セブンスソード

奏せいや

236

「ここか」

 俺はビルの合間を通り開けた場所に来ていた。中央にはビルがあり反応からここで間違いない。

 ここに香織をさらった悪魔がいる。そのことに一層緊張が高まるがそれとは別にここは変だった。

 中央にあるビルの周辺、そのすべてのビルが倒壊している。土台だけ残して瓦礫すらない。ビル街というジャングルの中ここだけがぽつんと開けている。

 明らかに激しい戦闘があったと分かる。それだけじゃない。ビルの周りには悪魔の死体すら横たわっていた。ふと顔を動かすと離れたビルにもたれかかって死んでいる巨大な悪魔もいる。

 どういうことだ? ここでいったいなにがあったんだ?

 分からない。不気味だ。でも立ち止まっていても仕方がない。

 中央のビルに俺は近づいていく。ビルは途中から上がなくなっており以前はタワーマンションか高層ビルだったと思うが四階までしかない。

 俺は覚悟を決め正面から入り階段を上がっていった。

 暗い建物内を歩いていく。一段上がるごとに緊張感が増していく。やつに近づいているのが分かる。重苦しいほどのプレッシャーが全身に圧し掛かってくる。まるで息が止まっているようだ。

 俺は階段を進み光が見えてくる。出口だ。光の入り口に向かって突き進む。

 そして水中から顔を出すように、俺は最後の階へと足を踏み入れていた。

 視界が晴れる。そこに、悪魔はいた。

 広い建物内だが壁は一切なく痕跡だけでフロア全体が一つの広場となっている。だだっぴろい屋上みたいだ。その中央に悪魔はおり、一つだけあるソファの上には香織が座っていた。彼女の前方にはディンドランが浮かんでおり彼女を桜色の光が覆っている。眠っているのか意識はない。だが、それよりも驚いたのは、

「香織が、二人?」

 ソファの隣、その床にもう一人の香織が横たわっていたのだ。

 どういうことなんだ? どうして香織が二人いる? どういう状況なんだ?

 悪魔は椅子に座った香織の前に立ち彼女を見下ろしている。襲う素振りはないがそもそも香織は無事なのか? 

「おい!」

 悪魔がゆっくりと振り返る。二メートルはあるだろう黒い体が俺を見る。

「香織になにをした、彼女を返せ!」
「…………」

 返事がない。ただじっと俺を見ている。

「フゥ……フゥ……」

 ここからでも悪魔の息づかいが聞こえてくる。ただ立っているだけなのにどこか疲れたような呼吸だ。

「ウウ……ウウ……」

 それだけでなく鋭い口からうめき声が漏れている。その後片手を頭に当てた。

「ウウウ、ウワアアアア!」

 悪魔の雄叫びが上がる。暗闇の空に向かって悪魔は破裂するような声で叫ぶと背後にスパーダが現れた。四本のスパーダが浮かびその手にはパーシヴァルを握っている。

「やるつもりか」

 俺もホーリーカリスを構える。この悪魔を倒さなければ香織を取り戻すことはできない。

 やらなければならない。

 覚悟を決め、俺は走る。

 悪魔のスパーダも反応しエンデュラスが宙を走る。能力を使ったそれは弾丸すら速い。

 すぐさに俺もエンデュラスを発動して迫るスパーダを弾いた。次に左右にミリオットとカリギュラが動き光線とカリギュラを同時に発動してくる。黒い霧が波のように押し寄せピンポイントでミリオットが狙ってくる。それをディンドランの壁で守りながら前進する。

 そこへグランが待ちかまえていたかのように振るわれた。桃色から緑色に変えホーリーカリスを打ち付ける。

「ぐうう!」

 重い。このままじゃ他のスパーダにやられるッ。

 俺は斥力でグランを押し返し黄色に変更、グランを払い退けた。触れた異能を無効化する能力でグランが地面に落ちる。

 その隙に他のスパーダが襲いかかってくる。周りを飛ぶスパーダが厄介だ。今度は俺がカリギュラを発動して牽制する。

 そしてついに悪魔の前にたどり着きホーリーカリスを振り下ろした。

 俺のホーリーカリスと悪魔のパーシヴァルがぶつかり合う。

「なぜお前がスパーダを持っている!?」
「ウウ……」
「お前が持ってていいものじゃないんだよ!」

 仲間のスパーダをよりにもよって香織をさらった悪魔に使われるなんて。それも神経を逆撫でしてくる。

 悪魔がスパーダを振り抜き俺は後ろに下がる。

 悪魔の背後には依然と香織が眠っている。せっかく日常に戻れたと思っていたのに、こいつらのせいでまたも壊された。

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