セブンスソード

奏せいや

219

 ぶつかり合う直前、ホーリーカリスが紫に大きく光った。

「これは」
「なに?」

 俺はなにも念じていないぞ?

 その光はさらに強く発光し兄さんにまで届く。

 まるで思いを届けるように。兄さんの魂が、時空を超えて呼応する。

 その光は兄さんの死と引き替えに得た。この人と出会って、わけも分からず助けられて、守られて。

 失った後に、すべてを知ったんだ。

 兄さんの、刃が止まった。

 その時の光を纏い、俺はホーリーカリスを振り抜いた。

「があああ!」

 走り抜ける。横を通り、俺たちは交差していた。背後で膝をつく音がする。

 振り返れば兄さんは膝を付き斬られた腹部を押さえていた。

「どうして」

 あの時、あのまま振られていれば俺の方が負けていた。でも兄さんは手を止めていた。

「俺は」
「まさか、思い出したのか!?」

 斬られた傷が苦しそうだがそれ以上に困惑している。

「俺は、負けたのか? けっきょく、なにも守れずに、死んだのか」
「それは違う!」

 俺を守るために家を出て行った男の行動は無駄なんかじゃない。それを俺は誰よりも知ってる。

「俺は、あんたに守られたよ。ずっと守られてた。だから、こうして俺がいるんだろ!」

 兄さんがいなければこうして俺がここにいることはなかった。きっと悪魔に襲われるか飢え死にしてただろう。

 隣にはいなかったけれど、俺はずっと守られていたんだ。

「あんたは俺を守ってくれた。約束を、果たしてくれたんだ」
「……そうか」

 静かだった。傷の痛みも後悔も飲み込んで、この人は静かにそれだけを口にした。

「傷、治します!」

 香織が兄さんに駆け寄る。ディンドランを当て傷を回復させていく。桃色の光に触れてみるみると傷が治っていった。それを兄さんは黙って見つめていた。

「以前、聖治さんが教えてくれていたんです」

 兄さんの傷を治していく。その時の香織は嬉しそうだった。

「いいお兄さんだったって」
「……フン」

 兄さんは目を閉じ、返事はしなかった。

 傷が治り立ち上がる。傷を治せるディンドランは本当に助かる。

「えっと」

 なにを話せばいいのか。なんとか勝負は終わったようだしそれはよかったんだが、それはそれで緊張してしまう。

「記憶は取り戻せたのか?」
「ああ。不思議なものだ。俺もお前もこうして無事なのに昔のことを思い出すなんてな」
「たぶん、これのおかげだろうな」

 そう言ってホーリーカリスに視線を向ける。今はもう七色に均等に輝くスパーダだけどあの時ホーリーカリスは紫に大きく光った。

「俺の魂に触れたからじゃない。きっと、前の世界の自分に触れたから。だから思い出せたんじゃないか?」

 それくらいしか説明がつかないし紫の光に触れて思い出せたんだからそうなんだろう。それ以外にない。

「少しだけだけど、前の魂が残っていたんだろうな」

 それも兄さんの魂が強いからなのかはたまたなにかの偶然だったのか、それは分からないけれど。

 それも含めて、この人の強さだったんだろうな。

「そういうことだろうが、逆にそうならなかった場合どうするつもりだったんだ?」
「それはー……それ以外の方法でなんとかしてたさ」
「まったく」

 俺の答えに失望感のある仕草をありありと見せつけてくる。

「無謀だな。死ぬ気か」
「殺す気だったのはそっちだろ?」
「黙ってろ、今からでもその首切り落としてもいいんだぞ」
「まったく」

 なんて物騒なセリフだ、これでも生き別れの兄弟が再会したばかりなんだぞ。

 ほんと、変わらないな、この人は。強情でなにかと怖い。昔と同じだ。

 だけど、そんな変わっていないところがなぜか妙にうれしかった。

「えーと、ということはどういうことなんだ?」

 そこで星都がこちらに話しかけてきた。見れば他のみんなもそわそわした様子で俺たちを見ている。

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