セブンスソード

奏せいや

156

「広いな」

 そこはコンクリートで囲まれた巨大な部屋という感じで広さだけなら体育館よりも大きい。いくつもの柱が立ち天井を支えていた。そんな味気のない空間にいくつもブルーシートが敷かれ大勢の人が座り込んでいる。このシートが各自のスペースなんだろう。

「地下に設置された貯水用のダムを利用してる。不便は多いが広さだけならある」
「天井が高いのはそのためか」
「こっちに来てくれ、ここじゃ話も出来ないだろう」

 星都に連れられ一つの部屋に通される。どうやらここが司令室のようだ。とはいえ映画に出てくるような立派なものじゃない。無線機などの機器や会議用のテーブルとホワイトボード、地図などはあるがそれくらい。どちらかというとレジスタンスの基地って感じだ。悪魔に敗北したのだから実際その通りなんだが。

 中には数人の人たちが通信でやり取りしていたり段取りなどを話していた。

「聖治、ちょっとそこで座って待っててくれるか」
「え? おお」

 言われた通り俺は部屋の隅にあったイスに座り込む。なにも分からないのでなすがままだ。俺は初めて来た友人の家みたいにただぼうと部屋の様子を眺める。

 星都に何人かが話しかけている。星都が司令官だというのは本当らしく部下からいろいろ聞かれたりその度に指示をしている。俺の中の星都といえばおちゃらけていて司令官ってキャラじゃなかったんだがこうして見ているとなかなか様になっている。人間変わるってことか。

 いったん区切りがついたらしく部下が離れ星都がこっちに来た。

「待たせたな。いろいろ聞きたいことがあるだろう」
「まあな。分からないことばかりでなにから聞けばいいのかも分からない有様さ」
「心配すんな、それが普通だよ」

 星都は俺の対面にあるイスに座る。

 改めて見てみるが、やはり星都は俺が知っているよりも背が高い。大人だ。

 すると星都が小さく笑った。

「不思議なもんだよ、あの時と同じままのお前がこうしているんだからな」
「ということは、あの時と今は違うっていうことだよな」

 まあ、それはだいたい察しがついていたけれど。

「なあ星都。お前は、俺の知ってる星都なんだよな?」
「そうだよ、お前が知ってる皆森星都君だ。文武両道、女子にモテモテ、クラスのみんなの人気者のな」
「いや、そんな記憶はない」
「カモーン!」

 星都はおどけてみせる。こんな世紀末みたいな世界なのにこういうところはブレないんだな。

「星都、気遣いかもしれんがちんたら話している余裕はないんだ。俺は」
「わーった、わーったよ。ま、そりゃそうだよな」

 星都は表情を引き締めると真面目な雰囲気になる。

「聞きたいことはあるだろうがまずは後だ。とりあえず俺からざっくり説明する」
「頼む」

 俺も真剣だ。星都の顔をまっすぐに見つめた。

「最初から話そう。セブンスソードからみんなで逃げ出した夜、俺たちを逃がすためにお前と沙城があの白服と戦った。それは覚えているか?」
「ああ」

 それはよく覚えている。俺たちがはじめて団結した日なんだ。みんなで協力してセブンスソードを脱出しようとした。

「でも、俺の記憶なら」

 けれど、そこに謎の白い服の男が現れた。

 あの戦いで俺は、俺たちは命を落とした。あの白服の強さは圧倒的で俺たちじゃ手も足も出なかったんだ。

「合ってるよ。あの日、お前と沙城は死んだんだ」

 死んだ……。やっぱり俺たちはあの日白服に敗れたのか。

「それじゃあ、誰かがパーシヴァルを使ったのか?」

 俺が死んで新しくパーシヴァルを手にした者が世界を変えた? でもパーシヴァルはあの白服が手に入れたはずだし、なにより星都はあの夜のことを覚えている。ならこの世界はあの時と地続きのはず。どういうことだ?

「落ち着けって。質問は後から聞くって言っただろ」
「わ、悪い……」
「気持ちは分かるよ。さしずめ浦島太郎だからな」

 浦島太郎、か。 

「ていうことは、未来か」

 やはりというか、ここはあの日から続く未来の世界なのか。セブンスソードが終わってもこの地獄のような世界は変わらないなんて。

「その通り。今は西暦2035年。お前が死んでから一六年経っている」
「…………」
「驚かないんだな」
「え?」

 星都は俺をまっすぐと見つめていた。疑っているわけじゃないと思うが星都には説明しといた方がいいかもな。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品