セブンスソード

奏せいや

4

 身内が争う姿は恥ずかしい。それで一花は呆れて言うが秋和が反論してくる。

「お前は無関心過ぎるぞ一花」
「あーダル」
「お前というやつはッ」

 視線を逸らしてふてくされる一花に秋和は怒鳴る。それでも一花は省みない。二人には悪いが本当に興味がない。そんなものを押しつけられても迷惑なだけだ。

「うるさいうるさい。私から言わせればね、秩序だ自由だどうこう語ったところで、人生楽しくなかったら意味ないじゃない。大事な高校生活よ? そんなことより楽しいこと考えようよ」
「…………」
「…………」

 秋和が言うことも千歌が言うことも正しい。そして一花が言うこともまた正しい。特に短い高校時代、楽しく過ごしたいと思うのは自然なことだ。

 一花の主張に二人は黙っていたが、次第に体が火山のように震え出すと同時に噴火した!

「「だ・か・ら!」」
「秩序が必要なんだ!」
「自由が必要なのよ!」

 息ぴったりである。

「楽しむためにも相手の邪魔をしないルールが必要なんだろうが!」
「楽しむためにも理不尽な抑圧を退ける自由が必要なのよ!」
「分かっていないなお前は!」
「あんたこそ分かってないわね!」
「駄目だ。駆、私たちでさき行きましょ」

 駆は頷いた。

 それから四人は歩き出した。秋和と千歌の思想論争は小競り合いを続けているがもう気にしないことにした。二人の口論を横で聞いている一花は呆れ顔だ。

 そして。

 そんな三人を、駆はいつも見ているだけだった。

 参加したくても参加できない。深く踏み入ることができない。喋れない自分では。いつも客席で見守るだけの外野になってしまう。

 それを寂しく思う時は無論ある。言いたいことも言えない。まるでこの場にはいないように。

 そこでふと思う。

 自分はここにいないのも同然だ。そういうのを指して空気と呼ぶことがあるが自分はまさしくそれ。なにも言わないのだから存在感などとても希薄。

 そこでさらに思う。

 そんな自分に、三人はいつもそばに居てくれることを。自分を友人として認め、話しかけてくれる。遊んでくれる。無視などしない。ちゃんと人間として接してくれるのだ。

 駆は思う。

 こんな自分につき合ってくれる三人の友人たち。こうして一緒にいるだけで楽しい気分になれる。ふさぎ込みたくなる自分を明るい世界に連れ出してくれる。大切な、なによりも大切な人たちだ。

 駆は携帯を手に取るとメール画面を開いた。喋れなくても文字で伝えることはできる。三人に宛てた一斉メール。そこに文字を打ち込んでいく。言葉は完成し、送信を押す時だった。

「駆!」
「!?」

 一花が大声で叫ぶ。咄嗟に視線を携帯から前に向けると、三人とは距離が開いており交差点の先に立っていた。メールを打つのに気を取られていた駆はいま交差点の真ん中にいる。

 直後、耳をつんざくブレーキ音が響いた。 

 振り向けばトラックが迫っている。

「――――」

 気付けなかった、携帯に気を取られていて。迫るトラックに心が強張る。

 反射的に両腕を顔の前で交えるがそんなことをしても意味はない。

 駆は腕を交える直前、一花の顔を見た。

 彼女は必死な形相で見つめていた。とても悲痛な顔で。

 それが辛かった。申し訳なくてたまらなかった。死ぬことに後悔があるとすればそれ。彼女を悲しませたこと。

 そして、トラックと衝突する。

 瞬間だった。駆の視界を光が覆う。直後、迫るトラックは一瞬で灰となり駆の前から消滅したのだ。

「!?」

 腕をゆっくりと下ろす。そして目の前に広がる光景に絶句する。

 すべてが、滅んでいた。街も。人も。世界も。

 今まで大勢の人でにぎわっていた街が。晴れた青空は雲で覆われ、しかし街は夕焼けのように赤みを帯びて明るい。さらには強風が吹き荒れ砂埃がひどかった。建物は風化しガラスはすべて割れ、道に停まってある車はスクラップと化している。

 なにより、ここには自分しかいない。

 その場に立ち尽くす。唖然とした。見たこともない街の有様に放心している。

「セブンスソード」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く