セブンスソード

奏せいや

240 エピローグ

 ここはどこでもない、どこにもない場所だった。地上にもなく歴史にもない。境界線の狭間にある世界。

 そこは城だった。荘厳な城だ。巨大な尖塔を持ち威厳に満ちている。

 原初の城とも形容できるこの場所に、しかしいるのは七名の者だけだ。

 城のとある場所。劇場に似た半円形状の席に囲まれた中央、そこに一つのテーブルと十の席がある。そこには白いロングコートにフードで顔を隠した者たちが着席していた。ここに座る彼らはいわば主要な者たち。この劇で活躍する偉大なる演者。

 観客はいない。彼らを知る者たちはいないが故に。時の流れすら彼らを捉えることなくここにいる七名は静かに己の出番を待ちわびていた。

 そこへ、扉が開く音が鳴り響く。

 劇場の扉が開かれそこから一人の白服が現れる。七名が座る場所へと近づいてくる。

 新たに加わった演者は仲間の前で立ち止まり彼の到着に皆が意識を向けた。

「問題が起こった」

 立ち続ける白服が言う。

「へえ、あんたがトラブルか」

 そこで一人の男が言った。この威厳に満ちた場には似つかわしくない陽気な声だ。

「珍しいじゃないか、ハードライト」

 男に名を呼ばれ白服はフードを脱いだ。

 壮年の男性だった。ウェーブのあるセミロングの金髪に青い瞳。整えられた髭。精悍な表情はまさに武人であり貴人だ。立ち姿と整った顔立ちは重ねた年を感じさせる気品がある。

「あなたの任務はセブンスソードの阻止でしたね、九代目」

 仲間の一人が声を掛ける。物静かな女性の声だ。

 言われハードライトが続ける。

「その通り。十番目の鍵創造の儀式、セブンスソード。その阻止に赴いたが、すでに儀式は完成していた」
「というと?」
「セブンスソード開始時点から七つのスパーダを所持している少年がいた。すでに完成していた、ということだ」
「ほー」
「あり得ないですね」

 ハードライトの報告に各々反応を返してくる。その中で多くの者は無言でハードライトを見ているだけだった。

「セブンスソードは七つのスパーダとセブンスハートを掛け合わせる儀式だったはず。それが開始時点で七つを所有しているというのは破綻しています。通常ではない。となると」

 女性は異常事態にも動じることなく落ち着いている。

「すでに、世界は改変された後ですか」
「そう考えるのが普通だろう」

 セブンスソードは七つのスパーダを殺し合わせる儀式。それが七つを所持している者がいるなど筋が通らない。

 であるならば、そのあり方自体が書き換えられたということだ。

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。それってやばいんじゃねーのか? このままじゃあのクソ野郎が復活しちまうじゃねえか。てか、それでお前はのこのこ逃げ帰って来たってか? 逃げ足の速さも光速並ってか?」

 男が笑っている。その見えない顔をハードライトが睨む。

「睨むなよハードライト。からかったのは悪かったって、お詫びに俺のこと殺してもいいぜ? とはいっても俺はもう死んでるがな。はっはっはっは」
「静かにしてください六代目」

 無遠慮に振る舞う六代目を女性が窘める。

「なんだよ、死人には口なしってか? そりゃねえぜ。というか、なんでお前等喋らないんだ? 俺以外全員シリアスかよ。ま、俺だってちゃんとシリアスだけどさ」

 六代目はテーブルに肩肘を付き全員を見渡す。

「フードの下でも分かる、お前らの仏教面がな。で、実際どうするんだよ。このままグレゴリウスが蘇るなんて事態になったら五年前の繰り返しだぞ。俺たちまたもや大ピンチ、ってか?」
「口を慎め六代目」

 そこで別の男が口を開いた。この中で一番渋みのある声だ。その声で緩み始めていた空気が再び引き締まる。

「我々の計画に失敗はないしそれが許されるものでもない。軽々しく危機などと口にするな」
「へいへい。二代目に言われちゃねえ」

 六代目は両手を持ち上げおとなしく姿勢を戻した。

 六代目が引いたことで二代目の顔がハードライトに向けられる。

「やつの口は軽すぎるがその懸念も理解できる。しかしハードライト卿、君が浅慮(せんりょ)でもないことも私は知っている。帰ってきた理由を聞かせてもらおうか」

 二代目からの催促にハードライトは静かに話し出す。

「セブンスソードは確かに阻止する以前から完成を見せていた。しかし、それはあくまで形式上のもの。彼(か)の少年は七つの能力を持つが実体は持たず、さらにスパーダ同士のやり合いもなく停滞している。セブンスハートは合わさることなく未完成のまま。剣聖の器は割れたままだ」
「なるほど」

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