆の母親が夫の腕に抱き付き泣いていた。

 泣いている母親の姿に、一花は泣きそうになるのをぐっと我慢した。

「一花おねーちゃん」

 そこで駆の妹である苺が話しかけてきた。

 そして言うのだ。何も知らない顔をして。

「ねー、お兄ちゃんどこにいるのー?」

 苺の問いに、一花は固まった。

 その後しゃがみ込み、そっと答える。

「駆は……」

 声は震えて、うまく喋れない。

「駆は、遠い場所に行ったんだよ……」

 言っていて、悲しくなってくる。

「とおい、ばしょに……!」

 言葉にするとどうしようもなく意識してしまって、感情が溢れてくる。

 我慢できなくなって、一花は泣いてしまった。どうして泣いているのか不思議そうに見る苺の前で。

「ああああぁああぁあああ!」

 泣いた。泣いた。一花は泣いていた。多くの涙を流して。

「駆ぅ! かけるううう!」

 我慢できない。何度だって涙が溢れる。

 泣いて、泣いて、泣いて。

 苦しんで、悲しんで、後悔して。

 それでも変わらない現実に、彼女の心が絶望していく。

 ずっと続いていくと信じていた未来が閉じて、一花の時間は止まったままだった。

 みんな。みんな。みんな。

 みんな、おかしくなっていた。駆が死んだ。その出来事が、唐突に訪れた絆の終わりに胸を打ち抜かれていた。

 固い絆だったからこそ、失われたショックは大きかった。その傷跡に精神は削られ、三人は自分を追い詰め、おかしくなっていた。正常な心も判断も失った。

 その時だった。

 彼女が現れたのは。

 ジュノアは彼ら三人を体育館倉庫に呼ぶと、そこでデビルズ・ワンの説明をし、実際に悪魔を召喚してみせた。

 三人は驚愕した。幻想でしかなかったものが今、目の前にある。

 そして、彼女が言った言葉に心が惹きつけられる。

 なんでも願いが叶う。

 半信半疑な中、一花は前に出て、彼女に尋ねる。

「駆が、生き返るの?」
「そういうのも叶いますねえ」

 瞬間、目の色が変わった。

 必死だった。疑うことをしないほどに。

 駆が亡くなって、彼らは大切なものを失った。

 けれど、デビルズ・ワンをきっかけとして再び信念がよみがえる。

 一人は秩序のために。
 一人は自由のために。
 一人は、かつての約束を果たすために。

 それぞれが、それぞれの道を歩み出していく。

 失くしたものを叶えるために――

「誰も犠牲にならない、完璧な秩序を作ってみせる!」
「誰もが奪われない、完全な自由を作る!」
「私は、駆を絶対に救ってみせる!」

 それはどんな願いすら叶える奇跡の儀式。唯一の希望に三人は挑んでいく。

 それぞれの信条が、信念が、想いが、デビルズ・ワンに注がれる。

 望んだもの。

 それ以外、なにもいらない。

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