セブンスソード

奏せいや

237

「ふざけるな!」

 怒りが口を衝く。胸の内から抑えきれない思いがわき上がってくる。

「なんなんだよお前等は!? どうして、どうしていつも俺たちの邪魔をする? なぜお前等に襲われなくちゃならない? お前等のせいでめちゃくちゃにされた。それでも頑張ってここまできたのに、今度は香織をさらうって? いい加減にしろよ!」

 何度、俺たちは悪魔によって人生や生活を引き裂かれなくちゃならない。せっかく手に入ったと思った生活もこいつのせいで壊されようとしている。

「だがな、何度来たって香織は渡さない。香織は絶対に、俺が守る!」

 ホーリーカリスを握りしめる。この戦いに勝って香織を助けるんだ。絶対に!

 その、時だった。

「カオリ……?」
「喋った?」

 聞き間違いか? いや、そうじゃない。今までうめき声や叫び声しか発しなかった悪魔が初めて言葉を出した。

「カオリ……マモル……」

 大きな体を丸め片手を頭に当てている。苦しそうに表情を歪めた。

「カノジョ、ダケハ。カノジョ、ダケデモ。カオリ」
「お前」

 単に俺の言葉を反復しているだけじゃない。香織に対して思い入れがあるのか? その深さが声から伝わってくる。でも何故だ?

「お前は、いったい何者なんだ? なぜ香織をさらった?」
「グウウウ……」

 悪魔のくせに香織を守ると言う。理由は分からないし意味も分からない。なにより、こいつは悪魔だ。

 彼女をさらうのであれば、俺の気持ちは変わらない。

「なんであろうと、彼女は返してもらうぞ。俺の、最も大切な人だからだッ」

 大切な人を奪われた。それを取り戻す。誰が相手だろうが関係ない。

 俺はホーリーカリスと共に走り出した。その先にいる香織を助けるために。

 悪魔と、激突した。

 互いにスパーダをぶつけ合う。絶対に助けるんだという思いを糧にみんなの力を使っていく。

 対して悪魔は浮かべた四本で攻め、手に持つスパーダで守るという戦法だ。実体を持たない俺では同時使用も複数顕現もできない。だから手数は相手の方が多いが能力の数なら俺の方が上だ。手数で押されそうになる度ディンドランの盾で防ぎ攻勢に転じる。

 互いに相手の能力を知っている。俺たちの戦いは互角だった。

「ゼッタイニ、マモルトチカッタ。タトエ、ドレダケカカロウト」

 悪魔から焦りが見える。その分攻めが苛烈になっていく。五本の剣が暴れ回り俺だけでなく周囲まで破壊していく。五つの能力の暴威。破壊の剣風、その中心となって君臨している。

「セカイハイラナイ。ジンルイハスクワナイ。ソンナモノニカチハナイ」

 強い。多種多様な攻撃。すぐに適応してくる多彩な能力。なにより、俺にぶつかってくる強烈な想い。

 すべてが、強かった。

「カノジョダケハ、タスケルトキメタンダァアアア!」

 悪魔が黄色いスパーダからミリオットに持ち変える。光る刀身の剣先を俺に向け、四方に浮かぶスパーダも輝いている。

 能力の同時使用、五色の光線か!

 ミリオットから一条の光が放射される。それぞれの能力を備えた光線が迫り来る。

 すぐさまディンドランの盾を展開し一色の盾が五色の光を受け止めた。

「ぐう!」

 すさまじい威力だ。盾ごと吹き飛ばされそうになる。衝撃が全身を貫き魂まで燃やされそうだ。

 エンデュラスの高速に加えグランの力。それを増加しさらに触れたものを消滅させるカリギュラと異能を無効にする能力。弱いわけがない。普通なら負けていた。

 だが俺のディンドランは七段階に達している。悪魔は五本しか持っていない。

 この一色は一本じゃない。みんなの絆が紡いだ集合体だ。

 押しつぶされそうな重圧を耐え、ホーリーカリスに力を入れる。

 耐えてくれ!

「うおおおお!」
「グオオオオ!」

 互いの能力がぶつかり合い、この場が光に包まれる。

 音が、なくなった。

 一瞬の出来事。色と音が世界からなくなり、波のように押し寄せる。そこには膝を付く俺と悪魔がいた。

 なんとかだが防げた。体に残った疲労が強烈だったことを物語っている。相手も全力だったんだろう、俺と同じように大きく息を吐いていた。

 俺たちは相手を見ながらすぐに立てないでいる。

 すると後ろから放たれる桃色の光が見えた。

「なんだ?」

 急いで振り返る。そこにはソファで眠っていた香織、その前で浮かんでいたディンドランが一段と強い光を発していた。その光が消えていく。そして、香織が目を覚ました。

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