セブンスソード
28
そう言うと棗君は小さく笑う。それに合わせて俺も小さく笑う。棗君は優しい人だと思う。普通、俺みたいなやつに進んで教科書を見せてくれる人なんていないか少ないんじゃないかな。
「俺、変わってるだろ」
つぶやくように言ってみる。棗君は真っ直ぐに俺を見つめた。
「その、知ってるだろ、昨日のあれ。それで自分からは頼みにくくてさ」
思い出すのも嫌だが仕方が無い。
「勝手にパニックになって、自分でも分かってるんだ。おかしいって」
それでも止められない自分が情けなくて、とても悔しい。
すると棗君はスマホに入力し始めそれを見せてくれた。
『なら僕と同じだね』
「え?」
またも入力していく。
『僕も喋れないから。それであんまり馴染めなくて一人でいることが多いんだよ』
そうか。言われてみればそうだったかもしれない。
『自分でも僕は駄目だって思うよ』
「そんなことない!」
周りのみんなが俺を見る。つい大声を出してしまった。姿勢を整えて棗君を見る。
「そんなことない。棗君は俺なんかにも優しくしてくれるしこうして話もしてくれる。それをもっと自慢に思っていい」
そう言うと棗君は照れくさそうに笑っている。そのままスマホを操作し見せてくれる。
『ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。僕たち、似たもの同士かもね』
似たもの同士。そうかもしれない。俺も棗君も人とは違うところがあって、それで悩んでいて。理由は違うけれど境遇は同じだ。
「そうかもな」
周りとは違う自分。周りとは違う相手。同じ共通点を持つ相手がこんな身近にいたなんて。棗君と話していると気が楽だ。プレッシャーというか、そういうのがない。
「なんだか、棗君と話してると楽しいよ」
『僕もだよ』
「ははは、そっか」
棗君も同じようでなによりだ。
久しぶりに笑った気がする。こんなにも清々しいのはいつぶりだろう。まだ互いを知って一時間もしていないのに俺たちはすでに気を許している仲になっている。
「本当はさ、友達がいるんだ」
そうなんだ! と言いたげな表情をしている。
「ああ。みんないいやつでさ、俺のことを心配してくれるんだ。誘ったりもしてくれるしいろいろ気を遣ってくれたりする。そういうのが伝わってくるからさ、俺のことを思ってくれているんだって嬉しく思うんだ。でも、会うのが怖いんだ」
同じ共通点を持つ彼だからこそ自然と打ち明ける。これが棗君じゃなきゃ誰にも言っていないと思う。
「昨日も会わないかって誘ってくれたけど、断っちゃってさ」
星都からせっかく誘ってくれたのに結局会わなくて、香織の教室まで行ったのに会う前に戻ってしまった。逃げ出したも同然だ。
『どうして断ったの?』
どうして。どうしてなんだろう。みんなの優しさに気づいていたのに。
「それは」
自分の内に秘めた後ろめたい思い。俺は。
「今の自分を、見られたくないんだ」
それが、俺の正直な気持ちだ。
「大切な仲間だからこそ迷惑を掛けたくない。そう思う。なにより、あいつらに嫌われたくないんだ。変なやつだって思われたくない。惨めだなんて思われたくない。こんな情けない姿を見られるのが、怖いんだ……」
そんなことないって、気にしてないって言ってるのは分かってる。でももし会ったことで変わったら? また変なことをして次こそは迷惑だと思われたら?
「分からないだろ、相手がどう思うかなんて。みんな優しいからさ、気にしないって言ってくれる。でももし離れてしまったら?」
いつまでも彼ら彼女らの優しさに甘えるわけにはいかない。迷惑をかけ続けるなんていいわけがない。そんなことをしていたらいつか絶対に嫌われる。
「嫌われるのが、怖いんだよ……」
怖い。怖いから避ける。不安に追いかけられて出口の見えない暗闇を逃げ回っている。
ずっと、いつまでも。
棗君がスマホを操作している。それを俺に見せてきた。
『それでも、会うべきだと思う』
短い一文。だけど、そこには彼の強い思いを感じた。
『大事な友達に嫌われたくない。剣島君の気持ちはよく分かるよ。でも、相手も同じように剣島君のことを大事に思ってくれているのならそんなことで嫌いになるはずがない』
彼の目は真剣だ。真っ直ぐと、本気で俺の悩みに答えている。
『僕にも友達はいるんだ』
「そうなのか!」
棗君が頷く。
「俺、変わってるだろ」
つぶやくように言ってみる。棗君は真っ直ぐに俺を見つめた。
「その、知ってるだろ、昨日のあれ。それで自分からは頼みにくくてさ」
思い出すのも嫌だが仕方が無い。
「勝手にパニックになって、自分でも分かってるんだ。おかしいって」
それでも止められない自分が情けなくて、とても悔しい。
すると棗君はスマホに入力し始めそれを見せてくれた。
『なら僕と同じだね』
「え?」
またも入力していく。
『僕も喋れないから。それであんまり馴染めなくて一人でいることが多いんだよ』
そうか。言われてみればそうだったかもしれない。
『自分でも僕は駄目だって思うよ』
「そんなことない!」
周りのみんなが俺を見る。つい大声を出してしまった。姿勢を整えて棗君を見る。
「そんなことない。棗君は俺なんかにも優しくしてくれるしこうして話もしてくれる。それをもっと自慢に思っていい」
そう言うと棗君は照れくさそうに笑っている。そのままスマホを操作し見せてくれる。
『ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。僕たち、似たもの同士かもね』
似たもの同士。そうかもしれない。俺も棗君も人とは違うところがあって、それで悩んでいて。理由は違うけれど境遇は同じだ。
「そうかもな」
周りとは違う自分。周りとは違う相手。同じ共通点を持つ相手がこんな身近にいたなんて。棗君と話していると気が楽だ。プレッシャーというか、そういうのがない。
「なんだか、棗君と話してると楽しいよ」
『僕もだよ』
「ははは、そっか」
棗君も同じようでなによりだ。
久しぶりに笑った気がする。こんなにも清々しいのはいつぶりだろう。まだ互いを知って一時間もしていないのに俺たちはすでに気を許している仲になっている。
「本当はさ、友達がいるんだ」
そうなんだ! と言いたげな表情をしている。
「ああ。みんないいやつでさ、俺のことを心配してくれるんだ。誘ったりもしてくれるしいろいろ気を遣ってくれたりする。そういうのが伝わってくるからさ、俺のことを思ってくれているんだって嬉しく思うんだ。でも、会うのが怖いんだ」
同じ共通点を持つ彼だからこそ自然と打ち明ける。これが棗君じゃなきゃ誰にも言っていないと思う。
「昨日も会わないかって誘ってくれたけど、断っちゃってさ」
星都からせっかく誘ってくれたのに結局会わなくて、香織の教室まで行ったのに会う前に戻ってしまった。逃げ出したも同然だ。
『どうして断ったの?』
どうして。どうしてなんだろう。みんなの優しさに気づいていたのに。
「それは」
自分の内に秘めた後ろめたい思い。俺は。
「今の自分を、見られたくないんだ」
それが、俺の正直な気持ちだ。
「大切な仲間だからこそ迷惑を掛けたくない。そう思う。なにより、あいつらに嫌われたくないんだ。変なやつだって思われたくない。惨めだなんて思われたくない。こんな情けない姿を見られるのが、怖いんだ……」
そんなことないって、気にしてないって言ってるのは分かってる。でももし会ったことで変わったら? また変なことをして次こそは迷惑だと思われたら?
「分からないだろ、相手がどう思うかなんて。みんな優しいからさ、気にしないって言ってくれる。でももし離れてしまったら?」
いつまでも彼ら彼女らの優しさに甘えるわけにはいかない。迷惑をかけ続けるなんていいわけがない。そんなことをしていたらいつか絶対に嫌われる。
「嫌われるのが、怖いんだよ……」
怖い。怖いから避ける。不安に追いかけられて出口の見えない暗闇を逃げ回っている。
ずっと、いつまでも。
棗君がスマホを操作している。それを俺に見せてきた。
『それでも、会うべきだと思う』
短い一文。だけど、そこには彼の強い思いを感じた。
『大事な友達に嫌われたくない。剣島君の気持ちはよく分かるよ。でも、相手も同じように剣島君のことを大事に思ってくれているのならそんなことで嫌いになるはずがない』
彼の目は真剣だ。真っ直ぐと、本気で俺の悩みに答えている。
『僕にも友達はいるんだ』
「そうなのか!」
棗君が頷く。
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