セブンスソード

奏せいや

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 確かに。発動してもなにも起きなかったパーシヴァルの能力。不発に思えたそれだがちゃんと発動していたんだ。

 記憶の保持。そんな目に見えない形で。

 まさかパーシヴァルを一回発動しただけでそこまで分かるなんてな。

「すごいな」
「ううん。私は後出しだから、すぐに分かっただけ」

 素直にすごいと思うんだが香織は謙虚に顔を横に振っている。ただ表情は少しだけ嬉しそうだ。

「なあ、それで香織は記憶を保持しているってことだが、具体的にはどこからどこまで覚えているんだ? たとえば、一番最初の記憶は?」
「それなんだけど」

 そう言うと香織は少し困り顔になっていた。

「聖治君の魂に触れて君の記憶を手に入れた。そこには私が転校生だった時の記憶もあって、その時の私は聖治君の知らないことを多く知っているようだった。でもね、それがなんだったのかまでは分からないんだ。私が思い出せたのはあくまで聖治君が覚えている範囲だけなの」
「そうか。なら未来の詳細やロストスパーダを探す理由っていうのも」
「うん。ごめんね」

 香織が記憶を思い出したのは素晴らしいことだがあくまで俺と出会ってから限定で、最初に会ったころとは別ということか。

「ううん。謝ることなんてない。俺のことを覚えてくれている、それだけで十分さ。何度も言うけどな」
「うん」

 そうだ、繰り返しになるが香織が記憶を覚えていてくれた。これだけで大きな前進だし俺にとっては救われたと思えるほどの幸福なんだ。これ以上望むなんて罰が当たるよな。

「とりあえず状況を整理するか」

 今回の世界ではいろいろなことが分かってきた。一度整理した方が良いだろう。

「一週目の世界では俺はなにも覚えていなかった。反対に香織は覚えていたが世界が変わったことでそれ以前の記憶をなくしてしまった。反対に俺は香織の魂に触れたことで記憶を断片的にだが思い出すことができた。そして前回の世界で香織も記憶を取り戻すことができたと」
「うん」

 そのおかげでかみ合わなかった認識がようやく合致したわけだ。

「思い出せた記憶はセブンスソード中の出来事がほとんどで、それ以外は二人ともあまり覚えていないんだよな。ただ最初の世界で香織が言っていたこと。それを信じるなら俺たちは未来からこの時代に来たってことだ。その目的はロストスパーダを集めるため。その理由までは思い出せないんだけどな」
「それが私も気になるんだよね。たぶん、とても重要なことだと思うんだけど」

 珍しく香織の考え込んでいる。眉が大きく曲がっている。

「気にはなるが、だが思い出せない以上仕方が無いさ。それにセブンスソードと直接関係ないなら後回しでいいだろう」
「そうだね」

 まだ引っかかってはいるみたいだが香織は納得してくれた。

「それで今回分かった最大のことがある。世界の改変が俺の死ではなくパーシヴァルの発動だった、ってことだ。今までは俺が発動していたから気づかなかったけど前回は香織だったからな」

 俺が死んだ後も香織が活動していたことから俺の死がトリガーではないことは確定だ。

「その度に世界は巻き戻ると同時に人間関係だけが変わっている、と。たぶん誰が発動してもそこはランダムなんだろうな」

 俺が転校生だった世界は俺が発動した時もあった。発動者は関係ないらしい。

「ん、どうした?」

 見れば香織がまたも考え込んでいる。

「え? ううん、なんでもない」
「?」

 しかしすぐに顔を振り気にしないでと笑っていた。

「なあ、話してるとこ悪いがもうすぐ一限目はじまっちまうぜ?」

 そこで星都が話しかけてきた。そういえばここに来てからけっこうな時間が経っているな。
 ただ、なんというか。

「今日は祝日だよ、ブッチしろ」

 こんな時に律儀に授業なんて受けていられるか。香織が覚えていてくれたんだぞ、記念日でいいくらいだ。

「転校生、お前初日から飛んでるな……。てか最初とキャラちがくねえか」
「舞い上がってるんだよ」

 教室であいさつしていた時とは状況が違うからな、テンションだって変わる。

「まあなんでもいいけどよ。それにしてもお前たちなんなんだ? 突然泣き出したかと思えば世界がどうとかよく分からんことを」
「星都君、あまり気にしちゃ駄目だって沙城さんが言ってたんだなぁ」
「へいへい、そうだったな」
「いや」

 力也が星都を説得しているが、俺は間に入った。それで二人が俺を見る。

「これは、二人にも関係している話なんだ」
「なんだって?」
「そうなの?」
「実はな」

 忘れていたわけじゃないがセブンスソードはこの世界でもあるはずなんだ。七人での殺し合い。それを二人にも教えなければならない。

 荒唐無稽だ。すぐには信じてもらえないだろうし変なやつだと思われるに決まってる。それは以前の世界でそうだった。

「聖治君」

 でも、この世界では違う。香織は俺の隣に並ぶと力強く頷いてくれた。

「私も説明するよ」
「ああ」

 俺一人なら駄目でも、二人なら説得できる。

 やっぱり、香織がいると心強い。

 俺たちは二人にセブンスソードのことを話した。

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