セブンスソード
191
「まずは、飯を食え」
「飯?」
なぜ、と思ったが、それよりも魔来名の横顔が気になった。
魔来名は、優しい顔をしていた。
「たくさんものを食って、死ぬほど食って、もう食べられないくらい食べろ。先のことを考えるのは、その後でいい」
「ああ……」
そんな顔で言われたら頷くしかない。まるでなにかを懐かしむような柔らかい表情。こんな男でもこんな顔をするんだなとふと思ってしまう。
「なあ、あんたにはないのかよ」
「ん?」
「生きたいっていう気持ちっていうか、やりたいこととかさ」
次はないと言い切った男に聞くのも変な話だがどうしても聞きたかった。
「俺は死にたいなんて思わないし生きなきゃいけない理由がある。だけどそうじゃなくても普通生きたいと思うのが人間だろう。あんたはどうなんだ? 生きて、やりたいことはないのかよ」
理由もなく死にたい人なんていない。この男だって本当なら生きていたいはずなんだ。
「そうだな」
魔来名は一旦言葉を置いた。僅かばかり思案している。
「あると言えば、ある。だが、それは叶わんだろうな」
「なんで諦めるんだよ?」
らしくない。戦ってる時はあんなにも自信満々なのに。
「ふん」
魔来名の答えに俺は苛立ちすら感じるというのに当の本人は笑っている。
「お前こそ、どうしてそこまで躍起(やっき)になる」
「それは」
さっきも言ったが魔来名は俺にとってもう仲間だ。だけどそれを何度も言うのは照れるし恥ずかしい。仲がいいというわけではないし。そこがまた厄介というか。
そんな俺を余所に魔来名はどこか上機嫌だ。
「まさか、お前に心配される日がくるとはな。分からんものだ」
本当に、今の魔来名は柔らかい。
魔来名は俺に振り向いた。口元が少しだけ持ち上ったままの顔で俺を見る。
「いいんだ聖治。お前は生きてやりたいことはないかと聞いたが、それはもう達成できた。俺は、生きてやりたかったことをもうしたんだよ」
そう言う魔来名は満足そうで、この言葉は本心なんだと分かる。
生きてやりたかったこと。それはもう達成できた。まるで積年の思いを果たせたような、それは満ち足りた顔だった。
「だから」
「魔来名!?」
そう言う途中で魔来名の体勢が崩れた。膝が折れその場に座り込む。
「おい、大丈夫かよ?」
「いいんだ、これで」
さすがに限界が近い。まだ新都までは距離があるし、どうすればいい?
仕方がない。魔来名はここに残して俺だけで香織を探しに行くしかない。
「待ってろ魔来名、俺が香織をここに連れてきてやる」
「そうはいかない」
「お前」
そこへ別の男の声が混じる。俺は顔を正面に向けた。
そこにいたのは白衣の男。フードで顔を隠しロングコートを着た、あの男だった。
「ハードライトッ」
こいつ、まさかこのタイミングで来るなんて。
「なぜお前がここにいる!?」
俺と香織を殺し、未来でも殺しに来た。あの時は黒衣の男が守ってくれたがそれはもう期待できない。毎度毎度、なぜ俺たちの邪魔をしてくるッ。
「そうか、私を知っているか。なら剣はすでに使用しているみたいだな」
「こいつのことか」
魔来名を下ろしパーシヴァルを出す。このスパーダには世界を再始動させる力がある。それのおかげでこいつと出会うのは三度目になるが勝てたことは一度もない。
間違いなく、今までで最強の敵だ。
「お前は何者なんだ!? なぜ俺たちを狙う?」
「…………」
「黙りか」
こいつの正体も目的も分からない。分かっているのは俺たちの命を執拗に狙いセブンスソードの完成を阻もうとしていること。
そして、その力は団長クラスということだ。
俺じゃ勝てない。こいつは強すぎる。
「飯?」
なぜ、と思ったが、それよりも魔来名の横顔が気になった。
魔来名は、優しい顔をしていた。
「たくさんものを食って、死ぬほど食って、もう食べられないくらい食べろ。先のことを考えるのは、その後でいい」
「ああ……」
そんな顔で言われたら頷くしかない。まるでなにかを懐かしむような柔らかい表情。こんな男でもこんな顔をするんだなとふと思ってしまう。
「なあ、あんたにはないのかよ」
「ん?」
「生きたいっていう気持ちっていうか、やりたいこととかさ」
次はないと言い切った男に聞くのも変な話だがどうしても聞きたかった。
「俺は死にたいなんて思わないし生きなきゃいけない理由がある。だけどそうじゃなくても普通生きたいと思うのが人間だろう。あんたはどうなんだ? 生きて、やりたいことはないのかよ」
理由もなく死にたい人なんていない。この男だって本当なら生きていたいはずなんだ。
「そうだな」
魔来名は一旦言葉を置いた。僅かばかり思案している。
「あると言えば、ある。だが、それは叶わんだろうな」
「なんで諦めるんだよ?」
らしくない。戦ってる時はあんなにも自信満々なのに。
「ふん」
魔来名の答えに俺は苛立ちすら感じるというのに当の本人は笑っている。
「お前こそ、どうしてそこまで躍起(やっき)になる」
「それは」
さっきも言ったが魔来名は俺にとってもう仲間だ。だけどそれを何度も言うのは照れるし恥ずかしい。仲がいいというわけではないし。そこがまた厄介というか。
そんな俺を余所に魔来名はどこか上機嫌だ。
「まさか、お前に心配される日がくるとはな。分からんものだ」
本当に、今の魔来名は柔らかい。
魔来名は俺に振り向いた。口元が少しだけ持ち上ったままの顔で俺を見る。
「いいんだ聖治。お前は生きてやりたいことはないかと聞いたが、それはもう達成できた。俺は、生きてやりたかったことをもうしたんだよ」
そう言う魔来名は満足そうで、この言葉は本心なんだと分かる。
生きてやりたかったこと。それはもう達成できた。まるで積年の思いを果たせたような、それは満ち足りた顔だった。
「だから」
「魔来名!?」
そう言う途中で魔来名の体勢が崩れた。膝が折れその場に座り込む。
「おい、大丈夫かよ?」
「いいんだ、これで」
さすがに限界が近い。まだ新都までは距離があるし、どうすればいい?
仕方がない。魔来名はここに残して俺だけで香織を探しに行くしかない。
「待ってろ魔来名、俺が香織をここに連れてきてやる」
「そうはいかない」
「お前」
そこへ別の男の声が混じる。俺は顔を正面に向けた。
そこにいたのは白衣の男。フードで顔を隠しロングコートを着た、あの男だった。
「ハードライトッ」
こいつ、まさかこのタイミングで来るなんて。
「なぜお前がここにいる!?」
俺と香織を殺し、未来でも殺しに来た。あの時は黒衣の男が守ってくれたがそれはもう期待できない。毎度毎度、なぜ俺たちの邪魔をしてくるッ。
「そうか、私を知っているか。なら剣はすでに使用しているみたいだな」
「こいつのことか」
魔来名を下ろしパーシヴァルを出す。このスパーダには世界を再始動させる力がある。それのおかげでこいつと出会うのは三度目になるが勝てたことは一度もない。
間違いなく、今までで最強の敵だ。
「お前は何者なんだ!? なぜ俺たちを狙う?」
「…………」
「黙りか」
こいつの正体も目的も分からない。分かっているのは俺たちの命を執拗に狙いセブンスソードの完成を阻もうとしていること。
そして、その力は団長クラスということだ。
俺じゃ勝てない。こいつは強すぎる。
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