セブンスソード
16
未来で聖治がどんな戦いをしてきたのか、それを知った日向ちゃんから落ち込んだ声が漏れる。
「僕は、一度だけ聖治君と戦ったことがある」
力也が口を開いた。真剣だけれど悲しそうな表情が浮かんでいる。
「その時の聖治君が使っていたんだな。その時は片手だけだったけど。それでもすごく強かった。とても辛そうだったけど」
かつての世界で聖治と力也は戦った。その時聖治はカリギュラの能力を使って力也を倒している。悪魔に変容した手をその時見せていた。
「相棒は未来の自分と戦った。そして勝つことができた。その時もう一人の自分の魂を得たって話だ。魂には相手の能力だけでなく記憶まで宿っている」
「じゃあ」
そう言われ香織も気づく。
聖治は未来の聖治の魂を得て一つになった。それが意味すること。
「あいつは、もう一人の自分が受けてきた強いストレスまで一緒に取り込んだってことだ」
カリギュラの副作用まで使うほど追いつめられていた聖治の心。それを取り込んだということだ。
今の聖治は戦場で三十年も一人で戦ってきた兵士と同じ状態だ。心の病? PTSD? そんなの当然だ。どれだけ屈強な兵士でもPTSDになって帰還する者が大勢いるというのに。
十六歳の少年が背負うには、それはあまりにも過酷で長い時間だった。
「三十年一人で戦ってきた恐怖。想像もできねえよ。そんなの、人の心なんて簡単に傷つく。壊れても不思議じゃない」
その時の聖治の心境に思いを馳せて星都の顔がさらに暗くなる。
未来の聖治とPTSDの話。星都の明かす内容にみな顔を暗くしている。なんと言葉にすればいいだろう。それすら分からない。今の聖治を表すには知っている言葉ではどれも物足りない。
特に、香織は辛かった。
星都の話を聞き終わり胸の内側からわき上がる感情を必死に耐えて、両手はスカートをぎゅっと握っている。
「そんなの、辛すぎるよ……」
彼を思う。思えば思うほど、それは辛い。
「聖治君は、私を守るために戦ってたんだよ? たった一人で、私を助けるためだけにずっと戦ってきたのに。それなのにどうして聖治君が傷つかなきゃいけないの? そんなの、そんなのってないよッ」
一人でずっと戦ってきた。辛くても、苦しくても、心を病んででも。
それはすべて、沙城香織という女の子を救うため。彼女を助けるために、剣島聖治という少年は三十年もの間一人苦しんでいた。
香織のためだけに。
「聖治君はなにも悪くない。私のために戦っていたのに。なのに、それで聖治君が傷つくなんておかしいよ。優しいから、だから最後まで戦ってくれたのに。そのせいでこんな……こんなことって……!」
瞼の奥が熱くなる。息も熱気を帯びて溢れる感情が喉元までせり上がっている。
「ん、んんん」
なんて、現実は残酷なんだろうか。
こんな仕打ちがあるだろうか。
ただ大切な人を助けたい。それだけだったのに。そのためだけに戦っていた少年はそのせいで苦しんでいる。優しいその心が、そのせいで傷ついているのだ。
それも、自分のせいで。
自分のせいで、大切な人を傷つけてしまった。
抑えられない感情が涙となって外に出る。手で押さえても止まらない。
泣いた。大粒の涙が次々と溢れてくる。悲しみを涙に変えて抑えられない感情を吐き出していく。
「香織」
此方は香織に手を回し抱き寄せる。香織も此方に顔を埋め泣き続けた。彼女の髪を優しく撫で此方はなだめていく。此方も香織の思いは痛いほど分かる。自分を助けるために聖治はPTSDになったなんて悲し過ぎる。
此方は香織を抱きしめながら険しい顔を星都に向けた。
「治せないの?」
「……難しいな。ないわけじゃないんだが」
星都も難しい顔をしている。聖治をなんとかしたいのは星都も同じだ。だが解決するのはそう簡単なことじゃない。
「解決方法の一つとして原因となっている状況の再現というものがある。たとえば交通事故でPTSDになった患者がいたとする。そういう場合車が走っているところを見せて安全だと認識させるって方法だな。だがこれは論外だ。これをするのは専門的知識がある医者がすることだし、なによりあいつの状況を再現することに無理がある」
聖治が心を病んだ状況は悪魔からの襲撃だ。再現しようもないし安全でもない。
「他には?」
此方が聞く。
「僕は、一度だけ聖治君と戦ったことがある」
力也が口を開いた。真剣だけれど悲しそうな表情が浮かんでいる。
「その時の聖治君が使っていたんだな。その時は片手だけだったけど。それでもすごく強かった。とても辛そうだったけど」
かつての世界で聖治と力也は戦った。その時聖治はカリギュラの能力を使って力也を倒している。悪魔に変容した手をその時見せていた。
「相棒は未来の自分と戦った。そして勝つことができた。その時もう一人の自分の魂を得たって話だ。魂には相手の能力だけでなく記憶まで宿っている」
「じゃあ」
そう言われ香織も気づく。
聖治は未来の聖治の魂を得て一つになった。それが意味すること。
「あいつは、もう一人の自分が受けてきた強いストレスまで一緒に取り込んだってことだ」
カリギュラの副作用まで使うほど追いつめられていた聖治の心。それを取り込んだということだ。
今の聖治は戦場で三十年も一人で戦ってきた兵士と同じ状態だ。心の病? PTSD? そんなの当然だ。どれだけ屈強な兵士でもPTSDになって帰還する者が大勢いるというのに。
十六歳の少年が背負うには、それはあまりにも過酷で長い時間だった。
「三十年一人で戦ってきた恐怖。想像もできねえよ。そんなの、人の心なんて簡単に傷つく。壊れても不思議じゃない」
その時の聖治の心境に思いを馳せて星都の顔がさらに暗くなる。
未来の聖治とPTSDの話。星都の明かす内容にみな顔を暗くしている。なんと言葉にすればいいだろう。それすら分からない。今の聖治を表すには知っている言葉ではどれも物足りない。
特に、香織は辛かった。
星都の話を聞き終わり胸の内側からわき上がる感情を必死に耐えて、両手はスカートをぎゅっと握っている。
「そんなの、辛すぎるよ……」
彼を思う。思えば思うほど、それは辛い。
「聖治君は、私を守るために戦ってたんだよ? たった一人で、私を助けるためだけにずっと戦ってきたのに。それなのにどうして聖治君が傷つかなきゃいけないの? そんなの、そんなのってないよッ」
一人でずっと戦ってきた。辛くても、苦しくても、心を病んででも。
それはすべて、沙城香織という女の子を救うため。彼女を助けるために、剣島聖治という少年は三十年もの間一人苦しんでいた。
香織のためだけに。
「聖治君はなにも悪くない。私のために戦っていたのに。なのに、それで聖治君が傷つくなんておかしいよ。優しいから、だから最後まで戦ってくれたのに。そのせいでこんな……こんなことって……!」
瞼の奥が熱くなる。息も熱気を帯びて溢れる感情が喉元までせり上がっている。
「ん、んんん」
なんて、現実は残酷なんだろうか。
こんな仕打ちがあるだろうか。
ただ大切な人を助けたい。それだけだったのに。そのためだけに戦っていた少年はそのせいで苦しんでいる。優しいその心が、そのせいで傷ついているのだ。
それも、自分のせいで。
自分のせいで、大切な人を傷つけてしまった。
抑えられない感情が涙となって外に出る。手で押さえても止まらない。
泣いた。大粒の涙が次々と溢れてくる。悲しみを涙に変えて抑えられない感情を吐き出していく。
「香織」
此方は香織に手を回し抱き寄せる。香織も此方に顔を埋め泣き続けた。彼女の髪を優しく撫で此方はなだめていく。此方も香織の思いは痛いほど分かる。自分を助けるために聖治はPTSDになったなんて悲し過ぎる。
此方は香織を抱きしめながら険しい顔を星都に向けた。
「治せないの?」
「……難しいな。ないわけじゃないんだが」
星都も難しい顔をしている。聖治をなんとかしたいのは星都も同じだ。だが解決するのはそう簡単なことじゃない。
「解決方法の一つとして原因となっている状況の再現というものがある。たとえば交通事故でPTSDになった患者がいたとする。そういう場合車が走っているところを見せて安全だと認識させるって方法だな。だがこれは論外だ。これをするのは専門的知識がある医者がすることだし、なによりあいつの状況を再現することに無理がある」
聖治が心を病んだ状況は悪魔からの襲撃だ。再現しようもないし安全でもない。
「他には?」
此方が聞く。
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