セブンスソード

奏せいや

70

 聖治が持つスパーダがピンク色に輝いている。その光が腹部を覆い傷を治していた。ディンドランを発動している間聖治は治癒だけでなく異能耐性と物理耐性を持つ。今なら攻撃を受けても軽微で済むしすぐに回復できる。さらに闇送りによる一部欠損も利かない。ディンドランがある限り一花の手持ちでは聖治を一撃で倒すことは不可能だ。

 聖治は拳を突き出している一花にスパーダを振り下ろす。驚きに一瞬我を失う一花も気を切り替え即座に後退、聖治の攻撃をかわした。

「ち」

 仕留め損ねたことに一花が舌打ちする。

 二人の距離が離れる。戦況は膠着している。どちらも決定打に欠ける。聖治は闇を無効にできるものの一花の肉体を一撃で倒そうと思えばグランだが、空間転移に応じるにはエンデュラスが必要になる。

 一花は空間転移で攻撃を当てることは出来ても聖治の物理耐性を一撃で倒せるほどではない。

 どちらも相手を倒すなら有効打を連続して当てなければならない。それは光帝剣、空間転移を使う二人には困難なことだった。

 無闇に戦っていては駄目だ。勝てる状況を作らなくては。

「…………」

 一花への回答。それを聖治は悩んでいた。それはあるかどうかではなく使うかどうか。この状況を打破する術を望んでいる。

 だがこれを使っていいものなのか。それは打開などという生やさしいものではない。

 この魔剣はそんなに優しくない。

 使えば破滅、それだけだ。

 だがこれでしか道が開けないというのなら。

 聖治は切り替えた、光も闇も滅する暴力。その名を告げる。

「カリギュラ」

 赤の発光。それは一花の赤よりもなお禍々しい鮮血を思わせる色だ。神剣は紅の魔剣に変わりその悪性を発揮する。本来カリギュラは周囲への減退を行う。だが七段階の能力を解放している今ではその限りではない。

 カリギュラが持つ第二の能力。それを発動する。

「汚染(ポリューション)」

 魔剣が発光する。一花はそれを直視した。してしまった。

 直後、胸が抉られる!

「あああああ!」

 瞬間襲われる苦痛に一花の悲鳴が広がる。頭と胸を押さえるが彼女の肉体に異変は見られない。攻撃は肉体にではない。

「精神、攻撃……?」

 スパーダを七本所持している魔皇剣カリギュラは見るだけで精神汚染をしてくる最悪の剣だ。心の弱い者なら斬るまでもなく破滅させる。

 一花は片手を頭に当てる。気持ちが悪い、最悪の気分だ。すぐにでも昏倒しそうなほど。事実、これが魔人化前の一花なら卒倒していた。

 さらに追い打ちをかける。

「暴力(カリギュラ)」

 刀身から放たれる赤い霧が辺りを覆う。それは触れたものを滅ぼす呪い。一花も例外でなく体力から魔力、寿命や運気まであらゆるものを略奪されていく。空間転移しようにもカリギュラは闇と同じく空間攻撃。逃げ場がない。

「ぐううう!」

 一花は魔皇剣の影響でひるんでいる。だが、諦めるわけにはいかない!

「はあああ!」

 体は蝕まれ、精神は犯され、それでも折れぬ心で突き進む。

(まだこんな力が?)

 一花の拳が聖治に迫る。たまらずミリオットに切り替え防御した。それによりこの場を襲っていたカリギュラが消える。

 すさまじい執念だ、この戦いに挑む理由がなんであれ、彼女の意志は本物だ。

 一花も今の力で理解する。この勝負、長期戦で不利なのは自分の方だと。だからこそ強行する。一花は防いだスパーダの刀身を掴まえ、さらに聖治も掴んだ。

「なに!?」
「私と共に来てもらうわよ!」

 闇が二人を覆う。

「くっ!」

 どうすることもできず聖治は闇に飲み込まれていく。

 気づけば暗闇の空間に浮遊していた。浮かんでいる。まるで宇宙を漂流するように。立っている感触がなく、なによりどこが下でどこが上かも分からない。

 なにもない空間だ。距離すら分からない。ここから脱出しようにも出口が分からず、破壊しようにも空間ゆえに破壊しようがない。

 闇送り。一度閉じ込められては脱出不可能の、ここは別空間。

 しかし聖治には扉を開ける鍵がある。闇だろうが無限の牢獄だろうが、世界の異物は払われる。

「パーシヴァル!」

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