セブンスソード

奏せいや

71

 聖治が神剣を勢いよく振るう。黄色の一閃が闇に煌めき、瞬間世界に光が満ち闇は吹き飛んだ。

 光がなくなり視界は元の学校に戻る。闇から脱出した。

「ちぃ!」

 一花の表情が大きく歪む。

 聖治はスパーダを使い分け、一花は闇を巧みに使い攻防を繰り返す。

「うおおおお!」
「はああああ!」

 闇が漂う校庭で、いくつもの剣閃と打撃の音が響く。

 激突が、激闘が、激しさを増していくほどに二人の感情も高まっていく。

 優勢なのは聖治だ。魔皇剣の精神攻撃は着実に一花にダメージを与えている。長引けば不利なのは一花の方。さらに闇送りによる完封が出来ず打撃しか回答がない。

「もう止めるんだ一花! これ以上戦ってなんになる!?」

 聖治は魔皇剣を振るいながら叫ぶ。刀身の赤い線が残像となって空間に浮かぶ。

「黙れ! あんたには関係ないでしょう!」

 それをかわし、一花が拳を構える。

「駆が悲しんでるのが分からないのか!」

 だが、そこで動きが止まった。

「お前が変わって、傷ついて、あいつが悲しまないとでも思ってるのかよ!」

 動きの止まった一花にグランを突き刺す。一花は咄嗟に両腕でガードするも後ろに引きずられる。

「だったらなに!? 私がなんだっていうのよ! そんなに悲しいなら私なんて忘れて、他に友達でも作ればいいでしょ!?」

 翼を広げ宙に舞う。そこから急降下し跳び蹴りが聖治を襲う。

「それが出来ないから悲しんでるんだろうがああ!」

 聖治の聖剣と一花の跳び蹴りが激突した。力は互角、聖治の片手と一花の足が弾かれる。

「そんな簡単に割り切れるか! 友達なんだろ? お前はどうなんだよ! お前はそんな簡単に、『駆のことが忘れられるのか!?』」
「――――」

 瞬間、聖治の叫びに一花は完全に意識が移っていた。

 戦う中で、全力を出し合い、なにより聖治が何度も訴えるその叫びに、一花は思い出してしまった。意識しないよう、忘れようとしていた感情が後ろから肩を掴む。

(ああ、そうだ、私は)

 それは戦いでは油断でしかない大きな過ちだった。でもそれでも思ってしまう。

 それは、彼女の原点だったから。

 目の前で剣を構える少年を見ながら、一花は思う。

 そうね、その通りだわ。この男の言うとおり。

 簡単には割り切れない。泣いて、苦しんで、悲しんで。

 忘れるなんてできない。割り切るなんてできない。

 できないから、私はこうして、戦っているのに。

 だけど、

 だけど、

 だけど。

 割り切って欲しかった。

 忘れて欲しかった。

 私が望んだもの。私が叶えたいもの。

 ごめんね。ごめんね。

 だけど大丈夫。今度こそ。今度こそ。

 私は望んだから。そのためにすべてを失うことになろうとも。

 そのためなら。

 それ以外は、なにもいらない。

 そう、決めたのに――。

 それは一瞬の回想。だがその隙を見逃すほどこの男は甘くない。

 聖治が構える。それは今までの構えとは違う。スパーダを腰に当て剣先は背後を向いている。それはまるで居合いのような、振り抜く姿勢。

(まずい!)

 一花も前面に闇を展開し防御を築く。打ち消されてもいいように何重もの壁が塞がる。

 だが無駄だ、魔術も概念も切り裂く紫電(しでん)の煌(きら)めき。

「天黒魔」

 紫の一振りが、すべてを終わらせていた。

「あ」

 闇はすべて切り裂かれ、一花の胴体から翼までも斬っている。

「が、あ……」

 一歩、二歩と後ろに下がる。斬られた傷口に手を当て自身の血を見た後、足が崩れその場に倒れた。

「ぐ……う、う……」

 一花から苦鳴が聞こえる。かなりのダメージだ。もともとカリギュラで疲労困憊、そこに天黒魔の一撃だ。無理もない。

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