セブンスソード

奏せいや

129 第八章 結集

 今まで歩んできた時間を振り返る。

 そこにあった記憶が蘇る。

 刻まれた思い出は、どこかくすんで見えた。

 なぜ、こんなことになったんだろう。

 今だって彼女の笑顔を思い出せるのに。彼女の優しい声も、手を繋いだ時の横顔だって分かる。それだけじゃない。星都や力也と一緒に笑って登校した朝も覚えてる。此方や日向ちゃんと一緒に笑って食事をした風景だって。

 全部、俺の大切な時間だった。

 なのに、それを壊した。俺の手で。

 結果、俺は彼女に殺された。

 俺は、いったいなんなんだ。最低で、最悪な気分だ。罪悪感と嫌悪感が泥となって喉に詰め込まれたようで、感情で胸が締め付けられる。

 なにより、香織に殺されたというのが辛かった。

 目を開ける。ベッドに横になった体はどこも痛くない。当然首も繋がっている。

 けれど、俺は目覚めるなり洗面台へと走っていた。洗面台を両手で掴み下を向く。

「オウエ!」

 気持ちが悪い。苦しくて、辛くて、悲しくて、感情が一気に溢れてくる。

「オエ。おっほおっほ。……オエエエ」

 胸にある感情を吐き出すように腹のものを嘔吐していく。

「はあ……はあ……」

 一通り吐き終え胃酸しか出なくなってから俺は水を口にふくむ。軽く口を洗ってから壁に背もたれた。次第に力を失っていきずるずると座り込んでいく。

 吐いたことで腹が痛い。その痛みだけを感じながら俺はぼーと対面の壁を見つめていた。

「はあ」

 息切れからではなく、重たい気持ちからため息が出る。

 俺は、これからどうすればいい。誰も俺を知らない。誰にも理解されない。どちらかの味方になっても相手は分かってくれない。結果殺し合いになって、もしくは管理人か魔来名に殺されて。どうすればこの輪から抜け出せる?

 まるで人生に蓋をされたようにこれからの行き先が分からない。なにをすればいいのか、どうすればいいのか。分からない。

 喉に手を当てる。まだそこに彼女がつけた傷跡がありそうで、あるわけもない傷をさすってしまう。
 それからしばらく俺はぼーとしていたがいつまでもこうしているわけにはいかず立ち上がる。とりあえずなにかしないと。というか、この世界ってどういうのなんだ。

 それで思ったが、

「ここって」

 見渡してみて分かる。ここは学生寮の部屋だ。部屋の隅に段ボールが置いてあることから俺が転校生だった時か。

 この世界ではたしか、この街から逃げようとして管理人に殺されるか此方たちに協力を求めるが決裂してしまったんだ。その世界にまた戻ってきたのか。

 以前の失敗を思い出し目線が下がる。いい思い出がない。というより、辛い思い出が強すぎる。

 俺は、この世界でどうすればいいんだ……。

 気は重いが、それでも俺は学生服に着替えることにした。どうすればいいかなんて分からないがそれしか選択肢がないんだ。

 俺は通い慣れた通学路を歩いていく。遅れたためか誰もいない。人気のない道を一人だけで歩いていく。

 校舎に入るとちょうど青山先生と出会った。遅れてやってきた転校生に怒ることなく以前のように気さくに話しかけてくれる。その気持ちはうれしいが、それでも俺の気持ちが晴れることはなかった。

 俺は教室の前で一旦待たされ青山先生の案内で入室する。歩きながらちらりと教室内を見る。そこにはいつもの顔ぶれの中に星都や力也がいた。前なら無事な姿を見られて嬉しかったのに今ではその姿を見るだけで辛い。

 俺はそっと目を逸らした。

「彼がその転校生だ。それじゃあ剣島君、自己紹介してくれるかな」
「はい……」

 俺は教壇の上に立ちみんなに顔を向ける。季節はずれの転校生にみなが好奇の眼差しを向けてくる。俺はなるべく星都や力也が目に入らないように顔を足下に向けた。

「えっと、その……」

 俺は、なにをしているんだろう。前の世界でひどいことをしてしまった二人が目の前にいるのに、俺はその二人を前に自己紹介をしようとしている。本当なら謝るべきなのに。でもそれは前の世界のことで、この世界の二人はそんなこと知る由もない。以前の世界では友達同士だったこと。前の世界では殺し合いをしたこと。

 全部、俺だけの出来事なんだ。
「…………」
「…………?」

 なんだか、空しい。すごく、悲しい。

「セブンスソード」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く