セブンスソード

奏せいや

185

 それによって魔来名は絶対命中を発動し、迫り来る数百というナイフを打ち落としたんだ。当たるという結果を先に確定させて。それなら打ち損じなんてあり得ない。絶対に当たる。たとえ手数や速度が足りずとも。物理的に不可能でも関係ない。結果が決まっているのだから過程に存在する問題なんて意味がない。なにがあろうと結果に収束する。

「勝負ありだ半蔵、お前の刃は俺には届かない」

 完全迎撃という絶対の防御。その前には無数の刃といえど意味がない。

 魔来名の勝利宣言に異議を立てるように半蔵が猛攻を仕掛ける。頭や胸、背中、あらゆる場所から放たれる奇襲は本来なら防ぎようがない。

 だが魔来名が天黒魔を振るう度それらはそれが決まりであるかのように地面に落ちていった。

 数十という数を前に、一振りで足りぬなら斬撃が分身し、それでも無理なら空間を無視して。それでも届かぬなら時間を超越して。その一閃は条理を越えて敵を絶つ。

 半蔵が放つ残数無限の攻撃を一つの打ち損じもなく魔来名は落としていた。彼の足下や周囲には千にもなるナイフが転がっている。そこまで打ってからようやく攻撃が止まった。

「気は済んだか?」
「そうだな」

 地面を埋め尽くすほどのナイフは半蔵の失敗の証だ。対して魔来名の成功の証明でもある。これだけ試して駄目なら続けても無駄だ。

「どうあってもお前には当たらんらしい、魔来名。であれば決着をつける手段は一つしかあるまい」
「そうだな」

 半蔵は両手を突き出しナイフを交える。魔来名も天黒魔を納刀すると居合いの構えを取る。

 魔来名には絶対命中による完全迎撃がある。それを破るなら絶対命中が発動する前に倒すしかない。魔来名がエルターにしたことを半蔵もしようとしている。

 相手が抜くよりも速く倒す。ここにきて無数の手数はいらない。いるのは最速の一撃のみ。それを放つために二人とも準備を整えていく。

「瞬、光、烈、斬」

 半蔵の背後に文字が浮かんでいく。魔来名も天黒魔に魔力が充填していき黒い瘴気が鯉口(こいぐち)から噴出している。

 加速の術式は組み上がり、必殺を放つ用意が整った。

 両者は踏み出し、奇しくも同じ技がぶつかった。

「「刹那斬り!」」

 濃密な時間は瞬きの間になくなり、二人の立ち位置が入れ替わる。互いに背中を向けて武器を振るった姿勢を保っていた。

 静まり返った時間が重苦しい。そんな中、先に膝を付いたのは半蔵だった。

「ぐ」

 胴体が大きく切り裂かれている。ただでさえ致命傷だが天黒魔に斬られたとあっては助からない。

 魔来名は天黒魔を納刀し姿勢を整えた。

「俺たちの決着が結局のところ得物の長さで決まるなど間抜けな結末だったな」
「いや、そうとも限らん」

 膝立ちし俯きながら、それでも半蔵は気丈にしていた。大けがを負ってなお魔卿騎士団幹部、その威厳を保っている。

「お前はいずれ団長となる器。この勝負もまたその糧となるならば、この結果も必然と言える」
「お前はそれでいいのか」
「構わん」

 魔来名が振り向く。半蔵の後ろ姿を見つめた。

「あの人の代わりなど、誰にも務まらん。それでもなお手を伸ばした。願ってしまった。己の不甲斐なさを悔やむことはあれど、死を厭(いと)うことなどないさ。誠実ではないだろう」
「そうだな」

 セブンスソードという他人に死を押しつけておいて自分は死にたくないというのは公平ではない。その点半蔵は己の死すら覚悟の上だった。

 半蔵が夜空を見上げる。よく見える星の輝きを仰ぎつつ、静かに言葉をもらす。

「その顔を、最後に見れてよかった」

 その瞳がまぶたによって塞がれる。これから死ぬ男の顔にしてはその表情は穏やかだ。

「魔卿騎士団に、栄光を」

 それが、半蔵の最後の言葉だった。

 体が前屈みに傾き地面に倒れる。動く気配はなく息を引き取っていた。

「ふん。死に際まで組織を案ずるか、殊勝な男だ」

 それは魔来名なりの賛辞だったのか、死闘を演じた男へ静かに言葉を贈っていた。

「ん」

 が、その顔が歪む。さらに膝を付き傷口に手を当てる。

「魔来名!」

 すぐに駆け寄り体を支える。

 その体はひどい有様だ。背中や腹部、肩から血を流し袖口からも血が滴っている。

 こんな重体で今まで戦っていたのか。立っているだけでも辛かったはず。それでも半蔵に意識があるうちは立ち続けていた。きっと散りゆく半蔵に強者として安心させたかったのかもしれない。

「セブンスソード」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く