セブンスソード
130
「剣島、聖治です……。よろしく」
それだけを言うと小さく頭を下げた。教室内に戸惑いの空気が流れる。けれど誰かが拍手を送るとみなも拍手を送ってくれた。そのまま俺は静かに自分の席についていく。
居心地の悪さを感じつつ、俺は顔を正面に向けていた。
使い慣れたはずの初めての机。ここから見える景色もすべて見たことがある。今では懐かしく思えた。
なんだか、深海の底にある世界に来た感じがする。重くて、暗くて、息が苦しい。
このまま、潰れそうだ。
「なあ」
「え!」
背後から声を掛けられた。それだけならよかったんだが、聞き覚えのある声に体が跳ねる。
恐る恐る振り返る。
「なんだよ。そんなに驚くことないだろ、転校生」
「……星都」
それは、星都だった。その名をちいさくこぼしてしまう。
「力也……」
その後ろには力也もいた。新しい学校に来た俺に優しい笑顔を向けてくれている。
織田力也。前の世界で俺に激しい怒りをぶつけてきたのは今でも鮮明だ。あんな力也は見たことがなかっただけに余計に覚えている。それをさせてしまったのが俺ということに、こうして顔を合わせるだけで心苦しい。力也は覚えていないが申し訳なさのようなものを感じる。
やはり、二人を見るのは辛い。目を逸らしそうになる。
「ん? なにか言ったか?」
「いや、なんでもない。その、俺になにか?」
この世界では俺たちは初対面だ。俺個人に用事というわけではないだろう。星都はおちゃらけてはいるがいいやつだ。来たばかりで慣れない転校生に気を遣って話しかけてくれたんだろう。
……こいつが、胸の内でどれだけ仲間のことを大切に思っているのか、それは三回前の世界で知ったしな。
「実はな、転校してきて早々悪いんだが、お前に会いたいって言ってるやつがいるんだよ」
「俺に?」
「悪いが一緒に来てくれないか?」
だが、俺の予想は違った。
どういうことだろう。俺に会いたい? なんで? 考えてみるが心当たりが浮かばない。
「そうビビんなって! 安心しろ、体育館裏に連れて序列を教えるなんて不良漫画みたいなことしねえって」
「そんなことしないから、安心して欲しいんだなぁ」
「あ、いや、そういうわけじゃ」
そうか、今の俺の反応はそう見えるか。というかそれくらいしかないもんな。
「いいからいいから。とりあえず来てくれ。どうしてもって強く頼まれててな」
「ああ、分かった」
席を立つ。未だによく分かっていないがそう言われては断る理由もない。
俺は二人の後をついて歩いていった。
「屋上か?」
「お、よく分かったな」
二人の歩く先は屋上へと続いていく道だ。階段を上っていく。
俺に会いたい人っていったい誰なんだろう。転校生としてこの学校に来た世界は何度か経験してきたがこんなことは初めてで、これからの展開が予想できない。この世界はこれまでの世界とはなにが違うんだ?
俺たちは屋上の入り口前にたどり着く。この先に俺に会いたがっている人がいる。
俺はその答えと出会うため、厚い鉄扉を開けた。
「――――」
真っ先に目に入ってきたのは、青い空と白い校舎の地面。ツートンカラーの世界。
その中央で、桃色の髪が揺れていた。
後ろ姿からでも分かる。すらっとした体型と長い髪。風に吹かれて彼女の長髪が小さく揺れている。
俺は彼女に近づいた。それで彼女も振り返る。
沙城香織。俺のかつての恋人だった人。でも、世界が変わる度に彼女の立場も変わって、前の世界では俺は彼女に殺されたんだ。
彼女の思いも、信条もすべてを裏切って。彼女を守るという選択をし他をそぎ落とした結果、俺は大切なものまで落としてしまった。
人を信じる心。それをなくしたんだ。
俺は彼女から顔を逸らしていた。こうして彼女の前に立つだけで彼女が俺を斬る時の顔が嫌でも思い出される。今にも責められそうで身構えてしまう。
分かってる。彼女はなにも覚えていない。でも、俺の心が引きずっているんだ。
「聖治君、だよね?」
「え?」
思わず振り向く。
それだけを言うと小さく頭を下げた。教室内に戸惑いの空気が流れる。けれど誰かが拍手を送るとみなも拍手を送ってくれた。そのまま俺は静かに自分の席についていく。
居心地の悪さを感じつつ、俺は顔を正面に向けていた。
使い慣れたはずの初めての机。ここから見える景色もすべて見たことがある。今では懐かしく思えた。
なんだか、深海の底にある世界に来た感じがする。重くて、暗くて、息が苦しい。
このまま、潰れそうだ。
「なあ」
「え!」
背後から声を掛けられた。それだけならよかったんだが、聞き覚えのある声に体が跳ねる。
恐る恐る振り返る。
「なんだよ。そんなに驚くことないだろ、転校生」
「……星都」
それは、星都だった。その名をちいさくこぼしてしまう。
「力也……」
その後ろには力也もいた。新しい学校に来た俺に優しい笑顔を向けてくれている。
織田力也。前の世界で俺に激しい怒りをぶつけてきたのは今でも鮮明だ。あんな力也は見たことがなかっただけに余計に覚えている。それをさせてしまったのが俺ということに、こうして顔を合わせるだけで心苦しい。力也は覚えていないが申し訳なさのようなものを感じる。
やはり、二人を見るのは辛い。目を逸らしそうになる。
「ん? なにか言ったか?」
「いや、なんでもない。その、俺になにか?」
この世界では俺たちは初対面だ。俺個人に用事というわけではないだろう。星都はおちゃらけてはいるがいいやつだ。来たばかりで慣れない転校生に気を遣って話しかけてくれたんだろう。
……こいつが、胸の内でどれだけ仲間のことを大切に思っているのか、それは三回前の世界で知ったしな。
「実はな、転校してきて早々悪いんだが、お前に会いたいって言ってるやつがいるんだよ」
「俺に?」
「悪いが一緒に来てくれないか?」
だが、俺の予想は違った。
どういうことだろう。俺に会いたい? なんで? 考えてみるが心当たりが浮かばない。
「そうビビんなって! 安心しろ、体育館裏に連れて序列を教えるなんて不良漫画みたいなことしねえって」
「そんなことしないから、安心して欲しいんだなぁ」
「あ、いや、そういうわけじゃ」
そうか、今の俺の反応はそう見えるか。というかそれくらいしかないもんな。
「いいからいいから。とりあえず来てくれ。どうしてもって強く頼まれててな」
「ああ、分かった」
席を立つ。未だによく分かっていないがそう言われては断る理由もない。
俺は二人の後をついて歩いていった。
「屋上か?」
「お、よく分かったな」
二人の歩く先は屋上へと続いていく道だ。階段を上っていく。
俺に会いたい人っていったい誰なんだろう。転校生としてこの学校に来た世界は何度か経験してきたがこんなことは初めてで、これからの展開が予想できない。この世界はこれまでの世界とはなにが違うんだ?
俺たちは屋上の入り口前にたどり着く。この先に俺に会いたがっている人がいる。
俺はその答えと出会うため、厚い鉄扉を開けた。
「――――」
真っ先に目に入ってきたのは、青い空と白い校舎の地面。ツートンカラーの世界。
その中央で、桃色の髪が揺れていた。
後ろ姿からでも分かる。すらっとした体型と長い髪。風に吹かれて彼女の長髪が小さく揺れている。
俺は彼女に近づいた。それで彼女も振り返る。
沙城香織。俺のかつての恋人だった人。でも、世界が変わる度に彼女の立場も変わって、前の世界では俺は彼女に殺されたんだ。
彼女の思いも、信条もすべてを裏切って。彼女を守るという選択をし他をそぎ落とした結果、俺は大切なものまで落としてしまった。
人を信じる心。それをなくしたんだ。
俺は彼女から顔を逸らしていた。こうして彼女の前に立つだけで彼女が俺を斬る時の顔が嫌でも思い出される。今にも責められそうで身構えてしまう。
分かってる。彼女はなにも覚えていない。でも、俺の心が引きずっているんだ。
「聖治君、だよね?」
「え?」
思わず振り向く。
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