セブンスソード

奏せいや

35

 まさか。

「駆、どうかしたのか?」

 ただならない雰囲気に嫌な予感がする。

 駆は荒い息をしながら俺を見つてきた。どうしてここに俺がいるのか駆も驚いているようだ。 そのまま肩を掴んできた。さらには引っ張られる。

「待ってくれ、なにがあったんだ?」

 行先から昇降口に違いない。駆は俺を逃がそうとしている。でもなにから? なにがあった? 安心していた心が荒々しく警鐘を鳴らしている。

 瞬間だった。突然、目の前を光が覆ったのだ。

「くっ!?」

 まぶしい光に咄嗟に両腕を顔の前で交える。なにが起こった? ゆっくりと両腕を下ろす。

 そこで待ち受ける光景に思わず声が漏れる。

「これは」

 呆然と立ち尽くす。そこで見たものに言葉が続かない。

 学校が、滅んでいた。

 校舎のガラスはすべて割れ、何年も放置されていたかのように廊下は荒れている。壁には亀裂が入り廃校そのものだ。窓から街を見渡せば風化した建物が並んでいる。

 さらには、空は赤く染まっていた。

 あの時と同じだ。相川に襲撃された時も周囲は一変し赤い世界へとなっていた。ということは今も誰かが悪魔を召喚したということか?

 焦るが俺よりも駆の方が驚いていた。辺りを見渡し戸惑った顔をしている。さらに頭に片手を当てなにやら考え込んでいた。

「駆? 大丈夫か?」

 声を掛けハッと振り返る。なにか悩んでいるようだがすぐに顔を横に振った。

「こんなことが起こって混乱してるんだよな、当然だよ」

 苦虫でも噛んだように表情が歪む。こんなことセブンスソードを経験している俺でさえ戸惑う。普通の人なら慌てて取り乱しても不思議じゃない。耐えているだけ駆はすごい方だ。

「くそ」

 愚痴が出る。どうも嫌な予感は的中したようだ。さらに最悪なのは。

 ちらりと駆を見る。

 彼を巻き込んでしまったことだ。こうならないように来たはずなのに一歩遅かった。悔やまられるが後悔しても仕方がない。まずはこれからのことを考えないと。

「駆、とりあえずこの学校から出よう。ここからじゃどうなっているのか分からない。大丈夫だ、クールにいこうぜ」

 努めて平静に声をかける。駆はともかく俺は初めてじゃないんだ、俺がなんとかしないと。

 駆は俯きながら必死な表情でなにかを考えていた様子だったが切り替えて力強く頷いてくれた。大丈夫、パニックにはなっていない。俺も「うん」と頷く。

「終わりだ!」
「ん?」

 外から声が聞こえた。男の声だ。すぐに窓際へと近寄る。俺たち以外にも人がいるなら巻き込まれたか、それか。

 急いで窓から外を見渡す。近くにはいない。声は遠くからだった。それで視線を遠くへと移してみる。

 見つけた。人だ。

「あれは!?」

 見つめる先。それはここから離れた、体育館と校舎の間にある空間だった。白のタイル模様の地面が広がっている、それなりに大きな場所だ。

 そこにはさっき聞こえてきた声の男子生徒が立っている。だが、重要なのはそんなことではない。

「!?」

 駆も窓から身をのり出し、見つめるものに驚愕していた。

 男子生徒の周り。そこに、黒の異形が蠢いていたのだ。それは紛れもなく、

「悪魔……!」

 未来で戦った人類の宿敵、悪魔の群れだった。

 人型だが肌は黒く、鱗のように硬質だ。目は赤く光りコウモリのような羽が背中から生えている。甲高い声を上げ十体ほどの異形が今にも襲いかからんと構えている。まるで地獄とこの世が融合したような光景だ。

 そして、男子生徒のほかに相川もいた。

「悪魔召喚師が二人?」

 相川は悪魔に囲まれた男子生徒と対峙している。その表情は苦しそうに歪んでいた。

「! ! !?」

 この事態に駆が慌てて二人に手を伸ばす。口を大きく開け呼びかける。叫んでいたんだ、無言の主張を。声なき声で必死に二人に呼びかける。

 けれど二人は気づかない。駆は悔しそうに壁を殴ると急いで反転した。

「待て駆!」

 肩を掴む。このまま行く気だ、あの二人の元へ。しかしそんなことをすれば駆まで危険に晒される。

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