セブンスソード

奏せいや

183

「え」

 端から見ていたからこそはっきり分かる。

 半蔵がナイフを投げると同時、背後からも別のナイフが飛んできたのだ。

 俺たちの時だって同じだった。突然別の場所からナイフが飛んできてわけも分からないまま全身を刺された。

 でもどこから? なんで突然? こうして見ていても分からない。

 魔来名はナイフを引き抜く。痛みを堪えながら目を動かし落ちているナイフと今掴んだナイフを見やる。その後それを捨て半蔵をとらえた。

 その表情に困惑の色はない。

「まさか」

 もしかして、分かったのか? 半蔵の能力が?

 魔来名は静かに話し出す。

「向かってきたナイフは防いでそこに落ちている。だが別方向からもナイフが飛んできた。空間転移ではないな。さきほどのような絶対命中でもない。お前は一回しか投擲していないのに飛んできたナイフは二本。投げたナイフを複製するにしても別の空間座標を指定する手間と慣性の法則まで再現するのでは現実的じゃない。それなら別の誰かが投げたと考えるのが普通だがここにいるのは俺とお前、そしておまけが一人だけだ」

 おまけって俺のことか?

「では誰が投げたと」

 半蔵からの質問に、魔来名は自信を覗かせた。

「決まりきっている。別のお前だ」

 魔来名は不敵に笑った。それに対して半蔵は無言のままだった。

「平行世界にいるもう一人の自分。その投擲をこの世界に重ねたか。多元同時攻撃がお前の技の正体だ」

 平行世界。多元同時攻撃。そうか、そういうことか!

 無数にあると言われる平行世界にはこの状況とほとんど同じ世界もあるはずで、その世界では別の場所から攻撃した自分だっているはず。そうした同じ状況だけれど別の場所から攻撃したナイフをこの世界に出現させたんだ。空手になる度にナイフを握っていたのもナイフを握っている自分の平行世界から持ってきたのか。

「…………」
「沈黙か。認めたくない気持ちは分かるがな」
「そうだな、見破られたなら仕方がない。見事だ魔来名。だが、それが分かったところでどうするつもりだ?」

 否定したところで仕方がないと思ったか半蔵は魔来名の答えを認めた。だがそれは必ずしも弱点を突いたとは言えない。

「平行世界は可能性の数だけ存在する別世界。そこには正面から投擲した私もいれば背後から投擲した私、頭上から投擲した私もいる。その攻撃、すべて防ぐつもりか? 不可能だと分かっているはずだ。その数、お前では捌けない」

 確かに、半蔵が言っていることも尤もだ。原理が分かったとしても解決まで出来るとは限らない。

 多元同時攻撃の恐ろしさはその隙のなさだ。様々な場所や角度から攻められたら如何に魔来名といえど防げない。必ず死角を突いてくる。

「数による必中か。自分の腕にコンプレックスでもあるのか? 下手な鉄砲では当てるのにも苦労するらしい」

 だっていうのに、ほんとにこの男は憚(はばか)らない。怖くないのか?

「君の軽口は嫌いではないよ、魔来名。これで聞けなくなると思うと残念だ」
「死んでは聞きたくても聞けないからな」
「ふふ」

 魔来名の挑発をそよ風のように受け流している半蔵もさすがだ。しかしすぐにその表情は引き締まり魔来名も天黒魔を構えた。鞘を捨て天黒魔を両手で握る。

 半蔵がナイフを投げる。それを打ち落とすのではなく魔来名はかわした。それも大きく移動してその場からいなくなる。魔来名が移動した後を前後左右からナイフが通り過ぎていった。その後も魔来名は動き続け半蔵を攪乱していく。

 見ていれば分かるが半蔵が多元同時攻撃をしてくるのは本人も投擲している時だけだ。おそらく別世界の投擲を持ってくるにはこの世界でも投擲している自分が必要なんだろう。

 だから半蔵の投擲には防御だけでなく回避する。その場から動き常に狙いを外すことを意識して立ち回っている。

 達人同士のせめぎ合い。二人の戦いは見入りそうになる。だがこれはむしろチャンスじゃないのか?

 二人は今互いに戦っているんだ。なら逃げるなら今しかない。二人が相手に集中しているこのタイミングなら逃げられるかもしれない

 二人のぶつかり合う金属音が響いている。二人は戦いに集中している。

 今だ!

 俺はゆっくりと立ち上がり逃げ出した。

「止めろ!」

 だがそれに気づいた魔来名から声をかけられる。俺は走りながら振り返った。

 そこで見たのは、俺に向かって投擲しようとしている半蔵だった。

 なッ。

 しまった。俺に攻撃しなかったのは相手に集中していたからじゃない、いつでも殺せるからだ。

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