セブンスソード

奏せいや

218

 ふらつく足に力を入れ前屈みになっていた体を起こす。ホーリーカリスを持ち上げようとするが重い。グランに切り替えようとすが、駄目だ。それもできない。魔力切れだ。能力を使うスタミナが尽きている。

 気力だけで戦うしかない。

 それは兄さんも同じらしくその表情はかなり辛そうだ。お互いさきほどすべてを出し切ったんだ。

 重いが、なんとかホーリーカリスを持ち上げる。振れないことはない。

 その時だった。屋上の扉が開けられた。

「二人とももう止めて!」

 扉が開くなり香織の声が響いた。

「もう十分でしょ? これ以上戦ったって意味なんてない。傷つくだけだよ。取り返しのつかないことにだってなる。今ならまだ間に合うわ」

 悲痛な声で訴えてくる。だけど、その思いは俺たちには届かなかった。

「香織、それは違う」
「え」

 香織を見ずに、俺は言う。

「意味ならある」
「その通りだ」

 兄さんも。出てきた香織には目もくれずその視線はずっと俺を見つめている。

「人生には、時に自分の命よりも大事なものがある」
「それが今だ」

 その一点においては俺たちは共通していた。

 この戦いはただの殺し合いじゃない、互いの信念のぶつかり合いだ。

「でも、聖治君」

 心配そうな香織の声を聞くとそんな思いをさせて申し訳ないと思う。でも、これは引けないんだ。

 俺は振り返る。そこで、俺の帰りを待つ人を見る。

「待っててくれ、あともう少しだ」

 少しでも安心させたくて。ほんとは確信なんてないけど彼女の顔に微笑んだ。それから兄さんに向き直る。

「あんたを止める」
「なぜそこまでする? お前はなぜ戦う? なぜ諦めない?」

 兄さんから質問される。それにゆっくりと答えた。

「あんたが、命がけで繋いでくれた絆だからだ」

 スパーダを構える。これだけでかなりの重労働だが止めたりしない。

「俺はもう諦めない。誰も見捨てない」

 疲労が全身に圧しかかるけれど、俺の意志はまだ折れていない。

「それが、この旅で見つけた答えだからだ!」

 どんなに辛くても、どんなに苦しくても、可能性を諦めないと誓った。

「あんたはしても無駄だと決めつけていたが、俺は諦めないぜ。俺たちは前の世界で、仲間だったってな!」

 体が悲鳴を上げる。その内側で心が叫ぶ。

 この人を、絶対に取り戻すんだと!

「俺はお前を殺す気だぞ、怖くはないのか?」
「……ふ」

 険のある顔だが、その問いに不意に笑ってしまった。

「あんたは俺を、死んでも守ってくれたじゃないか」

 前の世界のことを思い出す。

 死ぬっていうのはそりゃ怖いさ。誰だって死ぬのは怖い。

 それでもこの人は守ってくれた。ボロボロになってまで、死ぬその時まで俺を守ってくれたんだ。

「だから俺もする。いつまでも、あんたに守ってもらう俺じゃ駄目なんだ!」

 だから、戦ってでも止める。この人を止めるために。

「たとえ思い出せなくたって、それでもあんたは止めてみせる」
「ふん。無駄なことだ」
「やれば分かるさ」

 互いにスパーダを構える。屋上には香織だけでなくみんなも集まっていた。俺と兄さんの一騎打ちを見守っている。

 長かった戦いもこれで終わる。これまでの戦いで体力も魔力も尽き果てて、最後に残ったのは体を動かす思いだけ。

 互いに剣を振るうのがやっと。もはや技術も関係ない。

 どちらの思いが強いか。これは自分との戦いだ。この思いが本物かどうか。

 俺たちは走り出した。俺はホーリーカリスを抱えながら、兄さんは鞘を捨て刃を露わにして走る。

「「うおおおお!」」

 この一撃にすべてを込めて、スパーダを振るう。

 巡り会う異なる世界。そこで起きたすべての出来事。

 たとえ別の世界でも続いてる。なくなったりしていない。

 絆は、ここにある!

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