セブンスソード

奏せいや

221

「聖治」

 そう思う。なのだが。

「俺は一緒にはいられない」
「え」

 一緒にはいないって、どうして!?

「なんで!?」
「お前にはしなければならないことがある」
「俺が?」
「そして、俺にもな」

 俺のやるべきこと。兄さんのやるべきこと。その言葉が具体的になにを指しているのか、今の俺には分からない。
 でも、兄さんの言っていることはきっと正しい。それでも、俺は兄さんにそばにいて欲しかった。

「でも」

 不安が胸を締め付ける。せっかく出会えたのに別れるなんて。

 そんな俺に兄さんは振り返った。

「安心しろ。お前は強くなった」
「え」

 正面から言われる。そう言われるのが意外でなんというか、驚くと同時に照れる。

「もう、俺との約束がなくてもやっていける」

 でも、なにより嬉しかった。そう言ってくれて。兄さんが俺を褒めてくれた。強くなったと、そう言ってくれた。

 この人に認められたことが、素直に嬉しかった。

「それに」

 言葉を止めて兄さんは俺の背後に目をやる。追いかければそこにはこちらを見ているみんながいた。

 俺たちの仲間。昔はいなかった、今ここにいる心強い仲間たち。それはセブンスソードで得た掛け替えのないものだ。

 兄さんがまっすぐと俺を見る。その目は戦っている時の目とは違うけど、それと同じくらい真剣なものだった。

「お前は一人じゃない。俺に守られる必要はなくなった」

 その目をじっと見つめる。俺を認めてくれた男の目。それを胸に刻んで俺は頷く。

「分かった」

 この人の思いを否定なんて出来ない。せっかく認めてくれたのにそれを俺が認めないでどうするんだ。

 むしろ、認めてくれたことを誇りに思うべきだ。

 認めてくれたこと、守ってくれたこと。様々あったことは一言なんかじゃ表せないけれど。

「ありがとう」

 そう言った。命の恩人であり、尊敬する人に向かって。

 兄さんは俺の感謝を聞くとふっと笑い踵を返し歩き出していった。白いコートの端が揺れ遠ざかっていく。

 もう少しで兄さんは出て行ってしまう。

「待ってくれ!」

 次、いつ会えるか分からない。今度はいつ話せるのか。そんな不安に急かされて気づけば言っていた。

「ずっと、言いたいことがあったんだ」

 兄さんの足が止まる。その背中に俺は言う。

 言うなら、今しかない。

「あの時、嫌いだなんて言って、悪かった。それがずっと心残りだったんだ。ずっと後悔していた。あんたの気も知らないで」

 家から出て行った日。どんなに止めてもこの人は聞かなくて、俺を置いて出て行った。その時言ってしまった言葉を俺はずっと後悔していた。なんで言ってしまったんだろう。家族のためだって分かっていたはずなのに。その時の俺は感情のまま勢いで言ってしまった。

 俺のために家を離れる人に、ひどいことを言ってしまったんだ。

「聖治」

 俺の名前がビルの屋上に響く。なにを言われるだろう。少しだけ不安になる。

 そんな心配の中、兄さんは振り向いた。

 表情は、この人には珍しい穏やかなものだった。

「分かってるさ」
「――――」

 家族を守るために戦って、感謝もされず、それでも自分の意志を貫く。

 それが、魔堂魔来名、剣島正和という男だった。

 兄さんはそう言うと向き直り歩いていく。そして空間転移によって消えていった。

 彼が消えた場所をしばらく見つめる。名残り惜しい気持ちが俺を縛り付けその場から動けない。

コメント

  • 奏せいや

    ノベルバユーザー504803さんへ

    お返事が遅くなってすみません汗。通知がうまくきていなかったようで今気づきました。
    そう言っていただきありがとうございます! 嬉しいです♪ 聖治に対し「分かっているさ」と言う魔来名のシーンは私も大好きなので感動できるように出来ていてよかったです。

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  • ノベルバユーザー504803

    なんか、すごい感動した(´•̥  ̯ •̥`)

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