セブンスソード
216
割れた鏡のように空間がズレる中、俺だけは形を変えることなく生存していた。
「ちッ」
なんとか刹那斬りが発動する前にディンドランを張れた。もし遅れていればお終いだった。
グランで切りかかる。兄さんは天黒魔で受けるも吹き飛び反対側の窓を突き破って外へと出た。
衝撃に吹き飛ばされる中天黒魔が虚空を斬る。空間操作と斬撃を組み合わせ空間ごと切り裂いている。それは巨大な紫の線となりこのビルごと切り裂いていた。
「くそ!」
ビルが崩れる!
急いで走り俺も外へと出る。空間に刻まれたいくつもの斬撃によってビルは分解され巨大な瓦礫となって落ちていく。
兄さんはその瓦礫の上に転移すると別のビルの屋上へと移動していった。俺もグランを使い落下している瓦礫をつたって移動する。
俺たちはこの町で最も高いビルの屋上に立っていた。空に一番近い場所。周りには並び立つものはない頂点。
そこで、俺たちは対峙する。
夜の風が吹き抜ける。制服を揺らし兄さんの前髪が流れる。
何度も戦った。何度も刃を交えた。それでもまだこの人に追いつけない。
「思えば」
そこでふと気付く。
「あんたと、こんな風に競ったことはなかったな」
こんなにも激しく戦っている俺たちだがそもそも戦うなんてことが初めてだったかもしれない。
「あんたはいつも俺の前にいて、あんたからもらったことはあったが奪い合ったり競い合ったことはなかった。年が離れてたからかな。喧嘩はあったが殴り合うこともなかった。いつも言い負かされて、戦っても負けると分かってたからいつも悔しかったよ」
ほんと、思い返せば嫌な思い出ばかりなんだよな、この人って。
「今だから言うけどさ、怖い人だった。基本的に厳しいんだよ。暴力だって平気で振るうし。俺が門限を過ぎた時も理由を聞かずに頭を殴ってきたし。めちゃくちゃだったぞ」
融通が利かないっていうか、頑固っていうか。
「だけど、なんでだろうな。あんたを憎むとか嫌うとか、そういうのはなかったんだ。こんなに怖い人なのにさ。きっと、あんたは行動で示していたからだと思う。家族を守ること。そのためにがんばっていたあんたの姿を見てきた。家族が俺たちだけになった時もあんたは一人でがんばっていた。働いて、働いて、自分の幸せを省みず、それでも弱音を吐かずあんたは一人で頑張っていた」
俺のことを誰よりも心配していた。門限を過ぎた時だって今なら俺の身を案じていてくれていたからだと分かる。
「自衛軍に志願したのも俺のためだってほんとは分かってた。その時は一人になるのが嫌で必死に止めてたけどさ」
その時のことだけが俺の中で心残りだった。
「家から出て行くあんたに、嫌いだって泣き叫んでさ」
それだけ、俺も必死だった。唯一の家族が出て行く。それも戦場に行くっていうんだ。もう会えないんじゃないかって不安が大きくて、それしか言う言葉が浮かばなかった。
俺のことが嫌いだから出て行くんじゃないって、ちゃんと分かっていたはずなのに。
「もし天国にいる人と話ができるならそのことを謝りたかった。って、その必要はなかったみたいだけどな」
実際この人は生きていたんだし。天国に電話をかけても不在着信か。
「あんたはいつも他人のために頑張る人だった。だから、怖いけど憎めない、俺の兄だったッ」
それが分かる。声にも熱がこもる。
「いい人だった。不器用で、分かりづらいけど、その人の思いはしっかりと伝わっていた。そんな人が俺の前に敵として立っている。それならどうする? 取り戻すだろ、絶対に!」
この人が俺にしてくれたこと。それを返す時がようやくきた。
「強い思いは、魂にまで刻まれる。それほどまで強く刻まれているあんたなら分かるはずだ、どうしてそこまで力を求めるのか、その理由が!」
俺は駄目だった。ほかのみんなも無理だった。それができなくて争いいくところまでいってしまった。
でも、この人ならできるかもしれない。他ならぬこの人なら。
「まだ思い出せないか?」
聞いてみるが返事はない。どうやら思い出すにはまだ足りないようだ。
「そうか。分からないっていうのなら、俺の魂をぶつけてやる。何度でもだ!」
魂に思いや記憶が宿るっていうのなら、それをぶつけてやる。届くまで何度だって。
兄さんは俺の話を黙って聞いていた。物静かに、反論も揶揄することもなく、受け止めるように聞いている。
「お前の言い分は分かった」
いつもの挑発然とした態度ではない。真剣な顔つきだ。
「それがお前にとって強い決意なのも理解した」
前みたいに頭ごなしに否定してこない。少しは届いたのか? 俺の声が。
「ちッ」
なんとか刹那斬りが発動する前にディンドランを張れた。もし遅れていればお終いだった。
グランで切りかかる。兄さんは天黒魔で受けるも吹き飛び反対側の窓を突き破って外へと出た。
衝撃に吹き飛ばされる中天黒魔が虚空を斬る。空間操作と斬撃を組み合わせ空間ごと切り裂いている。それは巨大な紫の線となりこのビルごと切り裂いていた。
「くそ!」
ビルが崩れる!
急いで走り俺も外へと出る。空間に刻まれたいくつもの斬撃によってビルは分解され巨大な瓦礫となって落ちていく。
兄さんはその瓦礫の上に転移すると別のビルの屋上へと移動していった。俺もグランを使い落下している瓦礫をつたって移動する。
俺たちはこの町で最も高いビルの屋上に立っていた。空に一番近い場所。周りには並び立つものはない頂点。
そこで、俺たちは対峙する。
夜の風が吹き抜ける。制服を揺らし兄さんの前髪が流れる。
何度も戦った。何度も刃を交えた。それでもまだこの人に追いつけない。
「思えば」
そこでふと気付く。
「あんたと、こんな風に競ったことはなかったな」
こんなにも激しく戦っている俺たちだがそもそも戦うなんてことが初めてだったかもしれない。
「あんたはいつも俺の前にいて、あんたからもらったことはあったが奪い合ったり競い合ったことはなかった。年が離れてたからかな。喧嘩はあったが殴り合うこともなかった。いつも言い負かされて、戦っても負けると分かってたからいつも悔しかったよ」
ほんと、思い返せば嫌な思い出ばかりなんだよな、この人って。
「今だから言うけどさ、怖い人だった。基本的に厳しいんだよ。暴力だって平気で振るうし。俺が門限を過ぎた時も理由を聞かずに頭を殴ってきたし。めちゃくちゃだったぞ」
融通が利かないっていうか、頑固っていうか。
「だけど、なんでだろうな。あんたを憎むとか嫌うとか、そういうのはなかったんだ。こんなに怖い人なのにさ。きっと、あんたは行動で示していたからだと思う。家族を守ること。そのためにがんばっていたあんたの姿を見てきた。家族が俺たちだけになった時もあんたは一人でがんばっていた。働いて、働いて、自分の幸せを省みず、それでも弱音を吐かずあんたは一人で頑張っていた」
俺のことを誰よりも心配していた。門限を過ぎた時だって今なら俺の身を案じていてくれていたからだと分かる。
「自衛軍に志願したのも俺のためだってほんとは分かってた。その時は一人になるのが嫌で必死に止めてたけどさ」
その時のことだけが俺の中で心残りだった。
「家から出て行くあんたに、嫌いだって泣き叫んでさ」
それだけ、俺も必死だった。唯一の家族が出て行く。それも戦場に行くっていうんだ。もう会えないんじゃないかって不安が大きくて、それしか言う言葉が浮かばなかった。
俺のことが嫌いだから出て行くんじゃないって、ちゃんと分かっていたはずなのに。
「もし天国にいる人と話ができるならそのことを謝りたかった。って、その必要はなかったみたいだけどな」
実際この人は生きていたんだし。天国に電話をかけても不在着信か。
「あんたはいつも他人のために頑張る人だった。だから、怖いけど憎めない、俺の兄だったッ」
それが分かる。声にも熱がこもる。
「いい人だった。不器用で、分かりづらいけど、その人の思いはしっかりと伝わっていた。そんな人が俺の前に敵として立っている。それならどうする? 取り戻すだろ、絶対に!」
この人が俺にしてくれたこと。それを返す時がようやくきた。
「強い思いは、魂にまで刻まれる。それほどまで強く刻まれているあんたなら分かるはずだ、どうしてそこまで力を求めるのか、その理由が!」
俺は駄目だった。ほかのみんなも無理だった。それができなくて争いいくところまでいってしまった。
でも、この人ならできるかもしれない。他ならぬこの人なら。
「まだ思い出せないか?」
聞いてみるが返事はない。どうやら思い出すにはまだ足りないようだ。
「そうか。分からないっていうのなら、俺の魂をぶつけてやる。何度でもだ!」
魂に思いや記憶が宿るっていうのなら、それをぶつけてやる。届くまで何度だって。
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