セブンスソード

奏せいや

142

 それから俺たちは水戸駅は使わず電車に乗り込んだ。不要な戦いはできるだけ避けたい。そのため遠回りにはなるが水戸駅を迂回して隣町に行けるルートを選んでいた。

 電車の中にはそれなりに多くの人で埋まっている。帰宅途中だろうかスーツを着た人から学生服の人。そこに混じって俺たちはそれぞれ吊り革を握ったり席に座っていた。

 電車の中というのもあるが無言の時間が過ぎていく。たぶん俺たち以外に人がいなくても話し声で賑わうことはないだろう。俺たちの間にある真剣な雰囲気がそうさせている。この戦いは絶対に負けられないんだ。そう思う決意に気持ちが固まっていく。不思議と恐怖はない。みんながいるんだ。たぶん、なんとかなる。そう思わせてくれる強さが仲間にはある。

 一人で戦っていた時は、こんな気持ちはなかった。

 ほんと、みんなには感謝している。

 電車が下っていくごとに人が減っていく。山と海に囲まれた水戸市から隣町に行くには市バスに乗り換えなくちゃならないほど交通の便が悪い。さすがにそこまでして通勤通学している人はいないらしく終着駅が近くなってくる頃には乗客は俺たちとまばらにいる程度だ。

 その電車がまもなく終点に着こうという時だった。

 突然、他の乗客の姿が消え出した。

「これは……」

 姿が煙のように消えていく。車内には俺たちだけだ。

「なんじゃこりゃあ!?」
「これはいったい、どういうことなんだな?」
「マジやばいんですけど!?」
「そう……」

 他の四人もこの現象にそれぞれ反応している。戦いが起こる場所では人が消えることは説明していたが聞くと見るとでは大違いだからな。

「聖治君」

 隣にいる香織も俺の顔をのぞき込んでくる。

「どうやら、その時のようだな」

 決着をつけなくちゃどの道ここからは出られないようだ。

「行こう、香織」
「うん」

 香織の顔を見る。今度こそ守ってみせる。俺たちを縛り付けるこの世界から。

 ちょうど電車が止まる。終着駅に到着したようだ。静かに扉が開くが当然外には誰もいない。まるで誘われているようだ。

「みんな、覚悟はいいか」

 戸惑っていたみんなだが俺が声を掛けると落ち着きを取り戻し頷いてくれる。

 終着駅は水戸市の外周部である森林に近いだけあっていわゆる田舎だ。申し訳ない程度に小さなベンチが置いてあるだけのホームとゲート、切符売り場があるだけだ。

 駅から出ると自転車置き場があり道路に面している。あたりには小売店や馴染みのないコンビニなどがちらほら並んでいる。そのすぐ先には緑が生い茂っていた。外灯も少なく夜中なので薄暗い。不気味なくらい静かだ。

「逃亡とはいただけねえなあ」
「誰だ!?」

 声を掛けられ全員で振り向く。

 線路の向こう側の道路に黒のフード姿が立っていた。こちらに向かって歩いてくる。

「お前たちがすべきなのは隣にいるやつを斬ることだ。仲良く遠足することじゃねえ。特に、こんな辺鄙な場所にはな」
「お前は」

 この声としゃべり方はまさか。

「自己紹介がいるだろう」

 男は立ち止まり、フードを脱いだ。

 白い髪が現れる。男にしては長く肩まで伸びている。年は三十くらいで切れ長の青い目が俺たちを刃のように見つめていた。

「ロハネス。ロハネス・ブルクだ」
「なるほど、今知ったよ」
「今言ったからな」

 これがこいつの顔か。

 俺が初めて会った魔卿騎士団の管理人。こいつに俺は殺されかけ香織に助けられた。俺のセブンスソードはこいつから始まったと言ってもいい。

「今度はあんたが相手か」

 その相手が今回の敵か。思えばこいつとは直接戦ったことはなかったな。突然槍を出してくる奇襲性の高さと瞬時の攻防と隙のない戦いをしてくるのは見てきたから知っている。

「今度は? おい、お前戦ったのか?」

 そこでロハネスが隣を振り向く。そこには誰もいなかったがすぐに人が現れた。

「半蔵」

 それは、二回目の世界で俺たちを処刑した管理人、半蔵だった。

「いや、初見だが」
「二人!?」

 ロハネスと半蔵が並ぶ。一人だけでも強敵なのにそれが二人。まさか魔卿騎士団の管理人が同時に出てくるなんて。

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