セブンスソード

奏せいや

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 つい最初からタメ口で話してしまったが相手からすれば知らない相手だ、最後の言い方に警戒の色が強く出ている。しまったとも思ったがこのままいこうと決める。

「俺の名前は剣島聖治。スパーダだ」

 スピーカーの向こうから息を飲む気配が伝わった。

「話を聞いてくれ。俺は戦いに来たわけじゃない。停戦と協力を求めて来たんだ。戦う意思も、危害を加える気もない」

 此方は前の世界でも警戒していた。今も俺がスパーダだと知って警戒しているはずだ。

 でも。セブンスソードの不安と恐怖。前の時はそれを取り除けると思っていた。でも、いきなり人を信じるって難しいことなんだよな。守る存在がいるならなおさら。

「……分かってる。そうは言っても不安だよな。本当はセブンスソードをやるつもりで嘘を言っているのかもしれない。そうだとしたら自分だけじゃない、大切な人も殺されるかもしれない。そう考えたら信じることなんて出来ない、だろ?」
「どうして……」
「分かるさ。俺も同じだからだ」

 大切な人を守る覚悟。それを堅実なものとするためにそれ以外の余計を捨てる。それは一見正しく思えるけども、そこにも大切なものがあることを忘れてはならない。

「俺も、お前と同じスパーダなんだよ。セブンスソードなんてわけの分からない馬鹿馬鹿しい儀式に利用されて頭にきてる。なにより許せないのは、自分よりも大切な人まで危険に晒されているってことだ! そうだろう!?」

 此方を説得させるための言葉は、いつしか俺の言葉になっていた。でも、気持ちは同じはず。

「怖いさ。殺されるのは怖い。殺し合いなんて考えただけで体が震える。でもここで逃げ出したら大切な人が危険になる。置いて行くなんてできない。だから戦うしかない。そう思ってるかもしれない。そうだな、それも正しいのかもしれない。誰かを守るって覚悟を決めたなら、それ以外のことまで構ってなんていられない。覚悟を決めたなら、あとはその道を突き進むのみだって躍起にだってなる。でも違うんだ。視野を狭めた考えに縛られて可能性を捨ててしまったら、最善も最高の未来も手に出来ない。大切な人だけを守るなんて、良くて二番か三番の未来だろ? そんな滑り止めみたいな未来にしがみついてどうするんだ。みんなで生き残る、殺し合うことなく全員でこのセブンスソードを脱出する。それこそが最高の展開だろ? だから俺は信じるよ、その可能性を捨てていないからだ。そのためには、此方、お前の協力がいる」

 どうか伝わってくれ。祈るように言葉を送ることしか出来ない。

「広場には他に三人いる。此方と君の妹も加わってくれれば六人になる。まずは俺一人が向かう。何度も言うが戦う気なんてない。信じてくれ。俺も、信じてるから」

 それで会話は終わる。此方はなにも言わなかった。伝わったんだろうか、不安になる。

 すると自動扉が開かれた。それは俺を信じてくれたということだろうか。俺は足を踏み入れ進んでいく。

 俺は突き当たり、エレベーターと階段の入り口へと着いた。此方の部屋にはどちらからでも行ける。

「…………」

 少し悩んだが、エレベーターで行くことにした。階段でもよかったんだが、それだと彼女を疑うようで自分に矛盾を感じてしまうから止めた。

 エレベーターに乗り込みボタンを押す。扉が閉まり鉄の箱が動き始める。

 エレベーターの駆動音だけが静かに聞こえてくる。その間胸の中では不安と期待が揺れ動き、身動きしないが内心ではどきどきとしていた。このまま無事にいってくれ。そう思わずにはいられない。

 その時だった。

「ぐ!」

 急に体が重くなり膝から崩れ落ちる。体力がみるみると抜け落ち立ち上がることすらできない。

 エレベーターが止まり扉が開く頃には俺はうつ伏せに倒れていた。

 くそ。無理だったのか。

 信じて欲しかった。彼女の不安や恐怖を今度こそ取り除いて、一緒に戦いたかった。彼女の理解者として隣に立ちたかったのに。

 俺はエレベーターから廊下へ這い出る。腕を動かすだけなのに重石でも背負っているように体が重い。息が荒くなる。

 その荒い息に混じって廊下を歩いてくる足音が聞こえてきた。

 顔を上げる。そこには此方が立っていた。その顔は複雑な表情を浮かべ俺を見下ろしている。

 俺を不意打ちしたことへの後ろめたさか、それか大切な人を守るためにしなければならないという覚悟か。彼女の顔からは苦悩と覚悟両方が伝わってくる。

「お前に、信じてもうらめには、どうすればいいんだ……?」
「私は……」

 此方は今にも泣きそうな顔で食いしばる。そのままカリギュラを持ち上げた。

「私だって、本当は信じたいわよ。でも、それでもしもがあったら? セブンスソードは殺し合い。分かるでしょ、誰も信じられないのよ」

 決別を示すように赤い刀身が頭上に掲げられる。

「滑り止めなんて言わないでよ! あの子が無事なら、私は」

 だけど、彼女の内情を映し出すように、その手は震え剣先も震えている。

「それで十分なのよ!」

 言葉では決意を口にしているのに、心の中では辛いんだって伝わってくる。

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