セブンスソード
47
駆は屋上にいた。柵に背もたれ口にはハーモニカが当てられている。目をつぶり、きれいな音色を奏で続ける。誰に聞かせるわけでもなく。青い空の下、誰もいない屋上で。
俺が屋上に現れたのに気づいた駆が目を開ける。せっかくの演奏は止まってしまった。
「悪い、邪魔したな」
駆は顔を横に振りハーモニカをポケットにしまう。俺は駆の横に並んだ。
「ハーモニカ、うまいんだな。知らなかったよ」
駆は照れくさそうに顔を横に振る。
「好きなのか?」
聞くが、駆は少し考えてから両肩を上げた。どうやら好きでも嫌いでもないらしい。なんとなくだろうか。
「でも、演奏してる時の駆、良かったよ」
澄んだ空気があった。演奏している時の駆はどこか儚く寂しげな雰囲気があったが、けれどきれいだった。落ち着いていて様になっていたと思う。
駆はポケットからハーモニカを取り出した。片手に握られているそれを見つめる。その表情は少しだけ穏やかで、きっとこのハーモニカを吹いていると気が紛れるんだろう。小さな楽器から響く音色が彼の心情を鎮めていく。
今演奏していたということは心穏やかではないということだ。その原因は容易に想像できる。
「一花のこと、やっぱり気にしてるのか?」
表情が少しだけ暗くなる。目がほんの少しだけ細められ、しかしそれだけの機微でも彼が落ち込んでいるのが分かる。
「当然だよな」
なんと声をかければいいのか。駆の雰囲気に合わせ俺も語気の弱い声でつぶやく。
駆は訳の分からない連続だ。友人からは突現拒絶され、悪魔が現れ、友人たちが戦ってる。そんな人になんと言えばいいのか。
普通ならないだろう。想像もできない。
でも、俺にはある。俺だからこそ言える言葉が。
「駆。俺はな、昔駆と似た状況だった時があるんだ」
駆が振り向く。え、と驚いたような顔だ。それを見て小さく笑う。
「駆だから話すけどさ、俺は普通じゃない。知ってるだろ、剣を出したり消したりしたこと」
駆は頷いた。一花がピンチの時、その境地を救ったのは俺のスパーダだ。普通じゃない状況だったが俺のしたことも普通じゃない。
「ここに来る前な、俺はある儀式に参加させられていたんだ」
儀式。普段聞き慣れない言葉、そして俺が真剣に話すから駆も表情を真面目にしていく。
「セブンスソード。異能の剣を持った七人で行われる殺し合い」
駆の目が広がる。驚くのは当然だ。突然こんなことを言われれば。けれども話を続ける。
「そこには俺と、俺の友達も参加していた。強制的に友人と殺し合いをさせられるんだ」
話が続いていくにつれ次第に駆の表情が怒りにも似た剣幕を帯びていく。友人同士での殺し合い。友達を大事にしている駆だからこそ許せない話だ。
「ひどいもんだったよ。でもな、そんな最悪の儀式だったけど、俺たちはこうして生きている。それに友人として」
そう言って駆に振り返る。明るい表情を浮かべた。
「そんな状況でも、俺たちは分かり合えたんだ。今だって友達だ。だからさ、きっと駆も」
いつ殺されるか分からない恐怖と不安、疑心と苦悩。あの時、もし一歩誤れば狂気と殺意だけの、本当の殺し合いになっていたかもしれない。
時には励まして。時には笑って。時には戦って。
だけど。
絆はこうして続いてる。憎しみも嫌悪もない。みなが仲間として続いている。
それはちょっとした奇跡なのかもしれない。本当なら全員無事でも憎しみ合っていてもおかしくない状況だったのに。
それでも、こうして分かり合えているんだ。
できないはずはない。友達と分かり合うこと。それがどんな状況で、どんな事情があろうとも。
それを知っているから、俺は自信を持って言える。
「一花さんとだって分かり合えるさ」
ここに来た時の駆が浮かべていた寂しげな表情。それが次第に明るくなっていく。
駆は頷いた。さきほどまでなかった明るい表情だ。駆が元気になってくれて俺も嬉しい。
「うん。その意気さ」
駆の肩を軽く叩きながら俺も笑った。
「この街でなにが起きてるか今俺たちで調べてる。なにが分かるかはまだなんとも言えないけどさ。でも見過ごそうなんて思ってない。必ずなんとかする」
状況は混迷、事情は不明。なにがなんだか分からない。それでもすべきことをする。
「だから駆は待っててくれ。」
俺の思いが伝わったのか駆は頷いてくれた。きっと自分でもなにかしたいと思っているはず。なにもしないというのはそれだけで辛いものがある。それを我慢して俺たちに譲ってくれたんだ。
「悪い。でも、必ず解決する。約束するよ」
声かけに再び頷く。その顔はすでに元に戻っていた。俺も頷く。
「そろそろ教室に行こうか。このままだと一限目に遅れる」
俺たちはは屋上を後にした。
戻る途中並んで歩く駆の顔を見る。俺を励ましてくれた新しい友人。その人の役に少しは立てただろうか。彼の元気になった横顔が自分のことのように嬉しく思う。優しくしてくれた彼への恩返しも込めて。
「うん」
絶対になんとかしよう。俺は改めてそう思っていた。
俺が屋上に現れたのに気づいた駆が目を開ける。せっかくの演奏は止まってしまった。
「悪い、邪魔したな」
駆は顔を横に振りハーモニカをポケットにしまう。俺は駆の横に並んだ。
「ハーモニカ、うまいんだな。知らなかったよ」
駆は照れくさそうに顔を横に振る。
「好きなのか?」
聞くが、駆は少し考えてから両肩を上げた。どうやら好きでも嫌いでもないらしい。なんとなくだろうか。
「でも、演奏してる時の駆、良かったよ」
澄んだ空気があった。演奏している時の駆はどこか儚く寂しげな雰囲気があったが、けれどきれいだった。落ち着いていて様になっていたと思う。
駆はポケットからハーモニカを取り出した。片手に握られているそれを見つめる。その表情は少しだけ穏やかで、きっとこのハーモニカを吹いていると気が紛れるんだろう。小さな楽器から響く音色が彼の心情を鎮めていく。
今演奏していたということは心穏やかではないということだ。その原因は容易に想像できる。
「一花のこと、やっぱり気にしてるのか?」
表情が少しだけ暗くなる。目がほんの少しだけ細められ、しかしそれだけの機微でも彼が落ち込んでいるのが分かる。
「当然だよな」
なんと声をかければいいのか。駆の雰囲気に合わせ俺も語気の弱い声でつぶやく。
駆は訳の分からない連続だ。友人からは突現拒絶され、悪魔が現れ、友人たちが戦ってる。そんな人になんと言えばいいのか。
普通ならないだろう。想像もできない。
でも、俺にはある。俺だからこそ言える言葉が。
「駆。俺はな、昔駆と似た状況だった時があるんだ」
駆が振り向く。え、と驚いたような顔だ。それを見て小さく笑う。
「駆だから話すけどさ、俺は普通じゃない。知ってるだろ、剣を出したり消したりしたこと」
駆は頷いた。一花がピンチの時、その境地を救ったのは俺のスパーダだ。普通じゃない状況だったが俺のしたことも普通じゃない。
「ここに来る前な、俺はある儀式に参加させられていたんだ」
儀式。普段聞き慣れない言葉、そして俺が真剣に話すから駆も表情を真面目にしていく。
「セブンスソード。異能の剣を持った七人で行われる殺し合い」
駆の目が広がる。驚くのは当然だ。突然こんなことを言われれば。けれども話を続ける。
「そこには俺と、俺の友達も参加していた。強制的に友人と殺し合いをさせられるんだ」
話が続いていくにつれ次第に駆の表情が怒りにも似た剣幕を帯びていく。友人同士での殺し合い。友達を大事にしている駆だからこそ許せない話だ。
「ひどいもんだったよ。でもな、そんな最悪の儀式だったけど、俺たちはこうして生きている。それに友人として」
そう言って駆に振り返る。明るい表情を浮かべた。
「そんな状況でも、俺たちは分かり合えたんだ。今だって友達だ。だからさ、きっと駆も」
いつ殺されるか分からない恐怖と不安、疑心と苦悩。あの時、もし一歩誤れば狂気と殺意だけの、本当の殺し合いになっていたかもしれない。
時には励まして。時には笑って。時には戦って。
だけど。
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それはちょっとした奇跡なのかもしれない。本当なら全員無事でも憎しみ合っていてもおかしくない状況だったのに。
それでも、こうして分かり合えているんだ。
できないはずはない。友達と分かり合うこと。それがどんな状況で、どんな事情があろうとも。
それを知っているから、俺は自信を持って言える。
「一花さんとだって分かり合えるさ」
ここに来た時の駆が浮かべていた寂しげな表情。それが次第に明るくなっていく。
駆は頷いた。さきほどまでなかった明るい表情だ。駆が元気になってくれて俺も嬉しい。
「うん。その意気さ」
駆の肩を軽く叩きながら俺も笑った。
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状況は混迷、事情は不明。なにがなんだか分からない。それでもすべきことをする。
「だから駆は待っててくれ。」
俺の思いが伝わったのか駆は頷いてくれた。きっと自分でもなにかしたいと思っているはず。なにもしないというのはそれだけで辛いものがある。それを我慢して俺たちに譲ってくれたんだ。
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