セブンスソード

奏せいや

17

「あとは投薬だな。精神安定剤を与えるっていうのがあるが俺たちにできることじゃない」
「じゃあなにもできないってこと?」

 解決の糸口が見えないことに此方からも焦りが出始める。

 仲間が苦しんでいるのになにもできない、そんな心苦しさをみなが感じていた。

「これでPTSDが治るっていう絶対的な方法はないんだ。そもそも心なんて人それぞれだし発症する原因も様々だ」
「そうだけど」

 此方の目線が下がる。

 なんとかしたい。そう思っているのになにをすればいいのか分からない。このままではいけないと分かっているのになにもできない。そのことが胸を重くする。

「あいつの置かれてる状況っていうのはさ」

 星都はコーヒーを一口飲むとぽつりとつぶやく。

「言ってみれば常に銃口を額に突きつけられているようなもんなんだよ。怖いよな、一瞬だって落ち着けねえよ。だってそうだろ、いつ撃たれるか分からないんだぜ? ずっと警戒するし意識する。もしかしたら撃たれるかもしれないといつまでもその恐怖に晒されることになるんだ。そんな思いをずっとしながら生きるくらいなら死んだ方がマシだって、実際自ら命を絶つやつだっている」
「そんな!」

 星都の話を聞いていた日向ちゃんが顔を上げた。

「病気って言っても心のものでしょ? 体はどこも悪くないのに、それで死んじゃうなんておかしくない?」
「それくらい辛い病気なんだ!」

 体は無事なのに死んでしまうということにもしかしたら違和感を覚える人もいるかもしれない。けれど実際にPTSDで自ら死を選ぶ人はいる。それくらいこの病気は重い病だ。

「体の痛みじゃなくたって、死ぬほど辛いんだよ」

 星都は日向を真っ直ぐと見つめて断言し、その勢いに押されるように日向ちゃんは俯いてしまう。

 聖治が置かれている状況。死を選びたくなるくらい辛い時間。それをみなが認識した。

 そこで今まで泣いていた香織が落ち着き始めた。「大丈夫?」と此方が優しく声をかける。香織は小さく頷き彼女から離れる。頬に残った涙の跡を手で拭いていく。

「なあ、沙城」

 泣きやんだところ悪いが星都が確認する。

「聞くが、お前のディンドラン、あれで治せないのか?」

 ディンドランには防御のベールを張るだけでなく所有者に異能耐性を与え傷を癒す力がある。

 守護の光。ディンドランなら聖治の心の傷すら治せるかもしれない。

 星都は聞くが、しかし香織の表情は晴れない。香織は小さく顔を横に振る。

「私のディンドランでも、心の病は治せない」
「そうなのか?」

 香織がすぐに動かない以上そこまで期待していなかったが、いざ違うと言われると落胆してしまう。

「ディンドランには確かに傷を癒す力がある。それこそ洗脳とか精神操作とか、そうした心や精神に干渉するものでも治すことができる」
「それなら」
「無理なの」

 星都の言葉をきっぱりと遮る。顔は俯き表情は悔しさに滲んでいた。

「私が治せるのは、あくまでも呪いとか異能とか、他者からの干渉だけ。でも、今聖治君が苦しんでいるのは『本来の心の働き』だから。心に直接干渉することはできないの」

 ディンドランが治せるのはあくまで体の怪我や異能による干渉だ。だが心の病は、言ってしまえば過剰ではあるが正常な反応だ。通常通りの反応でありそれを治すとなればそれこそ精神操作。ディンドランは治すことはできても精神操作まではできない。

「そうか、悪かったな」
「ううん、ごめんなさい。私こそ」

 唯一の可能性であったディンドランも駄目。いよいよ解決法が塞がってきた。暗雲が立ちこめていく。

「今」

 星都が声を挙げたことで全員が彼を見る。

 みんなから注目される。そんな全員の視線を受け止める星都の表情は真剣だった。

「最も辛いのはあいつだ。誰よりも苦しんでる。今まさにだ。ここにみんなを呼んで言いたかったのはさ、心の病のこともあるが、あいつを責めないでやってくれってことなんだ」

 彼にしては珍しい真面目な顔つきで、星都はみなへ訴えっていく。

「あいつが変なことをしても、もしかしたら迷惑をかけることがあったとしてもさ。それは仕方がないことで、悪気があってしてることじゃない。俺たちが受ける思いよりもあいつは苦しんでいるんだ。だから許してやって欲しい。そしてできれば嫌いにならないでやって欲しい。それをちゃんと言っておきたくてな」

 そう言うと星都は小さく頭を下げた。ここにいる全員に頼み込む。

「頼む。俺からの頼みだ」

 聖治の行動を許してあげて欲しい。そして嫌いにならないでやって欲しい。

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