セブンスソード

奏せいや

115

「ふぅ……ふぅ……」

 息が、重い。胸に鉛でもあるかのように重苦しい。体が緊張で固くなっている。

 俺は洗面台に両手をついて顔を下にした。

 さきほどから、頭の中で声が響いている。

『答えて、ねえ、答えてよ!』

 彼女の声が、俺を責め立ててくる。

『あんたの守る覚悟って、なんだったの!?』

 あの時の表情と共に、記憶が俺を睨みつける。

『軽々しく口にするな。お前の覚悟などただの詭弁だ』

 最大の敵である男すら俺に言いつける。そんなもの覚悟ではないと。それではなにも守れないと。

 俺は二人を殺した。でもそれは守る覚悟をしたからだ。守りたい人は決まっている、それは昔から変わらない。

「香織のため……」

 不安と罪悪感で潰れそうな心を保つために、声に出した。

「香織のためなんだ」

 セブンスソードは避けられない。逃げ出すこともできない。どこかで誰かと殺し合いは行われる。何度世界を繰り返してもそれは変わらなかった。管理人、もしくは魔来名。やつらを倒さなければならないんだ。

 戦うしかないのなら、守る人を選ぶしかないのなら、俺の答えは決まっている。

 香織を守る。たとえ世界を敵にしてでも。

 そう誓ったんだ、ずっと昔から。

「だから、仕方がなかったんだ」

 自分に言い聞かせる。自分の意義と目的を思い立たせて、二人を殺したのは必要なことだったんだって、何度も言い聞かせる。

 だけど。

「う、うう」

 涙が溢れてくる。

 たとえどんな理由があったとしても、それを正当化することなんてできない。俺が殺した事実は変わらない。俺は最低だ。でも、最低でもいい。

 彼女を守れるのなら。

 俺は二人を殺した。もう、後戻りはできない。

 一つの誓いを守るために、それ以外のすべてを捨てる。

 それが、守るための覚悟なんだ。

 俺は顔を上げた。

 涙は、もう止まっていた。

 そしてその時は来る。

 俺はマンションの前に立ち、目の前にはかつての仲間が立っていた。見知った顔。そこに親しみがないと言えば嘘になる。だけど俺に歓喜はない。

 あるのは覚悟、それだけだ。

 俺は、二本のスパーダを取り出した。

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