セブンスソード

奏せいや

97

 それが駄目だったのか? 全員で生き延びるなんて夢物語でどちらかを選べって?
 
 そんなことあるかよ! そんなこと、あってたまるかよ! 信じたことが間違いだって? 犠牲がなければ望みは叶わないって?

 そんな、ことがあるかよ!

「私、ね」
「駄目だ日向ちゃん、喋ったら」

 彼女が口を動かすたび日向ちゃんは苦しそうな顔をする。でも彼女は止めない。

「今ね、死ぬのがぜんぜん怖くないの」
「え?」

 死ぬのが怖くない? 日向ちゃんは死ぬのが怖った。セブンスソードで殺されること、それが怖くてふさぎ込んでいたのに。

 どうしてと思うが、彼女の満面の笑みが教えてくれた。

「大好きな人を、守れたから」
「…………」

 彼女は、笑っていた。死の瀬戸際で、それでも俺の身を案じて笑ってくれたんだ。

 そして、彼女の手から力が抜けていった。笑顔は横に倒れ、彼女はそれっきり喋らなかった。

「日向ぁああ!」

 彼女の頭を抱え此方が号泣している。彼女は日向を守るために戦っていた、彼女のことが大好きだった。

 なのに、彼女は死んでしまった。俺を庇って、死んでしまったんだ。

 俺は、どうすればよかったんだ。なにが正解だったんだ?

 もう、なにが正しくて、なにが間違ったことなのか、分からなくなりそうだ。

「許さない」
「此方?」

 泣き叫んでいた此方から涙がぴたりと止まる。

 彼女が立ち上がる。赤い髪が揺らめいて、頬に残った最後の涙が落ちる。

 その顔は、火を吹くように激怒していた。

「お前は、絶対に許さない」

 星都を睨む。彼女の全身が怒気に包まれて俺にまで突き刺さる。

「此方、でもそれじゃ……」

 止めようとするが声が出ない。止める自信がない。心のどこかでもう手遅れだって分かってる。力が抜けて、それでも彼女の肩に手を伸ばす。

 もう、誰かが死ぬところは見たくない。

「カリギュラ!」

 その手を拒絶するように、此方はカリギュラを発動した。

「がっ!」

 急激に体力を奪われ手が落ちる。立ち上がることはおろか、息をするのも辛い。

 それでも。

 彼女を止めなくちゃいけないと思って、なんとか力を振り絞る。彼女に向かって手を伸ばす。
 しかし、その前に彼女は歩いていた。

 彼女は静かに歩き出す。カリギュラが発動している今ここは彼女の独壇場だ。王者でも支配者でもない、他者を滅ぼすことしかできない殺戮者として、此方は歩き出す。

 その途中、彼女の左手にはミリオットが握られていた。日向の魂と共に、此方は星都に近づいていく。

「此方、復讐はなにも生まない。お前は! そんなために戦っていたはずじゃなかったはずだ……!」

 体が重い。息が苦しい。でも、言うしかない。

 そこで此方が立ち止まる。

「黙ってて」

 その声は静かなくらいだった。俺の言葉は黒い炎に消され、此方は歩みを再開させる。

 膝をついている星都の前に立つ。俺と同じで星都もカリギュラで止まっていた。

「お前は絶対に許さない。あの子は私のすべてだった。お前は、私からすべてを奪ったんだ!」

 此方がスパーダを振り上げる。カリギュラの赤が頭上で輝く。

「そいつはな……」

 それを見上げ、星都が息切れ切れに言う。

「俺だって同じなんだよ……!」

 瞬間星都の全身がピンク色に包まれる。カリギュラを回復し星都は起きあがるなり反撃してくる。

 此方は反対のミリオットでエンデュランスを受ける。カリギュラを振り下ろすも星都は後退していった。

 ディンドランの回復によって星都はカリギュラの力が効いていない。いわば星都は香織のディンドランありき。

 そこを崩せば星都も止まる。此方はミリオットを香織に向ける。

「止めろ! 彼女はなにもしていない!」

 此方はミリオットを発射した。

「きゃあ!」
「香織ぃい!」

 彼女の胸を白の光線が通り抜けていく。彼女の体がゆっくりと後ろに倒れていく。

「嘘だ、嘘だああ!」

 重い体をなんとか立たせふらつきながら彼女の元に駆け寄る。

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