セブンスソード

奏せいや

26

 それからいつものように登校し教室の扉を開ける。遅めに来たのでほとんどのクラスメイトが集まっていた。いつものように談笑しているグループやらなにやら打ち合わせをしているグループもある。そんな中ひっそりと自分の席に座る。

 ここに来るまで時間は経っているが重い気分は変わらない。どうしても昨日の襲撃のことが気がかりだ。あれはいったいなんなんだ。

「く」

 咄嗟に震える手を押さえる。不安がせり上がってきて座っているだけなのに脈が早くなる。
 そんな状態でホームルームや授業が始まるがとても集中なんて出来ない。いったいどうすれば……。

 そこで今朝星都に言われたことを思い出す。

『せめてさ、あいつには会ってやらねえか? すげー心配してたぜ?』

 次に夢でつぶやいた言葉が過ぎる。

『香織……!』

 やっぱり、彼女に会いたい。今の自分を見られたくない以上に、彼女に会いたいという気持ちが上回る。それくらい、寂しい。不安に押しつぶされそうなんだ。

 授業が終わる音が響く。俺は席を立ち教室を出る。

 香織の教室は別の棟だ。渡り廊下を歩き彼女の教室に向かっていく。まるで不安という向かい風の中を歩くように。それか夜の海原で灯台の光を求めるようにその一点を目指す。

 そうして彼女の教室に到着した。間違いない、二年一組の看板が見える。俺は恐る恐る扉を開けると中を伺ってみた。もしかしたら会えないんじゃないかという不安があるが、しかしそれはすぐに消える。彼女の姿はすぐに見つけることが出来た。

「かお――」

 名前を呼ぶ。しかし途中止めてしまう。

「ううん、ありがとう青山君。でも大丈夫だから」

 香織は男子と話をしていた。俺の知らない人だ。男子が話しかけるのを香織は笑顔で応じている。

「…………」
「あの、誰かに用があるなら呼びましょうか?」

 そこでこのクラスの女の子が声をかけてくれた。

「えっと」

 もう一度香織を見る。まだ話は続いている。悩んだが、俺は彼女に振り返った。

「いえ、大丈夫です」

 そう言って教室から離れて行く。

 来た道を戻っていく。せっかく話をしているのに俺が割って入る、そんな自信が今の俺にはない。

 重いため息が零れた。

 そうだ、彼女にだって交友はある。なにも俺だけじゃない。俺がいなくたって彼女は笑えるんだ。

 俺が、いなくても?

「く」

 馬鹿か俺は。なにを考えてるんだ、そんなことあるはずがない。

 でも、もし俺がこのままだったら? ずっとこの調子で迷惑をかけることになったら?

「あ」

 立ち止まる。廊下の壁に手を当て体を支える。胸が苦しい。ざわざわして息もうまく出来ない。次第には、涙が零れてきた。

「く!」

 慌てて涙を拭く。なんとか気持ちを整え歩き出す。

「はあ」

 自分の教室に戻る。前の入り口には数人が固まっていたので後ろから入る。そのまま席に座った。

 せっかく会いに行ったのに俺はなにをしているんだ。こんなんじゃ駄目だ。でも、その一歩が踏み出せない。勇気が出ない。俺みたいなのが本当に香織に話しかけていいのか? 会話に割ってまで? 自己肯定感っていうのかな、そういうのが低すぎてなにをするにしても躊躇ってしまう。こんなんじゃ駄目だって分かっているのに。

 どんどん気分が沈んでいく。どんどん自分が分からなくなっていく。

 暗い気持ちに自然と俯く。

 その時だった。

 バーン!

 突如、銃声が響いた!

「伏せろー!」

 すぐに床に伏せ頭を抱える。油断していた、まさかここで襲われるなんて!

「先生誕生日おめでとー!」
「え?」

 顔を上げる。見れば教室に入ってきた先生に数人がクラッカーを向けていた。伏せているのは俺だけで、教室中のみんなが俺を見ている。直後、全員の笑い声が教室を埋め尽くしていた。

「セブンスソード」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く