セブンスソード

奏せいや

180

 とはいえ仲良くなりたいわけじゃないだろう。俺は最初の一周目でこいつがどんなやつか知っている。

 俺たちは休戦を持ちかけた。戦いたくないと伝えた。

 なのにこいつは戦うことを選び、みんなと俺を殺したんだ。

 俺も人のことは言えないが、とにかく警戒すべき相手だ。この状況だっていつ変わるか。

「そんなの、誰だって同じだろ。死にたいやつなんて一人もいない」
「そうだな」

 背中越しに魔来名の声が聞こえる。落ち着いた声が暗闇の部屋に響く。

「だが」

 不思議な時間だった。気まずい空気のはずなのに棘のような緊張感はなく、穏やかさすら感じるこの雰囲気。

「たとえ死ぬと分かっていても、時には戦わなくてはならない時もある。お前はそれを知っているはずだ」
「なにを」

 魔来名の言っている意味がよく分からない。いったいなにを言わんとしているのか。

「だったらなんだっていうんだ」
「別に。ただ、それだけだ」

 分からない。俺はこの男のことを理解できる日が来るのだろうか。

「それだけで十分だ」

 そう言う魔来名の声は静かだったけれどどこか悲しそうな、嬉しそうな、よく分からない響きを持っていた。

 分からない。でも思えば分からなくて当然か。俺はこの男のことをなにも知らない。強いていうなら戦っている時の魔来名しか俺は知らない。

 こうして、普通に話すことは今までなかった。

「その傷ではまだ満足に動けんだろう。明日様子を見て歩けるようなら町へ行き他のスパーダと合流だ」
「合流? まさか殺して奪うつもりか?」

 不穏な空気を感じ俺は振り返る。

「必要とあればな」
「そんな必要はない!」

 魔来名の目が俺を見る。その目が俺を射抜くように見据える。

「ふん。血は足りないのに頭には上るか」
「なんとでも言え、みんなは俺の仲間だ。絶対に殺させたりしない」
「やはりお前は愚かだな」
「なに?」
「そう思うのは勝手だが相手がどう思うかはまた別の話だ。それがなぜ分からん」

 苛立たしげに眉を顰める。

「いい加減学習したらどうだ」
「なにを」

 そう言うと魔来名は会話を終わらせるように目をつぶってしまった。

 くそ。

 言い足りない気持ちはあったが俺も寝返りを打つ。

 やはりこの男をみんなと会わせるわけにはいかない。以前の時のようなことを起こすわけにはいかない。

 俺はそのまま眠ったふりを続けた。時間が過ぎていく。外からの物音もなく静まり返っている。俺はそっと魔来名の顔を盗み見た。

 魔来名は壁際に座ったまま目をつぶっている。天黒魔を支えにして顔を下に向けて。完全に眠っているのかどうか分からないがゆるやかな呼吸を繰り返している。

 今ならいけるかもしれない。

 傷はまだ痛んだが俺はゆっくりと立ち上がる。気づかれないよう慎重に体を動かしていく。

「どこへ行く」
「!?」

 振り返る。魔来名は目を瞑っているが意識はまだあったようだ。

「トイレだよ。ここで用を足すわけにもいかないだろ」
「…………」

 バレバレな嘘だと思うがこんな理由くらいしか思いつかない。

「……そうか」

 え? いいのか?

 魔来名を見るがあいからわず目を瞑ったまま寝ているのか起きているのか分からない表情をしている。でも止めないということは行っていいということだ。

 若干拍子抜けしつつも俺は部屋の外へと出た。背後を振り返ってみるが追いかけたり見張りに来る感じはない。

 思ってたより甘いな。でもそういうことなら。

 俺は建物の外へとそっと向かい出るなり全力で走り出す。

 夜の町をひたすら走る。走る度に痛むのを無視して新都に向かった。うまく走れないのがもどかしい。

「はあ、はあ」

 体全体が悲鳴を上げて仕方がなく立ち止まる。夜とはいえ走れば息も上がるし汗もかく。まだ新都からは離れているが魔来名のいる建物からはそれなりに離れることができた。さすがにここまでこれば大丈夫か?

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