セブンスソード

奏せいや

179

 全身に痛みが走る。どんな目覚ましよりも嫌な刺激で意識を起こされる。

「う」

 つい声が漏れる。俺は横になっている体を起こそうとするが痛みがひどく諦めた。それで辺りをなんとか見渡してみる。

 そこはどこかの廃墟の中だった。コンクリートと骨組みだけで窓は壊れてない。室内はほとんど空っぽだった。放置されてだいぶ経つのか地面には雑草が生えている場所もある。中央にはランプが置かれ室内をほのかに照らしていた。

 俺はそんな場所の床に毛布が敷かれた上で寝ており見れば体には包帯も巻かれていた。

 包帯?

 状況が分からない。どういうことなんだ? 俺はなんでこんなことになっている?

 包帯を見つめそう思っていると足音が聞こえてきた。

 敵か!? すぐに顔を向ける。

 入口にいたのは魔来名だった。

「起きたか」

 その手には袋がぶら下がっており魔来名は壁際に座り込んだ。

 俺はすぐに立ち上がろうとするが痛みとそれに力が入らずうまく立ち上がれない。

「血が足りていないだろう」

 袋に手を入れ中のものを出す。

 その一つを俺に放り投げた。

 なんだろうと見れば、さばの缶詰だった。

 視線で問いかける。魔来名は自分の分を取り出しフォークで食べ始めていた。俺のことは見ず静かに食べ進めていく。

 食べてもいい、ってことだよな?

 魔来名の顔を伺うも魔来名は魔来名で黙々と食事を進めている。

 俺は目線を缶詰に戻す。どうしようかと悩んだが痛む腕をなんとか動かし缶詰のフタを開けることにした。殺そうと思えばすでにやっている。毒が入っているなんて面倒なことはしていないはずだ。

 それで食べようとしたがそこで気づいた。

 フォークがない。どうやって食べればいいんだ?

「フォークはこれしかない、素手で食べろ」

 俺が一向に食べないでいると魔来名がぶっきら棒に言ってきた。そうかよ。

 なんだか釈然としないがそもそももらいものだ、注文を付けるのも違う気がして俺は言われた通りに素手で食べて始めた。中身をつまみ口に入れていく。

 全部を食べ終え指をなめる。食べている間は終始無言だった。相手がどういうつもりなのか分からない以上警戒も解けない。

 ただ襲ってこないし食事も渡すっていうことから敵対する意図はないってことだよな?

 それに、この包帯だって。してくれたのは魔来名だとしか考えられない。

「どうして」

 気になる。この男がどうして俺を助けてくれたのか。

 魔来名は中央に置かれたランプの光をじっと見つめていた。夜のため辺りは暗く光に照らされた魔来名の表情がうっすらを見える。

「どうして俺を助けてくれたんだ?」
「言ったところで意味のないことだ」
「言ってくれなくちゃ分からないだろ」
「無駄なことはしない」

 魔来名は頑なに言ってくれない。

 俺が生きていることにどんなメリットがある? 俺が生きていることで魔来名が得られる得というと?

 まさか、俺から他のスパーダの情報を得るために? それなら辻褄は合う。スパイに対して尋問するようなことか。

 この男は信用できない。一週目と五週目の世界を思い出せ。こいつは俺たちの制止を無視して殺してきたんだ。その時の怒りを忘れるな。

 一刻も早くここから離れたいのだがまだ体がいうことを聞かない。

 ディンドランさえあれば。ないものを願ったところで意味のないことだがそう思わずにはいられない。

 くそ。いや、自棄になるな。魔来名の目的は依然不明だが俺を殺していない事実、これはチャンスなんだ。どこか隙を見つけて脱出し香織と合流すればいい。

 となれば、俺が今すべきなのは体力の温存。そして隙を伺うこと。

 俺は毛布に横になり目をつぶった。無駄な体力を使うべきじゃない。少しでも回復させてその時に備えるんだ。

「なにを考えている?」

 !? バレたのか?

「別に。なにも」

 寝返りを打って背中を向ける。表情から動揺を悟られるかもしれない。その分魔来名がどんな顔をしているのかも分からなくなるが仕方がない。

「お前に目的があることは知っている。そのために死ねないこともな」

 なんだ、懐柔(かいじゅう)か? 

 今の魔来名は俺が抱いていた印象とはずいぶん違う。どうしてこんなにも穏やかなのか不気味なくらいだ。管理人のエルターと対峙していた時はあんなに好戦的だったのに。

 はじめて会った時とはまるで別人だ。

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