セブンスソード
194
「ハードライト、確かにお前は強い。距離を問わない多彩な攻撃、防御、速度、復元による耐久性。お前は一見完璧だ。ランクC最強だというのも頷ける。だが、お前の力はしょせん物理法則の枠の中」
魔来名は振り返り、うずくまるハードライトを見下ろした。
「お前は強いが、最強にはほど遠い」
物理法則上、質量を持たない光子よりも速く動くことはできない。しかし魔来名はそれを越えたんだ。
物理法則を超越した、それは魔法のような一撃だった。
「くッ」
ハードライトは腕を抱えながら立ち上がる。不死身だと思われた復元能力も天黒魔に封じられてしまえば意味がない。
ハードライトはそのまま後ずさりながら消えていった。
「消えた」
衝撃的な勝利に半ば呆然としそうになるが魔来名は勝ったんだ。あのハードライトに。
すごい、本当に。
もう何度目になるか分からない衝撃に胸がしびれる。現実じゃないみたいだ。
が、魔来名の体が傾き始めた。それで我に戻る。
「魔来名!」
すぐに駆け寄り体を抱える。魔来名は仰向けになっている。
「おい、魔来名? なあ!?」
「ああ……」
その顔は憔悴しきっていた。体は血で濡れている。何度も戦ったんだ、ぼろぼろの体で。俺のために限界の体を無理矢理動かして戦ってくれた。こんな風になってまで。
「魔来名、俺は」
言葉が続かない。なんて言えばいい。命の恩人が今目の前で死にそうになっている。なのに俺はなにもできない!
「いいんだ」
そんな俺を、魔来名は見上げていた。
「いいんだ」
穏やかだった。声も表情も。死にそうだっていうのに。
「なんで、そんな風に言えるんだよ」
死にそうなんだぞ? もうすぐ死ぬんだぞ? それも俺を庇った傷で。恨み言を言われたっておかしくない。なのに。
こんなにも俺のために戦ってくれたのに。
魔来名の表情は、まるで救われたのは自分のようだ。
目の奥が熱くなる。気づけば頬を水滴が滴っている。
俺はこの人になにもしてやれない。ただこうして体を抱き上げることしかできない。
なんで、なんで俺はいつも、いつも! こんなにも無力なんだよ!
「ごめん、魔来名ッ」
俺を守ってくれた人に、俺ができる唯一のことが謝罪しかできないなんて。
「なあ、教えてくれ。どうしてあんたは俺を守ってくれたんだ? なんで?」
涙ながら懇願する。どうしても知りたくて。この人のことをもっと知りたい。
魔来名はうっすらとした意識を俺から外し、夜空に向けた。つられて俺も見る。
そこでは星が輝いていた。いくつもの星が。きらきらと。
「聖治……生きろ……」
顔を戻す。魔来名の顔を見る。
その顔は、微笑んでいた。
「お前を守れたことが、俺の誇りだ」
そう言って、魔来名の瞼がゆっくりと閉じていく。
「魔来名ぁあああ!」
俺の叫びが町に響く。静かな暗がりに俺の声だけが広がっていく。
「駄目だ、駄目だ魔来名!」
体を揺する。けれど反応は返ってこない。
「魔来名ぁああ!」
何度も名前を呼ぶけれど返事はこない。
次第に体が光り出し一つの玉となって浮かび上がる。それが俺の体の中に入っていく。
「あ」
完全に俺の中に入り、俺の魂と交わっていく。
「あ」
そこにある、記憶と一緒に。
「そんな」
彼の記憶が流れ込んでくる。頭の中でいくつもの光が破裂するように。眠っていた記憶を思い出していく。
「うそだ、うそだろ?」
魔来名の顔をのぞき込む。瞳を閉じた顔をまじまじと信じられないように見る。
でも、思い出した、思い出したんだ。
魔来名、あんたはッ。
「兄さん!」
俺の、たった一人の家族だったんだ。
魔来名は振り返り、うずくまるハードライトを見下ろした。
「お前は強いが、最強にはほど遠い」
物理法則上、質量を持たない光子よりも速く動くことはできない。しかし魔来名はそれを越えたんだ。
物理法則を超越した、それは魔法のような一撃だった。
「くッ」
ハードライトは腕を抱えながら立ち上がる。不死身だと思われた復元能力も天黒魔に封じられてしまえば意味がない。
ハードライトはそのまま後ずさりながら消えていった。
「消えた」
衝撃的な勝利に半ば呆然としそうになるが魔来名は勝ったんだ。あのハードライトに。
すごい、本当に。
もう何度目になるか分からない衝撃に胸がしびれる。現実じゃないみたいだ。
が、魔来名の体が傾き始めた。それで我に戻る。
「魔来名!」
すぐに駆け寄り体を抱える。魔来名は仰向けになっている。
「おい、魔来名? なあ!?」
「ああ……」
その顔は憔悴しきっていた。体は血で濡れている。何度も戦ったんだ、ぼろぼろの体で。俺のために限界の体を無理矢理動かして戦ってくれた。こんな風になってまで。
「魔来名、俺は」
言葉が続かない。なんて言えばいい。命の恩人が今目の前で死にそうになっている。なのに俺はなにもできない!
「いいんだ」
そんな俺を、魔来名は見上げていた。
「いいんだ」
穏やかだった。声も表情も。死にそうだっていうのに。
「なんで、そんな風に言えるんだよ」
死にそうなんだぞ? もうすぐ死ぬんだぞ? それも俺を庇った傷で。恨み言を言われたっておかしくない。なのに。
こんなにも俺のために戦ってくれたのに。
魔来名の表情は、まるで救われたのは自分のようだ。
目の奥が熱くなる。気づけば頬を水滴が滴っている。
俺はこの人になにもしてやれない。ただこうして体を抱き上げることしかできない。
なんで、なんで俺はいつも、いつも! こんなにも無力なんだよ!
「ごめん、魔来名ッ」
俺を守ってくれた人に、俺ができる唯一のことが謝罪しかできないなんて。
「なあ、教えてくれ。どうしてあんたは俺を守ってくれたんだ? なんで?」
涙ながら懇願する。どうしても知りたくて。この人のことをもっと知りたい。
魔来名はうっすらとした意識を俺から外し、夜空に向けた。つられて俺も見る。
そこでは星が輝いていた。いくつもの星が。きらきらと。
「聖治……生きろ……」
顔を戻す。魔来名の顔を見る。
その顔は、微笑んでいた。
「お前を守れたことが、俺の誇りだ」
そう言って、魔来名の瞼がゆっくりと閉じていく。
「魔来名ぁあああ!」
俺の叫びが町に響く。静かな暗がりに俺の声だけが広がっていく。
「駄目だ、駄目だ魔来名!」
体を揺する。けれど反応は返ってこない。
「魔来名ぁああ!」
何度も名前を呼ぶけれど返事はこない。
次第に体が光り出し一つの玉となって浮かび上がる。それが俺の体の中に入っていく。
「あ」
完全に俺の中に入り、俺の魂と交わっていく。
「あ」
そこにある、記憶と一緒に。
「そんな」
彼の記憶が流れ込んでくる。頭の中でいくつもの光が破裂するように。眠っていた記憶を思い出していく。
「うそだ、うそだろ?」
魔来名の顔をのぞき込む。瞳を閉じた顔をまじまじと信じられないように見る。
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