セブンスソード

奏せいや

40

 ガミジンは再び暗黒の霧を発動させる。この場一帯は闇が漂う。残りの悪魔はすべて秋和を守るため前に立った。さきほどもそうやって秋和は霧に触れることなく無傷を保った。だが、これで秋和はすべての悪魔を失うことになる。

「消えろ」

 闇が晴れる。悪夢から目覚めるようにして黒煙は一瞬にして消えていた。それにより闇に触れていた悪魔たちも消滅するはず。

「どうして!?」

 驚きの声を上げたのは一花だ。予想を裏切る展開に声が出る。

 闇が消えた後、悪魔は減るどころか増えていた。数は二十体はいるか。この広場を異形の者たちが踏み締める。

 闇が消えると同時にその闇に触れていた存在も消えるはず。にも関わらず増えているのはどういうことか。一花は混乱する。

「よく見ろ一花、結界痕だ」
「え?」

 が、ガミジンの指摘でようやく解答を得る。

 悪魔たちの足元にはほとんど消えかかっているが、赤い魔法陣の名残があったのだ。

「残念だが、俺はすでに偽・魔界の門(デモ・デモンズゲート)を発動していたのさ」
「ちっ」

 闇で視界が悪くなっていた上に悪魔たちが立ち塞がったことにより見えていなかった。その隙に新たな悪魔を呼んでいたのか。

 状況はこれでほとんど振り出しだ。

「正気? ライフは無限じゃないのよ?」
「出し惜しみしても仕方がないだろ?」
「そう」

 まだ序盤だというのに。この男はリソースを気にしないのか?

「お前の悪魔、ガミジンの能力は見せてもらった。その黒い立体状の影。それ自体が独立した空間みたいだな。そのためその影に飲み込まれればここから消えてしまう。それが体の一部だけでもだ」

 その通り、秋和もよく見ている。ただ茫然と立っていたわけではないようだ。

 ガミジンの能力、闇送りはその名の通り闇へと送ること。闇とはこことは別の次元。闇を自在に展開、開閉することで防御や移動、攻撃にも運用できる。

「強力な能力じゃないか」

 不敵な笑みを浮かべ秋和は一花の悪魔を称賛していた。

 汎用性、応用力においてこれは群を抜いている。相手の攻撃をシャットアウトするだけでなく当たり判定次第では即死なのだからまさしく最強の一角。ガミジンの威厳と相まってこの力は絶大だ。

「だが弱点もある」

 しかし秋和は心配していない。その一言に一花はむしろ笑った。負け惜しみにしか聞こえないからだ。この能力を前にどうやって勝つ?

 しかし、ガミジン自身は表情を険しくしていた。

「それを証明してやろう」

 秋和はさらに召喚陣を出現させ眷属を増やすと襲わせてきた。それだけでは先ほどの繰り返し。しかしそうはならない。

「え?」

 悪魔はガミジンではなく一花を狙ってきていた。

「フン!」

 ガミジンも闇を展開して襲い来る悪魔を消し去るがそこには穴があった。ガミジンから見て一花のいる方向には闇が出ていない。その隙を突いていくつかの悪魔が飛びかかる。

 すぐさにガミジンは前足を持ち上げ悪魔たちを蹴り飛ばす。それで一花も気づいた。

 闇送りはガミジンの足元、周囲から放たれる。ではその射線上に一花がいたら?

 彼女まで消えてしまう。そのため一花のいる方向には闇を展開できないのだ。

「そうだ、弱点はお前だ一花!」

 一見完璧な闇送りだがそれだけが唯一の欠陥だった。

 それを見抜く秋和もさすがだ。悪魔の群れを使い闇送りの死角から一花を攻撃していく。

 ガミジンは体勢を変えつつ闇を展開し迎撃していた。それでも漏れは生まれる。

「きゃあ!」

 背後から悪魔が襲い掛かる。一花は頭を抱えしゃがみ込んだ。

「フン!」

 すぐさにガミジンの後ろ足が動く。蹴られた悪魔は上半身と下半身が分裂し黒い灰となって宙に消えていく。

「く!」

 駄目だ、完全に足手まといだ。どうすべきか必死に考えるものの悪魔の群れに囲まれては逃げることもできない。

「終わりだ!」

 数にものを言わせた戦術。一部が陽動としてガミジンに特攻を仕掛けた直後、別の悪魔が一花を襲っていた。

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