セブンスソード

奏せいや

63

「う、う、ああああ」

 それを思い出し駆は泣いた。捨てられた。家族という最も信頼できる人に。その時の心の傷は深い。きっと一生をかけても癒せない爪痕だ。

「そうだったんだ……」

 泣きじゃくる駆に一花も暗い顔をする。駆の痛みが一花なら分かる。

 一花は立ち上り床に投げ捨てられたハーモニカを拾いに行く。床に落ちたハーモニカを手に、それを再び駆に手渡す。

「吹いてよ」

 優しい声でささやく。暖かい、温もりすらある声で。

 ハーモニカは駆にとって辛い思い出だ、見るのも嫌な物だと知っているはずなのに、それでも彼女は吹いてと言う。

 一花の声に駆は泣くのを止めて顔を上げる。

 そこにいる彼女は、優しく笑っていた。

 悲しみに沈む駆に一花は言う。

「私が聴いてあげるよ」

 ニコッと、一花は笑う。

 その言葉に心の穴が埋まっていく気がした。虚ろな部分が満たされていく。彼女の無垢な笑顔にはそれがある。

 親がいない。

 その欠損を補うように、どこかで求めていたのかもしれない。

 人との繋がりを。人の情を。

 駆は頷いた。

「うん……」

 差し出されているハーモニカを受け取り口に当てる。そして吹き始める。

 誰も聴いてくれなかった音を。

 誰にも届かなかった想いを。

 孤独の中、それでも必死に練習し、最後には誰にも知られなかった音色を。

 でも今は違う。

「あ、駆君がなにかしてる!」
「へえ、駆そんなのできるのか」

 駆の演奏に千歌と秋和も近づいてきた。駆は演奏を止め頷く。

「うん」
「ねえ、もっと聴かせてよ」

 千歌からのお願いに駆は再び吹き始める。自分が捨てられた時の音を。でも今は違う。
 ここにいる。自分の想いを受け止めてくれる仲間が。心の隙間を埋めてくれる家族が。
 自分は一人じゃない。絆がある。捨てられた悲しみも、裏切られた痛みも、すべて受け止めてくれる友達がいる。

 家族よりも大切な存在がある。

 無くしたくない。

 失いたくない。

 この、なによりも大切な一時を。

 それ以外は、なにもいらない。

 駆はいつまでもハーモニカを吹いていた。

 三人はいつまでも聴いていた。

 演奏が終わる。駆はハーモニカを口から離し三人から拍手が送られた。駆は照れるが表情は笑っている。拍手が終わり、そこで一花が笑顔で駆に近づいた。

「下手なんだね」
「ほっといてよ……」



 静まり返った教室。部屋は電気が付いていないために暗く、しかし窓から差し込む夕日とは別の赤い光によって照らされている。

 滅んだ世界。まるでそう連想させるほどここは静まり返っている。

 そこで駆は目を覚ます。机と椅子は教室の後ろに寄せられており駆はちょうど真ん中で一つだけ置いてある椅子に座っていた。足は椅子に黒い影で固定され、両手も後ろで縛られている。解こうともがいてもできない。

「起きた?」

 その物音で気づいた一花が声を掛けてきた。

 彼女は教壇に置いてある台に腰を下ろし足を組んでいる。横向きに座り顔を駆に向ける。教壇の方が位置が高いので自然と一花が見下ろす形になる。

 駆は一花を見上げた。無言で訴える。なぜこんなことをするのか。まったく分からない。なぜ一花がこんなことをするのか。なぜ自分がこんな目に遭うのか。

 なにも。何一つ分からない。

「どうして? そう言いたげな顔ね」

 駆の心情を汲み取った一花がそう言うと教壇から下り近づいてくる。

「でも知る必要はないわ。あんたはここで大人しくしてて」

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